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2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241

患者群を特定した医薬用途発明の進歩性(骨粗鬆症治療剤テリボン®)知財高裁平成27年(行ケ)10241

【背景】

「1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」に関する特許出願(特願2011-530844; 再表2011/030774; WO2011/030774)の拒絶審決(不服2015-9596)取消訴訟。争点は新規性・進歩性。

請求項1(本願発明):

1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。

本願発明と引用発明との相違点1

「特定の骨粗鬆症患者」が,引用発明では,「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」であるのに対し,本願発明では「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」
である点。

本願発明と引用発明との相違点2

「骨粗鬆症治療ないし予防剤」について,本願発明では,さらに,「骨折抑制のための」という事項が追加されている点。

【要旨】

裁判所は、相違点1について新規性なしとした審決の判断及び相違点2について実質的な差異はないとした審決の判断にはいずれも誤りがあるとしたが、進歩性を否定した審決の判断は誤っておらず審決の結論に影響はない、として原告の請求を棄却した。

相違点1について

「確かに,前記の甲1のH群の患者中に前記の本願発明にいう患者が全て含まれていれば,論理的には,甲1発明は,部分的には,本願発明と一致する(本願発明を全て含む。)ことになるが,前記のとおり,甲1に,前記の本願発明の患者を識別するに足りる記載がなく,前記の本願発明にいう患者のみを取り出して甲1の200単位の投与の結果のみを読み取ることができず,そのため,甲1のH群の患者中,前記の本願発明にいう患者のみの甲1の200単位の投与の結果から,本願発明と同じ内容の発明の認定ができるか否かは,定かではない以上,相違点1において,甲1発明と本願発明とが同じ内容の発明である(本願発明が甲1発明に含まれる。)ということはできない。したがって,相違点1に係る新規性についての審決の判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には理由がある。
ただし・・・(略)・・・本願発明は,骨粗鬆症患者のうち,より重篤な病態で,骨折のリスクがより増大している者を対象に,甲1と同じ用量・頻度で同じ薬剤を投与するものであり,その対象者の各条件が,それぞれ各条件を満たす者の群と満たさない者の群とにおける投与結果を比較して,投薬の有効性を分析した結果,定められた条件であるといえないのであって,結局,甲1発明に基づいて,甲1の200単位投与の対象者を,本願発明の対象者とすることにつき,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」

相違点2について

「甲1には・・・椎体骨折の発生数は,L群,M群,H群の間で有意差がなかったと記載されており,また,甲1には,被験薬と対照薬との比較も記載されていないから,当業者が,甲1から直ちに,甲1発明が「骨折抑制」の効能を有することを把握することはできないというべきであり,相違点2は,実質的な相違点とすべきものである。したがって,審決の相違点2に係る判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には,相違点2に係る判断においても,理由がある。
ただし・・・(略)・・・骨密度は,骨強度を約70%説明するものであり,・・・甲1発明の骨粗鬆症治療剤の投与の結果に,骨折抑制の効果を期待すると認められるのであって,甲1発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を,骨折抑制のためのものとすることに,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」

効果の顕著性について

「甲1発明と比較した本願発明の効果については,原発性骨粗鬆症患者であって,(1)年齢が65歳以上である,(2)既存の骨折がある,(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるという条件の全てを満たす者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果と,前記(1)~(3)の条件のいずれか又は全てを満たさない者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果とを対比すべきである。
この点,・・・(略)・・・甲1には,甲 1 の200単位投与につき,骨折抑制効果があることを直接認めるに足りる記載がなく,本願明細書には,これを直接認め得る記載があるとしても,その効果が,前記(1)~(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者に限って生じ,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者には生じないことを,本願明細書から読み取ることはできないのであって,本願明細書から,甲1発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認めることはできない。」

【コメント】

日本における進歩性の判断において、効果の顕著性が認められるには、当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされていなければならないのか(進歩性のための明細書記載要件)。本件にける本願発明は、患者群を特定した医薬用途発明に関するもので、引用発明に含まれる蓋然性が高いような場合であり、構成要件を満たす患者群に奏される効果と満たさない患者群に奏される効果とを対比して効果の顕著性を明細書から読み取れるように示していなかったため、効果の顕著性が認められないと判断された。

患者限定の医薬用途発明の過去記事:

骨粗鬆症治療剤テリボン®(TERIBONE®)は、週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤。有効成分であるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩は、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34 ペプチド断片である。テリパラチドとして 56.5μg(200単位)を1週間に1回皮下注射する。

効能又は効果:骨折の危険性の高い骨粗鬆症。

効能・効果に関連する使用上の注意:本剤の適用にあたっては、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頸部骨折の家族歴等の骨折の危険因子を有する患者を対象とすること。

製造販売承認は2011年9月26日、再審査期間は2017年9月25日(6年)まで。

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