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「内在同一の問題」 -製薬・バイオテクノロジー分野における新たな科学的発見と公衆衛生との間で揺れる特許保護のジレンマ-

本記事は、製薬およびバイオテクノロジー分野における特許保護の不確実性問題のひとつである「内在同一の問題」を取り上げ、米国での取り扱いの確認と、本ブログで過去に取り上げた裁判例を列挙整理するものである。

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1.製薬およびバイオテクノロジー分野における内在同一の問題

公衆がすでに用いている物や方法について、その作用機序を解明したり、新たな属性を見出したりした場合に、いかなる要件の下で特許を認めるべきか(あるいは認めるべきではないのか)という論点は、公知の技術にいわば内在していた技術的思想に特許を付与して良いのかということが問題となっているという意味で、「内在同一の問題」と呼ばれている。(1)

製薬やバイオテクノロジー分野は、その研究において、既存の医薬品や治療手段について新しい特性や新しい効果・使用方法を発見することが多いため、そのような発見に基づく技術的思想に対する特許保護を巡って「内在同一の問題」が顕在化しやすい技術分野といえる。

疾患の病態解明の進展と技術の高度化により、医薬品や治療手段のプレシジョン化が進んだことも、この問題がより顕在化してきた背景にあるように思う。

このような新しい発見に基づく技術的思想に特許保護を与えることは、製薬やバイオテクノロジー分野の研究に前向きなインセンティブを与え、結果として、十分な治療手段がないため病気に苦しんでいた患者にその新しい技術の恩恵をもたらし、公衆衛生の向上・促進に資すると考えられる。

しかし、一方で、既存の医薬品や治療手段についてもともと備わっていた特性毎に排他的な特許保護を後発的に与えるとなれば、これまで利用可能だったはずの既存の医薬品や治療手段の利用が制限されかねず、公衆衛生はむしろ後退しかねない。

このように、製薬およびバイオテクノロジー分野における科学的発見には、公衆衛生の向上・促進に資するものとして重要であることは明らかである一方、その特許保護の境界線を誤れば、むしろ公衆衛生を後退させかねないというジレンマが、医薬系特許的な観点からとらえた「内在同一の問題」の核心であり、その境界線の不透明さが製薬およびバイオテクノロジー分野における特許保護の不確実性をもたらしているといえる。つまり、「内在同一の問題」は、製薬およびバイオテクノロジー分野の発明に関して特に関心の高い問題なのである。

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2.米国のInherent anticipation doctrine

米国ではこの「内在同一の問題」をどのように取り扱っているかを把握することは、日本におけるその問題を議論するのに参考になるかもしれない。

米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、「内在同一の問題」を「inherent anticipation」法理として、公知の物や方法のこれまで評価されていなかった特性や機能に関する科学的説明が発見されても、公知の物や方法に新たな特許を与えるものになるわけではないことを繰り返し述べている。

例えば、裁判所はその法理を以下のように説明している。

“Humans lit fires for thousands of years before realizing that oxygen is necessary to create and maintain a flame. The first person to discover the necessity of oxygen certainly could not have obtained a valid patent claim for “a method of making a fire by lighting a flame in the presence of oxygen.” Even if prior art on lighting fires did not disclose the importance of oxygen and one of ordinary skill in the art did not know about the importance of oxygen, understanding this law of nature would not give the discoverer a right to exclude others from practicing the prior art of making fires.”

(訳)人類は、炎を生み出し維持するために酸素が必要であることを理解するまでに、何千年も火を灯してきた。酸素の必要性を最初に発見した人が、「酸素の存在下で炎を灯すことによって火を起こす方法」の有効な特許クレームを取得することはできなかったはずである。仮に、火をつけることに関する先行技術が酸素の重要性を開示しておらず、当業者が酸素の重要性を知らなかったとしても、この自然法則を理解することは、発見者に他人が火をつける先行技術の実施を排除する権利を与えることにはならない。

– EMI Group North America, Inc. v. Cypress Semiconductor Corp. (268 F.3d 1342) (Fed. Cir. 2001)

物や方法に内在する態様(inherent feature)は、発明の時点において当業者が認識している必要はなく、「内在(inherency)」を立証するためには、その内在する態様が、その公知の物や方法に必然的に存在しなければならないとされる。

製薬およびバイオテクノロジー分野における特許に関して「inherent anticipation」法理を適用した近年の裁判例として例えば以下のものがある。

  • BRISTOL-MYERS SQUIBB CO. v. BEN VENUE LABS., INC.(246 F.3d 1368)(CAFC Docket No. No. 00-1304・・・タキソール療法施行中がん患者の血液毒性を減弱させる方法に関する特許クレームは、先行技術文献と同じ用途と同じ手順で構成されており、同じ目的に向けられた既知の工程で新たに発見された結果は内在するもの(inherent)であることから特許性を否定した地裁判決を、CAFCも支持した。

  • Schering Corp. v. Geneva Pharmaceuticals, Inc. (339 F.3d 1373, 67 U.S.P.Q.2d 1664) (Fed. Cir. 2003)・・・患者へのロラタジン(CLARITIN®)の投与を示す先行技術文献は、ロラタジンの代謝物(DCL)に言及していないにもかかわらず、代謝物DCLに関するクレームは内在的に新規性を失っているとした。

  • SmithKline Beecham Corp. v. Apotex Corp. (403 F.3d 1331, 74 U.S.P.Q.2d 1398) (Fed. Cir. 2005)・・・無水パロキセチン塩酸塩(PHC)の製造方法に関する先行技術文献は、少なくとも微量のPHC半水和物を必然的に含むことになるから、PHC半水和物に関する特許クレームは内在的に新規性を失っているとした。特許権侵害の主張ロジックがそのまま特許権者に跳ね返ってきて無効と判断された。ブログ記事「2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313」参照。
2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313
必然的に生成してしまう場合には、"inherently anticipated"?: CAFC Docket No.03-1285, -1313【背景】 1975年、Ferrosan社はパロキセチン(paroxetine)及びその塩をクレームする'196特許を取得、その明細書中には無水物として塩酸パロキセチンの製造方法が開示されていた。その後、SmithKline Beecham(SKB)...
  • King Pharmaceuticals, Inc. v. Eon Labs, Inc. (616 F.3d 1267, 95 U.S.P.Q.2d 1833) (Fed. Cir. 2010)(CAFC Docket No. 2009-1437, -1438・・・メタキサロンを食事とともに摂取することによってバイオアベイラビリティを向上させる方法を対象とする特許クレームは、メタキサロンを食事とともに摂取する先行技術文献により、バイオアベイラビリティを高める当然の結果であり、内在的に新規性を失っているとした。

  • Purdue Pharma L.P. v. Epic Pharma, LLC,(CAFC Docket No. 2014-1294・・・500Nを超える破壊強度を持つオピオイド錠剤を対象とする特許クレームは、先行技術文献に従って作れば錠剤がその特性を示すことを実験結果が明確かつ説得力のある形で示していることから、CAFCは、その先行技術文献がその錠剤の特性を内在的に開示しているという連邦地裁の結論を支持した。

また、米国特許商標庁のManual of Patent Examining Procedureにも、”inherency”に基づく拒絶の要件について記載されている。

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3.内在同一の問題を孕んだ日本の裁判例

特許性の判断実務において、「内在同一の問題」は、新規性の判断が主要な争いの場となるが、進歩性の判断にも関わってくる。

日本における新規性の判断手法と進歩性の判断手法とは、①請求項に係る発明の認定、②引用発明の認定、③請求項に係る発明と引用発明の一致点及び相違点の認定までは同じであり、同じでなければならない(2)ことを踏まえれば、引用発明に内在していた技術的思想をどのように認定するかという問題は、新規性の判断だけでなく進歩性の判断にも大きく影響するはずである。

当ブログで取り上げてきた中で、この「内在同一の問題」を孕んだ日本の裁判例を以下に挙げた。

列挙した裁判例には、「内在同一の問題」を新規性の問題として判断したもの以外に、進歩性の問題として判断したものもある。詳細は各記事参照。

  • 2021.05.17 「メルク・シャープ・アンド・ドーム v. ワイス」 知財高裁令和2年(行ケ)10015・・・多糖類-タンパク質コンジュゲーのシリコーン凝集を阻害する製剤についての特許クレームについて、「シリコーン凝集についての知見が存在しなかった本件優先日当時の当業者は,上記記載に接して,原告主張のように,凝集が生じ得るけれども通常はそれが阻害されていることを理解し得るとは必ずしもいえないし,ましてや,その凝集がシリコーンにより誘発されるものであるかどうかは断定し難いものといわざるを得ない。」として、多糖類-タンパク質コンジュゲート製剤についての引用発明とは相違が存すると裁判所は判断した。
2021.05.17 「メルク・シャープ・アンド・ドーム v. ワイス」 知財高裁令和2年(行ケ)10015
発明の効果に係る発明特定事項を相違点として認定し、これが容易想到でないとして発明の進歩性を肯定した審決の判断に誤りがないとされた事例・・・肺炎球菌ワクチン市場の覇権を握るのはファイザーそれともMSD?1.はじめにプレベナー13®(Prevnar 13/Prevenar 13)は、13種類の肺炎球菌莢膜ポリサッカライド(血清型 1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19...
2020.12.14 「ロシュ v. アムジェン」 知財高裁令和元年(行ケ)10076・・・相違点は引用発明に内在する作用効果にすぎないのか争われた事例
1.はじめに本件は、本願発明と引用発明との相違点について「あくまで先願発明に内在していた効果にすぎないところ,それによって新たな用途が見出されたわけではない」と原告が主張し、新規性が争点の一つとなった事件である。出願時には知られていなかった内在的特性(inherent feature)を構成に取り入れた物の発明についての新規性をどのように取り扱うかという重要な論点について、裁判所は「出願日...
2019.12.25 「杏林製薬、メルク・シャープ・アンド・ドーム v. 東興薬品工業」 知財高裁平成31年(行ケ)10006; 知財高裁平成31年(行ケ)10058
ナゾネックス®点鼻液 モメタゾンフロエート水性懸濁液を含有する1日1回鼻腔内投与されるアレルギー性鼻炎治療薬の進歩性判断とオーソライズド・ジェネリック戦略: 知財高裁平成31年(行ケ)10006(第1事件); 知財高裁平成31年(行ケ)10058(第2事件)【背景】メルク・シャープ・アンド・ドームが保有する「気道流路および肺疾患の処置のためのモメタゾンフロエートの使用」に関する特許(第34...
2019.07.25 「シオノケミカル v. イコス」 特許庁審決 無効2017-800140号事件
タダラフィルの特定用量製剤(シアリス®錠)特許: 特許庁審決 無効2017-800140号事件イコス・コーポレイションが保有する「単位製剤」に関する特許(第4975214号; 存続期間満了日2020.4.26)に対してシオノケミカル(株)が請求した無効審判。審判合議体は、訂正を認めたうえで、本件発明1~13は無効理由2(進歩性欠如)により無効にすべきものであると判断した。訂正後の請求項1(...
  • 2019.04.25 「ニプロ v. 千葉大学・扶桑薬品工業」 知財高裁平成30年(行ケ)10061・・・「本件訂正発明1の「少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用発明2において,相違点(甲3-1-1’),(甲3-1-4’),(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成とした場合に,自ずと備えるものといえる。」と裁判所は判断した。
2019.04.25 「ニプロ v. 千葉大学・扶桑薬品工業」 知財高裁平成30年(行ケ)10061
用時混合型急性血液浄化用薬液の進歩性: 知財高裁平成30年(行ケ)10061被告(千葉大学・扶桑薬品工業)が保有する「安定な炭酸水素イオン含有薬液」に関する特許(第5329420号)に対して原告(ニプロ)がした無効審判請求の不成立審決(無効2017-800014号)取消訴訟。裁判所は、本件訂正発明1は当業者が甲3に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、これと異なる本件審決の...
  • 2019.03.19 「サン ファーマ v. ジェネンテック」 知財高裁平成30年(行ケ)10036・・・「慢性関節リウマチの患者であってもIL-17濃度の上昇がみられなかった者がいるように,すべての炎症性疾患においてIL-17濃度が上昇するものではないし,特定の炎症性疾患においてもすべての患者のIL-17濃度が上昇するものではないと認められるから,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。・・・本件特許発明1の用途が,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。」と裁判所は判断した。
2019.03.19 「サン ファーマ v. ジェネンテック」 知財高裁平成30年(行ケ)10036
IL-23アンタゴニストによるIL-17産生阻害の新経路発見に基づく作用機序特許、乾癬治療用途は同じでも新規?:知財高裁平成30年(行ケ)100361.背景被告(ジェネンテック)が保有する「IL-17産生の阻害」に関する特許(第5705483号)に対して原告(サン ファーマ)がした無効審判請求に対する不成立審決(無効2017-800007号)の取消訴訟である。争点は、①新規性、②進歩性...
  • 2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225・・・PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和する抗体の特許クレームにおいて「PCSK9との結合に関して,配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する」との特徴は、その中和抗体に内在された特徴であると認められる可能性は無かったのだろうか。
2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225
リーチスルー抗体クレームについての進歩性・サポート要件・実施可能要件の判断: 知財高裁平成29年(行ケ)10225【背景】被告(アムジェン)が保有する「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許(第5705288号)に対する無効審判請求不成立審決(無効2016-800004号)を不服として、原告(サノフィ)が審決取消訴訟を提起...
  • 2018.07.18 「日新製薬・日本ケミファ v. オリオン・ホスピーラ」 知財高裁平成29年(行ケ)10114・・・本願発明は、デクスメデトミジンが患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤であることを発見したというものである。一部の引用例には、集中治療を受けている重篤患者にデクスメデトミジンが使用されているところまで記載されていると認定されたが、その使用目的は血圧や心拍数を増加させることを抑制するために交感神経を遮断する作用を目的としたものであって「鎮静」の用途を目的としたものではないと裁判所は判断した。
2018.07.18 「日新製薬・日本ケミファ v. オリオン・ホスピーラ」 知財高裁平成29年(行ケ)10114
プレセデックス®の医薬用途発明の特許性: 知財高裁平成29年(行ケ)10114【背景】被告(オリオン及びホスピーラ)らが保有する「ICU鎮静のためのデクスメデトミジンの用途」に関する特許権(4606581号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800031号)の審決取消訴訟。本願出願当時、デクスメデトミジンは一般的な鎮静/鎮痛ならびに高血圧または不安治療のためのα2-レセプターアゴニス...
2017.02.28 「ザ・ヘンリー・エム・ジャクソン・ファンデイション v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10107
臨床効果が証明されていなければ引用発明にならない?: 知財高裁平成28年(行ケ)10107【背景】「乳癌再発の予防用ワクチン」に関する特許出願(特願2011-540853; 特表2012-511578; WO2010/068647)の拒絶審決(不服2014-19365)取消訴訟。争点は、引用発明の認定の適否。請求項1:製薬上許容される担体,配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの有...
  • 2014.12.18 「ユーロ-セルティック v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10059・・・「保存容器の素材の如何にかかわらず本願発明の「保存安定性を備えた」を満足するとして,相違点(B)を実質的な相違点ではないと判断した審決には,この点において誤りがあるといわざるを得ない。~しかしながら,引用例1発明において,相違点(A)に係る本願発明の構成とすることに当業者は容易に想到し得たものであり,それと同時に相違点(B)に係る本願発明の構成も達成されるものであるから,引用例1発明において,相違点(B)に係る本願発明の構成とすることも当業者が容易になし得たものといえる。したがって,本願発明は,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものというべきであるから,審決の判断に結論において誤りがあるということはできない。相違点(B)の判断に関する審決の上記誤りは,審決の結論に影響するものではない。」と裁判所は判断した。
2014.12.18 「ユーロ-セルティック v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10059
保存安定性に優れたポビドンヨード調製物のパッケージ: 知財高裁平成26年(行ケ)10059【背景】「ヨードホールを含有する乾燥リポソーム製薬組成物を含むパッケージ及び同組成物を適用する方法」に関する特許出願(特願2004-129590; 特開2004-346064)拒絶審決(不服2011-14812)取消訴訟。争点は進歩性。請求項1:プラスチック材料,紙又は厚紙製のパッケージ中に,ヨ...
  • 2013.03.18 「タカラバイオ v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10252・・・「引用文献3に記載された発明の物が本来どのような作用・効果を奏するものであったのかの認定において,出願後の知見や文献を考慮することは認められるべきである。なぜならば,一般に,技術的貢献のない発明に対しては保護を与えないという進歩性の要件の趣旨からみて,効果の顕著性により進歩性を認めるのは,引用発明との構成の相違により新たな効果が奏される場合に限られるべきであり,そうでなければ,引用発明の物が本来有していた作用・効果を後に発見したことにより,後に出願された発明が進歩性を有することになり不合理な結果となるからである。」との特許庁の判断を、知財高裁は特許庁の判断手法は後知恵に基づいて進歩性を判断することになりかねず、同項の趣旨に反するものであり許されないと判断した。
2013.03.18 「タカラバイオ v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10252
引用発明の物が本来有していていた作用・効果についての出願後の知見は進歩性判断に参酌できるか: 知財高裁平成24年(行ケ)10252【背景】「耐熱性リボヌクレアーゼH」に関する特許出願(特願2006-167465、特開2006-288400)の拒絶審決(不服2009-17666号)取消訴訟。争点は進歩性。請求項1(本願補正発明):下記の群より選択され,かつ,耐熱性リボヌクレアーゼH活性...
  • 2011.10.11 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10050・・・「本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。」と裁判所は判断した。
2011.10.11 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10050
性質の記載は「物」を限定しない: 知財高裁平成23年(行ケ)10050【背景】「抗骨粗鬆活性を有する組成物」に関する出願(特願2001-242097号、特開2003-55238号)の拒絶審決(不服2007-23664号)取消訴訟。争点は進歩性。 請求項1: 「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合したことを特徴とする抗骨粗鬆活性を有する組成物」 引用発明: 「水溶性キトサンおよび...
  • 2011.03.23 「アイノベックス v. アプト」 知財高裁平成22年(行ケ)10256・・・「本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は、甲1において記載、開示されていた、白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく、新規な方法(用途)とはいえず、白金微粉末に備わった上記の性質を、構成Dとして付加したにすぎず、本件特許発明は、甲1の記載と実質的には同一のものであって、新規性を欠くことになるから、これと異なる審決の認定、判断には誤りがあると解する。・・・確かに,一般論としては,既知の物質であったとしても,その属性を発見し,新たな方法(用途)を示すことにより物の発明が成立する余地がある点は否定されないが,本件においては,新規の方法(用途)として主張する技術構成は,従来技術と同一又は重複する方法(用途)にすぎないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。」と裁判所は判断した。
2011.03.23 「アイノベックス v. アプト」 知財高裁平成22年(行ケ)10256
「物の発明」としての用途発明と新規性: 知財高裁平成22年(行ケ)10256【背景】被告(アプト)が有する「スーパーオキサイドアニオン分解剤」に関する特許(特許第4058072号)について、原告(アイノベックス)による無効審判請求は成り立たないとの審決(無効2009-800033号)に対する審決取消訴訟。請求項1:A ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸,シク...
  • 2011.01.31 「X v. デビオファーム」 知財高裁平成22年(行ケ)10122・・・「本件発明1の特許請求の範囲における「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」との記載は,確かに,貯蔵安定性という効果に着目した構成であるということができる。しかし,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」の条件を満たしさえすれば,他のいかなる条件が加わっても,常に,上記の貯蔵安定性に係る構成を充足するという関係が成立するものではない。仮に,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であっても,上記の貯蔵安定性に係る構成を充足しない製剤であれば,本件発明1の技術的範囲から除外されることになるのは当然である。以上のとおりであり,本件発明1の貯蔵安定性に係る構成は,独立の構成であると理解すべきであり,これに反する原告の主張は,採用できない。」と裁判所は判断した。
2011.01.31 「X v. デビオファーム」 知財高裁平成22年(行ケ)10122
効果に着目した構成: 知財高裁平成22年(行ケ)10122【背景】「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許(特許第3547755号; 出願日1995.08.07)について原告(X)の進歩性欠如を理由とする無効審判請求(無効2009-800029号)は成り立たないとの審決に対する審決取消訴訟。請求項1:濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティ...
  • 2011.01.18 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10055・・・「引用発明及び本件補正発明は,いずれも物の発明であるところ,相違点3に係る本件補正発明の構成である「血管内膜を減少させる」ことは,発明の作用効果に関する事項であって,本件補正発明を物の観点から特定するものではない。したがって,「血管内膜を減少させる」との記載の有無は,物の発明である引用発明と本件補正発明との実質的な相違点とはいえない。よって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。」と裁判所は判断した。
2011.01.18 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10055
発明の作用効果に関するクレームの構成: 知財高裁平成22年(行ケ)10055【背景】「血管老化抑制剤および老化防止抑制製剤」に関する出願(特願2008-131621, 特開2009-280508)に係る本件補正発明が引用発明及び周知技術に基づいて進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。本件補正発明:タラ目又はカレイ目の皮を原料とし,分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温...
  • 2008.06.30 「シオノケミカル v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10378・・・「甲第2号証に,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることについて明示的な記載がなく,また,記載された結晶学的データから結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることが特定されないとしても,本件優先日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づいて,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能であり(すなわち,甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能であり),かつ,その結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるのであれば,甲第2号証は,本件優先日当時において,たとえその名称や化学構造が不明であれ,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたということができる。」と前置きしたうえで、「甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能である(甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能である)と認めるに足りる証拠もない。したがって,結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるか否かにつき判断するまでもなく,甲第2号証が,本件優先日当時において,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたと認めることもできない。」と裁判所は判断した。
2008.06.30 「シオノケミカル v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10378
特29条1項3号の「刊行物に記載された化学物質発明」とは?: 知財高裁平成19年(行ケ)10378【背景】原告(シオノケミカル)が、被告(ファイザー)を特許権者とする「結晶性アジスロマイシン2水和物及びその製法」に関する特許(第1903527号)につき無効審判請求(無効2007-800042号)をしたが、審判請求は成り立たないとの審決がなされたため、同審決の取消しを求めた事案。原告は、甲第...
2008.04.21 「藤川 v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10120
特29条1項3号の「刊行物に記載された化学物質発明」とは?: 知財高裁平成19年(行ケ)10120【背景】原告(藤川)が、被告(ファイザー)を特許権者とする「結晶性アジスロマイシン2水和物及びその製法」に関する特許(第1903527号)につき無効審判請求(無効2006-80058号)をしたが、審判請求は成り立たないとの審決がなされたため、同審決の取消しを求めた事案。請求項1:結晶性...
  • 2008.02.29 「ティロッツ・ファルマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10236・・・「本願発明は,「カプセルのコーティングが,pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがな」いことを発明特定事項として記載するところ,ここに記載されたpH値については,上記(3)ウによれば,単に溶解試験を行ったpH値を示すにすぎず,コーティングの溶解条件とは何ら関係がないことが認められる。」と裁判所は判断した。また、「回腸内において放出される」という発明特定事項についても内在同一の問題があるように思われる。
2008.02.29 「ティロッツ・ファルマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10236
原告主張の実施例は本願発明の実施例とはいえないとされた: 知財高裁平成19年(行ケ)10236【背景】「オメガ-3ポリ不飽和酸の経口投与剤」に関する発明についての出願(特表平11-509523)の拒絶審決取消訴訟。争点は、本願の特許請求の範囲の記載が、明細書の発明の詳細な説明に記載されているかどうか(特36条6項1号、いわゆるサポート要件)であった。請求項1:有効成分としてオメガ3-...
  • 2007.11.22 「アンジオテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10303・・・「「本件第1発明の要旨のうち「該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,」の部分は,端的に「該ステントの閉塞を防止するためのタキソールで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであり,」と規定するのと何ら変わりはない。・・・物の発明である本件発明1において,ステントを被覆する物質として構成されているタキソールの用途ないし作用が何であるかは,本来,発明を特定する要素とはなり得ないものである。仮に,原告の上記主張の趣旨が,タキソールを抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆する場合と,他の作用を奏する薬剤として(例えば,抗増殖性を有する薬剤として)ステントに被覆する場合とでは技術的思想が異なるというものであったとしても上記用途ないし作用の相違は単に身体通路の再発性狭窄を予防する機序に関係するのみであって,同一構成から成る発明を別発明と評価し得るほど,その技術的思想において異なるということはできない。」と裁判所は判断した。
2007.11.22 「アンジオテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10303
発明の構成要素の用途は発明を特定する要素となり得るか?: 知財高裁平成18年(行ケ)10303【背景】「抗-血管形成性組成物およびそれにより被覆されたステント」に関する発明の特許権者(共有者)である原告が、特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許(特許第3423317号)を取り消す旨の決定がされたため、同決定の取消しを求めた。請求項1:身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステ...
  • 2006.11.29 「花王 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10227・・・「当業者が、出願当時、引用発明につき、「シワ」についても効果があると認識できたとは認められない。「シワ形成抑制」という用途は、「美白化粧量組成物」とは異なる新たな用途を提供したということができる。」と裁判所は判断した。
2006.11.29 「花王 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10227
「シワ形成抑制」という用途は新たな用途か?: 知財高裁平成18年(行ケ)10227【背景】請求項1:「アスナロ抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤。」とする本願発明について、「シワ形成抑制」という用途が、新たな用途を提供したといえるかどうか争われた拒絶審決取消訴訟。審判では、同抽出物を有効成分とする美白化粧料組成物を引例として、特29条1項3号(新規性なし)により特許性を否定され...
  • 2001.12.18 「テイカ製薬 v. 特許庁長官(インドメタシン含有添付剤事件)」 平成13年(行ケ)107・・・「両発明の構成が同一である以上、両発明の貼付剤が含有する成分は、主観的な添加目的にかかわらず、同一の作用効果を奏することは自明である。本件発明において添加されたトウガラシエキス又はノニル酸ワニリルアミドがインドメタシンを安定化するとの効果を奏する一方、引用例で添加されたトウガラシエキス又はノニル酸ワニリルアミドが、そのような効果を奏さないというようなことは起こり得ない。逆に、引用例記載の発明においてトウガラシエキス又はノニル酸ワニリルアミドがそれらの周知の効果である温感刺激作用を奏する一方、本件発明では、そのような効果を奏さないということも起こり得ないものと認められる。したがって、本件特許請求の範囲の請求項1に、本件請求項1の発明の貼付剤に含有されるトウガラシエキス及びノニル酸ワニリルアミドはインドメタシンの長期安定性を改善するための安定化剤である旨が規定されているとしても、このことにより、本件請求項1の発明が、引用例に記載されている発明と別異のものとなるということはできない。」と裁判所は判断した。

以上のとおり、列挙した裁判例には、「内在同一」を肯定したといえるものも否定したといえるものもあるようである。最近では、「内在同一」を否定した判決が目立つようである。

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4.内在同一の問題へのアプローチ

「内在同一の問題」に対する特許保護の境界線を、どのような”ものさし”を使って引くべきか、について、いくつかの論考が存在する。代表的な”ものさし”は、「創作物アプローチ」と「パブリック・ドメイン・アプローチ」である。(1)(3)(4)(5)

  • 「創作物アプローチ」: 公知技術と技術的思想が異なれば新規性を肯定する。新規性の基礎となる引例は技術的思想として把握されるものに限られる。創作物(=技術的思想)の保護のためにはパブリック・ドメインに対する侵食も厭わない。
  • 「パブリック・ドメイン・アプローチ」: パブリック・ドメインの確保を創作物の保護に優先する。その恩恵が公衆に利用可能となっているものに対してあえて特許を付与し公衆からその利用の機会を剝奪すべきではなく、技術的思想がいまだ見出されていなかったとしてもその効果を公衆が享受可能であったという場合には新規性は喪失していると解する。内在同一性を肯定。前述の米国における裁判例によれば、米国では、「inherent anticipation」法理により、「内在同一の問題」に対して「パブリック・ドメイン・アプローチ」を採用しているといえるだろう。

前述の製薬およびバイオテクノロジーにおける新たな科学的発見と公衆衛生との間で揺れる特許保護のジレンマは、「創作物アプローチ」と「パブリック・ドメイン・アプローチ」との対立関係と同様の構図である。

日本の特許法は「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」を目的とするのだから、新たな発見のインセンティブを優先させるのか、それとも公衆衛生の向上・促進を優先させるのか、という二者択一ではなく、保護と利用を両立することはできないのか、そのためにめにはどのような特許保護制度が良いのか、ということの中庸アプローチを可能な限り模索する議論も必要であろう。

ご批判はあるだろうが、例えば、「内在同一の問題」を以下のように整理するアプローチはいかがであろうか。(6)

願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和62年(行ツ)第3号)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その物に内在している技術的思想にかかわらず及ぶこととなる。

したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物に内在している技術的思想が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該技術的思想により特定された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。また、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物に内在している技術的思想が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該技術的思想により特定された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。

ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物内在している技術的思想が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該技術的思想により特定された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その内在している技術的思想が記載されていると,一般的には,当該技術的思想が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該技術的思想により特定された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。

他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。

そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物内在している技術的思想を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該技術的思想により特定された物と構造,特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

また、そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物内在している技術的思想を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該技術的思想により特定された物と構造,特性等が同一である物として発明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物内在している技術的思想が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

– プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての最高裁判決(平成24年(受)1204; 平成24年(受)2658)抜粋をもとに、「製造方法で記載された」を「内在している技術的思想で記載された」に置き換え等することにより作成。

前述の記載は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての最高裁判決(平成24年(受)1204; 平成24年(受)2658)の抜粋をもとに、「製造方法で記載された」を「内在している技術的思想で記載された」に置き換え等することにより作成したものである。

ここで提案を試みたい中庸アプローチは、基本的には、「パブリック・ドメイン・アプローチ」として内在同一を肯定するものの、本願発明と引用発明との相違点が引用発明にもともと「内在する技術的思想」であるとの一応の疑いがある場合には、引用発明が当該「内在する技術的思想」を有していないことを出願人が反証する責任を負うことを前提として、本願発明が当該技術的思想でしか特定できない物である場合には、その発明を当該技術的思想により特定すること(明確性要件を満たすこと)を容認することで、そのような新たな発見による発明の保護を図ろうとするアプローチである。

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5.参考文献

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    【記事投稿後に公開された参考文献情報】

    • 細田芳徳 パテント2022 Vol.75 別冊No.27「内在特性と新規性―免疫関連分野の発明を題材にして―」
      https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/4007
      基本的に新規性肯定のお考えのよう。
    • 前田健 知財管理2022年8月号Vol.72 No.8(No.860)p899「後出の特許による既存事業の差止めは許されるか-特殊パラメータ発明の新規性・進歩性・記載要件・先使用権の検討-」
      http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/mokuji/mokuji2208.html
      内在同一の後出特許による差止めリスク問題を、新規性、進歩性、記載要件、先使用権の観点から論じておられ、とても勉強になる。

    【追加】
    見直して、内在同一の問題事例であると今頃気づいた・・・。

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