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2011.01.31 「X v. デビオファーム」 知財高裁平成22年(行ケ)10122

効果に着目した構成: 知財高裁平成22年(行ケ)10122

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許(特許第3547755号; 出願日1995.08.07)について原告(X)の進歩性欠如を理由とする無効審判請求(無効2009-800029号)は成り立たないとの審決に対する審決取消訴訟。

請求項1:

濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。

【要旨】

本件発明1及び相違点の認定等の誤りについて、原告は、

「本件発明1における「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである(こと)」(貯蔵安定性)は,医薬品の承認に必要な当然の品質であるから,審決が,これを本件発明1の独立の構成であるとした上で,甲1発明との相違点とした認定には誤りがある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本件発明1の特許請求の範囲における「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」との記載は,確かに,貯蔵安定性という効果に着目した構成であるということができる。しかし,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」の条件を満たしさえすれば,他のいかなる条件が加わっても,常に,上記の貯蔵安定性に係る構成を充足するという関係が成立するものではない。仮に,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であっても,上記の貯蔵安定性に係る構成を充足しない製剤であれば,本件発明1の技術的範囲から除外されることになるのは当然である。以上のとおりであり,本件発明1の貯蔵安定性に係る構成は,独立の構成であると理解すべきであり,これに反する原告の主張は,採用できない。
また,甲1には,オキサリプラティヌムの溶解度が7.9mg/mlであると記載されている。しかし,溶解度について示した記載があったとしても,他に格別の説明がない甲1によって,0ないし7.9mg/mlの中の特定の範囲の濃度である「濃度が1ないし5mg/ml」のオキサリプラティヌムの水溶液が使用されるべきであることが示されていると理解することはできない。本件発明1と甲1発明とが,濃度において共通する記載があると解すべきではない。」

と判断した。

また、数値範囲における意義について、原告は、

「数値限定発明において容易想到性でないとされるためには,数値範囲の全般において効果が顕著に優れているとの臨界的意義が示されることを要すると解されるが,本件発明1は,そのような効果が示されていないので,本件発明1が容易想到でなかったとした審決の判断には誤りがある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「一般に,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,当該発明と特定の先行発明とを対比し,当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして,出願時の技術水準を前提として,当業者であれば,相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くのが合理的である。そして,当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。この点は,当該発明の相違点に係る構成が,数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく,当該発明の技術的意義,課題解決の内容,作用効果等について,他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。」

との一般的考え方を示し、本件に関しては、

「・・・総合考慮すると,当業者にとって,本件発明1の限定された数値範囲において,上記の課題を解決する顕著な作用効果が示されていると解することができる。したがって,本件発明1における「pHが4.5ないし6」との数値範囲で示された構成について,当業者が,容易に想到することができないとした審決に誤りはない。」

と判断した。

【コメント】

数値範囲における意義について、進歩性を主張するには臨界的意義が必ずしも必要というわけではなく、「当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。」という進歩性の容易想到性判断の手法の原則が裁判所によって確認された。

貯蔵安定性という効果に着目した構成が、独立の構成であるとした判断は興味深い。審決でも、このような構成については「技術的に意味のある事項であり、本件特許発明1を特定する事項であることは明らかである」と断言している。このような効果に着目した構成は今後積極的に活用できる余地がある(しかし記載要件の観点からの注意は必要だろう)。

ヤクルトは被告の補助参加人。オキサリプラチン(Oxaliplatin)は白金錯体系抗悪性腫瘍剤。本剤はDebiopharm 社(スイス)がライセンスを保有しており、欧米における開発・販売権はSanofi-Aventis社が保有している(商品名: ELOXATIN)。日本における開発・販売権はヤクルトが取得し、商品名エルプラット(ELPLAT)として製造販売している。2010年6月には水溶性製剤(点滴静注液)を発売し、既存の凍結乾燥製剤(注射用)からの切り替えを行った。

本件特許権(特許第3547755号; 出願日1995.08.07)は存続期間の延長登録(2009-700145(点滴静注液100mgについて延長の期間は11月21日); 2009-700142(点滴静注液50mgについて延長の期間は4年5月22日); いずれも処分の対象となった物について特定された用途は追加された効能効果である「結腸癌における術後補助化学療法」)がなされ、存続期間満了日は最長2020年1月29日となっている。エルプラットの再審査期間は2013年3月17日まで。IPDLによれば別の無効審判2010-800191が係属中のようである。

参考:

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