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2016.02.24 「日産化学 v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10081

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角: 知財高裁平成27年(行ケ)10081

【背景】

原告(日産化学)が保有する「ピタバスタチンカルシウム塩の結晶」に関する特許(第5186108号)に対する無効審決(無効2013-800211号)取消訴訟。争点は、新規性及び進歩性の判断。

請求項1(本件発明1):

式(1)(省略)で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。

【要旨】

主 文

1 特許庁が無効2013-800211号事件について平成27年3月27日にした審決を取り消す。(他略)

裁判所の判断

取消事由2(本件発明に係る新規性判断の誤り)について

「~本件発明1の回折角は,15本のピーク全てについて,特許請求の範囲に記載されたその数値どおりのものであると解釈するのが相当である。~甲3結晶の粉末X線回折測定における回折角(2θ)の数値は,本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値とその数値どおり一致するものではない。

~14局解説書の「57.粉末X線回折測定法」は,保健医療における医薬品の性状及び品質に関する試験法を示したものであり,そこに示された「同一結晶形では通例,回折角は±0.2°の範囲内で一致する。」との判断基準も,保健医療における医薬品の性状及び品質に関する判断基準を示したものというべきである。そうすると,14局解説書に記載された許容誤差が「±0.2°以内」との判断基準は,保健医療における医薬品の性状及び品質に関する判断基準であって,粉末X線回折測定による回折角の数値一般について妥当するものと解することはできないし,特許発明の同一性を画する場面において常に妥当するものということもできない。~14局解説書や16局の記載から,本件優先日当時,特許発明の同一性を画する場面において,粉末X線回折測定による回折角の数値は,±0.2°以内であれば同一と判断し得るということが,当業者の技術常識であったということはできない。~したがって,本件発明1と引用発明1との相違点1-1は実質的な相違点であって,相違点1-2について判断するまでもなく,本件発明1と引用発明1が同一であるとはいえない。~以上によれば,取消事由2は,理由がある。」

取消事由3(本件発明に係る引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について

「本件発明1と甲3結晶及び甲5結晶が同一であるということができないことは,前記3のとおりである。したがって,~本件審決における相違点1-1に係る容易想到性判断は,引用発明1に基づいて甲3結晶及び甲5結晶を製造することは,当業者が容易になし得たことであるとした点に誤りはないが,甲3結晶及び甲5結晶が本件発明1と同一の粉末X線回折の回折角(2θ)を有するとした点において,誤りがある。」

取消事由4(本件発明に係る引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について

「本件発明1の回折角の数値は,15本のピーク全てについて,特許請求の範囲に記載されたその数値どおりのものと解釈すべきところ,上記結晶1,結晶2及び結晶5の粉末X線回折測定における回折角(2θ)の数値は,本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値とその数値どおり一致するものではないから,本件発明1と上記結晶1,結晶2及び結晶5が同一であるということはできない。
本件審決は,甲5実験2で得られた結晶1,結晶2及び結晶5の粉末X線回折測定における回折角(2θ)の数値が,本件発明1の数値と,誤差の範囲とされる±0.2°の範囲内に収まっているとして,上記結晶1,結晶2及び結晶5が本件発明1の結晶と同一と判断できる範囲内に含まれているとするものであるが,かかる判断は,上記(2)によれば,誤りである。そうすると,本件審決における相違点2-1に係る容易想到性判断は,上記結晶1,結晶2及び結晶5が本件発明1と同一の粉末X線回折の回折角(2θ)を有するとした点において,誤りがある。」

裁判所は、以上のとおり、取消事由2ないし4はいずれも理由があるからその余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由があると判断した。

【コメント】

裁判所は、特許請求の範囲に記載されたその数値どおりに解釈するのが相当であるとして、引用発明は本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値とその数値どおり一致するものではなく、審決の新規性判断には誤りがあり、さらにその誤った同一性判断に基づいてした進歩性判断にも誤りがあると判断した。

侵害事件(2016.02.24 「日産化学v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10080)でも特許請求の範囲に記載された数値どおりに特許発明の技術的範囲が解釈されており、本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値どおりに解釈した今回の認定判断は、侵害事件でのクレーム解釈と整合性のある判断だったといえる。

一方、2015.07.31 「日産化学 v. 相模化成工業・日医工・壽製薬」 東京地裁平成26年(ワ)688では、東京地裁は、本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告は特許法104条の3第1項により、被告らに対しその権利を行使することができないと判断していた。

参考:

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