May 9, 2016

2016.03.08 「キュアバック v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10043

治療用複合化RNA知財高裁平成27年(行ケ)10043

【背景】

「トランスフェクションおよび免疫活性化のためのRNAの複合化」に関する特許出願(特願2010-523324号; WO2009/030481; 特表2010-537651)の拒絶審決(不服2013-11636)取消訴訟。争点は進歩性の有無。

本願補正発明は、細胞内へのRNA輸送に適した効率的なキ ャリアを提供し、腫瘍、循環器病や感染症などの特定の疾病の治療用複合化RNAを提供することを目的(課題)とし(【請求項1】,段落【00 21】)、その目的を達成する手段として、8~15アミノ酸の長さであり、かつ式(Alg)l(Lys)m(His)n (Orn)o(Xaa)xによって表わされる1つ以上のオリゴペプチドと、 少なくとも1つの一本鎖RNAとが、非共有的な相互作用によって連結した免疫活性化複合化一本鎖RNAであって、RNAのオリゴペプチドに対する窒素/リン酸塩比(N/P比)が、0.5~50の範囲であり、かつ、RNA対オリゴペプチドのモル比が1:250以上である複合化RNAを採用したものである(【請求項1】)。

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
原告は,①引用例1には実験結果の記載がなく,形質転換できるという効果を奏する複合体が得られることや,仮に複合体が得られたとしても,引用例1に記載された性質を示すことは確認できないのであるから,実施可能なものとして完成した発明が記載されているとはいえない,②引用例1の記載から配列番号29のペプチドを選択することは当業者において容易ではないから,引用例1の記載に基づいて引用発明を認定することはできず,本件審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,まず①についていうと,特許法29条2項,同条1項3号所定の「刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りると解するのが相当である。
そこで,上記の観点から引用例1に上記の程度の開示がされているかどうかを検討すると・・・(略)・・・引用例1には,RNAトランスフ ェクションの方法は,DNAトランスフェクションの方法ほど開発されていなかったところ,RNAについて,DNAと同様にトランスフェク ションを行うに際し,Port-3カチオン性ペプチドと緑色蛍光タンパク質をコードするRNAの非共有結合複合体であって,Port-3カチオン性ペプチドとRNAの複合比が100:1~1:1の範囲である複合体を採用し,引用例1記載の方法により,RNAを細胞内へ導入し,形質転換することにより,細胞の生存率を保持しつつ,細胞に効率的にRNAを送達することができるという技術的思想が,当業者にとって,実施し得る程度に,かつ,特許発明と対比するに必要な程度に開示されていることが認められる。したがって,原告の上記①の主張は理由がない。
また,②についても・・・(略)・・・引用例1に本願補正発明の構成と一致しない他のペプチドが開示されているとしても,上記複合体が引用例1に前記(ア)のとおりの技術思想として記載されている以上,上記開示が上記複合体を引用発明として認定することの妨げとなるものではないし,引用発明の認定の場面において,選択が容易かどうかを問題とすべきものでもない。したがって,原告の上記②の主張も理由がない。
以上によれば,引用例1から引用発明[を認定]した本件審決に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
取消事由2(相違点(1)の容易想到性の判断の誤り)について
本願補正発明と引用例1に記載された「免疫」とは,いずれも,抗原特異的免疫を含む点で一致している。そして,前記(2)の引用例1の記載に接した当業者であれば,腫瘍や病原体 感染等の疾病の治療に用いるために,引用発明に係る複合体において,緑色蛍光タンパク質をコードするmRNAに代えて,腫瘍細胞や病原体の抗原をコードするmRNAを用いることにより,mRNAの抗原への翻訳を介して免疫反応を誘導(免疫を活性化)し,引用発明において,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張の取消事由2は理由がない。
取消事由3(相違点(2)の容易想到性の判断の誤り)について
引用発明において,最適なトランスフェクション効率を達成するために,複合性のカチオン性ペプチドの正電荷とRNAの負電荷のバランスに着目して,複合体の「1つ のRNA(分子)の,1つ以上のオリゴペプチドに対する窒素/リン酸 塩比(N/P比)」に着目し,これを変化させて最適化し,その値を, 0.1~100の範囲内の値である0.5~50とすることは当業者に おいて適宜行うことができたものと認められる。・・・(略)・・・N/P比が変化すればモル比も変化するなど,N/P 比とモル比とは互いに連動するものであること,引用発明において,N /P比として前記アの0.5~50の値を用いれば,技術常識として知 られたmRNAの長さを前提とした場合,当然にそのモル比が相違点(2) のモル比の構成を包含することになることに照らすと,引用発明においても,当業者はそのモル比を適宜選択することができたものと認められる。・・・(略)・・・以上によると,引用発明においてN/P比及びモル比につき相違点(2) の範囲内とすることは,当業者が適宜行うことであり,そのような数値限定をすることの臨界的意義は認められないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。
【コメント】

「刊行物に記載された発明」というためには、出願当時の技術水準を基礎として、当業者が当該刊行物を見たときに、特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において、その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり、かつ、それで足りる。裁判所はこの基本的考え方に沿って本件を当てはめて引用例から引用発明を認定できると判断した。

参考: 特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 第3節 新規性・進歩性の審査の進め方 3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)
(1) 刊行物に記載された発明

a 「刊行物に記載された発明」とは、刊行物に記載されている事項及び刊行物に記載されているに等しい事項から把握される発明をいう。審査官は、これらの事項から把握される発明を、刊行物に記載された発明として認定する。
刊行物に記載されているに等しい事項とは、刊行物に記載されている事項から本願の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項をいう。
審査官は、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができない発明を「引用発明」とすることができない。そのような発明は、「刊行物に記載された発明」とはいえないからである。

b 審査官は、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができる発明であっても、以下の(i)又は(ii)の場合は、その刊行物に記載されたその発明を「引用発明」とすることができない。
(i) 物の発明については、刊行物の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその物を作れることが明らかでない場合
(ii) 方法の発明については、刊行物の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその方法を使用できることが明らかでない場合

欧州状況:
欧州では成立している(EP2188379(B1)、EP2484770(B1))。
引用例1(WO2006/046978)はD8として引用されていたが、最終的にはクレームを補正することで特許許可を得たようである。

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