Jan 16, 2019

2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225

リーチスルー抗体クレームについての進歩性・サポート要件・実施可能要件の判断: 知財高裁平成29年(行ケ)10225

【背景】

被告(アムジェン)が保有する「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許(第5705288号)に対する無効審判請求不成立審決(無効2016-800004号)を不服として、原告(サノフィ)が審決取消訴訟を提起した事案。争点は、構造が特定されていない抗体に関する発明の進歩性、サポート要件、実施可能要件の有無。

請求項1(本件訂正発明1):
PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体。

【要旨】

裁判所は、本件訂正発明について甲1及び周知技術に基づいた容易想到性を否定し進歩性を認め並びにサポート要件及び実施可能要件にも適合するとした本件審決の判断に誤りはないとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がないと判断した。請求棄却。以下、裁判所の判断の抜粋。

1.取消事由1-1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)について
「本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言及び本件明細書の上記記載事項を総合すると,本件訂正発明1の「抗体と競合する」とは,「配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」(参照抗体)がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合することを意味するものと解される。

本件優先日当時の上記技術常識に照らすと,・・・免疫化プログラムの条件及びスケジュールを最適化し,参照抗体を得るのに適した免疫化マウスを作製するには,通常期待し得る範囲を超えた試行錯誤を要するものと認められる。また,モノクローナル抗体の作製工程において,ヒト抗体を作製するための遺伝子導入マウスの使用や抗体のスクリーニングのために抗原をビオチン化により固相化する方法は,本件優先日当時,周知であったものの,これらの技術を用いて,上記免疫化マウスを使用して作製されたハイブリドーマから参照抗体を得るのに適したスクリーニング系を構築することについても,一定の創意工夫が必要であるものと認められる。しかしながら,甲1には,本件明細書記載の免疫化プログラムの条件及びスケジュールに関する記載や示唆はなく,そもそもPCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体(結合中和抗体)の作製方法の記載はない。・・・総合すると,甲1に接した当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成)を得ることが可能であったとしても,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められないから,参照抗体がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合する,参照抗体と「競合する」抗体(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。」

2.取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
「原告は,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性(「結合中和」及び「参照抗体との競合」)のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであるが,本件明細書に記載された具体的な抗体はわずか3グループないし3種類の抗体しかなく,また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえず,参照抗体と「競合する」抗体であることは,「結合中和」の指標にはならないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものではないとして,本件訂正発明1及び9はサポート要件に適合しない旨主張する。

しかしながら,・・・特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない。そして,・・・当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとの結合を中和するものといえないとしても,本件訂正発明1は「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体であることを発明特定事項とするものであるから,そのことは,上記認定を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は理由がない。

原告は,本件訂正発明1のように,物(抗体)の具体的な構造が特許請求の範囲において特定されておらず,その物が機能的にのみ定義され,スクリーニング方法によって特定された物の発明である場合には,機能的な定義やスクリーニング方法の特定は,サポート要件を基礎付けることにはならないし,このような請求項の記載形式を認めることは,特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態が生じる旨主張する。

しかしながら,前記アのとおり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとはいえず,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。また,本件訂正発明1の請求項の記載形式によって,原告が述べるような特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態を招くということもできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。」

3.取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について
「原告は,本件訂正発明1は,抗体の構造を特定することなく,機能的にのみ定義されており,極めて多種類の抗体を含むものであるが,本件明細書の発明の詳細な説明において本件訂正発明1に含まれ得る抗体として記載された具体的な抗体(3グループないし3種類の抗体)とはアミノ酸配列が全く異なる多種多様な構造の抗体も文言上含まれ得るし,当然ながら,今後発見される,いまだ全く知られていない抗体も全て含むものであり,本件訂正発明1の特許請求の範囲に含まれる全体の抗体を得るためには,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要することは明らかであるから,本件訂正発明1は,実施可能要件を満たさず,また,本件訂正発明9も,これと同様である旨主張する。

しかしながら,・・・特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとはいえず,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載に従って,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるものと認められる。また,・・・当業者は,本件明細書の記載に基づいて,本件明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認められるから,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。したがって,原告の上記主張は,理由がない。」

【コメント】

請求項1(本件訂正発明1)は、発明の対象である抗体そのものの構造が特定されていない点で不明確である・・・、発明特定事項の一つである「参照抗体」を入手して「参照抗体」と競合するのかどうか(どのレベルで競合といえるのかも不明だが)を確認しなければ目的物を実施することはできないという過度の試行錯誤を当業者に強いる発明である・・・、「特定の参照抗体と競合する」かどうかを試験するというプロセスを経て構造の予期できない最終品にまで権利範囲を及ぼすことを意図した所謂リーチスルークレームである・・・、と思えるのだが、判決は特許維持審決を肯定した。この請求項が明確性、サポート要件、実施可能要件を果たして満たしているといえるのかどうか、極めて議論のある判決ではないか。今後このようなリーチスルー特許が多数乱立することは容易に想像できる。今回の裁判所の判断は産業の発達に寄与することを目的とする特許法の趣旨に沿うものだったといえるのだろうか疑問が残る。

同日付の関連判決(内容は同じ):

本件特許(第5705288号)は特願2010-522084(原出願)の分割出願であり、この原出願特許(第5441905号)は、ヒト抗PCSK9モノクローム抗体製剤レパーサ(Repatha)®皮下注を保護する特許権として3つの存続期間延長登録出願されている。レパーサ(Repatha)®皮下注は、ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に対する遺伝子組換えヒトIgG2モノクローナル抗体であるエボロクマブ(evolocumab)を有効成分とする米国Amgen社で開発されたヒト抗PCSK9モノクローム抗体製剤。日本では、レパーサ皮下注140mgシリンジ及びレパーサ皮下注140mgペンが2016年1月22日に承認され、レパーサ皮下注420mgオートミニドーザーが2017年8月23日に承認された。日本では、アステラス・アムジェン・バイオファーマが製造販売承認を取得、アステラスとともに販売。本件特許の日本におけるファミリー特許状況は以下のとおり。
  • PCT/US2008/074097(WO2009/026558)
  • 特願2010-522084(特表2010-536384)
    特許5441905
    ・シリンジについての延長登録出願番号2016-700055(延長期間2年25日)
    ・ペンについての延長登録出願番号2016-700056(延長期間2年25日)
    ・オートミニドーザーについての延長登録出願番号2017-700348(延長期間3年7月26日)

    請求項1:
    PCSK9タンパク質に結合する、単離された中和ヒトモノクローナル抗体であって、
    以下の相補性決定領域(CDR)、すなわち、配列番号368に示されるCDR1である重鎖CDR1、配列番号175に示されるCDR2である重鎖CDR2、及び配列番号180に示されるCDR3である重鎖CDR3を含む重鎖ポリペプチド、並びに
    以下のCDR、すなわち、配列番号158に示されるCDR1である軽鎖CDR1、配列番号162に示されるCDR2である軽鎖CDR2、及び配列番号395に示されるCDR3である軽鎖CDR3を含む軽鎖ポリペプチド
    を含む、中和ヒトモノクローナル抗体。
  • 特願2013-195240(特開2014-043446)
    特許5705288(本件特許): 特許権存続期間延長登録出願なし。存続期間満了日は2028年8月22日。
    異議2015-700112
    無効2016-800004(本件審決)→無効審判請求不成立審決取消訴訟(2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225)
  • 特願2015-033054(特開2015-166345)
    特許5906333: 特許権存続期間延長登録出願なし。存続期間満了日は2028年8月22日。
    無効2016-800066→無効審判請求不成立審決取消訴訟(2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10226)
  • 特願2016-053430(特開2016-182114)
    拒絶査定不服審判請求手続却下
  • 特願2018-031718(特開2018-118974)

抗PCSK9抗体製剤として、アムジェンはレパーサ(Repatha)®皮下注を、サノフィはプラルエント(Praluent)®皮下注を販売しており、両社は競合関係にある。サノフィのプラルエント(Praluent)®皮下注は、ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に対する遺伝子組換えヒトIgG1モノクローナル抗体であるアリロクマブ(alirocumab)を有効成分とするヒト抗PCSK9モノクローム抗体製剤。日本では、2016年7月4日に最初の製造販売承認を取得している。アムジェン(Amgen)が保有する抗PCSK9抗体特許をサノフィ(Sanofi)のPraluent®が侵害していると主張した特許侵害訴訟が米国ではCAFC判決に至っている。
参考: 2017.10.05 「Amgen v. Sanofi」 CAFC No.2017-1480
2018年4月4日付のAmgenの「Chairman and CEO Letter and Amgen Inc. 2017 Annual Report」によると、Sanofiは、欧州でもAmgen特許(EP2,215,214)に対して2016年2月24日に異議申立を提出した。さらに、欧州異議申立審理の結果を受けて、Sanofiは、2018年11月30日にNotice of Appealを提出したようである。

Jan 15, 2019

2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10226

リーチスルー抗体クレームについての進歩性・サポート要件・実施可能要件の判断知財高裁平成29年(行ケ)10226

被告(アムジェン)が保有する「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許(第5906333号)に対する無効審判請求不成立審決(無効2016-800066号)を不服として、原告(サノフィ)が審決取消訴訟を提起した事案。争点は、構造が特定されていない抗体に関する発明の進歩性、サポート要件、実施可能要件の有無。

請求項1(本件訂正発明1):
PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体。
裁判所は、本件訂正発明について甲1及び周知技術に基づいた容易想到性を否定し進歩性を認め並びにサポート要件及び実施可能要件にも適合するとした本件審決の判断に誤りはないとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がないと判断した。請求棄却。

内容は、同日付の関連判決(2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225)と同じ。

参照: 2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225





Jan 13, 2019

2018.11.26 「P1 v. サントリーホールディングス」 大阪地裁平成29年(ワ)6494

大学助教授が企業との共同研究成果に対して職務発明対価を請求した事案: 「P1 v. サントリーホールディングス」 大阪地裁平成29年(ワ)6494

【背景】

「器質的脳障害に起因する高次脳機能の低下に対する改善作用を有する組成物」に関する特許(第6095615号)に係る発明の発明者の一人で金沢大学助教授であった原告(P1)が、その特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡したと主張して、被告(サントリーホールディングス)に対し、発明対価の支払等を請求した事案。サントリー及び金沢大学は、共同して本件発明をした原告(P1)及びサントリーの従業員(P3)から本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受けて本件原出願及び本件出願をした。争点は以下の通り。
  • 本件発明が、サントリーを「使用者等」、原告(P1)を「従業者等」とする「職務発明」か(争点1)
  • 原告(P1)は、本件発明に係る特許を受ける権利の持ち分をサントリーに譲渡したか(争点2)
  • 相当の対価の額(争点3)
  • 原告(P1)は、本件発明に係る特許を受ける権利の持ち分をサントリーに譲渡し、それに伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則により、合理的な譲渡対価を被告(サントリーホールディングス)に請求し得るか(争点4)、その合理的な譲渡対価の額(争点5)
  • 原告(P1)が金沢大学の「従業者等」であり、サントリーの「従業者等」でないとしても、特許法35条3項の類推適用により、特許を受ける権利の譲渡の対価を被告(サントリーホールディングス)に請求し得るか(争点6)、その相当の対価の額(争点7)

【要旨】

裁判所は、本件発明に係る原告(P1)の特許を受ける権利の持分が、サントリーに譲渡されたとは認められないと判断し(争点2)、従って、それがサントリーに譲渡されたことを前提とする原告の主張(争点4及び争点6)にも理由がなく、その余の点について判断するまでもなく、原告(P1)の請求には理由がない、と判断した。請求棄却(発明対価支払い求める部分を却下)。以下、争点2についての裁判所の判断を抜粋。

「・・・本件発明は,本件共同研究契約の成果としてされた発明であると認めるのが相当である。・・・本件共同研究契約における共同研究による発明の取扱いに関する定め,特に,各発明者に対する補償は,金沢大学とサントリーがそれぞれに属する発明者に対してのみ,自己所定の規定に基づき行うものとすると定められていることからすると,本件共同研究契約においては,金沢大学とサントリーは,それぞれに属する発明者からのみ特許を受ける権利の譲渡を受けて出願することが想定されていたと認められる。このことからすると,サントリーが,本件共同研究契約の成果である本件発明に係る特許を受ける権利について,自己の従業員であるP3の持分以外に原告の持分の譲渡も受ける意思を有していたとは考え難いことである。また,このことは,本件発明を職務発明と認定した金沢大学についても同様であり,金沢大学が,原告の持分以外にP3の持分の譲渡を受ける意思を有していたとは考え難いことである。
そして,原告も,金沢大学側から,本件発明に係る原告の持分100%を金沢大学に譲渡したことを確認する旨の譲渡証書(乙11)の提示を受けて,これに署名押印して交付しているのであるから,原告も本件発明に係る原告の持分を全て金沢大学に譲渡する意思を有していたと認められる。そして,原告のこのような行動は,前記のとおり原告も本件発明が本件共同研究契約の成果であるとの認識を発明届出書に記載したこととも整合している。
また,本件原出願を行うに当たり,サントリーと金沢大学がそれぞれの持分を50%ずつと定めたことや,その後の補償金の支払を,サントリーはP3に対してのみ,金沢大学は原告に対してのみしていることも,サントリーはP3から,金沢大学は原告から,それぞれ各持分の全ての譲渡を受けたと見ることが整合的である。
以上からすると,本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分がサントリーに譲渡されたとは認められない。」

【コメント】

原告(P1)は、サントリーとの研究は「金沢大学での職務とは無関係のものだった」と主張して、サントリーとの直接的な関係性(職務発明性)を主張したが、本件発明は金沢大学とサントリーとの本件共同研究契約の成果としてされた発明であると裁判所は認定した。大学と企業との共同研究から生まれた成果について、大学側で研究を推進した先生が共同研究相手である企業に対して大きな見返りを要求することは良くある話である。一般的に、大学側の先生が極めて大きな貢献をしたことは間違いないことが多いが、その成果が大学と企業との間で締結した共同研究契約から生まれた成果(先生は大学の職務命令でその共同研究業務をしていた)であって且つ大学と企業の共有となっている(先生の権利全てが大学へ譲渡されている)限り、大学の先生が見返りについて交渉すべき相手は企業ではなく所属大学となるだろう。本事案について、原告(P1)は金沢大学に対して何らかの交渉をしたのかどうかは定かでない。

ほとんどの会社では、職務発明に関する社内規則として、従業者(発明者)から特許を受ける権利の予約承継を義務付けている(現在は使用者原始帰属もありえる)のが一般的であろう。共同研究における職務発明の取り扱いに関しては、従業者に特許を受ける権利の予約承継を義務付ける(または使用者原始帰属とする)社内規則がしっかりしていれば、共同研究契約で特段の定めをしない限り、従業者の持ち分(またはその一部)が最初から自動的に共同研究相手会社に移ることはないだろう。共同研究で生まれた成果について、共同研究相手会社に属する従業者(発明者)に対して権利譲渡で揉め事になり何かしらの相当の対価(利益)を補償(報償)することになるかもしれないというリスクは、会社として互いに避けたい。従って、もし、共同研究相手会社が十分な社内職務発明規則を有していない場合には、共同研究契約において、相手会社に対して、従業者(発明者)から特許を受ける権利を会社(使用者)に譲渡させる義務・責任を担保させることが望ましい場合もあるだろうし、職務発明の相当対価(利益)の補償(報償)等の支払いはそれぞれの従業者に対してのみとすることの確認をする場合もあるだろう。


Jan 9, 2019

興和・日産化学がリバロANDA訴訟を結晶特許で勝訴


2019年1月8日付の興和プレスリリースまたは日産化学プレスリリースによると、興和、KPAおよび日産化学が、米国においてアムニール社に対して提起していた、高コレステロール血症治療剤「リバロ錠(一般名:ピタバスタチンカルシウム)」に係る特許権(結晶特許:2024年2月2日満了)の侵害訴訟の控訴審について、CAFCは、2018年12月、控訴人(アムニール社)の訴えを退け、原審原告(興和、KPAおよび日産化学)の主張を全面的に認める地裁判決を支持する判決を下したとのことです。

興和、KPAおよび日産化学は、原審被告であるアムニール社、アポテックス社他7社が、リバロの後発品となるピタバスタチンカルシウム(1mg・2mg・4mg錠)のANDAをFDAに提出したことを受けて、2014年4月以降、ニューヨーク州南部連邦地裁に特許権侵害訴訟を提起し、2017年10月に勝訴判決を得ていましたが、アムニール社とアポテックス社は当該判決を不服として、CAFCに控訴していました。

アムニール社およびアポテックス社以外の7社とは地裁判決を前に、アポテックス社とは控訴審提起後、和解契約を締結しましたが、アムニール社とは和解に至らず、今回の判決となった、とのことです。

なお、控訴審においてアムニール社とは結晶特許の有効性のみを争っていたとのことです。

結晶特許とは、LIVALOのorangebookに記載されている米国特許No.8,557,993と思われます。この米国特許に相当する日本ファミリー特許は、5192147、5366163、5445713、5500305、5702494です。


参考:

Dec 30, 2018

2018年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

(1) 日本のパテントリンケージ制度の不透明感

厚生労働省は「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて(平成21年6月5日付け医政経発第0605001号/薬食審査発第0605014号)」及び「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて(平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知)」において、後発医薬品の薬事法上の承認審査にあたっては、先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であり、特許の存否は承認予定日で判断するものであることとしています。日本では法律上明文の規定はないものの、上記のような手続きが運用上設けられています。にもかかわらず、用途特許が有効に存続している場合でも、厚生労働省/PMDAが同用途(効能・効果)での後発医薬品を承認した事例がいくつか認められ、日本のパテントリンケージ制度がしっかり機能しているとはいえないのではないかという不透明感が顕在化してきたように思えた一年でした。
  • 2018.09.19 「沢井製薬 v. シャイア」 知財高裁平成29年(行ケ)10171
    炭酸ランタンの異なる水和物の進歩性が争点でしたが、背景にある高リン血症治療剤ホスレノール®の後発医薬品の承認プロセス(パテントリンケージ)において延長された特許権の効力を厚生労働省/PMDAはどのように判断したのか気になった事例です。本件特許(医薬用途特許)の存続期間延長登録出願が登録されており、「サワイ」品の製造承認(2018年2月15日)時点では、それぞれ延長された特許権の効力が同製品の製造・販売行為に及ぶ可能性が大いに考えられたわけです。本判決(2018年9月19日)で審決が取り消される判断が出されるまでは、特許庁の見解として特許及び全ての存続期間延長登録も有効であるとされていたわけですから、何故、厚生労働省・PMDAが「サワイ」品を2018年2月15日に承認したのかは理解に苦しむところです。
  • 2018.10.22 「セルトリオン v. ジェネンテック」 知財高裁平成29年(行ケ)10106
    本件特許(第5623681号)の無効審判では、特許庁は一応特許有効審決(2016年12月27日)を下していました。本件訴訟判決期日(2018年10月22日)がもう間近だったとはいえ、その状況での抗悪性腫瘍剤ハーセプチン®の第一三共品とファイザー品の後続医薬品の承認(2018年9月21日)でした。本件特許がパテントリンケージの用途特許として有効に存在していると認知されていたとしたら、厚労省/PMDAはどのように判断してそれら後続品を承認する判断に至ったのか、日本のパテントリンケージが一貫性を持って機能しているのか気になるところです。
  • 東レがレミッチ®OD錠後発品を販売する沢井・扶桑を特許侵害で提訴
    後発医薬品の承認プロセス(パテントリンケージ)において延長された特許権の効力を厚生労働省/PMDAはどのように判断したのか気になった事例です。沢井製薬および扶桑薬品工業が販売する後発医薬品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『サワイ』」および「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『フソ-』」(後発医薬品の効能・効果:次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者)は、ともに2018年2月15日に承認されています。その時点で、本件用途特許の延長登録出願(特願2017-700154号)がされている(特許権の存続期間の延長登録の出願があつたときは、存続期間は、延長されたものとみなされる(特許法67条の2第5項))状況であったわけですから、厚労省/PMDAは本件用途特許(延長効力)によるパテントリンケージをどのように考えてそれら後発品を承認する判断に至ったのか気になるところです。

参考文献:


(2) 2018年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた会社は・・・ 中外製薬株式会社でした。

Trastuzumab
Emicizumab
Rituximab
Ravulizumab
Marduox® Ointment

(3) 過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2017年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2016年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2015年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2014年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら


Dec 29, 2018

2018.12.19 「レオ ファーマ v. 中外製薬・マルホ」 知財高裁平成29年(ネ)10098

マーデュオックス®軟膏の差止請求訴訟(高裁判決): 知財高裁平成29年(ネ)10098

【背景】

控訴人(レオ ファーマ)が保有する「医薬組成物」に関する特許権(第5886999号)を侵害すると主張して、被控訴人ら(製造販売元である中外製薬及び販売会社であるマルホ)に対して被告物件(尋常性乾癬治療剤「マーデュオックス®軟膏」)の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原審(2017.09.28 「レオ ファーマ v. 中外製薬・マルホ」 東京地裁平成28年(ワ)14131)は、本件発明1~4、11及び12に係る本件特許には特許法29条2項違反の無効理由があるから、控訴人は上記各発明に係る本件特許権を行使することができないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人はこれに対して控訴した。

請求項1:
ヒトまたは他の哺乳動物において乾癬を処置するための皮膚用の非水性医薬組成物であって,マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,ならびに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,医薬組成物。
請求項11:
ヒトの乾癬を処置するための,請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物
請求項12:
医学的有効量で1日1回局所適用される,請求項11に記載の組成物
【要旨】

裁判所は、本件発明1~4、11、12に係る本件特許は特許法29条2項違反の無効理由があるから、控訴人は上記各発明に係る本件特許権を行使することはできない、と判断した。控訴棄却。

動機付け及び構成の容易想到性について、裁判所は、乙15発明と本件発明12とは、相違点1(本件発明12はビタミンD3類似体である成分Aがマキサカルシトールであるのに対し、乙15発明はタカルシトールである点)及び相違点3(本件発明12は1日1回であるのに対し、乙15発明は1日2回である点)において相違すると認定し、本件優先日当時の当業者であれば、乙15発明のタカルシトールを同じビタミンD3類似体であってより高い治療効果を有するマキサカルシトールに置き換えようとすることを容易に想到するといえ、また、乙15発明の合剤を1日2回適用から1日1回適用への変更が可能であることを容易に想到し得る、と判断した。

また、顕著な作用効果について、裁判所は、本件明細書に記載された「より早い治癒開始」、「より有効な斑治癒」及び「副作用緩和の効果」は、本件優先日当時、当業者において十分に予測可能なものであり、また、マキサカルシトールの1日1回適用が乾癬の管理に効果的であることが知られており、1日1回とした場合の患者の適用遵守改善等についても、当業者において当然に予測し得る範囲のものといえることから、これら効果は当業者が予測することができない顕著な効果ということはできないと判断した。

【コメント】

本件発明をより簡略化すれば、公知成分A+公知成分B+1日1回の医薬組成物。引用発明は、公知成分A'+公知成分B+1日2回の医薬組成物。組み合わせ医薬の一方を置き換えた点及び投与回数が異なる点といった相違点については、置き換えようとする動機付けがあったことから容易想到と判断され、顕著な作用効果についての争点もすべて当業者予測可能範囲だったと判断された。

組み合わせ医薬の一方を置き換えた(または公知成分を組み合わせた)ことに特徴がある発明について進歩性が争われた最近の事例として、例えば以下のものがある。
投与回数(量)が進歩性における相違点として争われた最近の事例として、例えば以下のものがある。

被控訴人ら(中外製薬・マルホ)が製造販売しているマーデュオックス®軟膏(Marduox® Ointment)は、活性型ビタミンD3外用剤であるマキサカルシトール(Maxacalcitol)軟膏の有効成分Maxacalcitolとvery strongクラスのステロイド外用剤であるベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(BBP)軟膏の有効成分BBPをそれぞれ承認製剤濃度で配合した尋常性乾癬治療外用剤である。

国内において、尋常性乾癬の適応を有する活性型ビタミンD3誘導体とステロイドの配合剤という点で、マーデュオックス®軟膏(中外・マルホ)とドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)(レオ ファーマ・協和発酵キリン)は競合関係にある。

ドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)は、活性型ビタミンD3誘導体であるカルシポトリオール水和物52.2μg/g(カルシポトリオールとして50.0μg/g)と副腎皮質ホルモンであるベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.643mg/gを含有する配合剤であり、レオ ファーマで開発され、日本では2014年7月に承認された。

参考:

Dec 22, 2018

東レがレミッチ®OD錠後発品を販売する沢井・扶桑を特許侵害で提訴

2018年12月19日付の東レのプレスリリース(「経口そう痒症改善剤「レミッチ®」用途特許に関する 特許権侵害訴訟提起について」)によると、東レは、2018年12月13日に沢井製薬および扶桑薬品工業を被告として東京地裁に特許権侵害訴訟を提起したとのことです。本件訴訟は、東レが製造販売承認を取得している経口そう痒症改善剤「レミッチ®」(「レミッチ®カプセル2.5µg」および「レミッチ®OD錠2.5µg」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩))に関する用途特許(特許第3531170号、延長登録出願:特願2017-700154号)に基づき、沢井製薬および扶桑薬品工業が販売する後発医薬品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『サワイ』」および「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『フソ-』」(後発医薬品の効能・効果:次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者)の製造販売差止と損害賠償等を求めるものとのことです。

本件用途特許(第3531170号)は、オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤に関する医薬用途発明を保護するものであり、J-PlatPatによると、20年の特許期間は2017年11月21日で満了しましたが、下記2017年3月の「レミッチ®OD錠2.5µg」の承認取得に基づいて、5年間の特許権存続期間延長登録を求める出願(特願2017-700154号)がされているようです。この訴訟で、延長された用途特許の効力が争われるのだとしたら、裁判所がどのように判断するのか大変興味深く、その判断内容に期待したいと思います。
  • 2009年1月: 「血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の効能又は効果について「レミッチ®カプセル2.5µg」の製造販売承認を取得
  • 2015年5月: 「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の効能又は効果について追加承認を取得
  • 2017年3月: 口腔内崩壊錠である「レミッチ®OD錠2.5µg」の製造販売承認を取得
  • 2017年9月: 「レミッチ®カプセル2.5µg」および「レミッチ®OD錠2.5µg」について、「腹膜透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」に関する有用性が認められ、既に承認を取得している効能又は効果と合わせて「透析患者、慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」として追加承認を取得
ところで、沢井製薬および扶桑薬品工業が販売する後発医薬品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『サワイ』」および「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『フソ-』」(後発医薬品の効能・効果:次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者)は、ともに2018年2月15日に承認されています。その時点で、本件用途特許の延長登録出願(特願2017-700154号)がされている(特許権の存続期間の延長登録の出願があつたときは、存続期間は、延長されたものとみなされる(特許法67条の2第5項))状況であったわけですから、厚労省/PMDAは本件用途特許によるパテントリンケージをどのように考えてそれら後発品を承認する判断に至ったのかも気になるところです(厚労省/PMDAは、延長特許の効力を判断できず、当事者間の調整に委ねた・・・ということなのでしょうか)。

参考:

Dec 18, 2018

ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について

2018年12月17日、EAファーマ(株)より、「ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について)。

エーザイ(株)は、2017年9月22日に「パリエット®錠5mg、錠10mg(一般名:ラベプラゾールナトリウム(Sodium Rabeprazole)」について、プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎(プロトンポンプ阻害剤の1日1回投与による従来の治療で効果不十分な逆流性食道炎)に対する維持療法に関して、ラベプラゾールナトリウムとして1回10mg、1日2回投与の用法・用量追加の承認を取得しました。この用法・用量について、エーザイの子会社であるEAファーマ(株)は日本特許第6283440号を保有しているとのことです。謹告文では、ベプラゾールナトリウムを有効成分とする医薬品を製造販売されている企業に、用法・用量の添付文書への記載について、当該特許権との関係で疑義が生じないよう注意を呼びかけています。

パリエット錠5mg、パリエット錠10mgの承認を受けた用法及び用量の記載一部抜粋:

逆流性食道炎
<維持療法>再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法においては、通常、成人にはラベプラゾールナトリ ウムとして1回10mgを1日1回経口投与する。また、プロトンポンプインヒビターによる治療で効果 不十分な逆流性食道炎の維持療法においては、1回10mgを1日2回経口投与することができる。
特許第6283440号の請求項1:

ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を有効成分とし、維持療法を行う前の治療により治癒したプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者に対する維持療法のために、プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量のベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を1日2回、4週間以上投与され、
前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量が10mgであり、
前記ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤が、ラベプラゾール、ラベプラゾールのプロドラッグ、又はそれらの薬学上許容される塩若しくは溶媒和物であることを特徴とする、逆流性食道炎の再発抑制剤。
上記特許権の存続期間満了日は2037年4月4日となっています。

過去記事:


Dec 9, 2018

2018.11.21 「MSD v. 特許庁長官」 知財高裁平成29年(行ケ)10196

オマリグリプチン結晶形特許の進歩性否定知財高裁平成29年(行ケ)10196

【背景】

「ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規結晶形」に関する特許出願(特願2014-518879号; 特表2014-518266号)の拒絶審決(不服2016-15132号)取消訴訟。本件発明である結晶形の進歩性(特許法29条2項)が争点。刊行物1(WO2010/056708; 特表2012-508746号)に記載された引用発明は、結晶質の化合物Pである点で本願発明と一致しており、粉末X線回折パターンでは特定されていない点で本願発明と相違していた。

請求項1:
10.3±0.1 2θ,12.7±0.1 2θ,14.6±0.1 2θ,16.1±0.1 2θ,17.8±0.1 2θ,19.2±0.12θ,22.2±0.1 2θ,24.1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有することを特徴とする,化合物Iの結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)。
【化1】

【要旨】

裁判所は、本願発明は、刊行物1及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断に誤りはないと判断し、原告らの請求を棄却した。
以下、裁判所の判断の抜粋。

1 相違点の容易想到性の有無について
「・・・本願の優先日当時の技術常識に照らすと,刊行物1に接した当業者においては,医薬化合物である実施例1の最終生成物の化合物P(引用発明)について,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討を行うとともに,結晶多形の最適化のための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行う動機付けがあるものと認められる。

そして,室温で安定な結晶は,冷蔵保存の必要がないため医薬品化合物として望ましいことは自明であるから,結晶多形の探索ないし多形スクリーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を最も普通に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用いて結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温での安定性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであるものと認められる。

一方,本願明細書・・・の記載に照らすと,本願明細書には,結晶化温度を室温を含む13℃より上の温度,結晶化溶媒を酢酸エチルとして,「化合物I」(化合物P)の結晶化を行うことにより,形Iの結晶質が得られることの開示があるものと認められる。そうすると,当業者は,通常なし得る試行錯誤の範囲で,刊行物1の実施例1の最終生成物の化合物Pについて上記結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行うことにより,室温での安定性が優れた結晶として形Iの結晶質を得ることができたものと認められる。

以上によれば,刊行物1に接した当業者は,刊行物1及び上記技術常識に基づいて,引用発明について相違点に係る本願発明の構成(化合物Pの形Iの結晶質の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。

・・・また,前記アのとおり,刊行物1に接した当業者においては,医薬化合物である実施例1の最終生成物の化合物Pについて,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討を行うとともに,結晶多形の最適化のための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行う動機付けがあるというべきであり,このことは,実施例1の最終生成物の化合物Pが結晶(結晶質)であるか,非晶質であるかによって左右されるものではないというべきである。

さらに,結晶多形の探索においては,溶媒の種類,結晶化方法,温度等の異なる結晶条件を設定することにより,ある程度,多形の存在を明らかにすることができるが,現実には試行錯誤を繰り返すことにより,多形が検索されるものであることに照らすと,あらかじめ特定の結晶形を選択すべき動機付けがなければ検索できないというものではない。

・・・結晶多形の探索ないし多形スクリーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を一般に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用いて結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温での安定性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであって,本願発明における結晶化条件の特定の組合せを採用することは格別のこととはいえない・・・。

以上のとおり,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りはない。」

2 予想できない顕著な効果についての判断の誤りについて
「本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定な相」として存在するという特性を有するとしても,そのことは,室温を含む13℃以上の温度で安定であることを意味するものにすぎず,格別顕著なものとはいえない。また,本願明細書には,本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定な相」として存在するという特性により,「処理および結晶化の容易さ,取り扱い,応力に対する安定性,計量分配の利点を有し医薬剤形の製造に好適という効果」(【0007】)を奏するとの記載はなく,これらが形Iの効果であることを認識することは困難である。さらに,仮に本願発明の形Iの結晶質が他の結晶形に比べて「吸湿性が低い」としても,それをもって,予測し得る範囲を超える顕著な効果であるということはできない。・・・このほか,原告らは,縷々主張するが,本願発明の形Iの結晶質が予想できない顕著な効果を有することの根拠となるものではない。」

【コメント】

本件化合物Pは、MSD(Merck Sharp & Dohme Corp.)により創製された週1回投与の特徴を有するジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬であるマリゼブ(Marizev)®錠の有効成分オマリグリプチン(Omarigliptin)。マリゼブ®錠は、2015年9月28日に「2型糖尿病」の効能・効果で日本で製造販売承認された。

当初特許請求の範囲には結晶形IからIVまで記載されているが、本願発明(形I)を含めそれら結晶形のいずれかがマリゼブ(Marizev)®錠の有効成分オマリグリプチンの実際の結晶形なのかどうかは本願明細書の記載からでは明らかでない。

公知医薬有効成分の新規結晶形に関する発明の進歩性については、最近の下記記事のコメント参照。


Dec 5, 2018

中外が抗C5抗体ALXN1210(ravulizumab)開発中のアレクシオン社を日本でも特許侵害で提訴

2018年12月5日付の中外製薬プレスリリースによると、中外製薬は、アレクシオンファーマ合同会社が開発中の抗C5抗体「ALXN1210」(ラブリズマブ)が、中外製薬が保有する抗体改変技術の一部である日本特許第4954326号および第6417431号に触れるとし、「ALXN1210」の国内における製造および販売を含む侵害差止めを求めて2018年12月5日付にて東京地裁において特許権侵害訴訟を提起したとのことです。

J-PlatPatによると、特許第4954326号については、アレクシオン社が特許無効審判を請求しましたが請求不成立審決(無効2016-800136)となり、現在アレクシオン社が審決取消訴訟を知財高裁に提起、係属中です(平成30年(行ケ)10043)。一方、特許第6417431号については、現時点で特許無効審判請求はされていないようです。

参考記事: