2019/04/20

2019.03.19 「サン ファーマ v. ジェネンテック」 知財高裁平成30年(行ケ)10036

IL-23アンタゴニストによるIL-17産生阻害の新経路発見に基づく作用機序特許、乾癬治療用途は同じでも新規?知財高裁平成30年(行ケ)10036

【背景】

被告(ジェネンテック)が保有する「IL-17産生の阻害」に関する特許(第5705483号)に対して原告(サン ファーマ)がした無効審判請求に対する不成立審決(無効2017-800007号)の取消訴訟である。争点は、①新規性、②進歩性、③明確性要件、④サポート要件、⑤実施可能要件の各判断の誤りの有無である。

請求項1(本件特許発明1):
T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための,インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。

【要旨】

裁判所は、取消事由はいずれも理由がないと判断し、原告の請求を棄却した。以下、裁判所の判断の抜粋。

取消事由1(甲5に基づく新規性判断の誤り)について

裁判所は、
「本件特許発明1と甲5発明とは,審決認定のとおり,相違点5(本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し,甲5発明にはそのような特定がない点)で相違する。・・・甲5発明の「T細胞を処理する」とは,IL-12によるT細胞の処理,すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲5には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことを指すものではないことは明らかである。・・・本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づき,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであり,上記知見は,従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なるものであると認められる。したがって,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであるから,甲5発明の「T細胞を処理するため」とは明確に異なるものであり,相違点5は,実質的な相違点であると認められる。」
と判断した。

原告は、
「甲5X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく,「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に,「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲5X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5X発明と本件特許発明1との間に相違点はない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,次のとおり理由がない。
(ア) ・・・本件特許発明1は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づいて,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」について「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための)」という用途の限定を付したものであると認められるところ,慢性関節リウマチの患者であってもIL-17濃度の上昇がみられなかった者がいるように,すべての炎症性疾患においてIL-17濃度が上昇するものではないし,特定の炎症性疾患においてもすべての患者のIL-17濃度が上昇するものではないと認められるから,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。
(イ) 他方,前記(1)のとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲5発明が,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲5発明の「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することができるという甲5に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。
(ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。」
と判断した。

原告は、
「本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲5X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性について判断すべき旨の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特許発明1の用途が,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。」
と判断した。
以上のとおり、裁判所は、本件特許発明1は甲5発明ではないと判断した。

取消事由2(甲5に基づく進歩性判断の誤り)について

裁判所は、
「本件明細書には,本件優先日前の文献を引用して,IL-17は,リウマチ様関節炎を含む様々な炎症性疾患に関係しており,それらの疾患においてIL-17の濃度の著しい上昇が見られること,乾癬においてIL-17の濃度が著しく上昇することが認められ,IL-17は乾癬に関係していると文献に記載されている旨が記載されており(【0003】,【0054】~【0060】),本件優先日当時,乾癬等の炎症性疾患とIL-17との関連性が報告されていたことが認められる。
しかし,前記2(4)アのとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされておらず,甲1,3を含む本件で提出されたその余の証拠によっても,本件優先日当時,当業者において,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることを認識していたとは認められないから,甲5に接した当業者において,甲5発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」(IL-23のアンタゴニスト)を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められない。」
と判断した。

原告は、
「乾癬患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,乾癬の治療効果を高めることはないし,甲5には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく乾癬患者に抗体含有組成物を使用することが開示され,それによる病巣消失の効果までもが既に開示されており,その効果は,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経るか否かによって,変わることはない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「・・・甲5には,「J695」と称される「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されているが,甲5に接した当業者において,この「p40サブユニットを中和することができる抗体」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められないことは,前記(1)のとおりであり,原告の上記主張は,この判断を左右するものではない。」
と判断した。

原告は、
「たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかであるし,被告によると,本件特許発明は,「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明において必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「前記2(4)ウのとおり,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができるのであって,被告の主張は採用できないから,本件特許発明1がIL-17濃度の上昇が見られるか否かを問わずに利用されることを前提とした原告の上記主張は,前提において失当である。」
と判断した。

原告は、
「本件特許発明の用途は,甲5に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲5X発明の「P40サブユニットを中和することができる抗体」(IL-23アンタゴニスト)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲5X発明が実質的に異なることを示すようなものではない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「前記2(4)のとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞の処理による乾癬治療のため」という用途とは,明確に異なるものであり,本件特許発明1の用途は,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものではないから,原告の上記主張は,理由がない。以上によると,本件特許発明1は,甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。・・・よって,取消事由2は,理由がない。」
と判断した。

取消事由7(明確性要件の判断の誤り)について

裁判所は、
「本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には,「炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択する」旨の文言は記載されていないが,上記のとおり,「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための)」という用途を限定した文言により,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができる。
また,前記1(1)のとおり,本件明細書には,IL-17が慢性関節リウマチ,同種異系移植拒絶反応中,多発性硬化症を含む他の慢性炎症疾患,乾癬,ベーチェット病,喘息,全身性エリテマトーデスにおいて,IL-17の濃度が上昇することが先行技術文献を引用して記載されており,炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。
そうすると,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,不明瞭であるとはいえず,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。」
と判断した。

原告は、
「本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップが必須であることについて,必ずしも明確に表現しておらず,仮に,このように不明確な特許請求の範囲の記載のまま特許登録が維持されることとなれば,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ない乾癬等の疾患治療のための組成物の利用についても,あたかも本件特許発明の技術的範囲に属するかの如き外観を呈し,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれが非常に高いから,本件特許に係る請求項1~10の記載は,明確性要件を満たさない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本件特許の請求項1の記載により,請求項1に記載された組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができることは,前記(1)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。」
と判断した。

取消事由8(サポート要件の判断の誤り)について

裁判所は、
「当業者は,本件明細書の記載から,IL-23アンタゴニストにより,IL-23により誘導されるT細胞によるIL-17産生を阻害することができること,すなわち,本件特許発明の課題を解決できることを認識することができる。」
と判断した。

原告は、
「審決のように,本件特許発明の組成物を炎症等を治療するという医薬用途に利用する場合,当然にIL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるものであるとすると,本件特許発明の課題解決のためには,IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択できることも要すると解すべきであるが,「IL-17発現の上昇したレベル」の技術的意味やその確認方法自体も,本件明細書において明確にされているとはいえないし,技術常識を考慮してもそれが明らかであるとはいえない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「前記8(1)のとおり,炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。」
と判断した。

取消事由9(実施可能要件の判断の誤り)について

裁判所は、
「取消事由9に係る原告の主張は,・・・いずれも取消事由8に係る原告の主張と同旨であるから,これらにいずれも理由がないことは,前記9(2)ア~ウの説示から明らかである。よって,取消事由9は,理由がない。」
と判断した。

【コメント】

医薬用途発明の新規性の判断について、物の「用途」とは何かということを考えさせられる判決。本願発明1(請求項1)において、「物」とは「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物」であり引用発明と一致していたが、「用途」という点で、本願発明1は「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するため」であるのに対して、引用発明は「IL-12によるT細胞を処理(すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害)するためのインビボ処理方法において使用するため」であるという点で文言上相違していた。しかし、問題は、両発明とも、上記の通り「インビボ処理方法」がどんな体内作用機序を経るための処理方法なのかという意味での用途は相違している一方で、T細胞を処理して最終的には乾癬の治療のために効果を発揮させる発明であるという意味では共通していたため、その相違点は新たに発見した作用機序で表現(説明)しただけにすぎないではない(用途は異ならない)のではないかという論点があった。

図は弁理士会バイオ・ライフサイエンス委員会からの審議委嘱事項2「バイオ関連・医薬発明の特許性についての国際的な比較に基づく問題点の調査及び研究」についての報告書(平成31年2月8日)より

乾癬では、IL-12やIL-23によって活性化されるヘルパーT細胞およびナチュラルキラー細胞といった免疫担当細胞の細胞内シグナル伝達およびサイトカイン分泌が重要な役割を担っており、IL-12がCD4陽性ナイーブT細胞のTh1への分化に関与し、IL-23はTh17の活性化を促すとされている。IL-23受容体へのIL-23の結合を阻害し、細胞内シグナル伝達並びにそれに続く活性化及びサイトカイン産生を抑制するという作用メカニズムから、抗IL-23抗体はT細胞からのIL-17産生を阻害することによって乾癬の治療効果を発揮すると想定される。

医薬品の有効成分が、疾患への治療効果を発揮するに至るための体内での作用機序は単純ではない。ある医薬品の有効成分がT細胞によるIL-17の産生を阻害するという体内現象ひとつとっても、刺激分子であるIL-12も阻害しているのかも知れないし、それらの上流下流の知られていない作用経路がまだあるのかも知れない。例えば、IL-23アンタゴニストの乾癬治療効果に○○タンパク質の阻害も関与していたという作用機序が新たに発見されるたびに、同じ乾癬治療に用いるにもかかわらず、その作用機序を表現(説明)した構成要件を盛り込んだ「○○タンパク質を阻害するためのIL-23アンタゴニスト組成物」や「IL-23アンタゴニストを含む○○タンパク質阻害剤」というクレームで出願をすれば、そのたびに新規性は認められることになるのだろうか。すでにIL-23アンタゴニストを乾癬治療薬として実施している者への影響があってはならない。最終的な疾患治療用途は一致しているのに、新たに発見された作用機序の表現(説明)を構成要件として付加した医薬用途発明の新規性を認めるような本件における裁判所の判断は、発明の実施という点では同一の権利を乱立させ特許権の効力範囲と権利行使の予測可能性を不透明にしてしまうのではないか。

明確性要件の判断の中では、発明の技術的範囲をIL-17発現上昇患者への選択使用にのみ限定するかのような言及(配慮?)もされたように感じられるが、本件は、技術的範囲を争点としている訳ではなく、あくまで特許が無効かどうかを争点とし判断しているものである。もし、本件特許権者が、他社の乾癬治療薬としての抗IL-23抗体
  • ヒト型抗ヒトIL/23p19モノクローナル抗体製剤トレムフィア(Tremfya)Ⓡ(有効成分: グセルクマブ(guselkumab))
  • ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤ステラーラ(Stelara)Ⓡ(有効成分: ウステキヌマブ(ustekinumab))
  • ヒト型抗ヒトIL/23p19モノクローナル抗体製剤スキリージ(Skyrizi)Ⓡ(有効成分: リサンキズマブ(risankizumab))
の製造販売に対する本件特許の侵害訴訟を提起した場合には、属否判断について裁判所の判断がどのようにされるのか非常に楽しみである。

本件特許無効を審判請求したサンファーマはというと、MSD社が開発していたヒト型抗ヒトIL/23p19モノクローナル抗体チルドラキズマブ(Tildrakizumab; MK-3222)の全世界での独占的な使用権を有しており、その製剤は、2018年5月20日に米国にて尋常性乾癬を適応症として承認(商品名: ILUMYA)(BLA APPROVAL LETTER)されたが、日本ではまだ承認されていない。
参考:
以下、本件特許の三極での状況を示す。欧州では新規性欠如判断、米国では患者限定となっており、クレームの成立性・広さで言うと日本(特に本件特許及びその分割出願特許)が欧米に比べて緩い印象である。

本件特許の日本ファミリー情報:
  • 特願2004-550229
    特許5477998(登録日2014.02.21)
    存続期間満了日2023.10.29(現時点で期間延長出願無し)
    請求項1:
    インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む、健康な被験体と比較して、インターロイキン17(IL-17)発現の上昇したレベルを有することが測定された哺乳動物被験体における炎症疾患の処置のための組成物であって、前記アンタゴニストが抗IL-23または抗IL-23レセプター抗体である、組成物。
  • (分割)特願2010-210980
    特開2011-42658
    特許5705483(登録日2015.03.06)【本件特許】
    存続期間満了日2023.10.29(現時点で期間延長出願無し)
    無効2017-800007
    知財高裁平成30年(行ケ)10036(出訴日2018.03.20)
    請求項1:
    T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための、インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。
  • (分割)特願2013-123690
    特許5870067(登録日2016.1.15)
    存続期間満了日2023.10.29(現時点で期間延長出願無し)
    無効2017-800008
    知財高裁平30(行ケ)10144(出訴日2018.10.11)
    請求項1:
    T細胞をインターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストで処理する工程を包含する方法により、前記T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するための組成物であって、有効成分として前記アンタゴニストを含み、前記アンタゴニストが抗IL-23抗体または抗IL-23レセプター抗体である、組成物。
本件特許の欧米ファミリー情報:
米国では、同様な作用機序で表現したクレームで特許成立している(US7510709B2; US8287869B2)が、クレームは、IL-17の発現上昇を示したことが決定された患者に投与するという構成要件で明確に患者を限定した表現となっている点では日本の本件特許クレームと異なっている。
  • US7510709B2:
    "・・・comprising administering to a mammalian subject, having been determined to express an elevated level of IL-17 compared to a healthy individual,・・・"
  • US8287869B2:
    "・・・comprising measureing the expression level of interleukin-17 (IL-17) in said subject, and, if IL-17 expression level is determined to be elevated,・・・"
欧州では、同様な作用機序で表現したクレームで特許(EP1576011B1)が一旦成立したが、Eli Lilly社含む4社から異議申立てがされ、特許は取り消された(特許権者が手続をあきらめたようである)。分割出願(EP2108660A1)ではEPOの審査で新規性欠如(患者のsubpopulationはinherentに引用文献に開示されていること)を理由に拒絶されている。日米欧での新しい体内作用メカニズムを構成要件とした医薬用途発明の新規性の取り扱いを比較してみると必ずしも三極で一致していないことがわかる。
本件特許についての三極比較が、弁理士会バイオ・ライフサイエンス委員会からの審議委嘱事項2「バイオ関連・医薬発明の特許性についての国際的な比較に基づく問題点の調査及び研究」についての報告書(平成31年2月8日)に掲載されており、参考になる。

2019/04/06

2019.03.25 「テバ v. 大日本住友」 知財高裁平成30年(行ケ)10098

トレリーフ®(ゾニサミド)を保護する用途特許の進歩性知財高裁平成30年(行ケ)10098

【背景】

被告(大日本住友)が保有する「神経変性疾患治療薬」に関する特許(第3364481号)に対して原告(テバ)がした無効審判請求の不成立審決(無効2017-800120号)の取消訴訟。争点は進歩性。審決の理由は、本件各発明は、引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものであった。

本件発明1(請求項1):
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする神経変性疾患治療薬。
引用発明:
ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬であって,ゾニサミドの投与量が20mg/kg,50mg/kgであり,雄のwistarラットの線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す,抗てんかん薬。
本件発明1と引用発明との一致点及び相違点:
(ア) 一致点
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする医薬。
(イ) 相違点
医薬について、本件発明1では「神経変性疾患」を治療対象とするのに対して、引用発明では「てんかん」を治療対象としている点。
【要旨】

裁判所は、本件発明は引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というべきであるとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がない、と判断した。請求棄却。

以下、引用発明において相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けについての裁判所の判断を抜粋。
「(ア) 引用例及び甲3文献は,いずれも,ゾニサミドが,健常動物において,線条体ドパミン量の増加作用を有すること,MAO-B阻害作用を有することを示唆するにとどまるものである。
そして,前記ウ(ア)のとおり,本件優先日当時の当業者は,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動が,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたものである。
そうすると,当業者は,引用例及び甲3文献から上記示唆を受けても,そもそもパーキンソン病疾患を有する患者において,ゾニサミドが線条体ドパミン量を増加させたり,ゾニサミドがMAO-B活性を阻害したりするとは理解しないから,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になる可能性を認識し得ないというべきである。
(イ) また,引用例及び甲3文献における前記示唆から,健常動物以外であっても,ゾニサミドの投与が線条体ドパミン量の増加作用及びMAO-B阻害作用を僅かでも有する可能性があることまでは否定できない。
しかし,前記ウ(イ)及び(ウ)のとおり,本件優先日当時の当業者は,抗てんかん薬であるゾニサミドについて,線条体ドパミン量の増加作用の観点からも,MAO-B阻害作用の観点からも,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。
そうすると,このような技術常識を有する当業者は,引用例及び甲3文献から,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になると合理的に期待し得ないというべきである。
(ウ) よって,当業者は,引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することを動機付けられることはないというべきである。」

【コメント】

引用発明において、相違点に係る本件発明1の構成を採用することの阻害要因について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない、と判断された。①引用例に記載された健常動物で得られた挙動は疾患モデル動物の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識、②線条体ドパミン量を増加させる薬物にはパーキンソン病患者への使用が禁忌とされるものがあり治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識、③ゾニサミドのMAO-B阻害作用の程度から他のパーキンソン病治療薬と同程度の薬理効果を奏する可能性が低いとの技術常識、を当業者は有していたという主張を被告は展開し、相違点の構成を採用することの動機づけを認めさせないことに成功した。医薬用途発明の進歩性が認められた事例として参考になる。

ゾニサミド(Zonisamide)/トレリーフ®:
ゾニサミド(Zonisamide)は大日本住友において1974年に合成され、抗てんかん剤として開発された化合物であり、1989年3月に抗てんかん剤のエクセグラン®として日本で承認を取得、同年6月に販売を開始した。その後、パーキンソン病治療薬としての開発が進められ、2009年1月にトレリーフ®錠25mgとして日本で承認を取得した。2013年8月にはパーキンソン病の症状の日内変動(wearing-off 現象)の改善を目的として1日1回50mgを投与する用法・用量の一部変更が承認、2014年8月にはトレリーフ®OD錠25mgが承認、2017年8月にはトレリーフ®OD錠50mgが承認された。また、2018年7月にはレビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムの効能・効果及び用法・用量が追加承認された。ゾニサミド製剤は、抗パーキンソン病薬としては外国で販売されていないようである(2018年6月時点)。

本件特許(JP3364481B):
本件特許は、トレリーフ®を保護する用途特許である。早期審査請求により拒絶理由通知が発せられることなく特許査定となった。分割出願はない。本件出願ファミリー(WO1999/033465)として、欧米では一旦特許が成立したが(EP1040830B; US6342515B)、いずれも放棄された。下記表のとおり、本件特許権の存続期間延長登録出願がトレリーフ®の各承認に基づいて行われている。ゾニサミドが1989年にエクセグラン®として上市されたことから物質特許は既に満了していると考えられる。これまでのトレリーフ®承認時の延長出願対象特許の有無から、トレリーフ®を保護する主要な特許権は用途特許3364481のみと推定される。

トレリーフ®(ゾニサミド/Zonisamide)のヒストリー:


製品ヒストリー

用途特許3364481ヒストリー

ジェネリックの動き

1974

ゾニサミドが合成される

 

 

1989.03.31

抗てんかん薬エクセグラン®として承認

 

 

1997.12.26

 

特許出願(優先日)

 

1998.12.21

 

特許出願(PCT出願日)

 

2002.10.25

 

日本特許成立(登録日)

 

2009.01.21

パーキンソン病治療薬トレリーフ®25mgとして承認

 

 

 

 

25mg/パーキンソン病について延長出願2009-7000285年延長登録)

 

2013.01.20

パーキンソン病の再審査期間(4)終了

 

 

2013.08.20

25mgに症状の日内変動の改善を目的として用法・用量(1150mg)の追加承認

 

 

2014.08.15

OD25mgの承認

 

 

 

 

OD25mg/パーキンソン病について延長出願2014-7002305年延長登録)

 

2014.12.17

OD25mgに症状の日内変動の改善を目的として用法・用量(1150mg)の追加承認

 

 

2017.08.15

OD50mgの承認

 

 

 

 

OD50mg/パーキンソン病について延長出願2017-7003075年延長審査中)

 

2017.08.30

 

 

テバが特許無効審判請求(無効2017-800120号事件)

2018.06.13

 

 

特許無効審判請求不成立審決(無効2017-800120号事件)

2018.07.02

25mg/OD25mgのレビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムの効能・効果の追加承認

 

 

 

 

25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長出願2018-7002955年延長審査中)

 

 

 

OD25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長出願2018-7002965年延長審査中)

 

2018.12.21

 

特許存続期間(20年)の満了

 

2019.03.25

 

 

不成立審決(無効2017-800120号事件)取消訴訟請求棄却判決(平成30(行ケ)10098

2019.10.

25mgの販売中止/出荷終了(予定)

 

 

2022.07.01

レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムの再審査期間(4)終了

 

 

2023.12.21

 

25mg/パーキンソン病について延長2009-700028期間(5年)満了

 1)

2023.12.21

 

OD25mg/パーキンソン病について延長2014-7002305期間(5年)満了

 2)

2023.12.21

(みなし)

 

OD50mg/パーキンソン病について延長2017-700307期間(みなし5年)満了

 3)

2023.12.21

(みなし)

 

25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長2009-700028期間(みなし5年)満了

 

2023.12.21

(みなし)

 

OD25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長2014-7002305期間(みなし5年)満了

 
2019.04.06現在の情報として、J-PlatPat、トレリーフ®インタビューフォーム、大日本住友ウエブサイト等より参照。

脚注
1) 現状ではトレリーフ®後発品は用途特許存続期間満了(2023.12.21)後の2024.02承認/2024.06薬価収載となる見込み。
2) 先行処分(錠25mg)の後、後行処分(OD錠25mg)を得るために要した期間をどのように主張して5年得たのかは延長期間算定の根拠主張に参考になるかも知れない。
3) 先行処分(OD錠25mg)の後、後行処分(OD錠50mg)を得るために要した期間をどのように主張して5年得るのかは延長期間算定の根拠主張に参考になるかも知れない。仮に、延長5年が認められず、2023.12.21より前にOD錠50mgのジェネリックが承認販売されると想定した場合、OD錠50mgのジェネリックは錠25mgやOD錠25mgに基づく延長用途特許の傘の下にあるとしてそれら延長特許権の効力が及ぶのか(傘の下説)、それともOD錠50mgだけ延長期間に穴が開いたと考える(傘穴開き説/短冊説)のか、それら観点を厚労省/PMDAは適切に判断しパテントリンケージを運用できるのか。


2019/04/02

東和のピタバスタチンCa・OD錠 興和が製剤特許侵害で追加の損害賠償請求

2019年4月2日付の東和薬品のpress release「当社に対する損害賠償請求訴訟の提起に関するお知らせ」によると、2018年6月22日付リリース「当社に対する損害賠償請求訴訟の提起に関するお知らせ」のとおり、東和薬品のピタバスタチン Ca・OD錠 1mg/2mg/4mg「トーワ」について、興和から同社が有する製剤特許を侵害しているとして、特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟(以下、先行訴訟)が提起されているところ(過去記事: 東和のピタバスタチンCa・OD錠 興和が製剤特許侵害で損害賠償請求)、今回、同様の理由で先行訴訟とは別に、2016年4月1日から1年間の販売分に対する新たな損害賠償請求訴訟(以下、本件訴訟)が2019年3月22日付で東京地裁に提起されました。請求金額は45億2,279万3,000円。東和薬品は、先行訴訟及び2018年7月に申し立てた特許無効審判請求において特許無効を主張して、裁判所及び特許庁にて現在審理中とのことです。東和薬品は、先行訴訟及び特許無効審判と同様に、本件訴訟についても特許無効を主張して争っていく方針とのことです。。

参考: