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2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 東京地裁平成28年(ワ)15355

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)及び専用実施権者(ヤクルト)が、被告(日本化薬)に対し、被告製品の製造販売が特許権・専用実施権の侵害に当たると主張して、損害賠償を求めた事案。

本件発明:

1A オキサリプラチン,
1B 有効安定化量の緩衝剤および
1C 製薬上許容可能な担体を包含する
1D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
1E 製薬上許容可能な担体が水であり,
1F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1G 緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。

被告各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明の構成要件1Gに規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。本件発明被告製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうか、すなわち、被告製品は本件発明の構成要件1B、1F及び1Gを充足するのかどうかが裁判所判断の決め手となった争点。

【要旨】

裁判所は、被告各製品は構成要件1B、1F及び1Gをいずれも充足しないから、被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断した。請求棄却。以下裁判所の判断より抜粋。

「本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるものであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤のモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」という用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得ない。

…(略)…他方で,仮に,本件発明1を上記のように解することなく,原告らが主張するように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば,本件発明1は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸イオンが平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべきである。

…(略)…したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当である。」

【コメント】

本件発明の「緩衝剤」という用語の意義を検討し、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当であると判断した(東京地裁民事第29部)。2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849参照。

参考:

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