2020/01/26

2019.07.25 「シオノケミカル v. イコス」 特許庁審決 無効2017-800140号事件

タダラフィルの特定用量製剤(シアリス®錠)特許: 特許庁審決 無効2017-800140号事件

イコス・コーポレイションが保有する「単位製剤」に関する特許(第4975214号; 存続期間満了日2020.4.26)に対してシオノケミカル(株)が請求した無効審判。審判合議体は、訂正を認めたうえで、本件発明1~13は無効理由2(進歩性欠如)により無効にすべきものであると判断した。

訂正後の請求項1(本件発明1):
1日あたり10mgの総用量を上限として、以下の構造式:
を有する化合物を単位製剤あたり1乃至10mg含み、ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤であって、有効に勃起不全を処置しつつ副作用の発生を抑制することができる、内服用単位製剤

以下、請求項1における訂正された部分(上記下線部分)についての判断を抜粋。
「甲12発明について、1日あたりの総用量の上限を10mgに設定することは、当業者が容易に想到することができたものである以上、単位製剤あたりの含有量の上限を、1日あたりの総用量の上限と同じ10mgに設定することも、当業者が容易に想到し得るものである。また、単位製剤あたりの含有量の下限について、甲第12号証に記載の含有量の範囲「0.2-400mg」から、上記10mgよりも低い値である1mgと設定することは、当業者が適宜なし得ることである。」

「本件発明1の「有効に勃起不全を処置しつつ副作用の発生を抑制することができる」なる文言は、「1日あたり10mgの総用量を上限として、タダラフィルを単位製剤あたり1乃至10mg含み、ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤」が当然備えているはずの性質を単に記載したにすぎず、物の発明をさらに特定するものではない。」

【コメント】

1.内在する(備わった)性質的構成の意義

「有効に勃起不全を処置しつつ副作用の発生を抑制することができる」なる文言は、当然備えているはずの性質を単に記載したにすぎず、物の発明をさらに特定するものではないと判断された。そのような議論(内在する性質的構成の意義)に関係してきそうな判決の例ついては、下記記事コメント2参照。

2.本件特許(第4975214号)が保護する製品

本件特許は、シアリス(Cialis)®錠(有効成分: タダラフィル(tadalafil))を保護する特許と思われる。タダラフィルは選択的なホスホジエステラーゼ タイプ5(PDE5)阻害作用を有する化合物として創薬され、本剤は日本では2007年7月に勃起不全治療剤として承認された(通常1日1回タダラフィルとして10mg。一定の場合には20mgまで増量可)。2007年9月より日本イーライリリー(株)にて発売されていたが、2009年7月1日から日本新薬(株)が販売を受託し、発売している。日本新薬の決算発表資料によると、シアリス®錠の2019年度売上は46億円であり、2020年度売上は39億円を予想している(日本新薬2019年3月期第2四半期決算短信(2019年11月6日))。再審査期間は2007年7月31日から2015年7月30日(終了)。本件特許の存続期間満了日は2020年4月26日。シアリス®錠のジェネリックは現時点で承認されていない。

3.本件特許(第4975214号)を巡るジェネリックメーカーの動き

本件特許(第4975214号)は、下記事件において、東和薬品による特許無効審判請求を不成立とする審決(無効2013-800243)の取消判決がなされていた。
知財高裁の判決後、2016年5月6日付で上告受理申立、2017年4月13日付で上告受理申立却下、無効2013-800243事件の審理が再開、同年8月2日付で予告審決となったが、8月23日付で東和薬品により請求取下書が提出され、審判は取下げとなっていた。
シオノケミカルによる本件無効審判請求(無効2017-800140号事件)は上記無効審判請求取下げ後の2017年11月7日付でなされている。2017年12月15日付でマイラン製薬が請求人側に参加申請した。2019年11月29日、イコス(又は参加人イーライリリー)は、本件無効審決を不服として審決取消しを求めて知財高裁に出訴したようである。

2020/01/19

2019.10.23 「ワイス v. 国(処分行政庁 特許庁長官)」東京地裁平成31年(行ウ)162

特許料の追納期間徒過の救済要件「正当な理由」に関する事案(ファイザーのgedatolisibを保護する物質特許)東京地裁平成31年(行ウ)162

【背景】

PKI-587
本件は、特許法112条1項所定の特許料追納期間中に特許料等を納付せず同条4項により消滅したものとみなされた「PI3キナーゼおよびmTOR阻害剤としてのトリアジン化合物」に関する特許第4948677号の特許権の原特許権者である原告が、法112条の2第1項に基づいて行った特許料等の追納手続は同項所定の「正当な理由」があり、同手続を却下した特許庁長官の処分は違法であると主張して(原告は、特許庁長官に対して行政不服審査法2条に基づく審査請求をしたが棄却裁決)、その取消しを東京地裁に求めた事案である。

原告は、本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していたファイザー社の担当者において、本件訂正(訂正2013-390093)時特許証の「登録日」欄の日付である平成25年9月30日が本件設定時特許証の「登録日」欄の日付である平成24年3月16日と異なっていたことから、特許料の納付期限の起算日となる本件特許権の設定登録日が本件訂正時特許証のとおり訂正されたものと誤解し、本件期間徒過が生じたとし、①特許料等に関する法107条ないし112条の3の各規定によって、訂正をすべき旨の審決が確定しても設定登録日が変わらないことや特許証に複数の種類があることを認識することはできないこと、②本件設定時特許証及び本件訂正時特許証には「登録日」としか記載されていないため、どちらが本件特許権の設定登録日であるか不明確であり、米国や欧州の実務と比べても、我が国の特許証の記載は紛らわしいものであること、③特許証の大半は設定登録時に発行されるものであるから、ファイザー社において、訂正すべき旨の審決が確定したときに発行される特許証が存在することを当然に把握しておくべきであったとはいえないことなどに照らし、原告には、本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理由」が認められる旨主張した。

【要旨】

裁判所は、本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理由」があるとはいえず本件特許権は消滅しているとして、本件納付書による追納手続を却下した本件却下処分が違法であるとはいえないと判断した。請求棄却。以下、裁判所の判断の抜粋。

1.法112条の2第1項所定の「正当な理由」の解釈
「法112条の2第1項は,追納期間経過後に特許料等を追納することができる場合の要件として,特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであること,失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることなどを踏まえて,所定の期間内に特許料等を納付することができなかったことについての「正当な理由」があることを規定する。
上記の要件は,平成23年法律第63号により,国際調和の観点から,より柔軟な救済を図るため,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件として,特許法条約において認められている「Due Care(相当な注意を払っていたこと)」の概念を採用して,追納期間徒過後に特許料等を追納することができる場合について,原特許権者の「責めに帰することができない理由」があることを定めていた従前の規定を改正して設けられたものであると解される。
これらを踏まえると,法112条の2第1項にいう「正当な理由」があるときとは,原特許権者(代理人を含む。以下同じ。)として相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときをいうと解するのが相当である。」
2.本件の検討
「(2) 本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していた担当者は,原告の主張が本件回復理由書及び本件審査請求書における主張(甲6,10)から変遷し,判然としないが,ファイザー社の担当者において,前記のような誤解をしていたと認められたとしても,以下のとおり,本件期間徒過について,原告が原特許権者として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときに当たると認めることはできない。
ア すなわち,原告は,日本の特許権を保有していたのであるから,特許料の納付等の管理を行うに当たり,一般に求められる相当な注意として,日本の特許法及びその他の関係法令を理解しておくべきであるといえるところ,①特許料の納付期限については,法107条,108条において,特許権の設定登録日から起算されることが規定されており,訂正をすべき旨の審決が確定してその登録がされた場合に特許権の設定登録日が変更される旨の規定は存在しないから,本件特許権について,本件審決が確定してその登録がされたからといって,特許権の設定登録日が変更されないことは条文上明らかであること,②特許証の交付についても,法28条1項において,特許権の設定の登録があったときに交付されることのほかに,訂正をすべき旨の審決が確定した場合にその登録があったときなどにも交付されることが規定されていることなどからすると,担当者において,これらの規定を理解していれば,本件訂正時特許証に「登録日」として「平成25年9月30日」と記載されていても,本件訂正時特許証に「この発明は,訂正をすべき旨の審決が確定し,特許原簿に登録されたことを証する。」と記載されていることをも踏まえれば,上記の「登録日」が本件審決の確定等に係る登録日を記載したものであり,特許料の納付期限の起算日となる特許権の設定登録日が変更されたものではないと理解することは可能であったと認められる。
イ 本件訂正時特許証及び本件設定時特許証の「登録日」欄記載の年月日には1年半ものずれがあり,特許権の設定登録日が訂正されたと考えることに疑念を生じさせるものであったといえるところ,特許権の設定登録日は,ウェブサイトに公開されている特許情報や特許登録原簿等によっても確認することができるから,担当者において,上記疑念を抱いて,相当な注意を尽くしてそのような確認をしていれば,本件特許権の設定登録日が変更されていないことを認識することは容易であったというべきである。
ウ 本件全証拠によっても,担当者において,本件訂正時特許証の「登録日」欄の記載を上記アのように理解すること又は上記イのような確認をすることが困難であったことをうかがわせる事情は認められない。
(3) したがって,本件期間徒過について法112条の2第1項所定の「正当な理由」は認められない。」

【コメント】

1.特許法112条の2第1項所定の「正当な理由」の解説

平成23年法律改正(平成23年法律第63号)解説書の「第10章 出願人・特許権者の救済手続の見直し」には、第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として、P特許法条約(Patent Law Treaty)第12条(1)で加盟国に認めている手続期間を徒過した場合の救済要件の選択肢のうち「Due Care(いわゆる『相当な注意』)を払っていた」を採用することとし、具体的な条文の文言は、行政事件訴訟法第14条第 1 項等の規定に倣い、「その責めに帰することができない理由」に比して緩やかな要件である「・・・することができなかつたことについて正当な理由があるとき」としたことが解説されいる。

平成23年法律改正(平成23年法律第63号)において、特許料の追納期間徒過の救済要件を緩和する改正後の特許法112条の2第1項は以下のとおり。
(特許料の追納による特許権の回復)
第百十二条の二 前条第四項若しくは第五項の規定により消滅したものとみなされた特許権又は同条第六項の規定により初めから存在しなかつたものとみなされた特許権の原特許権者は、同条第一項の規定により特許料を追納することができる期間内に同条第四項から第六項までに規定する特許料及び割増特許料を納付することができなかつたことについて正当な理由があるときは、その理由がなくなつた日から二月以内でその期間の経過後一年以内に限り、その特許料及び割増特許料を追納することができる。
2 (略)

平成23年法律改正(平成23年法律第63号)解説書より


2.本件特許権が保護するもの

本件特許の発明者を含む原告所属著者が発表した論文(Clin Cancer Res. 2011 May 15;17(10):3193-203: Antitumor efficacy of PKI-587, a highly potent dual PI3K/mTOR kinase inhibitor.)に記載されている化学構造情報から、「PI3キナーゼおよびmTOR阻害剤としてのトリアジン化合物」に関する本件特許第4948677号は、ファイザー社が開発中(?)のGedatolisib (PF-05212384, PKI-587)を保護している物質特許と考えられる。特許満了日は2029年5月21日だった。

PKI-587


2020/01/13

大鵬薬品がNatco社によるLONSURF(ロンサーフ)®のANDAに対して特許侵害訴訟提起

Law360からの情報によると、2019年12月30日、大鵬薬品は、Natco社によるLonsurf®のANDA(paragraph IV certification)に対して特許侵害であると主張して、デラウェア州連邦地裁に訴訟を提起したようです(2019.12.30 「Taiho Pharmaceutical Co., Ltd. et al v. Natco Pharma Ltd. et al」US District Court for the District of Delaware 1:2019-cv-02368)。

抗悪性腫瘍剤ロンサーフ(Lonsurf)®配合錠は、有効成分としてトリフルリジン(Trifluridine (FTD))及びチピラシル塩酸塩(Tipiracil hydrochloride (TPI))を1:0.5のモル比で配合した経口ヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤。FTDは本剤の抗癌活性成分であり、経口投与することで直接DNAに取り込まれてDNA機能障害を起こすことで抗腫瘍効果を示すと考えられている。TPIはFTDの分解酵素であるチミジンホスホリラーゼ(TPase)を特異的に阻害することにより、FTDのバイオアベイラビリティを高めることを可能にしている。2014年に世界に先駆けて日本で発売。米国においては、2015年9月22日に承認され、大鵬薬品の米国子会社である大鵬オンコロジー社が販売。親会社の大塚ホールディングスの決算資料によると、2018年度の北米でのLonsurf®の売上は200億円、2019年度では225億円を計画している(大塚ホールディングス2019年度第3四半期決算補足資料(2019年11月12日発表))。

Lonsurf®のOrangebookに収載されている米国特許群は以下のとおり。なお、特許権者は、5,744,475特許、6,479,500特許及び7,799,783特許について、Lonsurf®の承認(2015年9月22日)に基づくPTEを2015年11月19日に出願し、認められればそのうちどれか一つをPTEとして選択するという特許延長審査戦略をとった。そのうち、5,744,475特許はTPIを保護する物質特許であり、1996.3.28出願、1998.4.28登録、PTAなし、2015.12.29にPTE出願は特許権者により自主的に取下げられ、2016.3.28満了となっている。
  • 6,479,500・・・TPI投与により抗癌剤による副作用を軽減する方法特許。2000.3.16出願、2002.11.12登録、PTAなし、PTE出願は特許権者により自主的に取下げられ(2017.8.3)、2020.3.16に満了する。
  • RE46,284・・・FTDとTPIの特定用法用量で消化器癌と乳癌を治療する方法特許。2005.1.26出願、7,799,783特許登録(2010.9.21)、PTAが688日、reissue請求し(2015.12.20)、RE46,284特許として登録(2017.1.24)、特許権者は7,799,783特許のPTEをRE46,284特許に転用するよう特許庁に請求している(2017.4.20)。7,799,783特許のPTEについてのUSPTO宛FDA Final Eligibility Letterは2018.10.10発せられている状況。Orangebook上では、満了日は2026.12.16のままであり、PTE付与反映には至っていないようである。
  • 10,456,399・・・FTDとTPIの特定用法用量で腎障害を伴った癌患者を治療する方法特許。満了日は2037.2.3(20年)。
  • 9,527,833・・・TPIの特定結晶形特許。満了日は2034.6.17(20年)。
  • 10,457,666・・・TPIの特定結晶形特許。満了日は2034.6.17(20年)。

参考:
  • 2020.01.03 Natco Pharma press release: NATCO files ANDA for Trifluridine/ Tipiracil Hydrochloride Tablets for the USA market