Feb 9, 2019

2019.01.17 「アムジェン v. サノフィ」 東京地裁平成29年(ワ)16468

サノフィのプラルエント®、東京地裁がアムジェンの抗体特許を侵害と判断東京地裁平成29年(ワ)16468

【背景】

「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許権(第5705288号及び第5906333号)を保有するアムジェン(原告)が、サノフィ(被告)に対し、被告製品(プラルエント® (Praluent®))及びその原薬である被告モノクローナル抗体(アリロクマブ(Alirocumab))の生産等が原告特許権を侵害する旨主張して、それら生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。本件発明は、抗体のアミノ酸配列を全く特定せず、本件参照抗体と競合する機能のみによって発明を特定する機能的クレームであり、本件各発明の技術的範囲の属否の他、無効事由の有無(進歩性、実施可能要件、サポート要件)が争点となった。

本件発明1-1(構成要件を1A、1B、1Cに分説):
1A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
1B PCSK9との結合に関して,配列番号368,175及び180のアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1,2及び3を含む重鎖と,配列番号158,162及び395からそれぞれなるCDR1,2及び3を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,
1C 単離されたモノクローナル抗体。
本件発明1-2(上記構成要件1A、1B、1Cのほか次のとおり分説):
1D を含む,医薬組成物。

【要旨】

裁判所は、サノフィ(被告)製品の生産等の差止め及び廃棄並びに被告モノクローナル抗体の生産等の差止めについてのアムジェン(原告)の請求を認容した(仮執行宣言は付さず)。一方、被告が被告モノクローナル抗体を有しているとは認められずその廃棄の必要性があるとは認められないことから被告モノクローナル抗体の廃棄については請求棄却。

裁判所の判断(抜粋)

争点(1) (被告製品及び被告モノクローナル抗体は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
「証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノクローナル抗体は,本件発明1-1・・・の各構成要件を全て充足し,被告製品は,本件発明1-2・・・の各構成要件を全て充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1-1・・・の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1-2・・・の技術的範囲に属すると認められる。」
争点(2)-ア(サポート要件違反)について
「本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各明細書で開示された抗体以外にも,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRとの結合を中和する様々なPCSK9-LDLR結合中和抗体を得ることができると認識することができる。また,本件各明細書の高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することができるので,治療的に有用であり得ることの記載から,当業者は,本件発明1-1・・・の各抗体を医薬組成物として使用できることを認識することができる。したがって,本件発明1・・・は,・・・サポート要件に違反するとはいえない。」
争点(2)-イ(実施可能要件違反)について
「本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各発明の抗体及び医薬組成物を作製し,使用することができるものと認められるから,本件各明細書は,当業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ,本件発明1・・・は,・・・実施可能要件に違反するとはいえない。」
争点(2)-ウ(乙1文献記載の発明に基づく進歩性欠如)について
「本件発明1-1と乙1文献に記載された発明とを対比すると,・・・②本件発明1-1は21B12参照抗体と競合する抗体であるのに対し,乙1文献に記載された発明は21B12参照抗体と競合するかどうか明らかでない点(以下「相違点②-1」という。),・・・)で相違するといえる。・・・相違点②-1について,本件発明1-1は,アミノ酸配列で特定されたPCSK9-LDLR結合中和抗体である21B12参照抗体について,それとPCSK9との結合において競合する抗体が21B12参照抗体と類似の機能的特性を示すと予想され,前記のとおり,一定の抗体に対するエピトープビニングをして,21B12参照抗体と競合することを要件(構成要件1B)としたものである。そして,乙1文献に記載された発明において,アミノ酸配列で特定された21B12参照抗体についての具体的な記載はないし,同抗体に着目する示唆もない。・・・これらによれば,当業者は,具体的な21B12参照抗体を容易に得ることができたことも,21B12参照抗体に着目してそれと競合する抗体に着目したことも認められず,構成要件1Bに係る相違点である相違点②-1に容易に想到することができたとは認められない。以上によれば,本件優先日当時,当業者は,乙1文献に記載された発明及び周知技術に基づいて,相違点②-1に係る本件発明1-1の構成に容易に想到することができたとは認められず,本件発明1-1を容易に発明することができたとは認められない。」
【コメント】

アムジェンが保有する本件特許(第5705288号及び第5906333号)についてサノフィが提訴した無効審判請求不成立審決取消訴訟の知財高裁判決が昨年末に出されている。これら審決取消訴訟において、知財高裁は、いずれも容易想到性を否定し進歩性を認め並びにサポート要件及び実施可能要件にも適合するとした本件審決の判断に誤りはないとして、サノフィ主張の取消事由はいずれも理由がないと判断していた(サノフィ敗訴)。
上記知財高裁判決と同様に、本件侵害訴訟でも東京地裁はサノフィによる特許無効の主張を認めず、結果としてサノフィ製品はアムジェン特許の侵害にあたると判断した。

本件地裁判決と上記知財高裁判決、ともに、抗体の機能的クレームの有効性を司法判断として認めたものであり、このようなパイオニア的抗体発明が生まれた時に機能的クレームで権利化可能であること、そのためにはどの程度の明細書記載が求められるかという点において非常に参考になる事案といえる。一方で、後続の抗体製品を開発する者にとってはこのような機能的クレームを持った特許権の存在が脅威となることはいうまでもない。