Summary
本件は、ルビプロストンを有効成分とする本件各医薬品アミティーザ®の各承認(24μg製剤及び12μg製剤)に基づく医薬用途発明に係る特許権存続期間延長登録について、沢井製薬が無効を主張した審決取消訴訟である。主要な争点は、①医薬用途発明における「特許発明の実施」と各承認処分との関係(延長登録要件論における「専ら論・ラベル論」の採否)、及び②「処分を受けるのに必要な試験」の範囲(すなわち「特許発明の実施をすることができなかった期間」の把握)にあった。
知財高裁は、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」との承認効能・効果には本件発明の用途である「薬物誘発性便秘」が含まれるとして、本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為と少なくとも「重複部分」を有すると判断した。そして延長登録要件の判断においては、侵害論で議論される「専ら論」や「ラベル論」を排斥し、「処分によって禁止が解除された行為」と「特許発明の実施行為」との間に重複部分があれば足りるとの基準を明示した。
また、「薬物誘発性便秘」患者を対象とする臨床試験が実施されていなかったとしても、承認審査において品質・有効性・安全性の確認に供された試験であれば「当該処分を受けるために必要な試験」に当たると判断した。さらに後行する12μg製剤の承認についても、先行する24μg製剤承認時の臨床試験資料が承認審査の前提となっている以上、それら試験も後行承認に必要な試験に該当すると判示した。
本判決は、医薬用途発明と延長登録制度の交錯領域において「実施」概念を「重複論」により整理し、また「処分に必要な試験」を承認審査との機能的関連性から把握した点は、今後の延長登録実務に少なからぬ影響を与えるものと思われる。
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おや、ピポとミャオがおしゃべりしてますよ・・・

ピポせんぱ~い! 最近、美肌のためにグルテンフリー生活始めたんですけど…このお菓子、成分表示に「小麦粉・砂糖・バター・塩」って、グルテン入ってることになりますか?

そりゃ入ってるよ。小麦粉に含まれてるんだから

でも「グルテン」って書いてないですよ?

書いてなくても、小麦粉に含まれてる以上、グルテンを食べることになるよ

あっ、じゃあ今回の判決も同じですね!

ん?

承認効能が「慢性便秘症」なら、その中に「薬剤性便秘」が含まれてる以上、ラベルに明記されてなくても、「薬剤性便秘」用途発明の実施に当たる、っていう話ですよね?

そういうこと。「書かれているか」と「含まれているか」は別なんだよ

ちなみに、ピポせんぱいのプロフィールには「外国語対応可」って書いてありますよね?

お、おう……

じゃあ今夜のドイツ代理人との会食、ドイツ語でお願いします!

……いや、英語検定に受かっただけなんだけど

(ドイツ語が)「書かれているか」と「含まれているか」は別なんですよ!

お、おう……(汗)
1.背景
(1)存続期間延長制度をめぐる論点
特許権の存続期間の延長制度は、特許法67条第4項(旧67条2項)の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするものである。例えば、医薬品に関する発明については、特許権の設定登録後も薬機法14条に基づく製造販売承認を受けるまでは特許発明の実施が禁止されていることになるため、製造販売承認(処分)を受けるために「特許発明を実施できなかった期間」として、5年を限度に存続期間の延長登録が認められる。
この延長制度をめぐっては、(a)延長登録の成立要件(「特許発明の実施に処分を受けることが必要であったか」)、(b)延長期間の算定(「処分を受けるのに必要な試験」の開始時点から算定される「実施できなかった期間」の把握)、(c)延長後特許権の効力範囲という三層の問題群があり、それぞれが複雑に相互連関している。本件(知財高裁令和7年(行ケ)10059, 10064)は主として(a)と(b)が正面から争われた事案である。
医薬用途発明においては、承認される効能・効果の外延と特許発明の用途とが常に一致するとは限らない。本件はまさにその典型であり、承認効能・効果(「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」)が特許発明の用途(「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘」)を包含しつつも両者が完全一致しないという事実関係の下で、延長登録の成立要件をいかに判断するかが問われた。
(2)本件特許と本件各医薬品
本件特許(特許第4332353号)の請求項1(本件発明)は、一般式(II)で示される13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノ-またはジ-ハロゲン-プロスタグランジンE化合物(ルビプロストンがこれに該当する)を有効成分として含む、「オピオイド化合物または抗コリン作用薬による薬物誘発性便秘処置用組成物」という医薬用途の物の発明である。国際出願日は2002年4月26日、設定登録は2009年6月26日である。
株式会社スキャンポファーマ(以下、本件被告スキャンポ・ファーマ・アメリカズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー側関係者を併せて「スキャンポ」という。)は、ルビプロストン(Lubiprostone)を有効成分とするアミティーザ®カプセル24μg(本件医薬品A)について、2012年6月29日、「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」を効能・効果として製造販売承認(本件処分A)を取得し、これに基づき本件特許権について3年2日の延長登録(本件延長登録A)を得た。さらに、アミティーザ®カプセル12μg(本件医薬品B)について、2018年9月21日、同一効能・効果で承認(本件処分B)を取得し、これに基づき5年の延長登録(本件延長登録B)がされた。
承認申請時点の添付文書(初版)には、「<効能・効果に関連する使用上の注意>薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない。」と記載されており、この記載が本件の争点の一つとなった。
(3)本件訴訟の経緯
本件(知財高裁令和7年(行ケ)10059, 10064)は、原告沢井製薬が、スキャンポの保有する本件特許権についてされた2件の本件各延長登録に対し、無効審判(無効2023-800062号及び無効2023-800063号:以下「A事件」及び「B事件」)を請求したところ、特許庁がいずれも無効請求不成立審決をしたため、その取消しを求めた事案である。両事件は知財高裁で併合審理され、専用実施権者であるヴィアトリス製薬が補助参加した。
本件と密接に関連する別件として、本件医薬品B(12μg)の後行承認(本件処分B)に基づく本件延長登録Bに係る延長特許権の効力が、先行承認(本件処分A)の本件医薬品A(24μg)に相当する後発医薬品(ルビプロストンカプセル24μg「サワイ」)に及ぶかを争った大阪地裁判決(2026.04.01ブログ記事「2026.03.03 「ヴィアトリス製薬 v. 沢井製薬」 大阪地裁令和7年(ワ)10786, 10790 ― 後行延長特許権の効力は先行延長の対象医薬品に及ぶか(ルビプロストン事件)」参照)が2026年3月3日に言い渡されていること、並びに、本件特許権の特許請求の範囲の訂正可否を含む無効審判(無効2023-800077号事件)の審決取消訴訟(知財高裁令和7年(行ケ)10055号)が係属中であることも、本件の背景として重要である。

(4)争点の整理
本件における審決取消事由は、旧特許法125条の2第1項1号及び3号(現行法125条の3第1項1号及び3号)に基づく無効理由の判断についてである。
平成28年法律第108号(平成30年12月30日施行)による改正前の特許法(旧特許法)の条文
(存続期間)
第六十七条 特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
(延長登録無効審判)
第百二十五条の二 特許権の存続期間の延長登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その延長登録を無効にすることについて延長登録無効審判を請求することができる。
一 その延長登録がその特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められない場合の出願に対してされたとき。
二 その延長登録が、その特許権者又はその特許権についての専用実施権若しくは通常実施権を有する者が 第六十七条第二項の政令で定める処分を受けていない場合の出願に対してされたとき。
三 その延長登録により延長された期間がその特許発明の実施をすることができなかつた期間を超えているとき。
四 その延長登録が当該特許権者でない者の出願に対してされたとき。
五 その延長登録が第六十七条の二第四項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとき。
2~4 (略)
ア.取消事由1(旧特許法125条の2第1項1号):延長登録成立要件論
原告は以下のとおり二段構えの主張を展開した。
第一に(理由1-1)、医薬用途発明の「実施」概念は専ら論・ラベル論により判断されるべきであり、本件各医薬品の添付文書が「薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない」と明記している以上、本件各医薬品の製造販売は本件発明の実施には当たらない。
第二に(理由1-2)、承認の内容は承認申請の意図・提出資料・審査経緯を考慮して判断すべきであり、薬物誘発性便秘患者に対する臨床試験が実施されていないことに鑑みれば、本件各処分は慢性特発性便秘症の用途に限定した承認であって薬物誘発性便秘は承認内容に含まれていなかった。
イ.取消事由2(旧特許法125条の2第1項3号):延長期間算定論
原告は、「処分を受けるのに必要な試験」は当該用途(薬物誘発性便秘)に対応する試験でなければならないが、本件では薬物誘発性便秘患者を対象とした臨床試験は実施されていないため、「特許発明の実施をすることができなかった期間」を観念できず、延長期間はゼロを超えることはできないと論じた。
ウ.取消事由3(B事件固有):審決取消訴訟の審理範囲論
原告は、本件医薬品B(12μg)については生物学的同等性試験開始から承認までの期間(約2年)のみが延長算定の基礎となるべきであり、5年の延長は過大であるとの主張(無効理由2-2)を、審判段階での取下げにもかかわらず本件訴訟で再度主張した。
2.裁判所の判断
2026年4月9日、知的財産高等裁判所第1部(以下「裁判所」)は、原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく、本件各審決に取り消されるべき違法はないとして、原告の請求を棄却した。
(1)取消事由1(旧特許法125条の2第1項1号):延長登録の成立要件論
ア.判断基準の定立(「重複論」の採用)
裁判所はまず、延長登録の成立要件として、旧特許法67条2項にいう「その特許発明の実施」に政令処分を受けることが必要であったといえるための規範を次のように定立した。
「当該政令で定める処分によって禁止が解除された行為と、当該特許発明の実施行為との間に、重複する部分があることを要するものと解される。このような場合には、当該特許発明の実施行為は、当該処分を受けるまでの間、禁止されていたといえるからである。」
イ.本件各処分への当てはめ
本件処分Aについて、裁判所は医学的知見(慢性便秘の分類)に基づいて「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」には「薬物誘発性便秘」が含まれると認定し、本件医薬品Aの製造販売行為は「少なくともそれがオピオイド化合物又は抗コリン薬による薬物誘発性便秘の処置に用いられる場合には、本件発明の実施行為に当たる」と判示した。また、ルビプロストンが実際に臨床現場においてオピオイド化合物による薬物誘発性便秘の処置に用いられている事実も認定した。
本件処分Bについては、本件処分Bによって禁止が解除された行為が本件発明の実施行為を含むことを確認した上で、先行する本件処分Aとの関係を検討した。本件医薬品A(24μg製剤)と本件医薬品B(12μg製剤)は分量が異なることから、「本件処分Aの対象となった医薬品の製造販売が、本件処分Bの対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない」として、本件発明の実施には本件処分Bを受けることも必要であったと認定した。
ウ.ラベル論・専ら論の排斥
裁判所は原告の専ら論・ラベル論の主張を明示的に排斥した。
「特定の行為が特許発明の技術的範囲に含まれるかを判断する場面とは異なり、特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったというには、…当該処分によって禁止が解除された行為と、当該特許発明の実施行為との間に重複する部分があることを要し、かつ、それで足りるというべきである。このような場合には、たとえ特許発明に規定された用途と処分に係る物の用途との間に重複しない部分があるとしても、特許発明の実施行為は、当該処分を受けるまでの間、なお禁止されていたといえるからである。」
エ.添付文書の注記の解釈
添付文書記載の「薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はなく、有効性及び安全性は確立されていない」との記載については、「薬剤性及び症候性の便秘が本件各医薬品の効能又は効果に含まれているからこそ、有効性及び安全性が確立されていない旨を注記したものと認められるのであって、薬剤性便秘が本件各医薬品の効能又は効果から除外されていることを示すものとはいえない」と判示した。注記の存在は効能・効果の包含関係を否定するものではなく、むしろ含まれることを前提とした注意喚起であるというロジックである。
オ.承認内容の外形的・客観的確定
承認内容の解釈について裁判所は、「薬機法上、厚生労働大臣が、申請に係る医薬品の効能又は効果として、臨床試験の対象となった特定の具体的疾患についてのみしか承認することができないとする根拠は見当たらない」と述べ、医薬品の製造販売の承認の内容は「医薬品製造販売承認書及びこれが引用する医薬品製造販売承認申請書の記載に基づき、外形的、客観的に定められるべきであって」、承認申請の意図及び審査の経緯を考慮に入れるべきものではないと明示した。
(2)取消事由2(旧特許法125条の2第1項3号):延長期間算定論
ア.本件処分Aについて
裁判所は、本件医薬品Aについて実施された慢性特発性便秘症患者を対象とする各臨床試験について次のように判示した。
「たとえその対象に薬剤性便秘の患者を含まないとしても、なお本件処分Aに際して本件医薬品Aの品質、有効性及び安全性に関する事項の検証及び確認に供された資料であるといえ、本件処分Aを受けるのに必要な試験であったということができる。」
「処分を受けるのに必要な試験」の該当性判断において、試験対象患者群が特許発明の用途(薬物誘発性便秘)と一致することは必要ではなく、当該処分の承認審査において品質・有効性・安全性の確認に供されたか否かによって判断されると解したものである。
イ.本件処分Bについて
本件医薬品B(12μg製剤)については、その承認申請が本件医薬品A(24μg製剤)の「剤形追加に係る医薬品」として扱われ、生物学的同等性資料のみを添付すれば足りるとされていた(平成26年11月21日付厚生労働省医薬食品局長通知参照)。裁判所はこの審査構造を踏まえ次のように判示した。
「本件医薬品Bは…本件医薬品Aの剤形追加に係る医薬品であり、その製造販売の承認審査においては、本件医薬品Aの承認審査において参照された資料によりその品質、有効性及び安全性が確認されたことが前提とされ、これに加えて生物学的同等性に関する資料により、本件医薬品Bの品質、有効性及び安全性が確認されるという関係にあったことは明らかである。そうすると…本件医薬品Aに関する各種臨床試験は、本件医薬品Bに関する本件処分Bを受けるためにも必要な試験であったということができる。」
これにより、本件延長登録Bに係る延長期間(5年)も、本件発明の実施をすることができなかった期間を超えるものではないと結論付けた。
(3)取消事由3(B事件固有):審決取消訴訟の審理範囲
裁判所は、無効理由2-2が審判段階で原告によって任意に取り下げられ、本件審決Bにおいて審理判断の対象から除外されたことを確認した上で、メリヤス編機事件最高裁判決(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)の法理について次のように述べた。
「特許無効審判の審決に対する取消訴訟においてその判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、審理判断された特定の無効理由に関するもののみが審理の対象とされるべきものであるから、審決取消訴訟において、審判手続において審理判断されなかった無効理由は、審決を違法、又はこれを適法とする理由として主張することができないと解するのが相当であり…この理は、延長登録無効審判の審決に対する取消訴訟においても異なるものではない。」
原告は、延長登録無効審判については技術的判断を要しない法律問題が主であるとして同法理の適用を排除する立論を試みたが、裁判所はこれを採用しなかった。
3.コメント
本判決の理論的意義は多岐にわたる。第一に、延長登録要件における「実施」概念の把握につき、「重複論」を採用して「専ら論・ラベル論」を明示的に排斥したことは、延長登録の成立要件と延長後の特許権の効力範囲とを峻別する体系的理解に沿うものである。第二に、「処分に必要な試験」概念について、用途特定性を要求しない機能的把握を採用したことは、薬機法承認の実態に即した柔軟な解釈として評価できる。第三に、後行承認における「必要な試験」の認定に際して先行承認時の試験資料を参照する枠組みを明示したことは、剤形追加・用量追加承認における延長期間算定の実務指針として重要である。
(1)「重複論」の理論的位置付け:延長登録成立要件論における枠組みの確立
本判決の最大の理論的貢献は、延長登録の成立要件(現特許法67条4項及び125条の3第1項1号(旧67条2項及び125条の2第1項1号)にいう「その特許発明の実施に…政令で定めるもの(処分)を受けることが必要である」の充足性)の判断基準として「重複論」を採用し、「専ら論・ラベル論」を明示的に排斥した点にある。
「重複論」の核心は、「処分によって禁止が解除された行為」と「特許発明の実施行為」との間に重複部分があれば、当該特許発明の実施は当該処分を受けるまでの間禁止されていたといえる、というシンプルな考え方にある。この考え方は、延長制度の目的論(政令処分によって発生する実施不能期間の回復)から自然に導かれる。すなわち、延長制度が問題とするのは「特許発明の実施の全部が禁止されていたか」ではなく「特許発明の実施が政令処分を受けなければ(少なくとも部分的に)できなかったか」という点だからである。
侵害論において議論されてきた専ら論・ラベル論は、「特定の行為が特許発明の技術的範囲に含まれるかを判断する場面」での問題である。裁判所は「特定の行為が特許発明の技術的範囲に含まれるかを判断する場面とは異なり」と明示することで、延長登録要件論と侵害論とが解決すべき問いを異にすることを峻別した。
前者の問いは「処分を受けなければ特許発明の実施が(一定程度)禁止されていたか」であり、後者の問いは「当該行為が特許発明の技術的範囲に入るか」である。両者は問題の次元が異なるのであって、侵害論の判断枠組みをそのまま延長登録要件論に持ち込む理由はないという論理は、理論的にも整合的である。
学説においても、延長制度の要件と効力の問題は、現特許法67条4項と68条の2とをそれぞれ固有の文脈で解釈すべきとの立場が有力に主張されてきており(田村善之「特許権の存続期間延長登録制度の要件と延長後の特許権の保護範囲について : アバスチン事件最高裁判決・エルプラット事件知財高裁大合議判決の意義とその射程」知的財産法政策学研究49号, 389-452頁(2017年)参照)、本判決の「重複論」採用はこうした問題意識と方向性を一にするものといえる。
(2)「重複論」と侵害論との関係:延長後特許権の効力範囲論への射程
本判決が示した「重複論」が、侵害論における特許発明の技術的範囲の解釈及び延長された特許権の効力範囲(特許法68条の2)の解釈に影響を及ぼし得るかは、最も重要な実務的関心事である。
裁判所は「特定の行為が特許発明の技術的範囲に含まれるかを判断する場面とは異なり」と述べることで、本判決が示した「重複論」は延長登録の成立要件判断において採用するものであり、侵害論についての適用についてまでは述べていない。この留保は重要であり、本判決から直ちに「重複論が侵害論にも妥当する」と読み取ることは論理的に慎重であるべきである。
他方、本判決が「本件各医薬品の製造販売行為は本件発明の実施行為に当たる」と明示したことは、少なくとも「延長登録の成立要件論として」は本件各医薬品の製造販売が本件発明の「実施」であることを認定したことを意味する。この認定が、侵害論における技術的範囲や延長効力範囲の解釈と整合的に理解されるべきかは、今後の理論的検討が求められる問いである。
例えば、承認効能・効果の一部の疾患群のみを技術的範囲とする用途発明の特許権(延長されている場面も含む)において、同一の承認効能・効果を有する後発医薬品が当該特許権の効力範囲に入るかという問いは、別途侵害論として論じられなければならない。
本判決の「重複論」によれば、本件において延長登録自体は有効とされるが、延長後の特許権がいかなる実施行為に及ぶかは特許法68条の2の解釈問題であり、この問いは並行して審理されたルビプロストン侵害訴訟(大阪地裁令和7年(ワ)10786号・10790号)で正面から扱われた(2026.04.01ブログ記事「2026.03.03 「ヴィアトリス製薬 v. 沢井製薬」 大阪地裁令和7年(ワ)10786, 10790 ― 後行延長特許権の効力は先行延長の対象医薬品に及ぶか(ルビプロストン事件)」参照)。当該事件は、延長後の本件特許権の効力範囲が後発医薬品に及ぶかが争われ、同地裁は、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すること自体は肯定した。同判決は、医薬用途発明に係る特許権の侵害判断に関し、被告が主張したいわゆる「ラベル論」や「専ら論」といった形式的な枠組みに依拠するのではなく、あくまで特許発明の構成要件の解釈を出発点として、被告製品の実施が当該用途発明の一態様としての実施に該当するかという観点から技術的範囲への属否を判断するという、特許法の原則に忠実な手法を採用している。すなわち、添付文書の記載を形式的に基準とするのではなく、用途発明としての技術内容への該当性を実質的に評価する姿勢が明確に示されている。同侵害訴訟が控訴されればさらに争われる可能性がある。

(3)「処分に必要な試験」の機能的把握:用途対応性要件論の否定
取消事由2に関する本判決の論点は、「処分を受けるのに必要な試験」(延長期間算定の起算基礎)において試験の用途対応性を要求するかという問題であった。
裁判所は、慢性特発性便秘症患者を対象とした臨床試験が「その対象に薬剤性便秘の患者を含まないとしても、なお本件処分Aに際して本件医薬品Aの品質、有効性及び安全性に関する事項の検証及び確認に供された資料」であることを「処分を受けるのに必要な試験」の根拠とした。
この判断は、「必要な試験」の概念を「特許発明の特定用途に対応した試験」として構造的に把握するのではなく、「当該処分の承認審査において品質・有効性・安全性の確認機能を果たした試験」として機能的に把握するものである。
この機能的把握は薬機法承認の実態と整合する。薬機法上、効能・効果の承認は必ずしも疾患区分ごとに個別の臨床試験を要求しているわけではなく、提出された試験資料全体を踏まえて品質・有効性・安全性が総合的に審査される。本件においても、慢性特発性便秘症患者対象の試験資料によって「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」全体(薬剤性便秘を含む)について承認がされたという審査実態がある。この実態を「必要な試験」の認定に反映させることは、延長制度の目的論(実施できなかった期間の回復)と整合的である。
原告の「用途対応性要件」論は、医薬用途発明における「実施」概念の狭義の把握(専ら論・ラベル論)と連動したものであり、この前提が崩れた以上(取消事由1の排斥)、用途対応性を「必要な試験」要件にも要求する根拠は自ずと弱体化したといえる。本判決の体系的一貫性はこの点にも表れている。
(4)後行承認型延長における延長期間算定:先行試験の承継的位置付け
本判決で特に実務上の注目を集めるのは、本件医薬品B(12μg製剤)の承認(本件処分B)について、本件医薬品A(24μg製剤)承認(本件処分A)時の臨床試験資料が「本件処分Bを受けるためにも必要な試験」であったと認定した点である。
本件医薬品Bは再審査期間中の本件医薬品Aの「剤形追加に係る医薬品」として扱われ、申請には生物学的同等性資料のみを添付すれば足りるとされた。これは、本件医薬品Aの有効性・安全性が既に確認されていることを前提として、本件医薬品Bについては生物学的同等性を示すことで足りるとする審査構造である。
裁判所は、この審査構造を正確に把握した上で、「本件医薬品Aの承認審査において参照された資料によりその品質、有効性及び安全性が確認されたことが前提とされ、これに加えて生物学的同等性に関する資料により、本件医薬品Bの品質、有効性及び安全性が確認されるという関係にあった」と認定し、先行試験(本件医薬品Aの臨床試験)を後行処分(本件処分B)に「必要な試験」と位置付けた。
この認定により、本件延長登録Bの延長期間(5年)の算定においては、本件医薬品B固有の生物学的同等性試験の開始日ではなく、本件医薬品Aの臨床試験開始日を始期とすることが正当化された。原告が主張するように生物学的同等性試験の開始日を始期とすれば、承認日までの期間は約1年11か月17日にとどまり、5年の延長は過大となる。本判決はこの主張を「取消事由3」として手続的に排斥したが、仮に実体判断がされるとすれば、先行試験(本件医薬品Aの臨床試験)から後行処分(本件処分B)への承継的位置付けによってこの問題を処理することになるだろう。
これは、OD錠の承認審査において、先行するカプセル剤に関する複数の臨床試験が実質的に評価資料として用いられていたことを踏まえ、それらの試験期間も「その特許発明の実施をすることができなかった期間」に含まれるべきであると認定したナルフラフィン事件判決(2025.07.30ブログ記事「2025.05.27 「沢井製薬 v. 東レ」 知財高裁令和6年(行ケ)10033 ― 特許権の延長登録期間が争われたナルフラフィン(レミッチ®OD錠)事件判決」参照)が示した「当該政令処分を受けるために必要であった試験」の認定を重視する枠組みとも整合的であり、後行承認型の延長登録における延長期間算定の実務指針として重要な意義を持つ。

今後の実務においては、剤形追加・用量追加・適応追加の各場面において、後行承認の審査構造(先行承認時の資料への依拠関係)の法的評価が延長期間算定の鍵となろう。
(5)承認内容の外形的・客観的確定:承認申請意図の不考慮
原告の「理由1-2」は、承認の内容を承認申請の意図・提出資料・審査経緯から実質的に解釈すべきとの立場に基づくものであった。この主張の背景には、医薬品承認が臨床試験の成績に基づいてされるべきものであり、試験がされていない効能・効果は承認の実質的内容に含まれないはずであるとの規範的直観がある。
裁判所は、承認の内容は「医薬品製造販売承認書及びこれが引用する医薬品製造販売承認申請書の記載に基づき、外形的、客観的に定められるべきであって」、申請意図や審査経緯を考慮すべきでないと明示した。この判断は、承認行政法上の整理(承認内容の確定は行政処分の外形的記載によるべきこと)と整合するものであり、承認書に記載された効能・効果の文言解釈は医学的知見に照らして客観的になされるとの立場を貫いたものといえる。
もっとも、この立場は、臨床試験を経ずに承認効能・効果に包含された疾患類型についても延長登録の成立を認めることになるという帰結をもたらす。このような延長登録状況が形成された場合に、侵害論においてどのように整理するかは、「外形的、客観的に定められるべき」承認の内容を前提に、延長制度の趣旨(実施不能期間の回復)と過度な延長による後発品参入阻害との衡量問題として、なお議論の余地がある。
(6)本判決のルビプロストン紛争群における位置付けと残された問題
本判決は、ルビプロストンをめぐる複合的な特許紛争群の一角を占める。関連する主要事件を俯瞰すると以下のとおりである。
ア.紛争構造の全体像
第一層として、本件(延長登録の成立・有効性)が扱われた。
第二層として、大阪地裁令和7年(ワ)10786号・10790号(令和8年3月3日判決:沢井製薬勝訴)(2026.04.01ブログ記事「2026.03.03 「ヴィアトリス製薬 v. 沢井製薬」 大阪地裁令和7年(ワ)10786, 10790 ― 後行延長特許権の効力は先行延長の対象医薬品に及ぶか(ルビプロストン事件)」参照)は、延長後の特許権の効力範囲が先行承認(本件処分A)に係る本件医薬品A(24μg製剤)に相当する後発医薬品に及ぶかを論じた。同大阪地裁判決は本件医薬品B(12μg製剤)の後行承認(本件処分B)に基づく延長後特許権の効力は先行承認対象医薬品(24μg製剤)そのもの(相当する後発医薬品)には及ばないと判断したが、この判断は控訴審でさらに争われる可能性がある。

第三層として、知財高裁令和7年(行ケ)10055号(係属中)は本件特許の訂正可否を含む無効審判事件であり、その訂正が確定すれば本件の判断基礎にも影響し得る。
イ.残された問題
① 大阪地裁判決との整合性
本判決は延長登録B(本件処分B(12μg承認)に基づく5年延長)を有効と認めたが、大阪地裁は同延長登録による特許権の効力が24μg後発医薬品に及ばないと判断した。この結論は論理的に矛盾しないが(延長登録は有効だが効力が及ぶ範囲が限定される)、両判決を総合した場合に延長登録Bが実質的に保護できる行為の範囲がいかなるものかについては、より精緻な検討が必要である。
② 「重複論」の侵害論への波及の可否
前述のとおり、本判決が明示的に留保した問題であるが、今後の侵害訴訟における被告側の「重複しない部分」の主張との整合性がいかに処理されるかは引き続き注目される。
③ 訂正未確定の問題
本件特許について進行中の訂正審判(令和7年(行ケ)10055号)の帰趨によっては、「本件発明」の内容が変化し得る。訂正が確定した場合の本判決の射程については、改めて整理が必要となる。
④ 後発医薬品参入阻害の問題
本判決の論理に従えば、臨床試験の対象としていない疾患類型(本件では薬剤性便秘)を包含する広い承認効能・効果で承認を取得した場合、当該疾患類型に係る用途発明についても延長登録が認められることになる。これは、先発メーカー側から見れば製品保護を目的とした正当な活動であるが、後発医薬品の参入を広範に遅延させ得る効果を持つという観点から後発品メーカーおよびジェネリック政策の立場からは懸念が示される可能性がある。この問題は、新薬創出の産業政策及び後発医薬品振興政策の均衡という制度設計論の問いとして、立法論・解釈論の両面から検討されるべきであろう。
本判決は、医薬用途発明と延長登録制度の交錯領域において蓄積されつつある判例法理の重要な一断面を示すものである。特に、「実施」概念を「重複論」により整理し、また「処分に必要な試験」を承認審査との機能的関連性から把握した点は、今後の延長登録実務及び理論的議論に少なからぬ影響を与えるものと思われる。
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