May 27, 2019

2019.04.25 「ニプロ v. 千葉大学・扶桑薬品工業」 知財高裁平成30年(行ケ)10061

用時混合型急性血液浄化用薬液の進歩性: 知財高裁平成30年(行ケ)10061

被告(千葉大学・扶桑薬品工業)が保有する「安定な炭酸水素イオン含有薬液」に関する特許(第5329420号)に対して原告(ニプロ)がした無効審判請求の不成立審決(無効2017-800014号)取消訴訟。裁判所は、本件訂正発明1は当業者が甲3に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、これと異なる本件審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由は理由があるとして、本件審決を取り消した。
本件特許の分割出願特許(第5636075号)に対しても、無効審判請求不成立審決(無効2017-800015号)の取消訴訟が進行中のようである(平成30年(行ケ)10165)。

相違点の容易想到性について

訂正発明1
引用発明2との相違点
裁判所の判断
ナトリウムイオン,塩素イオン,炭酸水素イオンおよび水を含むA液と,ナトリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,塩素イオン,ブドウ糖および水を含むB液を含み,そして・・・
(相違点(甲3-1-1’))
本件訂正発明1では,ナトリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し,引用発明2では,第一単一溶液にしか配合されていない点。
甲3記載の実施例4(引用発明2)において,ナトリウムイオンを,通常のように,第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合させる構成とすることは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2において,第一単一溶液のみに配合されているナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合する構成(相違点(甲3-1-1’)に係る本件訂正発明1の構成)に変更することを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
A液とB液を合した混合液において,・・・無機リン濃度が4.0mg/dLであり,
(相違点(甲3-1-6’))
混合液中の無機リン濃度が,本件訂正発明1では4.0mg/dLであるのに対し,引用発明2では3.72mg/dLであると算出される点。
甲3に接した当業者においては,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を得るために,引用発明2における第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の「HPO₄²⁻」(リン酸イオン濃度)「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)を上記③の「1.0~2.8mM」(無機リン濃度3.1~8.7mg/dL)の範囲内で調整することを試みる動機付けがあるものと認められるから,引用発明2における無機リン濃度を上記数値範囲内の「4.0mEq/L」(相違点(甲3-1-6’)に係る本件訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,


マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,
(相違点(甲3-1-7’))
混合液中のマグネシウムイオン濃度が,本件訂正発明1では1.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2では1.2mEq/Lであると算出
される点。
技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mEq/L」)及び炭酸水素イオン濃度(「30.0mEq/L」)を市販されている透析液及び補充液のそれぞれの数値範囲の中で調整することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3-1-7’)に係る本件訂正発明1の構成)に,炭酸水素イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲に含まれる「32.0mEq/L」(相違点(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,
(相違点(甲3-1-8’))
混合液中の炭酸水素イオン濃度が,本件訂正発明1では32.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2では30.0mq/Lであると算出される点。
そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,
(相違点(甲3-1-3’))
本件訂正発明1では,「A液とB液を合した混合液において,……,少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ことが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2では,それに対応する発明特定事項がない点。
本件訂正発明1の「少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用発明2において,相違点(甲3-1-1’),(甲3-1-4’),(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成とした場合に,自ずと備えるものといえる。
したがって,引用発明2において,相違点(甲3-1-3’)に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
用時混合型急性血液浄化用薬液。
(相違点(甲3-1-4’))
本件訂正発明1は「急性血液浄化用薬液」であるのに対し,引用発明2は「医薬溶液」である点。
甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2)において,当該「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3-1-4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。


 顕著な効果について
「患者に対する混合液の使用を「7日間」継続し,その間に「pHが7.23~7.29から7.89~7.94までほぼ直線的に上昇した状況」に置くことは,用時混合型急性血液浄化用薬液の通常の使用方法としては想定されないものといえる。そうすると,かかる状況下で7日間にわたり不溶性微粒子や沈殿の形成が抑制されたという効果は,用時混合型急性血液浄化用薬液に通常求められる効果であるとはいえない・・・。
次に・・・本件明細書には,本件訂正発明1の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpHの推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験の結果(甲18の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本件訂正発明1の効果であるとは認められない。
さらに,本件審決は,本件訂正発明1は,「急性血液浄化用薬液」として有用であるという,甲3の記載からは予想し得ない効果を奏するものである旨判断したが,・・・当業者は,引用発明2を「用時混合型急性血液浄化用薬液」として使用することを容易に想到することができたものと認められるから,甲3の記載からは予想し得ない効果であるとは認められず,本件審決の上記判断は,誤りである。」

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