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2010.10.12 「ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10029

細胞の入手可能性と引用発明適格性: 知財高裁平成22年(行ケ)10029

【背景】

「抗ガングリオシド抗体を産生するヒトのBリンパ芽腫細胞系」に関する出願(PCT/US94/1469、WO94/19457、特願平6-519027、特表平8-507209)の拒絶審決(不服2005-8566)取消訴訟。

請求項1:

L612として同定され,アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)にATCC受入番号CRL10724として寄託されているヒトのBリンパ芽腫細胞系。

特許庁は、本願優先日(1993.2.26)前に頒布された引用例1(Journal of the National Cancer Institute (1990),Vol.82, No.22,p.1757-1760)に「L612を分泌するヒトB細胞系」と、引用例2(Journal of Immunological Methods (1990),Vol.134, No.1,p.121-128)に「L612を分泌する細胞系」と各記載されているから、引用例1及び2に記載されたL612細胞系は第三者から分譲を請求された場合には分譲され得る状態にあったと推定できると認定判断し、新規性及び進歩性なしと審決した。

これに対し、原告はA博士の宣誓供述書の提出等により上記の認定判断を争った。

【要旨】

裁判所は、

「引用例1及び2には,ATCCの寄託番号などL612細胞系の内容を特定するに足る記載はなく,また,そもそも細胞系を言葉や化学式などで完全に表現することはできず,引用例1及び2にもそのような記載はないものと認められる。したがって,引用例1及び2に記載された事項のみによっては,引用例1及び2にL612細胞系の発明が記載されているということができない。しかし,L612細胞系が,本願優先日前に,引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあれば,L612細胞系の内容が裏付けられ,引用例1及び2にL612細胞系の発明が記載されているということができるものと認められ,この点につき当事者間に争いがない。そうすると,本訴における争点は,L612細胞系が,本願優先日前に引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあったか否かに集約されるものである。
(中略)
本願優先日前,A 博士(及び共同研究者)は,L612細胞系につき,第三者から分譲を要求されても,同要求に応じる意思はなかったものと認められ,その結果,L612細胞系は,第三者にとって入手可能ではなかったことになり,「引用例1,2に記載されるL612細胞系は,第三者から分譲を請求された場合には,分譲され得る状態にあったものと推定することができる」とした審決の認定判断は誤りであって,同誤りが審決の結論に影響を及ぼすおそれがあることは明らかである。」

と判断した。

また、裁判所は、進歩性適用の有無についても新規性についての判断と同様の理由により審決は違法であると判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

分譲以外に入手手段がないような細胞株に関して、引用文献中にその細胞を使用した旨の記載があるからといって、果たして引用発明という観点でその発明が記載されているということができるのかどうかが争われた。

引用文献の著者でもあり本願の発明者でもある細胞株を所有するA博士が「第三者からのL612細胞系の分譲の要求に応じない」と宣誓供述しており、細胞は入手可能な状態ではなかったという結論に。

審決は取り消されたが、論文発表前にしっかり出願しておけばこのような問題は生じなかったともいえる。

本件出願に対応する欧州出願(EP0687295B)でも本件で問題となった引用文献がD3及びD4として引用され新規性の拒絶理由が発せられた。

しかし、出願人は、「L612として同定され」という部分をクレームから削除し、ATCC accession numberにのみによって細胞を定義することによって拒絶理由を回避することに成功している。

米国でも本件発明である細胞株は特許になっている(US5,419,904)。

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