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1998.10.28 「Pfizer/Sertraline事件」 EPO審決T0158/96

臨床試験の結果の記載がない文献は医薬用途発明の新規性を否定できるか?(EPOの判断): EPO審決T0158/96

【背景】

Pfizerは、selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)である”sertraline”(販売名: 米国ZOLOFT;日本JZOLOFT)のobsessive-compulsive disorder(OCD/強迫性障害)治療用途とする発明に関して出願したが、新規性なし(A54(1))とされ、拒絶されたため、審判請求した。問題となった新規性を否定する引例は、sertralineがOCDを適応症としてphase II 臨床試験が実施されている旨を記載した文献であり、その効果に関する結果は記載されていなかった。

【要旨】

審判部は、

「Phase II の目標の一つはその薬剤の有効性を評価することであるが、引例には効く効かないの結果を予期させる記載が欠けているので、当業者はその引例を読むことによってその答えを予測することはできない。Phase III へ進展したとの記載であったならばポジティブな答え(つまり、phase II ではOCDに有効であったこと)を暗示することになっただろう。OCDを適応症とするsertralineのphase II が実施されているとの情報から、当業者にとって、確実且つ単なる推測以上に、このphase中に、その薬剤のOCDの治療効果が最終的に証明された、と結論づける手段は無かった。」

Although one of the targets of phase II is indeed that of evaluating theeffectiveness of the drug, thus whether or nor the drug exhibits the allegedtherapeutic activity in patients, the answer to this question could not bepredicted by the skilled reader, as document (5) lacks any anticipation of apreliminary positive or negative outcome of phase II trials. Only the successfulapproval of the drug in the subsequent phase evaluation, namely phase III, wouldimply an implicit positive answer.For this reason the skilled person, reading intable 4 that sertraline was undergoing phase II trials for OCD, had no means ofconcluding from this information, reliably and beyond mere speculation, that thedrug finally proved, during this phase, any therapeutic effect potentiallyuseful in the treatment of OCD.

と言及した。

臨床試験前には一般的に動物での前臨床試験を実施する。

審査部は、引例から示唆される情報は、sertralineがOCD治療用途を示す前臨床試験を動物で既に完了していたということである、と判断した。

これに対し、審判部は、

「新規性に不利になるものとして認識されるべき先行技術文献にとって、その文献により示唆される情報を、普通は有効であるが、特定の状況には必ずしも適用しない結果推測的な結論へ導くかもしれないというルールに基づいて解釈することはできない。」

For a prior-art document to be recognised as prejudicial to the novelty of a claimed subject-matter, the information conveyed by this document cannot be interpreted on the basis of rules, which, though normally valid, do not necessarily apply to the specific situation and therefore may lead to speculative conclusions.

と言及し、

「OCDの動物モデルは実際には存在しないので動物実験によるsertralineのOCD治療効果は示されていなかった、との出願人の主張は妥当である。」

Under these specific circumstances, the board recognises as plausible the appellant’s arguments, though not confirmed by documents, that experimentation in animals was not indicative of any therapeutic effectiveness of sertraline for OCD since no animal model for OCD actually existed, but was simply intended to prove the lack of any form of toxicity and to gain early knowledge about the metabolism of the substance.

と認めた。

新規性無しとした審査部の判断を破棄、審査部に差し戻し。

【コメント】

臨床試験結果の記載の有無が新規性を失わせる引例となりうるか問題となった事例。

臨床試験結果が何も開示されていない文献のみをもって、その医薬用途発明の新規性が否定されなかったという点は、日本における最近の判例(2007.03.01 「ブリストルマイヤーズスクイブ v. 日本ケミカルリサーチ」 知財高判平成17(行ケ)10818)とは異なる結論となっている。

また、情報発信をコントロールすることは重要である。

特に市販後は知らぬ間に医師により実験・臨床試験結果を論文等で発表されてしまうことにより新規性が喪失してしまい(最悪は出願されてしまう)、特許を取得する機会を失ってしまうということに注意しなければならない。

特に、ライフサイクルパテントを出願する際には要注意である。

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