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2019.02.06 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成30年(行ケ)10100

物の発明において除くクレームとする訂正が認められた事例: 知財高裁平成30年(行ケ)10100

【背景】

被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。本件特許については、無効審判請求不成立とした審決の取消判決が繰り返され(2013.11.27 平成25年(行ケ)101342015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)102042017.07.12 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(行ケ)10160)、本件が4回目の無効審判請求不成立審決取消訴訟となる。

原告が主張する取消事由のひとつは、下記本件訂正事項4の訂正要件違反についてであった。

本件訂正事項4:

特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正する。

【要旨】

裁判所は、原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく、本件審決に取り消されるべき違法があるとは認められないとして、原告の請求を棄却した。以下、本件訂正事項4の訂正要件(取消事由4及び5)に関する裁判所の判断抜粋。

取消事由4-訂正要件違反④(明確性要件違反1/第2次取消判決の拘束力抵触/独立特許要件違反)について

「本件訂正事項4は,本件訂正前の請求項1に記載された「経皮吸収製剤」から「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」(除外製剤)を除外するものであるところ,原告の主張は,要するに,この除外製剤が物として技術的に明確でないとするものである。
そこで検討するに,除外製剤における「医療用針」が,目的物質を注入するための注射針やランセット,マイクロニードルなどを意味することは,出願時の技術常識に照らして明らかであるといえる。また,「チャンバ」又は「縦穴」が当該「医療用針」内に設けられたものであること,及び「目的物質」が「チャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている」ことは,いずれも除外製剤の構造を特定するものであって,その特定に不明確な点があるとは認められない。
そうすると,上記除外製剤が,特定の構造を有する「医療用針」である「経皮吸収製剤」を意味していることは明らかであるから,上記除外製剤は物として技術的に明確であり,さらには,かかる除外製剤を除く「経皮吸収製剤」についても,発明の詳細な説明の記載,例えば,【0070】の

「基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく,種々の方法が適用可能である。例えば,目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより,目的物質を基剤に保持させることができる。その他の例をしては(判決注:「その他の例としては」の誤記と認める。),溶解した基剤の中に目的物質を加えて懸濁状態とし,その後に硬化させることによっても目的物質を基剤に保持させることができる。」

に接した当業者であれば,出願時の技術常識を考慮して,物として明確に理解することができるといえる。
そうである以上,本件訂正事項4によって訂正された請求項1の記載は明確であるというべきであって,これに反する(あるいは前提を異にする)原告の主張はいずれも採用できない。
したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。」

取消事由5-訂正要件違反⑤(拡張訂正違反)について

「原告は,本件訂正事項4の「除くクレーム」は,何を除いているのか不明瞭であるが,少なくとも種々の素材やタイプあるいは構成態様の医療用針が世の中に存在することに鑑みれば,本件訂正事項4によって除かれるタイプ以外の医療用針は,すべからく本件訂正発明の経皮吸収製剤に含まれてしまうことになるから,実質上特許請求の範囲を拡張する訂正であって許されない,と主張する。
しかしながら,本件訂正事項4によって除外される製剤(除外製剤)が物として明確であるといえることは,取消事由4において検討したとおりであるから,原告の主張はその前提を欠く。
また,本件訂正事項4は,訂正前の特許請求の範囲から物として技術的に明確な除外製剤を除くものであるから,特許請求の範囲の減縮に該当することは明らかである。
したがって,原告が主張する取消事由5は理由がない。」

【コメント】

2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204で争われた2回目の訂正請求における訂正事項3は下記下線部分である。当該事件で裁判所は、「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収 製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様は、経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえず、訂正事項3によって除かれる経皮吸収製剤は、「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえないから、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないと判断していた。

訂正請求(2回目)訂正後請求項1:

「・・・目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,・・・尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤,及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)。」

本事件で争われた本件訂正請求(5回目)における訂正事項4は下記下線部分である。訂正後の請求項の但し書きの中に、前記2回目訂正請求の訂正事項3で訂正違反とされた部分を含めずに(除かずに)訂正請求したことで、その除いた経皮吸収製剤は特定の構造を有するものであるから明確であると判断され、訂正要件違反とされなかった。

訂正請求(5回目)訂正後請求項1:

「・・・目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,・・・尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。」

2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204の判決で判示されたとおり、「訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべき」である。いわゆる除くクレームに訂正する場合においては、物の発明であれば物として技術的に明確であること、言い換えれば、除かれる態様がその物の形状、構造、組成、物性等によりその物自体を特定するものであることが必要となる。

除くクレームの訂正(補正)が問題となった判決についての過去記事:

本事件に至るまでの審決取消訴訟判決:

その他の両社間の係争関連過去記事:

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