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2020.12.24 「大塚製薬工場 v. エイワイファーマ・陽進堂」 東京地裁平成30年(ワ)29802

東京地裁は、大塚製薬工場とエイワイファーマ・陽進堂との間で争われていた高カロリー輸液製剤に関する特許権侵害差止請求事件において、エイワイファーマが製造販売する「ワンパル®1号輸液/ワンパル®2号輸液」は大塚製薬工場の「エルネオパ®NF1号輸液/エルネオパ®NF2号輸液」を保護する特許権を侵害する旨主張した大塚製薬工場の請求を棄却した。

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1.事案の概要

本件(東京地裁平成30年(ワ)29802)は、「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」に関する特許発明についての特許権(特許第4171216号)を有する原告(大塚製薬工場)が、輸液製剤の製造販売業者である被告ら(エイワイファーマ及び陽進堂)に対し、被告らが、上記特許発明の技術的範囲に属する輸液製剤を製造ないし販売し(直接侵害)、又は、上記特許発明の技術的範囲に属する輸液製剤の保存安定化方法を使用し(直接侵害)、若しくは、その保存安定化方法にのみ使用する輸液製剤を製造ないし販売し(間接侵害)、もって原告の特許権を侵害していると主張して、特許法100条1項及び2項に基づき、当該輸液製剤の製造販売等の差止め及びその廃棄を求めた事案である。

本件特許(第4171216号)については、エイワイファーマによる無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟で、裁判所がエイワイファーマの請求を棄却しており(2020.08.26 「エイワイファーマ v. 大塚製薬工場」 知財高裁令和元年(行ケ)10155)、その後、上告及び上告受理申立てがなされたが、上告棄却、上告不受理となったため、本件侵害訴訟の行方が注目されていた。

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2.原告の特許権について

本特許(第4171216号)について本件発明1(請求項1)を構成要件に分説すると次のとおりとなる。

本件発明1
1A外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,
1Bその一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,
1C他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,
1D微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
1Eことを特徴とする輸液製剤。
特許第4171216号 図面より。
符号6: 微量金属元素収容容器

本特許発明は、大塚製薬工場が製造販売する高カロリー輸液用 糖・電解質・アミノ酸・総合ビタミン・微量元素液「エルネオパ®NF1号輸液」および「エルネオパ®NF2号輸液」を保護する技術である。

本剤は上室、小室 V、小室 T、下室の 4 室を有し、ブドウ糖、アミノ酸、電解質、ビタミン及び微量元素を含む注射液で、小室T液(赤褐色澄明の液)には、微量金属元素(塩化第二鉄水和物、塩化マンガン水和物、硫酸亜鉛水和物、硫酸銅水和物)を含有する。

エルネオパ®NF1号輸液(大塚製薬工場ウエブサイトより)
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3.被告製品について

被告製品は、エイワイファーマが製造販売し、陽進堂が販売する、高カロリー輸液用 糖・電解質・アミノ酸・ビタミン・微量元素液「ワンパル®1号輸液」および「ワンパル®2号輸液」である。

ワンパル®1号輸液/ワンパル®2号輸液においては、小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋に、微量金属元素である鉄、マンガン及び銅を含む液が充填されており、その袋が小室Tの外側の樹脂フィルム2枚で覆われている(下図参照)。

ワンパル®輸液は、「2018年度グッドデザイン賞」を受賞している(2019.03.20 エイワイファーマ press release: ワンパル®輸液が「2018年度グッドデザイン賞」を受賞)。

ワンパル®1号輸液/ワンパル®2号輸液添付文書(9. 適用上の注意(1)調製方法)より
ワンパル®1号輸液(陽進堂ウエブサイトより)

原告は、小室Tの外側の樹脂フィルム2枚が構成要件1Cの「室」を形成しているとの理解を前提に、その中に、「微量金属元素収容容器」である内側の樹脂フィルムで形成された袋が収納されているから、被告製品は「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を備えている等主張した。

被告製品の小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の空間が本件発明1における構成要件1Cの「室」に当たるかどうかが、裁判所の判断の決め手となった。

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4.裁判所の判断

裁判所は、被告製品及び被告方法は、構成要件1C等の「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備せず、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められないから、原告の請求は理由がないと判断し、棄却した。

被告製品及び被告方法は構成要件1Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を備えるかについて、裁判所の判断を以下に抜粋する。

・・・本件各発明は・・・他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するという効果を奏するようにしたものであるというべきである。

そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではなく,同室と連通可能な他の室に収納するという構成を採用したところにあるものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」については,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構成が採用されたものということができる。

すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」・・・は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその一室である構成要件1C・・・の「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。

・・・そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると・・・小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部において内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離しないと認められる。

そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。

したがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C・・・の「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。

以上によれば,被告製品及び被告方法は,本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められないといわなければならない。

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5.コメント

特許法第70条は、

特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

と規定している。

そして、同条第2項は、

前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。

と規定している。

裁判所は、明細書の記載から、本件発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成はどんな構成を採用したところにあるものというべきか、そして、「室」はどのような技術的構成が採用されたものということができるか、すなわち、「室」に当たるためにどのような構造を備えていることを要すると解するのが相当であるか、を検討することにより、特許請求の範囲に記載された用語「室」の意義を解釈したうえで、被告製品ないし被告方法がその解釈された「室」の構造を具備すると認められるかどうかを判断した。

被告製品も、連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、微量金属元素溶液と、含硫アミノ酸を含有する溶液とを、別々の室に収容することにより、微量金属元素溶液が安定であるというコンセプトとしては、本件発明と共通しているように思われ、大塚製薬工場にとっては本件発明における特許請求の範囲を作成する際に工夫できなかったかと悔やまれる事案かもしれない。

原告が、小室Tの外側の樹脂フィルム2枚が構成要件1Cの「室」を形成しているとの理解を前提に、主張を展開したため、「室」の意義が焦点となったが、むしろ「他の室に・・・微量金属元素収容容器が収納」の解釈として、微量金属元素溶液が容器に収容されているかどうかは非本質的部分(「他の室に・・・微量金属元素溶液が収納」されていることが本質)であって、収容容器がなくとも含硫化合物を含む溶液を含む室とは別の室に収容されていれば微量金属元素の安定化という目的も達成できる等、均等論を主張する(すなわち、ここでの「室」は小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋となる)ことも一案だったかもしれない。

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