Jun 10, 2019

2019.06.07 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(ネ)10063

特許法102条2項・3項(損害の額の推定)についての知財高裁大合議判決知財高裁平成30年(ネ)10063

「二酸化炭素含有粘性組成物」に関する特許権(第4912492号; 第4659980号)を保有するメディオン(被控訴人)が、炭酸パック化粧料(被告各製品)を製造・販売したネオケミア(控訴人)らに対して提起した特許権侵害訴訟。損害賠償請求の一部を容認した原判決(大阪地裁平成27年(ワ)4292)を不服として控訴人らが控訴した。

知財高裁(大合議)は、被告各製品は特許発明の技術的範囲に属し、特許の無効理由が存するとは認められないとした上で、被控訴人の損害額について、概要、以下のとおり判示して、控訴人らの控訴を棄却した。損害の額の推定を規定した特許法102条2項における「侵害した者・・・がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額」を算定するための考え方及び同条3項で定める「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」において適用すべき実施料率に考慮すべき事情が判示された。

(1) 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額について
  • 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費(例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運送費等が該当し,管理部門の人件費や交通・通信費等は,通常,該当しない。)を控除した限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
  • 本件において,控訴人らが主張する人件費,試験研究費,宣伝広告費,サンプル代及び在庫品の仕入金額のうち,試験研究費及び宣伝広告費の一部については被告各製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったといえるから,控除すべき経費に当たるが,その余については,被告各製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったということはできないから,控除すべき経費とみるのは相当ではない。

(2) 特許法102条2項の推定覆滅事由について
  • 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。
    例えば,
    ①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),
    ②市場における競合品の存在,
    ③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),
    ④侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)
    などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。
  • 競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される。また,侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有する,あるいは,侵害品が他の特許発明の実施品であるといった事情があるとしても,そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,優れた効能があることや他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献しているといった事情がなければならないというべきである。
  • 本件において,控訴人らの主張する推定覆滅事由のうち,競合品の存在,控訴人らの営業努力,被告各製品が顕著に優れた効能を有すること,被告各製品が控訴人らのうちの1名の特許発明の実施品であることについては,いずれも,その事実が認められないか,それが侵害者の売上げに貢献しているといった事情が認められない。また,控訴人らが主張するその余の推定覆滅事由は,被控訴人の受ける損害とは無関係であり,推定覆滅事由に当たらない。したがって,特許法102条2項による推定の覆滅は認められない。

(3) 特許法102条3項所定の受けるべき金銭の額について
  • 特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
  • 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定められる,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
    したがって,実施に対し受けるべき料率は,
    ①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,
    ②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,
    ③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,
    ④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
    等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
  • 本件において,
    ①本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は本件訴訟に現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること,
    ②本件発明1-1及び本件発明2-1は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,
    ③本件発明1-1及び本件発明2-1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること,
    ④被控訴人と控訴人らは競業関係にあること
    など,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき本件での実施に対し受けるべき料率は,10%を下回らないものと認めるのが相当である。

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