Sep 24, 2018

2018.09.04 「塩野義 v. MSD」 知財高裁平成29年(行ケ)10172

MSDのラルテグラビルを巡る特許紛争で知財高裁が塩野義特許をサポート要件を理由に無効判断: 知財高裁平成29年(行ケ)10172

【背景】
  • 2015年8月17日、塩野義は、HIVインテグラーゼ阻害薬に関する特許(特許第5207392号)について、アイセントレス®錠(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium)、HIVインテグラーゼ阻害剤)を日本で販売するMSD社に対し、アイセントレス®錠は当該特許発明の技術的範囲に属すると主張して、アイセントレス®錠の譲渡等の差止・廃棄の請求とともに損害賠償又は不当利得返還を請求する特許権侵害訴訟を東京地裁に提起した(過去記事: 塩野義がアイセントレスを販売するMSDに対して特許侵害訴訟を提起)。
  • 2017年12月6日、上記特許権侵害訴訟において、東京地裁は、本件特許発明は実施可能要件違反およびサポート要件違反により無効にされるべきものであり、本件訂正発明でもなお実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効にされるべきものであるから原告の主張する訂正の再抗弁は理由がないと判断し、請求を棄却した(過去記事: 2017.12.06 「塩野義 v. MSD」 東京地裁平成27年(ワ)23087)。
  • 上記東京地裁判決を不服として、塩野義は、損害賠償又は不当利得返還の請求についてのみ控訴した(判決については、2018.09.04 「塩野義 v. MSD」 知財高裁平成29年(ネ)10105参照)。
  • 一方、2015年12月17日、MSD社が当該特許につき特許無効審判を請求し、2017年8月17日、特許庁は訂正を認めた上で本件特許を無効とする審決(無効2015-800226)をした。本件は、同年9月8日、当該審決の取消しを求めて、塩野義が知財高裁に訴訟を提起したものである(知財高裁平成29年(行ケ)10172)。
【要旨】

裁判所は、本件訂正後の各発明(本件各発明)に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するということはできず、本件各発明に係る特許は無効にすべきものであり、原告(塩野義)の請求は理由がないと判断した。請求棄却。

裁判所の判断(抜粋)

サポート要件について
「特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。」
当業者が本件各発明の課題を解決できると認識し得るかについて
「本件各発明の課題は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するというものである。
しかし,本件明細書には,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有することを示す薬理データは,一つも記載されておらず,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていない。
また,原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤の構造に対するわずかな修飾変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生じ得るとの前記の技術常識に照らせば,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物がインテグラーゼ阻害作用を有することを示す薬理データをもって,当業者が,本件各発明に係る化合物についてもインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。
さらに,原出願日時点におけるキレート配位子となり得る構造を有する分子がインテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの前記の技術常識に照らせば,本件各発明に係る化合物がキレート配位子となり得る構造を有することをもって,当業者が,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。
その他,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると当業者に認識させ得るような原出願日時点における技術常識も見当たらない。
したがって,本件各発明に係る化合物は,当業者がインテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという本件各発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものとはいえないというべきである。・・・以上によれば,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合するということはできない。」
【コメント】

同日付で当該特許についての侵害訴訟の控訴審判決(塩野義の控訴棄却判決: 2018.09.04 「塩野義 v. MSD」 知財高裁平成29年(ネ)10105参照)も出されており、サポート要件の判断については同じ。

アイセントレス®錠を巡る塩野義とMSDとの特許侵害訴訟関連記事:


2018.09.04 「塩野義 v. MSD」 知財高裁平成29年(ネ)10105

塩野義特許は無効、MSDのラルテグラビルに対する侵害訴訟(知財高裁): 知財高裁平成29年(ネ)10105

【背景】
  • 2015年8月17日、塩野義は、HIVインテグラーゼ阻害薬に関する特許(特許第5207392号)について、アイセントレス®錠(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium)、HIVインテグラーゼ阻害剤)を日本で販売するMSD社に対し、アイセントレス®錠は当該特許発明の技術的範囲に属すると主張して、アイセントレス®錠の譲渡等の差止・廃棄の請求とともに損害賠償又は不当利得返還を請求する特許権侵害訴訟を東京地裁に提起した(過去記事: 塩野義がアイセントレスを販売するMSDに対して特許侵害訴訟を提起)。
  • これに対して同年12月17日、MSD社が当該特許につき特許無効審判を請求し、2017年8月17日、特許無効審決(無効2015-800226)が出されたため、同年9月8日、塩野義は、知財高裁に、当該審決の取消訴訟を提起した(判決については2018.09.04 「塩野義 v. MSD」 知財高裁平成29年(行ケ)10172参照)。
  • 同年12月6日、上記特許権侵害訴訟において、東京地裁は、本件特許発明は実施可能要件違反およびサポート要件違反により無効にされるべきものであり、本件訂正発明でもなお実施可能要件違反及びサポート要件違反により無効にされるべきものであるから原告の主張する訂正の再抗弁は理由がないと判断し、請求を棄却した(過去記事: 2017.12.06 「塩野義 v. MSD」 東京地裁平成27年(ワ)23087)。
  • 本件は、上記特許権侵害訴訟における原判決を不服として、塩野義が、損害賠償又は不当利得返還の請求についてのみ控訴したものである(知財高裁平成29年(ネ)10105)。
【要旨】

裁判所は、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するということはできず、本件各発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであり、本件訂正によっても無効理由が解消されないから、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人(塩野義)の請求をいずれも棄却した原判決は相当であると判断した。控訴棄却。

裁判所の判断(抜粋)

サポート要件について
「特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。」
当業者が本件発明1の課題を解決できると認識し得るかについて
「本件発明1の課題は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するというものである。
しかし,本件明細書には,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有することを示す薬理データは,一つも記載されておらず,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていない。
また,原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤の構造に対するわずかな修飾変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生じ得るとの前記の技術常識に照らせば,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物がインテグラーゼ阻害作用を有することを示す薬理データをもって,当業者が,本件発明1に係る化合物についてもインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。
さらに,原出願日時点におけるキレート配位子となり得る構造を有する分子がインテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの前記の技術常識に照らせば,本件発明1に係る化合物がキレート配位子となり得る構造を有することをもって,当業者が,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。
その他,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると当業者に認識させ得るような原出願日時点における技術常識も見当たらない。
したがって,本件発明1に係る化合物は,当業者がインテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという本件発明1の課題を解決できると認識し得る範囲のものとはいえないというべきである。
・・・以上によれば,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合するということはできない。よって,本件発明1に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。」
【コメント】

知財高裁も、塩野義の請求をいずれも棄却した原判決は相当であると判断、塩野義の敗訴となった。原判決についての過去記事「2017.12.06 「塩野義 v. MSD」 東京地裁平成27年(ワ)23087」参照。同日付で当該特許の無効審決取消訴訟判決(塩野義の請求棄却判決)も出された(2018.09.04 「塩野義 v. MSD」 知財高裁平成29年(行ケ)10172)。

アイセントレス®錠を巡る塩野義とMSDとの特許侵害訴訟関連記事:

Sep 20, 2018

大塚製薬工場がエイワイファーマ・陽進堂に対し高カロリー輸液特許侵害訴訟を提起

大塚製薬工場ニュースリリースによると、大塚製薬工場は、エイワイファーマが製造販売し陽進堂が販売する高カロリー輸液用 糖・電解質・アミノ酸・ビタミン・微量元素液「ワンパル®1号輸液」および「ワンパル®2号輸液」について、大塚製薬工場が保有する特許(特許第4171216号)の侵害を理由として、2018年9月19日付で東京地裁に特許権侵害行為の差し止めを求める訴訟を提起したとのことです。

本特許に関わる発明は、大塚製薬工場が製造販売する高カロリー輸液用 糖・電解質・アミノ酸・総合ビタミン・微量元素液「エルネオパ NF®1号輸液」および「エルネオパ NF®2号輸液」を保護する有用な技術とのことで、エイワイファーマによる特許無効審判請求を受けましたが訂正が認められたうえで請求不成立審決(無効2017-800045)が確定しているようです。

訂正後発明1:
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤。
参考:

過去の大塚製薬工場とエイワイファーマとの特許訴訟:

血友病A治療薬HEMLIBRA®米国訴訟でバクスアルタは中外に対する訴え取り下げ

血友病A治療薬HEMLIBRA®(米国一般名:emicizumab-kxwh)がバクスアルタ社保有の米国特許第7,033,590号に触れるとし、HEMLIBRAの製造、使用、譲渡の申出、譲渡、輸入の差止め等を求める訴えが中外製薬および米国ジェネンテック社に対して米国デラウェア州連邦地方裁判所において提起されていました(過去記事: 臨床開発中のemicizumabの米国内製造等が特許侵害にあたるとしてバクスアルタ社が中外製薬を提訴)。訴訟提起の後、2017年11月16日にFDAによる承認が出されました。2018年9月20日付の中外製薬のプレスリリースによると、中外製薬は人的管轄権の欠如を理由に訴えの却下を求めていたところ、2018年9月13日、バクスアルタ社は中外製薬に対する訴え取り下げの申し出を裁判所に行い、これを受けて裁判所は2018年9月19日付で中外製薬への訴えを却下する決定を出したとのことです。なお、ジェネンテック社に対する訴訟は、継続して審議されるとのことです。

参考:

Sep 16, 2018

2018.09.06 「ロート製薬 v. Y」 知財高裁平成29年(行ケ)10210

「平均分子量」とは?(明確性要件)2: 知財高裁平成29年(行ケ)10210

ロート製薬(原告)が保有する「眼科用清涼組成物」に関する特許権(第5403850号)に対するY(被告)による無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800023)の取消訴訟第一次判決(2017.01.18 「X v. ロート製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10005)で特許請求の範囲におけるコンドロイチン硫酸ナトリウムを定める「平均分子量」の記載は不明確であり明確性要件を欠くと判断された後、特許庁は原告による訂正を認めた上で本件特許の無効審決をした。本件はその無効審決取消訴訟であり、原告は「平均分子量」についての明確性要件に係る認定判断は誤りであると主張した。

上記第一次判決において「平均分子量」が不明確とされた理由は、コンドロイチン硫酸ナトリウムの一例として明細書に記載されていたマルハ社製品の平均分子量として当業者に公然知られた数値が「粘度平均分子量」であったと判断されたためであった。そこで、原告は、本件訂正により明細書からマルハ社製品のコンドロイチン硫酸ナトリウムに関する記載を削除し、コンドロイチン硫酸ナトリウムのもう一例として明細書に記載されていた生化学工業社製品の平均分子量として「重量平均分子量」の数値が提供されていたこと等の主張を展開した。

本件訴訟において知財高裁は、第一次判決から一転して、明細書中の「平均分子量」が「重量平均分子量」であることを合理的に推認できると認定し、本件訂正後の特許請求の範囲(「平均分子量」)の記載は明確性要件を満たすものといえると判断、本件審決を取り消した。

被告は、明確性要件を充足させるために明細書からマルハ社製品のコンドロイチン硫酸ナトリウムに関する記載を削除した本件訂正は特許請求の範囲を実質的に変更するものだと主張したが、裁判所は被告主張を認めなかった。

以下、裁判所の判断の抜粋。

「ア 本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものであるかについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書におけるコンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万~50万のものを用いる。・・・例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【0021】)と記載されている。
上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3)イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加えて,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記(2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2)ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量であるという上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するものと認めるのが相当である。」

第一次判決:

Sep 8, 2018

塩野義がアイセントレス®錠を巡るMSDとの特許侵害訴訟で敗訴

2018年9月7日付塩野義製薬のプレスリリース「MSD社とのHIVインテグラーゼ阻害薬に関する知財高裁での係争について」によると、塩野義製薬が日本において保有するHIVインテグラーゼ阻害薬に関する特許(特許第5207392号)につき、2018年9月4日、知財高裁が塩野義製薬の特許無効審決取消訴訟及び特許侵害訴訟の控訴を棄却する旨の判決を出したとのことです。塩野義製薬は、今回の判決内容を精査し、引き続き、今後の対応を検討していくとのことです。

これまでの経緯:
  • 2015年8月17日、塩野義製薬は、HIVインテグラーゼ阻害薬に関する特許(特許第5207392号)について、アイセントレス®錠(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium)、HIVインテグラーゼ阻害剤)を日本で販売するMSD社に対し、アイセントレス®錠は当該特許発明の技術的範囲に属すると主張して、アイセントレス®錠の譲渡等の差止・廃棄の請求とともに損害賠償又は不当利得返還を請求する特許権侵害訴訟を東京地裁に提起した(塩野義がアイセントレスを販売するMSDに対して特許侵害訴訟を提起)。
  • これに対して同年12月17日、MSD社が当該特許につき特許無効審判を請求した(無効2015-800226)。
  • 2017年8月17日、特許無効審判において、特許が無効である旨の審決が出されたため、同年9月8日、塩野義製薬は、知財高裁に、当該審決の審決取消訴訟を提起した(平成29年(行ケ)10172)。
  • 一方、同年12月6日、特許権侵害訴訟において、東京地裁は、当該特許発明は実施可能要件違反およびサポート要件違反により無効にされるべきものであると判断し、塩野義製薬の請求を棄却する旨の判決を出した(2017.12.06 「塩野義 v. MSD」 東京地裁平成27年(ワ)23087)。
  • 同年12月19日、塩野義製薬は、知財高裁に、当該判決に対する控訴を行った。

参考:

Jul 23, 2018

2018.07.18 「日新製薬・日本ケミファ v. オリオン・ホスピーラ」 知財高裁平成29年(行ケ)10114

プレセデックス®の医薬用途発明の特許性知財高裁平成29年(行ケ)10114

【背景】

被告(オリオン及びホスピーラ)らが保有する「ICU鎮静のためのデクスメデトミジンの用途」に関する特許権(4606581号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800031号)の審決取消訴訟。本願出願当時、デクスメデトミジンは一般的な鎮静/鎮痛ならびに高血圧または不安治療のためのα2-レセプターアゴニストとして知られていたところ、本願発明は、デクスメデトミジンが患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤であることを発見したというものである。原告が求めた取消事由は、新規性判断の誤り、進歩性判断の誤り、原文新規事項に関する判断の誤り、明確性要件の判断の誤りである。

請求項1(本件発明1):
集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。
【要旨】

裁判所は、原告らの主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り決すべき違法は認められないと判断し、原告らの請求を棄却した。以下、新規性の判断について。

1.本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の意義について

原告らは、
「集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈すべきである」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈することは,ICU滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(iv‐line)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であること(【0002】),鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいること(【0003】)などの本件明細書の他の記載事項と整合しない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。」
と判断した。

2.本件発明1と甲3に記載された発明の同一性について

裁判所は、
「甲3には,甲3記載の血管外科患者について,その手術後に,実際の鎮静と(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静のいずれもが確認されたことについての記載はない。また,甲3には,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与が上記両方の鎮静の用途に使用するものであったことについての記載もない。したがって,甲3には,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」についての開示がない。前記・・・記載の「鎮痛」に関する認定事実及び甲3記載の「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,手術のストレスにより交感神経系が刺激され,内分泌反応を引き起こして血圧や心拍数を増加させることを抑制するために,交感神経を遮断する作用であることに照らすと,原告らのいう甲3記載の「手術後の該患者」(血管外科患者)の「鎮痛」や「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,いずれも集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静に該当しない。以上によれば,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与が,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途の使用に当たるとの原告らの主張は,採用することができない。」
と判断した。

3.本件発明1と甲5に記載された発明の同一性について

裁判所は、
「甲5には,研究の対象とされた8人の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた患者」が,その手術後に,集中治療を受けたことを明示した記載はない。・・・甲5には,麻酔後ケアユニットにおいて,患者が呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われていたことや集中治療を要するような急性機能不全の状態であったことをうかがわせる記載はないから,集中治療を受けていたものと認めることはできないし,・・・その手術後に,実際の鎮静と(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静のいずれもが確認されたことについての記載はない。また,甲5には,甲5記載の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた患者」に対するデクスメデトミジンの投与が上記両方の鎮静の用途に使用するものであったことについての記載もない。原告らのいう甲5記載の「手術直後期におけるデクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,血漿カテコールアミン濃度(血漿ノルエピネフリン濃度及び血漿エピネフリン濃度)の減少を指標として,評価しているものであり,集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静に該当しない。
以上によれば,甲5記載の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた患者」に対するデクスメデトミジンの投与は,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途の使用に当たるとの原告らの主張は,採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

ある特定の患者(集中治療を受けている重篤患者)に使用するということに特徴のある医薬用途発明の新規性等が争われた。一部の引用例には、集中治療を受けている重篤患者にデクスメデトミジンが使用されているところまで記載されていると認定されたが、その使用目的は血圧や心拍数を増加させることを抑制するために交感神経を遮断する作用を目的としたものであって「鎮静」の用途を目的としたものではないと判断されたため、原告が主張した新規性欠如の無効理由は認められず、結果、進歩性欠如の無効理由もその前提を欠くと判断された。

デクスメデトミジン塩酸塩(Dexmedetomidine hydrochloride)はα2作動性鎮静剤プレセデックス®(Precedex®)の有効成分。日本では2004年1月29日に承認された。本件特許は、プレセデックス®の効能・効果の一部である「集中治療における人工呼吸中及び離脱後の鎮静」を保護しており、2019年3月31日に満了する(同効能・効果についての再審査期間は2012年1月28日に終了)。

米国ではPrecedex®は1998年12月にFDAに申請され、1999年12月に承認されている。本願出願日は同年3月(優先日は1998年4月及び12月)であった。

Jul 16, 2018

2018.06.27 「トライスター v. エーザイ」 知財高裁平成29年(行ケ)10178

経口投与用組成物のマーキング方法の進歩性: 知財高裁平成29年(行ケ)10178

エーザイが保有する「経口投与用組成物のマーキング方法」に関する特許権(5339723号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800126号)の取消訴訟。知財高裁は、進歩性(無効理由1)、サポート要件(無効理由2)、明確性要件(無効理由3)のいずれについても無効理由はないとした審決を支持。請求棄却。

本件特許に関連して、他に分割出願である特許5642100号および特許5903141号も成立しているが、これらについては無効審判は請求されていないようである。
J-PlatPatのワンポータルドシエによると、本件出願は日本以外にもUS, EP, KR, CN, AU, CA, BR, IL, MX, NO, NZ, RU, TWで出願されているが日本以外で成立している国はない(出願を放棄していると思われる)。

請求項1:
経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と,
前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,波長が200nm~1100nmであり,平均出力が0.1W~50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記変色誘起酸化物が,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種であり,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行される,
マーキング方法。
裁判所の判断(抜粋)

取消事由1-1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について
「甲1ないし3に接した当業者において,甲2及び甲3からレーザ照射によって,二酸化チタンを充填又は配合したポリアセタール樹脂組成物又はフルオロポリマー樹脂組成物を変色させるレーザーマーキング方法の技術を理解したとしても,甲1発明アあるいは原告甲1発明アにおいて,レーザー光の照射(走査)により変色する物質を,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の,生理的に受容可能である反応物を生成する物質」(原告甲1発明アでは「Fe2 O3(三二酸化鉄)を含む特定の物質」)から,レーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)に置換することについての動機付けがあるものと認めることはできない。したがって,甲1ないし3に接した当業者において,甲1に記載された発明にレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することを容易に想到することができたものとはいえない。

・・・原告が主張するように,本件出願の優先日当時,二酸化チタンを分散させてレーザを照射してマーキングすること,「酸化チタン」や「三二酸化鉄」を「経口投与用組成物」に用いること,二酸化チタンを分散させて紫外線レーザでマーキングする方法の対象が経口投与用組成物に限定されないことが,周知あるいは技術常識であったとしても,そのことから直ちに甲1発明アあるいは原告甲1発明アにレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することの動機付けを認めることはできないし,上記構成を適用することが設計的事項であるということもできない。」
取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
「本件明細書の発明の詳細な説明の記載を総合すると,本件発明1においては,請求項1記載の波長(200nm~1100nm),平均出力(0.1W~50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/sec)の各上限値及び各下限値に臨界的意義があるのではなく,本件発明1は,上記の各数値範囲内で波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させてマーキングを行うことを課題の解決原理とする発明であるものと認められるから,原告が主張するような全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載が必要とされるものではない。」
取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について
(省略)

Jul 8, 2018

2018.06.26 「バクスアルタ v. 特許庁長官」 知財高裁平成29年(行ケ)10151

特許協力条約規則17.1: 知財高裁平成29年(行ケ)10151

【背景】

「第FVIII因子ポリマー結合体」に関する特許出願(特願2011-521284; 特表2013-500238; WO2010/014708)について本件基礎出願(米国)に基づく優先権は認められないとされたため、本件基礎出願の米国公開公報が引例となり新規性なしとされた拒絶審決(不服2015-10108)の取消訴訟。

特許協力条約規則17.1
  • 特許協力条約の規定に基づく国際特許出願について,優先権を主張する場合,出願人は,原則として,優先日から16か月以内に,優先権書類を国際事務局又は受理官庁に提出しなければならない(特許協力条約規則17.1(a))。
  • この手続に代えて,一定の条件が満たされた場合においては,出願人は,優先日から16か月以内に,受理官庁に対し,優先権書類を作成し国際事務局に送付するよう請求するか,国際事務局に対し,優先権書類を電子図書館から入手するよう請求するなどしなければならない(同規則17.1(b)(bの2))。
  • 出願人が,これらの手続を採らない場合,指定官庁は,事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた上で,優先権の主張を無視することができる(特許協力条約規則17.1(c))。
  • ただし,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合などは,指定官庁は,同規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することはできない(同規則17.1(d))。
原告らは、本願について特許協力条約規則17.1(a),(b)及び(bの2)の要件のいずれも満たされないこと、並びに、JPOが事情に応じて相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えたことは争わないが、JPOは特許協力条約実施細則715(a)に定めるところにより本件基礎出願の優先権書類を電子図書館から入手可能であるとみなされるから、JPOは特許協力条約規則17.1(d)により本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することはできない、と主張した。

経緯
  • 2008年8月1日 基礎出願(米国特許出願12/184567)
  • 2009年3月19日 基礎出願が公開(米国特許出願公開第2009/0076237)
  • 2009年7月29日 PCT/US2009/052103出願
  • 2010年6月21日 基礎出願に係る優先権書類を提出
  • 2010年7月2日 国際事務局が優先権書類を受領
  • 2011年1月27日 PCT/US2009/052103を日本へ国内移行(本願)
請求項1:
水溶性ポリマーと第VIII因子の酸化炭水化物部分とを結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む、方法。
請求項7:
(a)第VIII因子分子、及び
(b)前記第VIII因子分子に結合した少なくとも1個の水溶性ポリマーを含むタンパク質性構築物であって、前記水溶性ポリマーが、前記第VIII因子のBドメインに存在する1個以上の炭水化物部分を介して前記第VIII因子に結合している、
タンパク質性構築物。

【要旨】

裁判所は、
「本願について,特許協力条約規則17.1(d)にいう,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当たらない。そして,JPOは,同規則17.1(c)により,本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができる。そうすると,本願の新規性判断の基準時は,本願の国際出願日(平成21年7月29日)であり,引用例は,本願の国際出願日前に頒布された刊行物である。そして,原告らは,本願発明は,引用例に記載された発明であるとの本件審決の判断を争わない。したがって,本件審決における,本願発明の新規性判断に誤りがあるということはできない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

欧州では特許登録(EP2318050)された後、Novo Nordisk社より異議申立がなされた(異議申立不成立決定後、審判請求されたが取下げられ終結)。Novo Nordisk社は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤Novoeight®を販売している他、欧米で承認申請中のN8-GPがある。
"N8-GP (turoctocog alfa pegol) is a glycopegylated form of turoctocog alfa designed for prolonged half-life. The site specific glycopegylation is within the truncated B-domain. N8-GP is a B-domain modified form of turoctocog alfa and hence the active factor VIII generated by thrombin activation is identical to both activated endogenous FVIII and turoctocog alfa."

バクスアルタの第VIII因子に水溶性ポリマーが結合しているタンパク質性構築物といえば、バクスアルタ(シャイアーと合併)が開発したアディノベイト®静注用キット(ADYNOVATE® Intravenous Kit)(一般名:ルリオクトコグ アルファ ペゴル(Rurioctocog Alfa Pegol)(遺伝子組換え))が挙げられる。これは、遺伝子組換え血液凝固第 VIII 因子製剤「アドベイト®静注用」の有効成分であるルリオクトコグ アルファをもとにポリエチレングリコール(PEG)を共有結合した、ペグ化遺伝子組換え血液凝固第VIII因子製剤であり、血液凝固第 VIII 因子(FVIII)の効果持続を目的として、ルリオクトコグ アルファに PEG を共有結合することにより血中での循環時間を延長することが期待できる新たな血友病A治療薬として開発された。2016年3月28日に、厚生労働省より製造販売承認を取得(再審査期間は2017年12月5日~2024年3月27日)。ただし、ルリオクトコグ アルファ ペゴルにおいては、PEGがルリオクトコグ アルファのLysにリンカーを介して結合しているという点で本願発明とは異なるようだ。


Jun 30, 2018

ヘムライブラに対する特許侵害訴訟でバクスアルタが控訴

2018年6月29日付の中外製薬のプレスリリースによると、中外製薬の血友病A治療薬「ヘムライブラ®」(一般名:エミシズマブ)がバクスアルタ社保有の「第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体」に関する特許権(特許第4313531号; 存続期間満了日は2020年9月13日)に触れるとして上記ヘムライブラの製造等差止・廃棄を求め、バクスアルタ社が中外製薬を被告として提起した特許侵害訴訟について、バクスアルタ社は、東京地裁判決(2018.03.28 「バクスアルタ v. 中外製薬」 東京地裁平成28年(ワ)11475)を不服として、知財高裁に控訴したとのことです。

参考: