スポンサーリンク

2017.07.12 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(行ケ)10160

訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10160

【背景】

被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。本件特許については、無効審判請求不成立とした審決の取消判決が繰り返され、本件が3回目となる(知財高裁平成25年(行ケ)10134; 2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)。

【要旨】

主 文

1 特許庁が無効2012-800073号事件について平成28年6月29日にした審決を取り消す。(他略)

裁判所の判断

裁判所は、訂正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないため、取消事由1(訂正目的違反・発明の要旨認定の誤り)は理由があり、本件審決は違法であって、取消しを免れないものと判断した。その理由の抜粋は以下のとおり。

「訂正事項5は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「針状又は糸状の形状を有すると共に」とあるのを「針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に」に訂正する,というものであり,これを請求項の記載全体でみると,「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」に訂正するものである。・・・すなわち,訂正事項5は,経皮吸収製剤のうち,「シート状支持体の片面に保持される」という使用態様を採らない経皮吸収製剤を除外し,かかる使用態様を採る経皮吸収製剤に限定したものといえる。」

「本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要である。
しかしながら,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様によっても,シート状支持体の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造(特にシート状支持体に保持される部分の形状や構造)も変わり得ることは自明であるし,かかる使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるという関係にあるとも認められない。
したがって,上記の「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様は,必ずしも,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえず,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない(なお,「シート状支持体の片面に保持される」との用途にどのような技術的意義があるのかは不明確といわざるを得ないから,本件訂正発明をいわゆる「用途発明」に当たるものとし
て理解することも困難である。)。
そうすると,訂正事項5による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
なお,仮に,「シート状支持体の片面に保持されると共に」の文言が経皮吸収製剤の使用態様を特定するものではなく,「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し」との文言と同様に経皮吸収製剤の構成を特定するものであるとすれば,本件訂正発明は,「シート状支持体の片面に保持された状態にある経皮吸収製剤」になり,構成としては「片面に経皮吸収製剤を保持した状態にあるシート状支持体」と同一になるから,訂正事項5は,本件訂正前の請求項1の「経皮吸収製剤」という物の発明を,「経皮吸収製剤保持シート」という物の発明に変更するものであり,実質上特許請求の範囲を変更するものとして許されないというべきである(特許法134条の2第9項,126条6項)。
したがって,かかる違法な結果を招来する解釈は取り得ない。」

【コメント】

本件発明は「経皮吸収製剤」なのだから、「経皮吸収製剤保持シート」ではないはずであり、だとすれば、「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」との訂正は、「シート状支持体の片面に保持される」使われ方をするものであったとしても「経皮吸収製剤」自体を形状,構造,組成,物性等により特定するものではないし、その技術的意義が不明確であるから用途発明として捉えることもできないという判断である。前回の判決(2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)同様に、裁判所は、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるための前提として、訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であることを判示した。

参考:

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました