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2009.10.08 「大阪大学 v. バイオメディクス」 大阪地裁(本訴)平成19年(ワ)8449/(反訴)平成19年(ワ)14328

抗体の発明者適格: 大阪地裁(本訴)平成19年(ワ)8449/(反訴)平成19年(ワ)14328

【背景】

原告(大阪大学)と被告(バイオメディクス)との共同研究(後に被告が共同研究通知を通知)の成果から出願された「抗CD20モノクローナル抗体」に関する被告出願は、別途原告出願に対して先願の地位を有しないことの確認を原告が請求するとともに、該被告出願について原告は特許を受ける権利の共有持分を有することの確認等を請求した。

【要旨】

先願たる地位の不存在確認請求に関しては確認の利益がなく不適法とされたが、特許を受ける権利の共有持分に係る確認請求は共有持分3分の2の限度において理由があるとされた。以下、本件発明の発明者及び寄与の割合(争点(3))について裁判所の判断の一部を抜粋する。

「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(同法70条1項)。したがって,発明者(共同発明者)とは,特許請求の範囲の記載から認められる技術的思想について,その創作行為に現実に加担した者ということになる。また,現実に加担することが必要であるから,具体的着想を示さずに,当該創作行為について,単なるアイデアや研究テーマを与えたり,補助,助言,資金の提供,命令を下すなどの行為をしたのみでは,発明者ということはできない。

裁判所は、上記のとおり発明者(共同発明者)の適格性の一般原則について言及し、本件について下記のように検討した。

1. 技術的思想の創作行為部分

  • マウス抗体

本件発明に係る一連の創作過程は本件マウス抗体の取得により始まるものであり,本件マウス抗体は,本件発明に係る技術的思想の実現に不可欠なものといえる。したがって,本件マウス抗体の作製は,本件発明の創作行為の中核部分と認められる。

  • キメラ抗体

キメラ化の作業そのものは,被告出願3当時,既にルーティン作業の1つであったと考えられる。したがって,本件マウス抗体をキメラ化した抗体の作製だけでは,本件発明の創作行為とは認められない。

  • ヒト化抗体

ヒト化抗体は,キメラ抗体と同様,そのオリジナルはマウス抗体である。しかしながら,ヒト化の作業は,本件でもわざわざMにデザインを依頼しているように,高度な技術が必要なものであったといえる。したがって,実際にデザイン・作製がされ,実施例となった1K1791のヒト化抗体の作製は,本件発明の創作行為の中核部分と認められる。

以上のとおりであるから,本件において発明者性を検討すべき創作行為は,本件マウス抗体(キメラ化候補抗体)の作製と,マウス抗体1K1791のヒト化抗体の作製であるということになる。

2. 創作行為への現実的な加担

  • マウス抗体について

本件のような抗体発明においては,上記のような抗体の取得に向けた作業の方向性の示唆,有望な抗体を選抜するための測定方法の工夫や,選抜基準の設定などが重要となってくるのであり,これらの行為の方が,創作行為への現実的な加担といえる行為としては,直接的な貢献であるとはいえ幸運によるところが大きい抗体の取得そのもの(これがGにより行われたことは争いがない。)よりも,貢献度が高いというべきである。

  • ヒト化抗体について

ヒト化抗体は,マウス抗体の遺伝子を組み換えたものであるから,当該マウス抗体の取得及び選抜と,前記イ(イ)のとおり高度な技術が要求されるデザインは,創作行為といえる。他方,ヒト化抗体の作製作業(遺伝子組換作業)そのものは,デザインを実現する作業であって,創作行為とは認めがたい。

3. 本件共同研究の過程において各人が果たした役割

  • マウス抗体について

(ア) 抗体作製

Bの指摘に基づき,抗原としてCD20/CHO細胞を用いられるようになって以降,本件マウス抗体を含む,CD20結合性を有するマウス抗体が多く得られるようになったものである。したがって,Bの示唆した作業の方向性は,本件発明に寄与したといえる。~確かに,多種多様な抗原での免疫を試みることは,免疫作業にあたり一般的に行われるであろう範囲の工夫といえるし,CD20/CHO細胞の使用自体も,とりたてて目新しいものではない。しかしながら,本件では,上記のとおりCD20/CHO細胞の使用が貢献したことは明白であり,これを現実的な加担として評価できるのであって,工夫の程度は,貢献の割合において考慮すべき事情というべきである。

Gは,具体的な免疫条件の下で作業を行い,本件マウス抗体を取得したのであり,これは直接的な貢献といえる。~しかしながら,免疫条件の選択・組み合わせについて試行錯誤を試みることは,免疫作業にあたり一般的に行われるであろう範囲の工夫といえるから,Gの寄与のみを大きく評価することはできない。

CによるCD20/CHO細胞の作製は,Bの発案を定型的な作業により実現したに過ぎないといえ,創作性のある行為とは認められない。

(イ) スクリーニング

(Gによる)Cell ELISAによるスクリーニングは,公知の方法によるものであって,一般的には,創作行為であるとはいいがたい。

(ウ) 本件マウス抗体の選抜

本件発明の中核部分を構成するマウス抗体は本件マウス抗体のみであるから,その選抜は創作行為であるといえる。~蛍光遠心法による結合親和性の測定は,本件共同研究にあたってBが新たに開発・提案したものであるし,RI標識法による解離定数測定が不奏効であった本件においては,これに替わる解離定数測定方法として,重要な工夫であったといえる。

  • ヒト化抗体について

(ア) ヒト化する抗体の選抜

ヒト化する抗体の選抜についても,キメラ化候補抗体の選抜と同様,Bの開発した蛍光遠心法による結合親和性測定が寄与したということができる。

(イ) デザイン

ヒト化のデザインについては,普遍的なデザインが存在するわけではなく,適切なデザインを行うために試行錯誤が必要な,創作性を要する作業であったと考えられる。

(ウ) 測定

ヒト化抗体については,マウス抗体段階では測定できないCDC活性やADCC活性を測定することが重要であるが,作製された抗体を既知の方法で測定することは,誰が行っても同じ結果が得られる定型的な作業に過ぎないといえる。

本件発明に係るB,G,M の寄与を,本件発明全体に占める貢献度の割合として算定すれば,本件発明に係る特許を受ける権利の共有持分は,原告が3分の2,被告が3分の1と認める。

【コメント】

抗CD20抗体医薬品であるリツキサンの問題点を克服するヒト化抗体の開発を試みていた共同研究であり、共同研究中止後の発明の取扱いがこじれた事案。

寄与の割合の算出はさておき、抗体発明の発明者(共同発明者)適格について、具体的に検討しているので参考になる。本件は抗体の発明ではあるものの、本件で検討された内容は有効成分が化合物である発明の発明者適格についてもかなり参考にできるのではないだろうか。

Wikipedia: Rituximab

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