2025年5月15日、英国政府(英国知的財産庁)は、知的財産権の消尽制度に関し、現行の「UK+」制度を恒久的に維持する方針を正式に発表しました(2025年5月15日付 英国知的財産庁プレスリリース「Certainty for businesses and choice for consumers as UK maintains IP rights regime」参照)。
UK+制度は、英国がEUを離脱(”Brexit”)した後、2021年1月から導入・運用されている独自の知財消尽制度です。この制度の下では、英国または欧州経済領域(EEA)内で正規に販売された製品については、英国における知的財産権が消尽し、知的財産権者はその再販売を差し止めることができません。
一方で、英国で販売された製品はEEAにおいては消尽の効果を持たず、英国からEEAへの輸出には制限がかかるため、知的財産権者はEEA域内での販売を差し止めることが可能です。すなわち、本制度は非対称的ではありますが、英国市場における流通・小売の柔軟性を確保する目的で設計されたものです。
制度導入に際しては、2021年にパブリック・コンサルテーションが実施され、「UK+制度の継続」「国家内消尽」「国際消尽」「混合型制度」という4案に対する意見が広く募集されました。政府が受け取った約150件の意見の中では、特に製薬業界からの回答が多くを占めています(「UK’s future exhaustion of intellectual property rights regime: Summary of responses to the consultation」参照)。
その結果、UK+制度は「概ね良好に機能している」との評価が多数を占め、また、制度変更すれば、事業モデルの見直しが必要となり、企業側に大きなコスト負担が生じる可能性があることも指摘され、他の制度に移行するための定量的根拠は乏しいと判断されました。
とりわけ製薬業界にとっては、UK+制度の継続は極めて重要です。国際消尽制度のように、安価な価格統制国から高価格市場への並行輸入が合法化されると、英国市場における価格維持戦略や地域別供給管理が困難となり、医薬品の安定供給や革新的医薬品の上市に悪影響を及ぼすおそれがあります。今回の決定は、こうした業界の懸念も配慮し、予見可能性と事業の継続性を重視したものと捉えることができるかもしれません。
今回の発表により、企業は制度変更に伴う追加対応を求められることなく、現行の枠組みのもとで安定的に事業を継続することが可能となります。

ところで、米国では、2017年のLexmark事件(Impression Products, Inc. v. Lexmark International, Inc.)において、特許権は国際的に消尽する(international exhaustion)とする明確な判断を連邦最高裁が示しましたよね。
参考:
- UK’s future exhaustion of intellectual property rights regime: Summary of responses to the consultation – GOV.UK
- Exhaustion of IP rights and parallel trade – explained – YouTube by Intellectual Property Office UK
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