Jul 23, 2018

2018.07.18 「日新製薬・日本ケミファ v. オリオン・ホスピーラ」 知財高裁平成29年(行ケ)10114

プレセデックス®の医薬用途発明の特許性知財高裁平成29年(行ケ)10114

【背景】

被告(オリオン及びホスピーラ)らが保有する「ICU鎮静のためのデクスメデトミジンの用途」に関する特許権(4606581号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800031号)の審決取消訴訟。本願出願当時、デクスメデトミジンは一般的な鎮静/鎮痛ならびに高血圧または不安治療のためのα2-レセプターアゴニストとして知られていたところ、本願発明は、デクスメデトミジンが患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤であることを発見したというものである。原告が求めた取消事由は、新規性判断の誤り、進歩性判断の誤り、原文新規事項に関する判断の誤り、明確性要件の判断の誤りである。

請求項1(本件発明1):
集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。
【要旨】

裁判所は、原告らの主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り決すべき違法は認められないと判断し、原告らの請求を棄却した。以下、新規性の判断について。

1.本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の意義について

原告らは、
「集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈すべきである」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈することは,ICU滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(iv‐line)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であること(【0002】),鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいること(【0003】)などの本件明細書の他の記載事項と整合しない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。」
と判断した。

2.本件発明1と甲3に記載された発明の同一性について

裁判所は、
「甲3には,甲3記載の血管外科患者について,その手術後に,実際の鎮静と(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静のいずれもが確認されたことについての記載はない。また,甲3には,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与が上記両方の鎮静の用途に使用するものであったことについての記載もない。したがって,甲3には,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」についての開示がない。前記・・・記載の「鎮痛」に関する認定事実及び甲3記載の「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,手術のストレスにより交感神経系が刺激され,内分泌反応を引き起こして血圧や心拍数を増加させることを抑制するために,交感神経を遮断する作用であることに照らすと,原告らのいう甲3記載の「手術後の該患者」(血管外科患者)の「鎮痛」や「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,いずれも集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静に該当しない。以上によれば,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与が,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途の使用に当たるとの原告らの主張は,採用することができない。」
と判断した。

3.本件発明1と甲5に記載された発明の同一性について

裁判所は、
「甲5には,研究の対象とされた8人の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた患者」が,その手術後に,集中治療を受けたことを明示した記載はない。・・・甲5には,麻酔後ケアユニットにおいて,患者が呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われていたことや集中治療を要するような急性機能不全の状態であったことをうかがわせる記載はないから,集中治療を受けていたものと認めることはできないし,・・・その手術後に,実際の鎮静と(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静のいずれもが確認されたことについての記載はない。また,甲5には,甲5記載の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた患者」に対するデクスメデトミジンの投与が上記両方の鎮静の用途に使用するものであったことについての記載もない。原告らのいう甲5記載の「手術直後期におけるデクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,血漿カテコールアミン濃度(血漿ノルエピネフリン濃度及び血漿エピネフリン濃度)の減少を指標として,評価しているものであり,集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静に該当しない。
以上によれば,甲5記載の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた患者」に対するデクスメデトミジンの投与は,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途の使用に当たるとの原告らの主張は,採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

ある特定の患者(集中治療を受けている重篤患者)に使用するということに特徴のある医薬用途発明の新規性等が争われた。一部の引用例には、集中治療を受けている重篤患者にデクスメデトミジンが使用されているところまで記載されていると認定されたが、その使用目的は血圧や心拍数を増加させることを抑制するために交感神経を遮断する作用を目的としたものであって「鎮静」の用途を目的としたものではないと判断されたため、原告が主張した新規性欠如の無効理由は認められず、結果、進歩性欠如の無効理由もその前提を欠くと判断された。

デクスメデトミジン塩酸塩(Dexmedetomidine hydrochloride)はα2作動性鎮静剤プレセデックス®(Precedex®)の有効成分。日本では2004年1月29日に承認された。本件特許は、プレセデックス®の効能・効果の一部である「集中治療における人工呼吸中及び離脱後の鎮静」を保護しており、2019年3月31日に満了する(同効能・効果についての再審査期間は2012年1月28日に終了)。

米国ではPrecedex®は1998年12月にFDAに申請され、1999年12月に承認されている。本願出願日は同年3月(優先日は1998年4月及び12月)であった。

Jul 16, 2018

2018.06.27 「トライスター v. エーザイ」 知財高裁平成29年(行ケ)10178

経口投与用組成物のマーキング方法の進歩性: 知財高裁平成29年(行ケ)10178

エーザイが保有する「経口投与用組成物のマーキング方法」に関する特許権(5339723号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800126号)の取消訴訟。知財高裁は、進歩性(無効理由1)、サポート要件(無効理由2)、明確性要件(無効理由3)のいずれについても無効理由はないとした審決を支持。請求棄却。

本件特許に関連して、他に分割出願である特許5642100号および特許5903141号も成立しているが、これらについては無効審判は請求されていないようである。
J-PlatPatのワンポータルドシエによると、本件出願は日本以外にもUS, EP, KR, CN, AU, CA, BR, IL, MX, NO, NZ, RU, TWで出願されているが日本以外で成立している国はない(出願を放棄していると思われる)。

請求項1:
経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と,
前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,波長が200nm~1100nmであり,平均出力が0.1W~50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記変色誘起酸化物が,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種であり,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行される,
マーキング方法。
裁判所の判断(抜粋)

取消事由1-1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について
「甲1ないし3に接した当業者において,甲2及び甲3からレーザ照射によって,二酸化チタンを充填又は配合したポリアセタール樹脂組成物又はフルオロポリマー樹脂組成物を変色させるレーザーマーキング方法の技術を理解したとしても,甲1発明アあるいは原告甲1発明アにおいて,レーザー光の照射(走査)により変色する物質を,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の,生理的に受容可能である反応物を生成する物質」(原告甲1発明アでは「Fe2 O3(三二酸化鉄)を含む特定の物質」)から,レーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)に置換することについての動機付けがあるものと認めることはできない。したがって,甲1ないし3に接した当業者において,甲1に記載された発明にレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することを容易に想到することができたものとはいえない。

・・・原告が主張するように,本件出願の優先日当時,二酸化チタンを分散させてレーザを照射してマーキングすること,「酸化チタン」や「三二酸化鉄」を「経口投与用組成物」に用いること,二酸化チタンを分散させて紫外線レーザでマーキングする方法の対象が経口投与用組成物に限定されないことが,周知あるいは技術常識であったとしても,そのことから直ちに甲1発明アあるいは原告甲1発明アにレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することの動機付けを認めることはできないし,上記構成を適用することが設計的事項であるということもできない。」
取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
「本件明細書の発明の詳細な説明の記載を総合すると,本件発明1においては,請求項1記載の波長(200nm~1100nm),平均出力(0.1W~50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/sec)の各上限値及び各下限値に臨界的意義があるのではなく,本件発明1は,上記の各数値範囲内で波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させてマーキングを行うことを課題の解決原理とする発明であるものと認められるから,原告が主張するような全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載が必要とされるものではない。」
取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について
(省略)

Jul 8, 2018

2018.06.26 「バクスアルタ v. 特許庁長官」 知財高裁平成29年(行ケ)10151

特許協力条約規則17.1: 知財高裁平成29年(行ケ)10151

【背景】

「第FVIII因子ポリマー結合体」に関する特許出願(特願2011-521284; 特表2013-500238; WO2010/014708)について本件基礎出願(米国)に基づく優先権は認められないとされたため、本件基礎出願の米国公開公報が引例となり新規性なしとされた拒絶審決(不服2015-10108)の取消訴訟。

特許協力条約規則17.1
  • 特許協力条約の規定に基づく国際特許出願について,優先権を主張する場合,出願人は,原則として,優先日から16か月以内に,優先権書類を国際事務局又は受理官庁に提出しなければならない(特許協力条約規則17.1(a))。
  • この手続に代えて,一定の条件が満たされた場合においては,出願人は,優先日から16か月以内に,受理官庁に対し,優先権書類を作成し国際事務局に送付するよう請求するか,国際事務局に対し,優先権書類を電子図書館から入手するよう請求するなどしなければならない(同規則17.1(b)(bの2))。
  • 出願人が,これらの手続を採らない場合,指定官庁は,事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた上で,優先権の主張を無視することができる(特許協力条約規則17.1(c))。
  • ただし,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合などは,指定官庁は,同規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することはできない(同規則17.1(d))。
原告らは、本願について特許協力条約規則17.1(a),(b)及び(bの2)の要件のいずれも満たされないこと、並びに、JPOが事情に応じて相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えたことは争わないが、JPOは特許協力条約実施細則715(a)に定めるところにより本件基礎出願の優先権書類を電子図書館から入手可能であるとみなされるから、JPOは特許協力条約規則17.1(d)により本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することはできない、と主張した。

経緯
  • 2008年8月1日 基礎出願(米国特許出願12/184567)
  • 2009年3月19日 基礎出願が公開(米国特許出願公開第2009/0076237)
  • 2009年7月29日 PCT/US2009/052103出願
  • 2010年6月21日 基礎出願に係る優先権書類を提出
  • 2010年7月2日 国際事務局が優先権書類を受領
  • 2011年1月27日 PCT/US2009/052103を日本へ国内移行(本願)
請求項1:
水溶性ポリマーと第VIII因子の酸化炭水化物部分とを結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む、方法。
請求項7:
(a)第VIII因子分子、及び
(b)前記第VIII因子分子に結合した少なくとも1個の水溶性ポリマーを含むタンパク質性構築物であって、前記水溶性ポリマーが、前記第VIII因子のBドメインに存在する1個以上の炭水化物部分を介して前記第VIII因子に結合している、
タンパク質性構築物。

【要旨】

裁判所は、
「本願について,特許協力条約規則17.1(d)にいう,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当たらない。そして,JPOは,同規則17.1(c)により,本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができる。そうすると,本願の新規性判断の基準時は,本願の国際出願日(平成21年7月29日)であり,引用例は,本願の国際出願日前に頒布された刊行物である。そして,原告らは,本願発明は,引用例に記載された発明であるとの本件審決の判断を争わない。したがって,本件審決における,本願発明の新規性判断に誤りがあるということはできない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

欧州では特許登録(EP2318050)された後、Novo Nordisk社より異議申立がなされた(異議申立不成立決定後、審判請求されたが取下げられ終結)。Novo Nordisk社は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤Novoeight®を販売している他、欧米で承認申請中のN8-GPがある。
"N8-GP (turoctocog alfa pegol) is a glycopegylated form of turoctocog alfa designed for prolonged half-life. The site specific glycopegylation is within the truncated B-domain. N8-GP is a B-domain modified form of turoctocog alfa and hence the active factor VIII generated by thrombin activation is identical to both activated endogenous FVIII and turoctocog alfa."

バクスアルタの第VIII因子に水溶性ポリマーが結合しているタンパク質性構築物といえば、バクスアルタ(シャイアーと合併)が開発したアディノベイト®静注用キット(ADYNOVATE® Intravenous Kit)(一般名:ルリオクトコグ アルファ ペゴル(Rurioctocog Alfa Pegol)(遺伝子組換え))が挙げられる。これは、遺伝子組換え血液凝固第 VIII 因子製剤「アドベイト®静注用」の有効成分であるルリオクトコグ アルファをもとにポリエチレングリコール(PEG)を共有結合した、ペグ化遺伝子組換え血液凝固第VIII因子製剤であり、血液凝固第 VIII 因子(FVIII)の効果持続を目的として、ルリオクトコグ アルファに PEG を共有結合することにより血中での循環時間を延長することが期待できる新たな血友病A治療薬として開発された。2016年3月28日に、厚生労働省より製造販売承認を取得(再審査期間は2017年12月5日~2024年3月27日)。ただし、ルリオクトコグ アルファ ペゴルにおいては、PEGがルリオクトコグ アルファのLysにリンカーを介して結合しているという点で本願発明とは異なるようだ。