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2018.06.26 「バクスアルタ v. 特許庁長官」 知財高裁平成29年(行ケ)10151

特許協力条約規則17.1: 知財高裁平成29年(行ケ)10151

【背景】

「第FVIII因子ポリマー結合体」に関する特許出願(特願2011-521284; 特表2013-500238; WO2010/014708)について本件基礎出願(米国)に基づく優先権は認められないとされたため、本件基礎出願の米国公開公報が引例となり新規性なしとされた拒絶審決(不服2015-10108)の取消訴訟。

特許協力条約規則17.1

  • 特許協力条約の規定に基づく国際特許出願について,優先権を主張する場合,出願人は,原則として,優先日から16か月以内に,優先権書類を国際事務局又は受理官庁に提出しなければならない(特許協力条約規則17.1(a))。
  • この手続に代えて,一定の条件が満たされた場合においては,出願人は,優先日から16か月以内に,受理官庁に対し,優先権書類を作成し国際事務局に送付するよう請求するか,国際事務局に対し,優先権書類を電子図書館から入手するよう請求するなどしなければならない(同規則17.1(b)(bの2))。
  • 出願人が,これらの手続を採らない場合,指定官庁は,事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた上で,優先権の主張を無視することができる(特許協力条約規則17.1(c))。
  • ただし,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合などは,指定官庁は,同規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することはできない(同規則17.1(d))。

原告らは、本願について特許協力条約規則17.1(a),(b)及び(bの2)の要件のいずれも満たされないこと、並びに、JPOが事情に応じて相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えたことは争わないが、JPOは特許協力条約実施細則715(a)に定めるところにより本件基礎出願の優先権書類を電子図書館から入手可能であるとみなされるから、JPOは特許協力条約規則17.1(d)により本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することはできない、と主張した。

経緯

  • 2008年8月1日 基礎出願(米国特許出願12/184567)
  • 2009年3月19日 基礎出願が公開(米国特許出願公開第2009/0076237)
  • 2009年7月29日 PCT/US2009/052103出願
  • 2010年6月21日 基礎出願に係る優先権書類を提出
  • 2010年7月2日 国際事務局が優先権書類を受領
  • 2011年1月27日 PCT/US2009/052103を日本へ国内移行(本願)

請求項1:

水溶性ポリマーと第VIII因子の酸化炭水化物部分とを結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む、方法。

請求項7:

(a)第VIII因子分子、及び
(b)前記第VIII因子分子に結合した少なくとも1個の水溶性ポリマーを含むタンパク質性構築物であって、前記水溶性ポリマーが、前記第VIII因子のBドメインに存在する1個以上の炭水化物部分を介して前記第VIII因子に結合している、
タンパク質性構築物。

【要旨】

裁判所は、

「本願について,特許協力条約規則17.1(d)にいう,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当たらない。そして,JPOは,同規則17.1(c)により,本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができる。そうすると,本願の新規性判断の基準時は,本願の国際出願日(平成21年7月29日)であり,引用例は,本願の国際出願日前に頒布された刊行物である。そして,原告らは,本願発明は,引用例に記載された発明であるとの本件審決の判断を争わない。したがって,本件審決における,本願発明の新規性判断に誤りがあるということはできない。」

と判断した。請求棄却。

【コメント】

欧州では特許登録(EP2318050)された後、Novo Nordisk社より異議申立がなされた(異議申立不成立決定後、審判請求されたが取下げられ終結)。Novo Nordisk社は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤Novoeight®を販売している他、欧米で承認申請中のN8-GPがある。

“N8-GP (turoctocog alfa pegol) is a glycopegylated form of turoctocog alfa designed for prolonged half-life. The site specific glycopegylation is within the truncated B-domain. N8-GP is a B-domain modified form of turoctocog alfa and hence the active factor VIII generated by thrombin activation is identical to both activated endogenous FVIII and turoctocog alfa.”

バクスアルタの第VIII因子に水溶性ポリマーが結合しているタンパク質性構築物といえば、バクスアルタ(シャイアーと合併)が開発したアディノベイト®静注用キット(ADYNOVATE® Intravenous Kit)(一般名:ルリオクトコグ アルファ ペゴル(Rurioctocog Alfa Pegol)(遺伝子組換え))が挙げられる。これは、遺伝子組換え血液凝固第 VIII 因子製剤「アドベイト®静注用」の有効成分であるルリオクトコグ アルファをもとにポリエチレングリコール(PEG)を共有結合した、ペグ化遺伝子組換え血液凝固第VIII因子製剤であり、血液凝固第 VIII 因子(FVIII)の効果持続を目的として、ルリオクトコグ アルファに PEG を共有結合することにより血中での循環時間を延長することが期待できる新たな血友病A治療薬として開発された。2016年3月28日に、厚生労働省より製造販売承認を取得(再審査期間は2017年12月5日~2024年3月27日)。ただし、ルリオクトコグ アルファ ペゴルにおいては、PEGがルリオクトコグ アルファのLysにリンカーを介して結合しているという点で本願発明とは異なるようだ。

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