ノーベル賞有力候補 結晶スポンジ法(藤田誠氏ら)の特許

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特許第5969616号 図7より

「結晶スポンジ法」は、東京大学卓越教授の藤田誠氏らが見いだした革新的な構造解析方法。製薬企業で創薬に関わっている者に知らない人はいません(たぶん)。

これまでのX線結晶構造解析では目的化合物である分子の結晶を得ることが必要とされており、構造を解析するにはその結晶化が最大の問題でした。

しかし、結晶スポンジ法は、結晶化を必要とせず、しかも極微量で、目的化合物の構造を解明することができる方法です。

金属イオン(例えば、亜鉛(II)イオン)とある種の有機化合物(例えば、2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT))が、自己組織化によって3次元的な格子状の結晶を作ることを見出していた藤田氏らは、目的化合物の溶液にこの結晶を浸すとその化合物が結晶の内部の空間に吸収され一定の配置に並ぶこと、これをX線結晶解析することによって目的化合物の構造を解明できることを発見しました(Nature volume 495, pages461–466 (2013)にて2013年3月27日に発表)。

結晶スポンジ法は、迅速かつ微量で分子の構造を解析できるという革命を起こしただけでなく、その構造解析によって解明される分子に関わる多くの研究分野への応用にも広がることから、世界が注目することとなりました。巷では、「藤田氏は将来ノーベル賞を受賞するのでは」ともいわれています。

藤田氏が発明者であって、結晶スポンジ法に関連すると考えられる日本特許(2010年以降に出願され、登録に至り、現在も存続している特許に限る)を以下の表に示しました。

No.特許番号出願日発明の名称優先権主張番号
(優先日)
権利者備考
169250502018.02.28分子構造の特定方法・2017-38739
(2017.03.01)
国立大学法人 東京大学・日で特許登録。
266283012015.03.10多孔性化合物の単結晶の良否判別方法、解析対象化合物を含む溶液の調製方法、結晶構造解析用試料の作製方法、及び解析対象化合物の分子構造決定方法国立大学法人 東京大学・日米で特許登録。
366075942015.03.04細孔性高分子化合物、分離対象化合物の分離方法、単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、解析対象化合物の分子構造決定方法、及びキラル化合物の絶対配置の決定方法国立大学法人 東京大学・日米欧で特許登録。
465346682015.07.30回折データの解析方法、コンピュータプログラム及び記録媒体・2014-156626
(2014.07.31)
国立研究開発法人科学技術振興機構・日米で特許登録。
561646262015.03.09結晶構造解析用試料の作製方法、キラル化合物の絶対配置の決定方法、及び多核金属錯体の単結晶・2014-46706
(2014.03.10)
国立大学法人 東京大学・日米欧で特許登録。
659696162013.03.07ゲスト化合物内包高分子金属錯体結晶、その製造方法、結晶構造解析用試料の作製方法、及び有機化合物の分子構造決定方法・2012-197911
(2012.9.7)
・2012-270199
(2012.12.11)
独立行政法人科学技術振興機構・出願日はNature誌での公表日直前。
・日米欧で特許登録。
756489632010.11.19細孔性ネットワーク錯体、ゲスト分子内包ネットワーク錯体、及びゲスト分子の分離方法・2009-265505
(2009.11.20)
国立大学法人 東京大学・日本のみ。

上記の特許群のうち、最も重要な特許は、2013年のNature誌公表直前の2013年3月7日を出願日とする特許第5969616号であると考えられます。

また、直近では、発明の名称を「極性基を有する親水性有機化合物の結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料調製方法」とする味の素(株)と東京大学(発明者として藤田氏)との共同出願が公開されており(特開2019-172593)、以下のとおり、結晶スポンジ法に存在していた課題を解決する発明をした旨を述べています。

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、結晶スポンジ法では、高分子金属錯体の空隙に入れることができない化合物の構造を決定することができないという問題があった。例えば、空隙よりも大きな化合物は空隙に入れることができず、また、高分子金属錯体の構成成分が親油性のため、親水性の高い化合物も空隙に入れることができない。
【0007】
本発明の課題は、親水性有機化合物の分子構造を結晶スポンジ法により解析するための試料調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、親水性有機化合物の極性基に対して疎水性置換基を導入することにより、有機化合物を高分子金属錯体の空隙内に内包させることができることを見出し、本発明を完成するに到った。

藤田氏が発明者に含まれていませんが、キリンホールディングス株式会社を出願人とする以下の結晶スポンジ法に関する出願が最近では公開されています。

  • 発明の名称を「多成分試料における物質の構造決定方法」とする特許出願(特開2021-144045
  • 発明の名称を「結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法」とする特許出願(特開2021-089263
  • 発明の名称を「求核基を有する化合物の結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法」とする特許出願(特開2021-081369

2021年9月10日の日本経済新聞の記事「ノーベル賞候補 ビールの味も制御「結晶スポンジ法」」には、キリンホールディングス株式会社での結晶スポンジ法の活用に関する内容が掲載されています。

結晶スポンジ法のさらなる発展により、これまで微量過ぎて構造決定できなかった様々な分子の構造が次々と解明されれば、さらにそのような分子を用いた様々な応用への研究が進んでいくでしょう。

近い将来、極微量で構造も特定できていなかった「匂い」や「味」の分子や、微量過ぎて存在すら知られていなかった様々な生体内分子や天然物分子は、それらを検知し微量でも取り出すことさえできれば、構造を解明することが可能かもしれず、食品分野での応用や新しい創薬の出発点となる可能性を秘めていると思われます。

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