Nov 18, 2018

2018.10.30 「スリー・ディー・マトリックス v. MIT・バーシテック」 知財高裁平成29年(行ケ)10158

"単純なものであったとしても,創作能力の発現が必要というべき": 知財高裁平成29年(行ケ)10158

【背景】

被告(MIT及びバーシテック)が保有する「止血および他の生理学的活性を促進するための組成物および方法」に関する特許(第5204646号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800082号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
必要部位において,出血を抑制するための処方物であって,該処方物は,自己集合性ペプチドを含み,ここで,該自己集合性ペプチドが,アミノ酸配列RADARADARADARADA(配列番号1)に示す1つの反復サブユニットもしくは複数の反復サブユニットからなるか,またはその混合物からなり,該自己集合性ペプチドのみが,該処方物における自己集合性ペプチドである,処方物。
引用例1ないし3は、ペプチドのバイオマテリアル製品「PuraMatrix」(本件製品)を紹介するために設けられた原告関連のウェブページであり、RADARADARADARADAのとおり配列された物質を「RADA16」と略す。

【要旨】

裁判所は、当業者は、引用発明及び引用例により利用可能となった事項から、周知技術を参酌しても、本件発明1を容易に発明をすることができないとして、原告の請求を棄却した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「止血作用を有する成分として,RADA16のみで構成される自己集合性ペプチドしか特定されていないから,・・・本件発明1に係る処方物は,RADA16のみを有効成分とする止血剤と解するのが自然であって,本件明細書においても,本件発明1に係る処方物について,自己集合性ペプチドのみが出血を抑制するために機能する旨説明されている。よって,本件発明1に係る処方物は,RADA16のみが有効成分となって出血を抑制する処方物ということができる。

・・・当業者には,引用例1に開示された引用発明である「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」に,引用例2及び3により利用可能となった事項を適用する動機付けがある。・・・そうすると,当業者は,引用発明並びに引用例2及び3により利用可能となった事項に基づいて,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」を,何らかの方法により用いれば止血作用が発揮されることを理解することができる。

・・・しかし,・・・引用例1ないし3の記載からは,他の成分を加えることなくRADA16のみが短時間でゲル化し,止血剤として機能することまで理解できるものではない。そうすると,当業者は,引用例1ないし3の記載に基づいて,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」において,RADA16のみが有効成分になって,止血作用を有することまで理解できるものではない。

・・・したがって,引用例1ないし3の記載のみに基づいた場合,当業者は,引用発明並びに引用例2及び3により利用可能となった事項から,本件発明1を容易に発明をすることができないというべきである。

・・・ゲル生成による止血剤に関する周知技術を参酌しても,当業者は,引用発明に係る止血剤について,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」において,RADA16のみが有効成分になって,止血作用を有することまで理解できるものではない。よって,当業者は,優先日当時における周知技術を参酌しても,引用発明並びに引用例2及び3により利用可能となった事項から,本件発明1を容易に発明をすることができないというべきである。

・・・原告は,引用発明をそのまま止血に用いる試験さえすれば,本件製品に止血効果があることを確認できる旨主張するものと解される。しかし,前記イ(ウ)bのとおり,当業者は,引用例1ないし3の記載に基づいても,RADA16が何らかの方法により止血作用を発揮するということを理解できるにとどまる。そのようなRADA16の使用方法として,そのまま出血部位に適用することは,たとえそれが単純なものであったとしても,創作能力の発現が必要というべきであって,容易に想到できるものではない。」

【コメント】

引用発明である成分Aが引用例等の記載(本件ではいわゆる「一行記載」に当たると思われる)との動機づけから用途Bとして応用できると理解できたとしても、それら引用発明及び引用例等の記載からでは成分Aが有効成分/不活性担体として含まれるのかどうか等の組成や使用方法を含めどのようにして用途Bに使用し得るのかについてまで理解できない、ということで本件特許発明(成分Aのみを有効成分とする用途B)の進歩性が認められた事件。

無効理由のために挙げられた引用例はいずれも原告スリー・ディー・マトリックス インク(3-D Matrix Inc.)関連の製品を紹介する過去のウェブページ(Wayback Machineによるウェブ・アーカイブ)であった。ウェブ・アーカイブの証拠能力については争われなかった。過去、ウェブ・アーカイブの証拠能力について争点となった判決としては、例えば、2007.03.26 「イングリッシュタウン v. エイゴタウン」 知財高裁平成18年(行ケ)10358がある。

3-D Matrix Inc.は(株)スリー・ディー・マトリックス(3-D Matrix, Ltd.)の子会社である。3-D Matrix, Ltd.のwebpage及び2018年06月14日付の平成30年4月期 決算短信[日本基準](連結)によると、1992年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT。本件被告)のShuguang Zhang博士によって発見された自己組織化ペプチド基盤技術にかかる基本特許群につき、3-D Matrix Inc.がMITより専用実施権(再許諾権付)の許諾を受け、3-D Matrix, Ltd.が3-D Matrix Inc.より実施権の再許諾を受けているとのこと。そして、3-D Matrix, Ltd.は、MITを権利者とする自己組織化ペプチド特許(出願国:米国)について、自己組織化ペプチド応用技術に係るMIT出身研究者により設立されたバイオベンチャー企業であるARCH Therapeutics, Inc.と、非独占的なサブライセンス契約を締結していた(同決算短信時点では競合するおそれは低いものと考えているとのこと)。

一方、そのARCH Therapeutics, Inc.の2016年12月5日付(FORM 10-K)Annual report pursuant to Section 13 and 15(d)によると、
"We have also entered into a license agreement with MIT pursuant to which we have been granted exclusive rights under one portfolio of patents and non-exclusive rights under another portfolio of patents. The portfolio exclusively licensed from MIT and Versitech Limited (“MIT”) includes fifteen patents that have been either allowed, issued or granted and seven applications that are pending in nine jurisdictions.....A complaint for an invalidation trial has been filed by a competitor against one of our licensed MIT Japanese patents. The corresponding European patent licensed by Arch from MIT was recently opposed, but was maintained in amended form following an administrative hearing. This decision has been appealed."
とあることから、本件特許(MITとVersitech Limitedが保有)が上記"one of our licensed MIT Japanese patents"に該当すると考えられる。

上記のとおり、3-D Matrix, Ltd.は、ARCH Therapeutics, Inc.と非独占的なサブライセンス契約を締結しているとのことではあるが、本事件において、3-D Matrix Inc.(原告)が、ARCH Therapeutics, Inc.にライセンスされていると思われるMITとVersitech Limited(被告)が保有する本件特許(Shuguang Zhang博士が発明者の一人)の無効審判を請求したことから、原告(3-D Matrix)サイドは関連製品のFTOとして(または許諾契約関係として)本件特許の存在を懸念していると想像され、被告サイド(MIT、Versitech Limited、ARCH Therapeutics, Inc.)との上記関係のどこかに問題が生じているのかもしれないと想像される。

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