2025年11月6日、大塚ホールディングス傘下の大鵬薬品工業株式会社(Taiho Pharmaceutical Co., Ltd.、以下「大鵬薬品」)及びTaiho Oncology, Inc.は、抗悪性腫瘍剤LYTGOBI®(リトゴビ®、一般名:futibatinib(フチバチニブ))に関する米国特許期間延長(Patent Term Extension, PTE)出願の拒絶を不服として、米国特許商標庁(USPTO)を相手取り、米国ニュージャージー州連邦地裁に提訴したようです(Taiho Pharmaceutical Co., Ltd. et al v. Squires et al(No. 3:25-cv-17280, D.N.J.))。
情報源:
- U.S. Patent No.9,108,973のUSPTO公開資料”Plaintiff’s Complaint Administrative Procedure Act (APA) action”(2025.11.06)
- U.S. Patent No.10,434,103のUSPTO公開資料: “Plaintiff’s Complaint Administrative Procedure Act (APA) action”(2025.11.06)
FDA承認とPTE出願
LYTGOBI®は、FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体) 1、2、3、4を選択的に阻害する経口チロシンキナーゼ阻害剤であり、2022年9月30日、米国FDAから「前治療歴を有するFGFR2融合遺伝子またはその他の再構成を伴う切除不能な局所進行または転移性肝内胆管がん」の適応で承認を受けました(NDA214801: Approval Letter)。
その後、大鵬薬品は本剤の有効成分に係る米国特許第9,108,973号(化合物に関する発明、20年+PTA後の満了日は2033年2月13日)及び第10,434,103号(結晶形に関する発明、20年満了日は2036年3月31日)について、2022年11月29日に特許期間延長(PTE)を出願しました(いずれも2036年9月30日までの延長期間を主張)。
USPTOによる「1日遅れ」判断
しかし、USPTOは大鵬薬品のPTE出願を「FDA 承認日から60日以内に提出されていないため不適格(untimely)」と判断しました。
“Thus, the date of notice of a product’s regulatory approval both triggers the sixty-day period and is day one of the sixty-day period to submit a PTE application. The day after triggering event would be the second day of the sixty-day period. For LYTGOBI®, the FDA transmitted its approval during business hours (September 30, 2022 at 12:08:07 PM). Because this notification was given on a business day (Friday) before 4:30 pm Eastern Time (at 12:08:07 PM), the “next business day” proviso does not apply to the sixty-day calculation. This meant that September 30, 2022 was the first day of the sixty-day period and November 28, 2022 was the last day of the sixty-day period. As a result, Applicant’s November 29, 2022 PTE submission was one day late and, so, untimely. In its January 24, 2024 letter, the FDA likewise confirmed that the PTE application filed on November 29, 2022 was untimely based on its official records.”
(出典:U.S. Patent No.9,108,973のUSPTO公開資料「DENIAL OF PATENT EXTENSION APPLICATION UNDER 35 U.S.C.§156 」(2025.03.27))
要するに、FDAが承認通知を2022年9月30日(金)午後4時30分(Eastern Time)前に通知していたため、その日が「第1日目」とされ、60日目は2022年11月28日(月)となりました。このため、11月29日提出のPTE出願は1日遅れと判断されたのです。
以下のとおり、35 U.S.C.§156(d)(1)には、承認日から始まる60日以内にPTE出願をしなければならず、営業日の午後4時30分(Eastern Time)の後に承認通知を受けた場合は次の営業日に当該通知を受けたとみなす旨が定められています。
“(d)(1) To obtain an extension of the term of a patent under this section, the owner of record of the patent or its agent shall submit an application to the Director. Except as provided in paragraph (5), such an application may only be submitted within the sixty-day period beginning on the date the product received permission under the provision of law under which the applicable regulatory review period occurred for commercial marketing or use, or in the case of a drug product described in subsection (i), within the sixty-day period beginning on the covered date (as defined in subsection (i)). The application shall contain— …
For purposes of determining the date on which a product receives permission under the second sentence of this paragraph, if such permission is transmitted after 4:30 P.M., Eastern Time, on a business day, or is transmitted on a day that is not a business day, the product shall be deemed to receive such permission on the next business day. For purposes of the preceding sentence, the term ‘‘business day’’ means any Monday, Tuesday, Wednesday, Thursday, or Friday, excluding any legal holiday under section 6103 of title 5.”
FDAの承認日(approval date)は公式記録上9月30日とされていますが、大鵬薬品は当初の承認通知書に誤記があり、10月5日付で訂正版が送付されたことを根拠に、実質的な承認完了日は10月5日であると主張しているようです。この「起算日をどこに置くか」という点が、今回の訴訟の核心となる可能性があります。

大鵬薬品は特許延長出願期限60日の起算日が承認日であるところ、その翌日からであると勘違いしてしまったということなのでしょうか。それとも誤記訂正版が承認通知だと勘違いしたのでしょうか。この延長期間を失うと製品独占期間に大きな影響が出そう・・・
参考資料
- 大鵬薬品工業 press release: FGFR阻害剤フチバチニブ 米国FDAより前治療歴を有する切除不能な局所進行または転移性肝内胆管がんに対する治療薬として承認を取得(2022.10.03 )
- LYTGOBI® prescription information: “LYTGOBI is a trademark of Taiho Pharmaceutical Co., Ltd.; U.S. Patent Nos. 9,108,973 and 10,434,103″との記載がある。
- 35 U.S.C.§156(d)(1)
- USPTO MPEP: 2754.01 Deadline for Filing an Application Under 35 U.S.C. 156(d)(1) [R-01.2024]
- FDA Law Blog: “Heigh-ho” Taiho! The PTO Says LYTGOBI Patent is Ineligible for PTE Because of Untimely Application . . . And a Corrected NDA Approval Letter is No Saving Grace(2024.04.22)
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コメント
https://biologicshq.com/product/zolgensma/
高額で知られるゾルゲンスマの和解となったこちらの案件を詳しく知りたいです。
お時間あれば是非お願い致します。
コメントありがとうございます。
ゾルゲンスマの和解の情報もありがとうございました。既にご存じの情報ばかりかと思いますが以下に情報をまとめました。少し古い情報かもしれませんが。
—
ゾルゲンスマを巡るGenzyme v. Novartis米国特許紛争 ― IPRと和解の事実関係整理
1.はじめに
ノバルティスの遺伝子治療薬ゾルゲンスマ(Zolgensma®、一般名:onasemnogene abeparvovec)は、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する画期的治療として知られる一方、その開発・製造技術を巡って複数の特許紛争の当事者となってきました。その中でも最終的に高額和解に至ったと報じられている、Genzyme(Sanofiグループ)とNovartisとの間の米国特許紛争について、公開情報に基づく事実関係を整理し、医薬系特許実務の観点から解説します。確認可能な範囲の情報に即して説明しています(参考1、参考2)。
2.紛争の背景と対象特許
本件紛争の中心にあるのは、AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターを用いた遺伝子治療製品に共通して関係し得る基盤的技術に関する特許です(参考3)。Genzymeは、少なくとも米国特許第9,051,542号および第10,429,288号を含む複数の特許を保有しており、これらはいずれもAAVベクター製剤の品質確保や解析手法に関わるものです。ゾルゲンスマの製造・品質管理工程がこれら特許の技術的射程に入るとして、Genzyme側はNovartisに対し特許権侵害を主張しました。
これに対しNovartisは、通常の米国地裁での侵害訴訟対応に加え、PTAB(米国特許商標庁の特許審判部)においてInter Partes Review(IPR)を提起し、特許の有効性そのものを争う戦略を取りました。結果として、本件では地裁訴訟と複数のIPRが並行して進行する構図となりました。
3.米国特許第9,051,542号を巡るIPRの帰結
米国特許第9,051,542号については、NovartisがIPR2023-00608およびIPR2023-00609の二件のIPRを提起しました。これらのIPRでは、主として進歩性欠如を理由として、特定の請求項の無効が主張されていました。
しかし、これらのIPRについては、PTABが審理を開始する(Institutionする)前の段階で、Genzyme側が一部請求項について法定放棄(statutory disclaimer)を行いました(参考4)。その結果、PTABは制度審理を開始しないとの判断を示し、いずれのIPRも実質的な審理に入ることなく終了しています。したがって、本特許については、PTABによる有効・無効の実体判断は示されておらず、あくまで手続的に「審理未着手」で終結した点が重要です。
4.米国特許第10,429,288号を巡るIPRと和解による終了
一方、米国特許第10,429,288号については、IPR2023-01044およびIPR2023-01045が提起されました。この特許は、AAVベクター関連粒子を分析超遠心法などにより評価する解析技術に関するもので、遺伝子治療製品の品質評価において実務上の重要性が高いと考えられる内容です。
これら二件のIPRについては、PTABがいずれも制度審理開始(Institution)を決定し、Novartisによる無効主張とGenzymeによる反論が正式な審理の枠組みに入りました(参考5)。しかし、最終的なFinal Written Decisionが出される前に、当事者双方から「和解に基づく手続終了」を求める共同申立(Joint Motion to Terminate)が提出され、PTABはこれを認めています。その結果、これらのIPRは審理途中で終了しており、PTABとしての有効・無効判断は示されていません。
5.米国地裁訴訟と和解の成立
PTABでの手続と並行して進行していた米国地裁での特許侵害訴訟についても、最終的には当事者間の和解により終結しました。2024年11月、Genzyme(Sanofi)とNovartisとの間で本件特許紛争が和解により解決した旨が、関係者を通じて公表されています(参考6)。
この和解について注目されるのは、Genzymeの特許権の一部が過去にAvigenから派生しており、その後の権利関係の整理を経て、現在はMediciNovaが一定の経済的権利を留保している点です。Avigenはかつて当該AAV関連技術の開発主体であり、その知的財産の一部がGenzyme(Sanofi)に承継される過程で、MediciNovaは契約上、将来の訴訟解決やライセンス収入等に連動した金銭的給付を受ける地位を保持することになったと説明されています(参考7)。MediciNovaは、Sanofiからの通知として、本和解に基づき金銭的な支払いを受ける権利が生じる見込みであることを開示しています。ただし、その金額、支払い方法(一時金かロイヤルティか)、支払い期間、対象製品の範囲など、和解条件の具体的内容は公表されていません。
6.和解内容に関する公開情報と不明点
公開情報から確認できる事実は、本件紛争が和解により終結したという点と、少なくとも一部関係者に対して金銭的支払いが発生する可能性があるという点にとどまります。和解契約書の内容、Novartisがどの特許についてどのような実施権を得たのか、あるいは将来の訴訟不提起条項や地域的・技術的範囲がどのように定められているのかといった点は、現時点では不明です。
また、本和解が米国外、例えば欧州や日本など他の法域における係争や特許権行使にどのような影響を及ぼすのかについても、公開情報からは確認できていません。少なくとも、ゾルゲンスマを巡る本件和解は、米国で進行していた地裁訴訟およびPTAB手続を対象として成立したものと理解されています。
7.おわりに
以上のとおり、ゾルゲンスマを巡るGenzymeとNovartisとの米国特許紛争は、複数のIPRと地裁訴訟が並行する中で進行し、最終的には和解という形で終結しました。特許の有効性についてPTABが実体判断を示すことはなく、紛争は当事者の合意によって解決されています。本件は、遺伝子治療分野における基盤技術特許の重要性とともに、IPRと和解が実務上どのように組み合わされ得るかを示す一事例として、今後も参照される可能性があります。
8.参考文献
参考1:Unified Patents, PTAB Case Overview (IPR2023-00608 / IPR2023-00609) https://portal.unifiedpatents.com/ptab/case/IPR2023-00608
参考2:Unified Patents, PTAB Case Overview (IPR2023-01044 / IPR2023-01045) https://portal.unifiedpatents.com/ptab/case/IPR2023-01044
参考3:米国特許第9,051,542号 明細書 https://patents.google.com/patent/US9051542
参考4:PTAB Filings, IPR2023-00608 / IPR2023-00609 https://s3-us-west-1.amazonaws.com/ptab-filings%2FIPR2023-00608%2F20
参考5:PTAB Filings, Joint Motion to Terminate (IPR2023-01044 / IPR2023-01045) https://s3-us-west-1.amazonaws.com/ptab-filings%2FIPR2023-01044%2F20
参考6:MediciNova プレスリリース(2024年11月11日) https://www.globenewswire.com/news-release/2024/11/11/2978622/7767/en/medicinova-given-notice-of-monetary-damages-due-under-patent-settlement-of-sanofi-novartis.html
参考7:Zacks Investment Research / SCR 記事(MediciNova 関連報道) https://scr.zacks.com/news/news-details/2024/MNOV-Monetary-Damages-Due-Following-Sanofi-Novartis-Patent-Dispute-Settlement-article/default.aspx