Feb 25, 2019

2019.02.06 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成30年(行ケ)10100

物の発明において除くクレームとする訂正が認められた事例: 知財高裁平成30年(行ケ)10100

【背景】

被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。本件特許については、無効審判請求不成立とした審決の取消判決が繰り返され(2013.11.27 平成25年(行ケ)101342015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)102042017.07.12 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(行ケ)10160)、本件が4回目の無効審判請求不成立審決取消訴訟となる。

原告が主張する取消事由のひとつは、下記本件訂正事項4の訂正要件違反についてであった。

本件訂正事項4:
特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正する。

【要旨】

裁判所は、原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく、本件審決に取り消されるべき違法があるとは認められないとして、原告の請求を棄却した。以下、本件訂正事項4の訂正要件(取消事由4及び5)に関する裁判所の判断抜粋。

取消事由4-訂正要件違反④(明確性要件違反1/第2次取消判決の拘束力抵触/独立特許要件違反)について
「本件訂正事項4は,本件訂正前の請求項1に記載された「経皮吸収製剤」から「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」(除外製剤)を除外するものであるところ,原告の主張は,要するに,この除外製剤が物として技術的に明確でないとするものである。
そこで検討するに,除外製剤における「医療用針」が,目的物質を注入するための注射針やランセット,マイクロニードルなどを意味することは,出願時の技術常識に照らして明らかであるといえる。また,「チャンバ」又は「縦穴」が当該「医療用針」内に設けられたものであること,及び「目的物質」が「チャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている」ことは,いずれも除外製剤の構造を特定するものであって,その特定に不明確な点があるとは認められない。
そうすると,上記除外製剤が,特定の構造を有する「医療用針」である「経皮吸収製剤」を意味していることは明らかであるから,上記除外製剤は物として技術的に明確であり,さらには,かかる除外製剤を除く「経皮吸収製剤」についても,発明の詳細な説明の記載,例えば,【0070】の
「基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく,種々の方法が適用可能である。例えば,目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより,目的物質を基剤に保持させることができる。その他の例をしては(判決注:「その他の例としては」の誤記と認める。),溶解した基剤の中に目的物質を加えて懸濁状態とし,その後に硬化させることによっても目的物質を基剤に保持させることができる。」
に接した当業者であれば,出願時の技術常識を考慮して,物として明確に理解することができるといえる。
そうである以上,本件訂正事項4によって訂正された請求項1の記載は明確であるというべきであって,これに反する(あるいは前提を異にする)原告の主張はいずれも採用できない。
したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。」

取消事由5-訂正要件違反⑤(拡張訂正違反)について
「原告は,本件訂正事項4の「除くクレーム」は,何を除いているのか不明瞭であるが,少なくとも種々の素材やタイプあるいは構成態様の医療用針が世の中に存在することに鑑みれば,本件訂正事項4によって除かれるタイプ以外の医療用針は,すべからく本件訂正発明の経皮吸収製剤に含まれてしまうことになるから,実質上特許請求の範囲を拡張する訂正であって許されない,と主張する。
しかしながら,本件訂正事項4によって除外される製剤(除外製剤)が物として明確であるといえることは,取消事由4において検討したとおりであるから,原告の主張はその前提を欠く。
また,本件訂正事項4は,訂正前の特許請求の範囲から物として技術的に明確な除外製剤を除くものであるから,特許請求の範囲の減縮に該当することは明らかである。
したがって,原告が主張する取消事由5は理由がない。」

【コメント】

2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204で争われた2回目の訂正請求における訂正事項3は下記下線部分である。当該事件で裁判所は、「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収 製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様は、経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえず、訂正事項3によって除かれる経皮吸収製剤は、「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえないから、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないと判断していた。

訂正請求(2回目)訂正後請求項1:
「・・・目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,・・・尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤,及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)。」

本事件で争われた本件訂正請求(5回目)における訂正事項4は下記下線部分である。訂正後の請求項の但し書きの中に、前記2回目訂正請求の訂正事項3で訂正違反とされた部分を含めずに(除かずに)訂正請求したことで、その除いた経皮吸収製剤は特定の構造を有するものであるから明確であると判断され、訂正要件違反とされなかった。

訂正請求(5回目)訂正後請求項1:
「・・・目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,・・・尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。」

2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204の判決で判示されたとおり、「訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべき」である。いわゆる除くクレームに訂正する場合においては、物の発明であれば物として技術的に明確であること、言い換えれば、除かれる態様がその物の形状、構造、組成、物性等によりその物自体を特定するものであることが必要となる。

除くクレームの訂正(補正)が問題となった判決についての過去記事:

本事件に至るまでの審決取消訴訟判決:

その他の両社間の係争関連過去記事:

Feb 19, 2019

2019.02.04 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(行ケ)10033; 知財高裁平成30年(行ケ)10054

メディオンの炭酸パック特許知財高裁平成30年(行ケ)10033; 知財高裁平成30年(行ケ)10054

【背景】

メディオン(被告)が保有する「二酸化炭素含有粘性組成物」に関する特許(第4912492号; 第4659980号)の無効審判請求(無効2017-800050号; 無効2017-800095号)不成立審決取消訴訟。争点は進歩性。

【要旨】

裁判所は、本件発明について容易想到性が認められないとした本件審決に誤りはなく原告が主張する取消事由は理由がないとして原告の請求を棄却した。

知財高裁平成30年(行ケ)10033(特許第4912492号):
「甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず,さらに,このように分けた2剤のうちの一方である,「Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」をあらかじめ水に溶解させて「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」に置き換える動機付けは見当たらない。以上によれば,本件発明1について,当業者が,引用発明の「Arg・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」を「Arg・炭酸塩含有含水粘性組成物」に置き換えることを容易に想到することができたとは認められない。」
知財高裁平成30年(行ケ)10054(特許第4659980号):
「甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず,さらに,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらない。また,引用発明1は二酸化炭素による血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための化粧料で,アルギン酸ナトリウムは安定な泡を生成し,二酸化炭素の保留性を高めるために配合されているのに対し,甲2文献には二酸化炭素の発生についての記載はなく,甲2文献記載の技術事項におけるアルギン酸ナトリウムは二価以上の金属塩類との反応により皮膜を形成するためのものであって,化粧料の使用目的もアルギン酸ナトリウムの配合目的も異なるものである。そして,甲1文献及び甲2文献には,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせた場合に引用発明1における発泡性及びガス保留性を維持することができることを示唆する記載もないから,このことからも,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けがあることは否定される。以上によれば,本件発明1について,当業者が,引用文献1に甲2文献記載の技術事項等を適用することによって容易に想到することができたということはできない。」
【コメント】

メディオン・リサーチ・ラボラトリーズのpress release(2018.07.04 「炭酸パック特許に係る特許権侵害訴訟の判決のご報告)によると、メディオンは、炭酸パックに係る「二酸化炭素含有粘性組成物」の発明に関し、特許第4659980号及び特許第4912492号に係る特許権を保有しており、ネオケミア(株)らを被告とした特許権侵害訴訟(大阪地裁平成27年(ワ)第4292号)を提起していた。平成30年6月28日に、大阪地裁において、被告らによる特許権侵害を肯定し、被告製品の製造、販売の差止めと、総額で3億3777万7287円の損害賠償金の支払いを命ずる判決が出されていた。他、メディオンの特許についてはこちらに記載がある。

関連過去記事:

Feb 9, 2019

2019.01.17 「アムジェン v. サノフィ」 東京地裁平成29年(ワ)16468

サノフィのプラルエント®、東京地裁がアムジェンの抗体特許を侵害と判断東京地裁平成29年(ワ)16468

【背景】

「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許権(第5705288号及び第5906333号)を保有するアムジェン(原告)が、サノフィ(被告)に対し、被告製品(プラルエント® (Praluent®))及びその原薬である被告モノクローナル抗体(アリロクマブ(Alirocumab))の生産等が原告特許権を侵害する旨主張して、それら生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。本件発明は、抗体のアミノ酸配列を全く特定せず、本件参照抗体と競合する機能のみによって発明を特定する機能的クレームであり、本件各発明の技術的範囲の属否の他、無効事由の有無(進歩性、実施可能要件、サポート要件)が争点となった。

本件発明1-1(構成要件を1A、1B、1Cに分説):
1A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
1B PCSK9との結合に関して,配列番号368,175及び180のアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1,2及び3を含む重鎖と,配列番号158,162及び395からそれぞれなるCDR1,2及び3を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,
1C 単離されたモノクローナル抗体。
本件発明1-2(上記構成要件1A、1B、1Cのほか次のとおり分説):
1D を含む,医薬組成物。

【要旨】

裁判所は、サノフィ(被告)製品の生産等の差止め及び廃棄並びに被告モノクローナル抗体の生産等の差止めについてのアムジェン(原告)の請求を認容した(仮執行宣言は付さず)。一方、被告が被告モノクローナル抗体を有しているとは認められずその廃棄の必要性があるとは認められないことから被告モノクローナル抗体の廃棄については請求棄却。

裁判所の判断(抜粋)

争点(1) (被告製品及び被告モノクローナル抗体は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
「証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノクローナル抗体は,本件発明1-1・・・の各構成要件を全て充足し,被告製品は,本件発明1-2・・・の各構成要件を全て充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1-1・・・の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1-2・・・の技術的範囲に属すると認められる。」
争点(2)-ア(サポート要件違反)について
「本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各明細書で開示された抗体以外にも,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRとの結合を中和する様々なPCSK9-LDLR結合中和抗体を得ることができると認識することができる。また,本件各明細書の高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することができるので,治療的に有用であり得ることの記載から,当業者は,本件発明1-1・・・の各抗体を医薬組成物として使用できることを認識することができる。したがって,本件発明1・・・は,・・・サポート要件に違反するとはいえない。」
争点(2)-イ(実施可能要件違反)について
「本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各発明の抗体及び医薬組成物を作製し,使用することができるものと認められるから,本件各明細書は,当業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ,本件発明1・・・は,・・・実施可能要件に違反するとはいえない。」
争点(2)-ウ(乙1文献記載の発明に基づく進歩性欠如)について
「本件発明1-1と乙1文献に記載された発明とを対比すると,・・・②本件発明1-1は21B12参照抗体と競合する抗体であるのに対し,乙1文献に記載された発明は21B12参照抗体と競合するかどうか明らかでない点(以下「相違点②-1」という。),・・・)で相違するといえる。・・・相違点②-1について,本件発明1-1は,アミノ酸配列で特定されたPCSK9-LDLR結合中和抗体である21B12参照抗体について,それとPCSK9との結合において競合する抗体が21B12参照抗体と類似の機能的特性を示すと予想され,前記のとおり,一定の抗体に対するエピトープビニングをして,21B12参照抗体と競合することを要件(構成要件1B)としたものである。そして,乙1文献に記載された発明において,アミノ酸配列で特定された21B12参照抗体についての具体的な記載はないし,同抗体に着目する示唆もない。・・・これらによれば,当業者は,具体的な21B12参照抗体を容易に得ることができたことも,21B12参照抗体に着目してそれと競合する抗体に着目したことも認められず,構成要件1Bに係る相違点である相違点②-1に容易に想到することができたとは認められない。以上によれば,本件優先日当時,当業者は,乙1文献に記載された発明及び周知技術に基づいて,相違点②-1に係る本件発明1-1の構成に容易に想到することができたとは認められず,本件発明1-1を容易に発明することができたとは認められない。」
【コメント】

アムジェンが保有する本件特許(第5705288号及び第5906333号)についてサノフィが提訴した無効審判請求不成立審決取消訴訟の知財高裁判決が昨年末に出されている。これら審決取消訴訟において、知財高裁は、いずれも容易想到性を否定し進歩性を認め並びにサポート要件及び実施可能要件にも適合するとした本件審決の判断に誤りはないとして、サノフィ主張の取消事由はいずれも理由がないと判断していた(サノフィ敗訴)。
上記知財高裁判決と同様に、本件侵害訴訟でも東京地裁はサノフィによる特許無効の主張を認めず、結果としてサノフィ製品はアムジェン特許の侵害にあたると判断した。

本件地裁判決と上記知財高裁判決、ともに、抗体の機能的クレームの有効性を司法判断として認めたものであり、このようなパイオニア的抗体発明が生まれた時に機能的クレームで権利化可能であること、そのためにはどの程度の明細書記載が求められるかという点において非常に参考になる事案といえる。一方で、後続の抗体製品を開発する者にとってはこのような機能的クレームを持った特許権の存在が脅威となることはいうまでもない。