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2024.03.25 「X v. クリニジェン」 知財高裁令和5年(ネ)10103 ― 本件訴えは前件訴訟の蒸し返しであり信義則に反する不適法なものであるとして控訴を棄却した損害賠償請求事件  ―

Summary

クリニジェン株式会社が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を発明者である原告Xに与えなかった行為が譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張して原告Xが同社に対し損害賠償の支払を求めた控訴審で、知財高裁は、本件訴えは前件訴訟(東京地裁令和3年(ワ)4655)の蒸し返しであって、訴訟法上の信義則に反する不適法なものであり、本件訴えを却下した原判決は相当であるとして本件控訴を棄却する判決をした。

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1.背景

本件(知財高裁令和5年(ネ)10103)は、控訴人X(原審原告。以下「原告」という。)が、原告ほか3名を発明者とする本件発明に係る本件権利(特許を受ける権利)を被控訴人クリニジェン株式会社(原審被告。以下「被告」という。)に譲渡したところ、被告は本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償の支払を求めた事案である。

原審(東京地裁令和5年(ワ)4912)は、本件訴えが前件訴訟(東京地裁令和3年(ワ)4655)の蒸し返しであり、訴訟法上の信義則に反する不適法なものであるとして、本件訴えを却下したところ、原告は、これを不服として本件控訴をした。

なお、被告は、原告が主張するような本件権利を被告に譲渡する旨の譲渡契約は存在しない等、請求原因に対して否認している。

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2.裁判所の判断

知財高裁(第2部)も、本件訴えは不適法なものであると判断し、本件控訴を棄却する判決をした。

その理由は、次のとおりである(一部抜粋)。

「原告は、前件訴訟において、被告の代表者であったAの原告に対する行為(前件主張等に係るパワーハラスメント)が不法行為を構成すると主張し、会社法350条に基づいて、被告に対し、損害賠償金の支払を求めたところ、前件訴訟の裁判所は、前件主張について「本件国内移行手続を執ることを中止する旨決定したAの行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったとはいえず、原告に対するパワーハラスメントに当たるとはいえない」旨認定判断し、原告の当該損害賠償請求を棄却する旨の判決をした。同判決は、最高裁判所による上告棄却決定及び上告不受理決定により確定した。しかるところ、本件訴えは、原告において、被告が本件国内移行手続を執らなかった行為及び本件発明の権利化の機会を原告に与えなかった行為(本件行為)が本件譲渡契約上の債務不履行を構成すると主張し、被告に対して、債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めるものであり、形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟ではこれを被告の代表者であったAの原告に対する不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構成したものにすぎない。本件訴えにおいて原告の主張する債務不履行の成否は、結局のところ、Aが本件発明について本件国内移行手続を執らない旨決定したことが、当時の状況に照らし、業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、前件訴訟において、この点に関する原告の主張が排斥されることにより、本件訴訟において原告が主張するような債務不履行が成立しないことについても、実質的な判断がされているといえる。したがって、前件訴訟について原告の請求を棄却する旨の判決が確定したにもかかわらず、同一の社会的事実について、請求の法的根拠を債務不履行に変更して訴えを提起した本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざるを得ない。

また、前記認定事実によると、原告は、前件訴訟において、本件訴えに係る請求と同様の請求をすることにつき何らの支障もなかったものと認められるにもかかわらず、更に原告が被告に対して本件訴えを提起することは、前件訴訟において全部勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くことになる。

その他、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴えの提起は、信義則に反し許されないものと解するのが相当である。」

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3.コメント

形式的にみれば前件訴訟と訴訟物を異にするものであるが、実質的にみれば、「本件発明に係る本件国内移行手続が執られず、これが権利化されることがなかった」という同一の社会的事実について、請求の法的根拠を、前件訴訟では被告の代表者であったAの原告に対する不法行為であったものを、本件訴えでは被告の債務不履行に変更したにすぎない。

従って、本件訴えは、前件訴訟の蒸し返しといわざるを得ないと判断された。

本件国内移行手続が執られなかったという本件国際出願は、2019年12月27日、被告クリニジェン株式会社が、名称を「アルツハイマー病を治療又は予防する為の抗ウイルス剤及びその使用」とする本件発明について出願(優先権主張・2018年12月27日(日本国))したものである。

その出願番号は判決文に示されていないが、クリニジェン株式会社が出願人であること、アルツハイマー病に関する発明であること、出願日や優先日の情報から、国際出願番号PCT/JP2019/051379(国際公開番号: WO2020138402)がそれに該当すると思われる。

この出願は、ヒトHHV-6及び/又はHHV-7に対する抗ウイルス活性を持つ化合物、特にホスカルネットを有効成分とするアルツハイマー病(AD)を治療又は予防するための医薬組成物に関するものであり、国際出願の優先権主張の基礎となった日本出願は、審査請求されることなく、みなし取り下げとなった(特開2022-037257)。

ホスカルネット(Foscarnet)は、クリニジェン株式会社が製造販売している抗ウイルス化学療法剤ホスカビル®(一般名:ホスカルネットナトリウム水和物(Foscarnet Sodium Hydrate))の有効成分である。

日本での新規事業展開の為、2016年4月 Clinigen Group plcの100%子会社であるクリニジェン株式会社が設立され、新規事業開始として、抗ウイルス化学療法剤 「点滴静注用 ホスカビル®注24mg/mL」の製造販売をノーベルファーマ株式会社からクリニジェン株式会社に承継したという経緯がある。

ホスカビル®の適応症にアルツハイマー病は含まれていない。

3年前のニュースだが、医薬品コンサルタントのファルマプレゼンスが、出向先のクリニジェン株式会社に対し、パワーハラスメントがあったとして損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したことが報じられている(参照: 2021.03.02 日刊薬業「ファルマプレゼンス、出向先のクリニジェンを提訴 東京地裁に、G2品目のライセンス移管巡るトラブルで」)。

このニュースで報じられた訴訟が、本件訴え又は前件訴訟と関連しているのかは不明だが、ファルマプレゼンスの代表取締役である川端氏は、本件国際出願と思われる国際出願番号PCT/JP2019/051379の発明者の一人であった。

Fubuki
Fubuki

原告と被告の間には何だか複雑な事情、問題が生じたのかもしれません。

原審も前件訴訟も判決文が裁判所DBでは未公開。事実関係の詳細は不明です・・・

コメント

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