2020.08.05 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁令和元年(行ケ)10082; 10084

炭酸ガスの効能を利用したフェイス用パック剤、いわゆる「炭酸ガスパック」を巡る、株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ(以下メディオン)とネオケミア株式会社(以下ネオケミア)との特許係争において、2020年8月5日に二つの知財高裁判決(知財高裁令和元年(行ケ)10082; 10084)が出された。これまで特許権者であるメディオンが、被告ネオケミアに対する特許侵害訴訟においても勝訴、ネオケミアにより請求された特許無効審判・審決取消訴訟においても勝訴しており、知財高裁で争われていた今回の審決取消訴訟もメディオンが勝訴判決を得た。

以下に、今回の二つの知財高裁判決の要旨とともに、まとめとして、メディオンとネオケミアの先後願関係、発明者の関係、これまでの両社の特許係争結果を記す。

1.令和元年(行ケ)10082号審決取消請求事件

メディオンが保有する「二酸化炭素含有粘性組成物」に関する特許4659980の無効審判請求不成立審決(無効2018-800053)に対してネオケミア(原告)が取消しを求めて訴訟を提起した。

争点は進歩性の判断であり、裁判所は、審決の判断に誤りはないとして、メディオン(原告)の請求を棄却(特許権者メディオンが勝訴)した。

特許4659980の請求項1

引用発明(甲1発明)

部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される

皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与える(相違点1-2)

二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,

1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は

2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウム

を含有する含水粘性組成物の組み合わせからなり,

炭酸塩を含有する含水粘性組成物と,酸を含む剤の組み合わせからなり,(一致点)

炭酸塩がポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が含水粘性組成物に含まれる(相違点1-1)

含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,

含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。

以下、判決文(裁判所の判断)の引用。

甲1に接した当業者は,甲1発明において,二酸化炭素の経皮吸収の効率性の向上のため,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持させ,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高める必要性があるものと認識するものとはいえないから,甲1発明のA剤に含まれる,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」であるポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースを,二酸化炭素の経皮吸収の効率性を向上させるための増粘剤としてアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けがあるものと認めることはできないし,また,上記置換をすることが当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認めることはできない。・・・以上のとおり,本件審決における相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」の構成の容易想到性の判断に誤りはない。

2.令和元年(行ケ)10084号審決取消請求事件

メディオンが保有する「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」に関する特許5643872の無効審判請求不成立審決(無効2018-800055)に対してネオケミア(原告)が取消しを求めて訴訟を提起した。

争点は進歩性の判断であり、裁判所は、審決の判断に誤りはないとして、メディオン(原告)の請求を棄却(特許権者メディオンが勝訴)した。

特許5643872の請求項1

引用発明(甲1発明)

気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって,

水及び増粘剤を含む粘性組成物

と,

を含む

炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤と

を含み,

前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が,前記粘性組成物と,前記複合

顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤とを混合することにより得られ,

炭酸水素ナトリウム」,「水」及び「ポリビニルアルコール」,「カルボキシルメチルセルロースナトリウム」を含む「A剤」と,

「酒石酸」,「水」及び「ポリビニルアルコール」を含む「B剤」とからなり,

両者を混合することにより得られ,(相違点1-1)

前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中の前記増粘剤の含有量が

1~15質量%である,

21.8質量%である,(相違点1-2)

キット。

以下、判決文(裁判所の判断)の引用。

甲1に接した当業者は,上記記載から,甲1発明のパック剤は,「短時間で」優れた血行促進作用を示し,適用部位に不快な刺激感を与えず,肌にしっとり感を与えることに技術的意義があるものと理解するから,甲1発明において,二酸化炭素が短時間で空気中に発散してしまうという問題点を解消するために酸と炭酸塩との反応を遅延させる必要があるものと認識するものとまで認めることはできない。
また,甲1発明の上記技術的意義に照らすと,甲1に接した当業者が,甲1発明においても,炭酸ガスを高濃度で「長時間」保持することができ,血行促進効果の持続性が高い薬用化粧料を提供することが課題であると認識するものと認めることはできない。
以上によれば,甲1に接した当業者は,甲1発明において,A剤を炭酸塩を含有する含水粘性組成物とし,B剤を炭酸塩と酸から構成される複合顆粒とする構成(相違点1-1に係る本件発明1の構成)とする動機付けがあるものと認めることはできないから,甲1及び本件出願当時の技術常識に基づいて上記構成を容易に想到することができたものと認められない旨判断した本件審決の判断に誤りはない。

3.炭酸ガスパックを巡るメディオンとメオケミアの動き

メディオンとネオケミアの出願件数変化と両社の動きを下図にまとめた。

ネオケミアは、出願件数としてはメディオンに勝るものの、最先の出願は2001年からであり、先駆性という点ではメディオンよりも後発である。現に、ネオケミアの製品を保護することとなる2002年出願(特許4248878、特許4130181、特許4589432)の審査では先願であるメディオンの1998年出願または1999年出願を引例として進歩性が問われた。そして、ネオケミアの2001年から2004年にかけての出願の多くはメディオンの同じ2つの出願を引例として拒絶理由が発せられている。

ネオケミア知的財産経営報告書2005より

メディオンの1998年出願が2011年に登録(特許4659980)、分割出願が2012年に登録(特許4912492)となり、メディオンは2015年にネオケミアのエコツージェルイーエックス等の製造販売行為等に対し特許侵害訴訟を提起することになるわけだが、再三、拒絶理由の引例となっていた競合会社メディオンの1998年出願の存在をネオケミアは知っていたはずであり、製品販売を開始する前に、メディオン1998年出願等に対してどのようなクリアランスを検討されていたのか気になるところである。

結局、ネオケミアによる侵害訴訟での特許無効の抗弁や無効審判請求は成功しなかったが、ネオケミアも特許異議申立又は特許無効審判請求に早期に着手して将来リスクの早期解決に向け動くとか、製品変更等で特許回避を早期に図るとか、または、発明者どうしが以前は共同して開発していたようであることから(下記「4.発明者の関係」参照)上手く和解できなかったのかな・・・と思うところである。

J-PlatPatで出願人から検索し、原出願のみ抽出、検索日2020.09.09

4.発明者の関係

特許係争の中心となったメディオンの1998年出願の特許4659980及び特許4912492、並びに1999年出願の特許5643872の発明者は二人。一人は、日置正人氏であり、メディオンのウェブページにも炭酸パックの発明者であると紹介されてている。もう一人は、ネオケミアの代表取締役である田中雅也氏。すなわち、メディオンに特許を受ける権利を譲渡した発明者である田中氏が、数年後にネオケミアを設立し(2001年5月)、その後、メディオンに譲渡したその発明に係る特許権を侵害しているとしてメディオンから訴えられた・・・という経緯である。

そんな経緯であれば、何だかきな臭い感じであるが、その予感通り、メディオンによるこれら特許4659980及び特許4912492に係る出願は、冒認あるいは共同出願違反であるから、本件特許は法123条1項6号あるいは同2号(法38条規定違反)に該当すると主張して原田氏(個人)から無効審判が請求されていた(無効2017-800118、無効2017-800111)。

請求人の代理人弁護士がネオケミアの代理人と同じであることや、請求人から田中氏作成の陳述書が証拠として提出されたことを踏まえると、これら無効審判はネオケミアが企てたものであろう。

審判合議体は、いずれの審判も請求人適格を有しない者により請求されたものと判断し、審判の請求を却下している(以下、審判合議体の判断の引用)。

含水粘性組成物を二酸化炭素保持の目的で利用するとの着想の主体が田中か日置か明らかではないが,田中がカネボウフーズの食品研究所を訪ねた時点で既に上記着想は得られていたものと認められる。この点,原田がかかる着想を得るのに現実に関与したことを認めるに足りる証拠は見当たらず,その後の創作活動において,原田が単なる補助者としての地位にとどまらず,共同発明者として田中や日置と一体的・連続的な協力関係の下に相応の貢献をしたといえるだけの具体的かつ客観的な事情の存在が裏付けられているとも認められない。例えば,田中の研究企画部当時の上司であった吉田は,本件審判での証人尋問において,原田の実験内容については知らなかったと証言しているし,原田自身も,本件審判の当事者尋問において,田中より,カネボウフーズの食品研究所を訪ねた後の時点で,アルギン酸ナトリウムを増粘剤として用いたジェルを使った外用剤を開発して欲しいとの依頼があった旨証言している。そうすると,原田は,本件発明の特徴的部分(含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点)の創作に現実に関与したということはできず,よって原田は本件発明の発明者であるとはいえない。・・・以上検討のとおり,請求人である原田は本件発明の発明者ということはできないから,特許を受ける権利を有する者であると認めることができない。そうすると,本件特許が法123条1項6号あるいは同2号(法38条規定違反)に該当することを無効理由として請求された本件審判において,請求人は請求人適格を有するとはいえず,本件審判の請求は,法123条2項の要件を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。

5.メディオンとネオケミアとの特許係争まとめ

これまでのメディオンとネオケミアとの特許係争結果一覧をまとめた。各特許権の存続期間は満了している。特許権侵害訴訟判決(2019.06.07 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(ネ)10063)では、特許法102条2項・3項(損害の額の推定)についての知財高裁大合議判決の当事者として名を残すこととなった。

メディオン特許

ネオケミア等による無効審判

ネオケミアによる審決取消訴訟

ネオケミア等に対する特許権侵害訴訟(知財高裁判断)

4659980

(2018.10.05満了)

・無効2017-800095・・・進歩性欠如等主張するも請求不成立審決(右記審決取消訴訟へ)

・無効2018-800053・・・進歩性欠如等主張するも請求不成立審決(右記審決取消訴訟へ)

・2019.07.02 無効2017-800118・・・冒認あるいは共同出願違反を主張するも請求人不適格により請求却下

2019.02.04 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(行ケ)10054・・・請求棄却

・2020.08.05 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁令和元年(行ケ)10082・・・請求棄却(本事件)

2019.06.07 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(ネ)10063・・・ネオケミア等による控訴棄却

4912492

(2018.10.05満了)

・無効2017-800050・・・進歩性欠如等主張するも請求不成立審決(右記審決取消訴訟へ)

・無効2018-800054・・・進歩性欠如等主張するも請求不成立審決(右記審決取消訴訟へ)

・2019.07.02 無効2017-800111・・・冒認あるいは共同出願違反を主張するも請求人不適格により請求却下

2020.02.18 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁令和元年(行ケ)10083・・・請求棄却

2019.02.04 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(行ケ)10033・・・請求棄却

2019.06.07 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(ネ)10063・・・ネオケミア等による控訴棄却

5643872

(2019.05.06満了)

・無効2018-800055・・・進歩性欠如等主張するも請求不成立審決(右記審決取消訴訟へ)

・2020.08.05 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁令和元年(行ケ)10084・・・請求棄却(本事件)

 

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