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2011.10.11 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10050

性質の記載は「物」を限定しない: 知財高裁平成23年(行ケ)10050

【背景】

「抗骨粗鬆活性を有する組成物」に関する出願(特願2001-242097号、特開2003-55238号)の拒絶審決(不服2007-23664号)取消訴訟。争点は進歩性。

  • 請求項1: 「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合したことを特徴とする抗骨粗鬆活性を有する組成物」
  • 引用発明: 「水溶性キトサンおよびカルシウム塩を有効成分とするカルシウム吸収促進性組成物」

審決は、引用例Aに記載された引用発明と本願発明との一致点及び相違点について下記のとおり認定した。

  • 一致点: 「カルシウム,キトサンを配合した組成物」
  • 相違点1: 本願発明は,「抗骨粗鬆症活性を有する組成物」であるのに対し,引用発明は,「カルシウム吸収促進性組成物」である点。
  • 相違点2: 本願発明は,プロポリスを配合するのに対し,引用発明は,これを配合していない点。

審決は、本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」なる記載は、組成物の有する活性を単に記載したものであり、「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するとは認められないから、相違点1は実質的な相違点とはいえない、また、相違点2については、引用例Bの記載からみて、引用発明において、プロポリスを配合することは当業者が容易になしえることである、と判断した。

【要旨】

1. 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

裁判所は、

「本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。」

と判断した。

2. 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)につい

原告は、

「本願発明におけるプロポリスは,骨形成の阻害要因の一つである活性酸素を除去し骨形成の根本を改善するのに対し,引用発明のプロポリスは,カルシウムの骨への吸収を高めるにすぎず,両者はその役割・作用を大きく異にする」

と主張した。しかし、裁判所は、

「本願明細書において,原告が主張する,プロポリスが活性酸素を除去したことにより骨内カルシウムの劣化が抑制される際の具体的な機序に関する記載はなく,その実施例,試験例においても,具体的に測定されているのは,被験者の骨密度や,ラットの骨密度,体重であって,活性酸素の除去に関しては何ら測定されていないから,原告の本願発明に係る上記主張は,明細書の記載により根拠付けられるものではなく,理由を欠くものといわなければならない。
なお,~引用発明において,カルシウムの吸収効率を更に高め,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させる観点から,技術分野や解決課題の共通する引用例Bに開示された,プロポリスがカルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得る旨の技術的事項を適用して,引用発明にプロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることといえる。」

と判断した。

3. 取消事由3(作用効果の判断の誤り)について

裁判所は、

「引用発明に,カルシウムの吸収効率を更に高めるためにプロポリスを配合するという引用例Bに開示された技術事項を適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることは,前記2のとおりであり,その結果,カルシウムとキトサンにプロポリスを配合した組成物が,本願発明と同様の平均骨密度の増加という作用効果を奏するであろうことも,当業者が容易に予測し得ることと認められる。
本願明細書における上記実験では,「カルシウム」,「キトサン」及び「プロポリス」をそれぞれ単独で投与したものと,「3種混合物」を投与したものとを比較したのみであり,前記引用例の組合せからは予想し得ない顕著な作用効果を示すものではない。また,その実験結果も,3種混合物を投与したものの平均骨密度の増加率が,各成分単独の増加率より大きいとするものであって,同等の単位数量に基づいて比較したものでなく,他にどのような飼料が与えられていたかも明らかにされていないから,本願発明が,いわゆる相加的効果でなく,当業者が予測できないような相乗的効果を有することを立証するものではない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

「物」の性質の記載は、「物」を限定したり、「物」の用途を限定するものではないとされ、従って、そのような「物」の性質の記載は、引用発明との実質的な相違点とは認められないと判断された。

本件では、「抗骨粗鬆活性を有する組成物」との記載を「抗骨粗鬆症剤」といった用途クレームにしておけば、この点を相違点として進歩性の議論をできたかもしれない。

用途発明をクレームする場合において、記載がその「物」の用途限定を付したものであるかどうか、性質・作用・特性を記載したにすぎないものになっていないかどうか注意する必要がある。

参考:

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