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2010.11.01 「ジヤンセン v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10035

ガランタミン液剤の発明: 知財高裁平成22年(行ケ)10035

【背景】

「ガランタミン及び甘味剤を含む経口液剤」に関する出願(特願2001-532738、特表2003-512415)の拒絶審決(不服2006-25590)取消訴訟。

請求項1:
0.005~3%(w/v)の強力甘味料である甘味剤を含んで成り且つバルクの液体のキャリヤーが水性であることを特徴とする,ガランタミンもしくは製薬学的に許容できるその付加塩を含んで成る経口液剤。

特許庁は、本願発明は周知技術を勘案することにより引用発明(特開平4-221315)に記載された発明に基づいて進歩性なしと審決した。引用発明と本願発明の相違点は、本願発明では『0.005~3%(w/v)の強力甘味料である甘味剤を含んで成り』と特定しているのに対し、引用発明ではそのように特定していない点であった。

【要旨】

裁判所は、

「遅くとも本願発明の優先日(平成11年10月26日)当時,経口内服用液剤において,活性物質の苦みをマスクするために,サッカリンなどの甘味料を添加することは当業者の周知技術であったと容易に認めることができる。

(2) そして,本願明細書中には甘味剤(甘味料)の添加量を「0.005~3%(w/v)」と特定した根拠につき,活性物質であるガランタミンないしその酸添加塩類の不快な味を完全にマスクするのに十分である旨の記載が存するのみであって(最も好ましい添加量は0.05%(w/v)であるとされている。段落【0012】),それ以上に上記添加量の数値範囲に臨界的意義があることを示す記載は存しない。

他方,引用例2中には,「甘味剤の総添加量は,苦みを有する薬物の種類や配合量,甘味剤の種類などによって適宜決めることができる」との記載(段落【0009】)がある。

そうすると,本願発明にいう甘味料(甘味剤)の添加量の数値範囲は,ガランタミンないしその酸添加塩類の不快な味すなわち苦みをマスクする目的を達成するのに十分な範囲のものであるという概括的な趣旨を出ないものであって,活性物質の苦みの強さや甘味料の甘さの強さを勘案しながら当業者において適宜調整,工夫し得る範疇のものにすぎない一方,甘味料の添加量を本願発明のとおりに定めたことにより,当業者の予想を超える効果が生じたことを認めるに足りる証拠は存しない。

(3) ところで,引用発明は経口内服用液剤に係る発明であり,引用例2及び3に記載された事項と技術分野が共通するし,引用例1中には製剤の味を調え,服用を容易にするための矯味薬を製剤の一成分とする構成が開示されているから(段落【0051】),上記矯味薬に含まれる甘味料(甘味剤)を添加して活性物質であるガランタミンないしその酸添加塩類の苦みをマスクすることにつき開示されているものということができる。

したがって,引用発明に引用例2及び3に記載された周知技術を組み合わせる動機付けがあるということができる。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

ガランタミンは、ヤンセンが昨年2月に国内承認申請したアルツハイマー型認知症治療薬(一般名: 臭化水素酸ガランタミン、galantamine hydrobromide)の有効成分であり、海外ではすでに販売(RAZADYNE®)されている。

米国では、ガランタミン製剤として、液剤、錠剤、徐放性カプセル剤の三製剤が販売されているが、Orangebookによればいずれの製品についても有効な特許権は存在せず、後発品の参入を許しているようである。本件出願に係る発明は恐らくこの液剤製品を保護するものだったと思われる。

INPADOC patent familyによれば、本件日本出願(特表2003-512415)に対応する欧州特許出願(publication No.: EP1237539)は特許として存在するが、対応米国特許出願(publication No.: US2005063998)は自明であることを理由に拒絶となり、出願人は一旦審判請求したもののその後の手続きを進めずに出願を放棄した。

参考:

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