2020/03/23

中外がFreseniusによるAlecensa(アレセンサ)®のANDAに対して特許侵害訴訟提起

2020年3月23日付の中外製薬プレスリリースによると、中外製薬、ロシュ社およびジェネンテック社は、2020年3月19日(米国現地時刻)、Fresenius Kabi USA, LLCがFresenius Kabi Oncology LimitedおよびFresenius SE & Co. KGaAと共同してアレセンサ(Alecensa)®に対するANDAをFDAに提出したことが、中外製薬が保有する米国特許(9,126,931; 9,440,922; 9,365,514; 10,350,214)の特許権を侵害しているとして、米国デラウエア州連邦地方裁判所において特許権侵害訴訟を提起したとのことです。

アレセンサ(Alecensa)®は、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)に対して選択的阻害活性を有するアレクチニブ塩酸塩(alectinib hydrochloride)を有効成分とする抗悪性腫瘍薬です。日本では2015年9月2日に中外製薬が承認を所得し、米国では2015年12月11日にロシュ社が承認を取得しました。

RocheのFull-Year 2019 Presentation with appendix(2020年1月30日)によると、Alecensa®の2019年度salesは、グローバルでCHF876m、米国でCHF329m、欧州でCHF212m、日本でCHF217mとなっています。中外製薬の2019年12月期連結決算補足資料によると、アレセンサ®の2019年度(通期)売上高は、国内で230億円、海外で453億円(うちロシュ社向け輸出は446億円)となっています。

「RocheのFull-Year 2019 Presentation with appendix」より

Alecensa®のOrangebookによると、各米国特許満了日は以下の通りとなっています。
  • 9,126,931(物質特許): 2031年5月29日
  • 9,365,514(製剤特許): 2032年3月4日
  • 9,440,922(医薬用途特許): 2030年6月9日
  • 10,350,214(製剤特許): 現時点でOrangebook未収載(2035年4月24日と推定)

参考:

2020/03/22

レムデシビル(Remdesivir)に関連する特許出願について

1. レムデシビル(Remdesivir)について

ギリアドのプレスリリースによると、Remdesivir(開発コード: GS-5734)は、エボラウイルス、マールブルグウイルス、MERSウイルス、SARSウイルスを含む、複数のエマージングウイルス病原体に対し、in vitroと動物モデルを用いたin vivoの両方で広範な抗ウイルス活性を有する開発中の核酸アナログであり、これまでに、健常ボランティアとエボラウイルス感染者を対象としたRemdesivirの検討が行われていますが、世界のいずれの国においても認可・承認(licensed or approved)されておらず、いずれの適応でもその安全性や有効性は確立されていないとのことです。

ギリアドは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と診断された成人を対象として Remdesivir の安全性と有効性を評価することを目的とした第III相臨床試験を開始するためにFDAに治験届を提出(IND)すると発表し(2020年2月26日)、現在、それら試験を実施中です。

ギリアドにより開始された第III相臨床試験:
  • Study title: "Study to Evaluate the Safety and Antiviral Activity of Remdesivir (GS-5734™) in Participants With Severe Coronavirus Disease (COVID-19)"
    The primary objective of this study is to evaluate the efficacy of 2 remdesivir (RDV) regimens with respect to the normalization of temperature and oxygen saturation through Day 14 in participants with severe coronavirus disease (COVID-19). (ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04292899)
  • Study title: "Study to Evaluate the Safety and Antiviral Activity of Remdesivir (GS-5734™) in Participants With Moderate Coronavirus Disease (COVID-19) Compared to Standard of Care Treatment"
    The primary objective of this study is to evaluate the efficacy of 2 remdesivir (RDV) regimens compared to standard of care (SOC), with respect to the time to discharge in participants with moderate coronavirus disease (COVID-19). (ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04292730)

また、ギリアドは、政府機関、非政府組織および各国の規制当局と協力し、進行中の臨床試験外の緊急治療を目的とした未承認医薬品の人道的使用をベースとして、適格とされるCOVID-19患者にRemdesivirを提供しているとのことです。ギリアドは、すでに実施中の試験に薬剤を寄付するとともに科学的な情報提供を行っており、中国で先行して実施されている2試験(China-Japan Friendship Hospital主導)については4月に結果が得られる予定のようです(Estimated Primary Completion Date: April 3 or 10, 2020 (Final data collection date for primary outcome measure))。

中国で先行実施されている2試験(China-Japan Friendship Hospital主導):
  • Official Title: "A Phase 3 Randomized, Double-blind, Placebo-controlled, Multicenter Study to Evaluate the Efficacy and Safety of Remdesivir in Hospitalized Adult Patients With Severe 2019-nCoVRespiratory Disease."(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04257656)
  • Official Title: "A Phase 3 Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Multicenter Study to Evaluate the Efficacy and Safety of Remdesivir in Hospitalized Adult Patients With Mild and Moderate 2019-nCoV Respiratory Disease." (ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04252664)

参考:

2. レムデシビル(Remdesivir)の国際特許出願について

Remdesivir(開発コード: GS-5734)の化学構造式は既に知られています。
PATENTSCOPEを利用してRemdesivirの化学構造式から検索し(2020年3月22日時点)、Gilead Sciences, Inc.を出願人とする国際特許出願を下記の表1にリストしました。

表1: Remdesivirに関連するギリアドの国際特許出願
(PATENTSCOPEを利用してRemdesivirの構造式から検索(2020年3月22日時点)。Gilead Sciences, Inc.を出願人とする国際特許出願をピックアップ。)
Filing No.
(Filing Date)
Publication No.
(Publication Date)
Title
発明種別
(Remdesivir関連記載)
PCT/US2018/041482
(10.07.2018)
WO2019/014247
(17.01.2019)
COMPOSITIONS COMPRISING AN RNA POLYMERASE INHIBITOR AND CYCLODEXTRIN FOR TREATING VIRAL INFECTIONS
製剤
(Claim 1)
PCT/US2018/029974
(27.04.2018)
WO2018/204198
(08.11.2018)
CRYSTALLINE FORMS OF (S) 2 ETHYLBUTYL 2 (((S) (((2R,3S,4R,5R) 5 (4 AMINOPYRROLO[2,1-F] [1,2,4]TRIAZIN-7-YL)-5-CYANO-3,4-DIHYDROXYTETRAHYDROFURAN-2 YL)METHOXY)(PHENOXY) PHOSPHORYL)AMINO)PROPANOATE
結晶形
(Claim 82)
PCT/US2018/022166
(13.03.2018)
WO2018/169946
(20.09.2018)
METHODS OF TREATING FELINE CORONAVIRUS INFECTIONS
用途
(Claim 1)
PCT/US2017/028243
(19.04.2017)
WO2017/184668
(26.10.2017)
METHODS FOR TREATING FLAVIVIRIDAE VIRUS INFECTIONS
用途
(Claim 4)
PCT/US2016/052092
(16.09.2016)
WO2017/049060
(23.03.2017)
METHODS FOR TREATING ARENAVIRIDAE AND CORONAVIRIDAE VIRUS INFECTIONS
用途
(Claim 25)
PCT/US2015/057934
(29.10.2015)
WO2016/069827
(06.05.2016)
METHODS FOR TREATING FILOVIRIDAE VIRUS INFECTIONS
用途
(Claim 20)
PCT/US2015/057932
(29.10.2015)
WO/2016/069825
(06.05.2016)
METHODS FOR THE PREPARATION OF RIBOSIDES
製法
(Example 12 )
PCT/US2011/045102
(22.07.2011)
WO/2012/012776
(26.01.2012)
METHODS AND COMPOUNDS FOR TREATING PARAMYXOVIRIDAE VIRUS INFECTIONS
物質
(Claim 25)

表1のとおり、Gilead Sciences, Inc.を出願人とする国際特許出願は、現時点で、少なくとも8件存在しており、そのうち、最先の国際特許出願PCT/US2011/045102が、Remdesivirを保護する物質特許出願と考えられます。この国際特許出願は、日本への移行手続きがされており、特許第5969471号として登録されました。当該日本特許明細書には、Remdesivirに関連する記載として、段落【0224】に化合物9の製造方法についての一定の記載があり、その化合物9は少なくとも請求項23・24により保護されています。出願日は2011年7月22日ですので、特許期間延長登録出願がされていない現時点での当該日本特許権の存続期間満了日は出願日から20年後の2031年7月22日となります。

特許5969471号の請求項23及び24

Espacenetによるpatent searchで当該国際特許出願(PCT/US2011/045102)のpatent familyを検索すると、当該出願は日本を含む多くの国々で国内移行手続きがされていることが分かります。例えば、中国にも手続きされて審査が進み、特許として登録(CN103052631B)されていることが分かります。

2020/03/20

フェブリク® (フェブキソスタット(febuxostat))のジェネリック参入障壁としての再審査期間と特許権

1.フェブリク®錠について

帝人(株)(現 帝人ファーマ(株))は、1988年より尿酸降下薬の創薬研究に着手、1991年に非プリン型選択的キサンチンオキシダーゼ阻害剤であるフェブキソスタット(febuxostat)を発見、日本では、1995年からフェブキソスタットを有効成分とするフェブリク®錠の第I相臨床試験を開始し、2011年1月21日に「痛風、高尿酸血症」の効能・効果で製造販売承認を取得しました。その後、2016年5月23日に「がん化学療法に伴う高尿酸血症」の効能又は効果追加、用法及び用量追加承認を取得しました。フェブリク®錠の2018年度国内売上は358億円、国内では順調に販売拡大していますが、2020年3月5日付2020年度薬価基準改定告示(市場拡大再算定)により14.5~14.6%の引下げをうけました(厚生労働省 薬価基準改定の概要 別添4「市場拡大再算定品目及び効能変化再算定品目について」)。また、欧米では後発品の影響を受け収益が低下しているようです(2020.02.22 帝人2019年度第3四半期決算説明会資料 page 7)。

2.フェブリク®錠の再審査期間について

フェブリク®錠の医薬品インタビューフォーム(2020年3月(第8版))によると、フェブリク®錠の再審査期間は、痛風、高尿酸血症については当初の8年から10年(2011年1月21日~2021年1月20日)、がん化学療法に伴う高尿酸血症については当初の4年から4年8か月(2016年5月23日~2021年1月20日)に変更されています。2018年7月27日付の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会議事録及び2018年9月7日付の帝人プレスリリース「高尿酸血症・痛風治療剤「フェブリクⓇ」再審査期間延長の通知発出について」によると、フェブリク®錠の小児に対する用法・用量設定及び小児集団における有効性・安全性を把握する目的で治験を実施する必要があると認められ、国内再審査期間の2年間延長(2021年1月20日まで)が決定され、国内では2022年度前半まで後発品の参入は想定されないと発表されました(帝人2018年度第2四半期決算説明会資料 page 20)。

3.フェブリク®錠を保護する特許権について(日本)

フェブリク®錠の承認日(2011年1月21日及び2016年5月23日)をもとに存続期間延長登録出願されている帝人が権利者となっている特許をJ-PatPatで検索したところ、下記表1のとおり、特許及びそれら延長登録の存在が分かりました(これら以外に、フェブリク®錠を保護する出願または特許があるかどうかは未調査。以下、表1リスト特許のみを前提に考察。)。

物質特許は存続期間が延長されましたが、既に満了しています(2016年満了)。従って、表1にリストされた特許のうち、現存する特許は、(1)結晶特許3547707(2023又は2024年満了)、(2)製法特許3202607(2021年満了)、(3)製剤特許4084309(2026年満了)、(4)用途特許5907396(「腫瘍融解症候群の治療薬及び予防薬」に関する。2033年満了)となります。上記4つの特許は存在していますが、フェブリク®のジェネリック参入障壁として大きく関与するのは再審査期間の存在(2021年終了)であり、また加えて、用途特許5907396が特許係争上又はジェネリック承認審査上どのように扱われて関わってくるのかどうかが気になるところです。帝人ファーマはフェブリク®のオーソライズド・ジェネリック(AG)という選択肢を実行に移すのかどうかも気になります。

(1)結晶特許3547707について

下記事件を経て一部請求項を無効とする審決が確定しており、当該特許は存在していますがフェブリク®のジェネリック参入障壁としての効力は極めて低い(ジェネリックは特許回避可能)と考えられます。

(2)製法特許3202607について

存続期間が延長されました(2021年満了)が、フェブリク®錠の再審査期間が2021年1月20日まで延長され、2022年度前半まで後発品の参入は想定されないことから、ジェネリック参入障壁としての意義はなくなったと考えられます。

(3)製剤特許4084309について

存続期間が延長されました(2026年満了)が、当該特許の請求項は、結晶形(A晶)の限定のみならず特定の製剤成分を構成要件とする狭い特許請求の範囲となっています。従って、当該特許は存在していますがフェブリク®のジェネリック参入障壁としての効力は極めて低い(ジェネリックは特許回避可能)と考えられます。無効審判は請求されていません。

(4)用途特許5907396について

当該特許は2033年まで存続します。請求項1は、フェブリク®錠において2016年5月23日に追加された効能・効果「がん化学療法に伴う高尿酸血症」よりも広い高尿酸血症患者の範囲を保護しているようにも見えます。現在、無効審判が請求され、今後審理が係属していくと思われます。無効審判請求人がどのような無効理由を主張しているのか、その審理は2022年前半までにどう決着しているだろうか、ジェネリックメーカーがフェブリク®ジェネリックの「痛風、高尿酸血症」の承認申請をした際に当該特許はPMDA/厚労省による承認判断に影響するのか、ジェネリックメーカーによる「痛風、高尿酸血症」を効能・効果とするフェブリク®ジェネリックの販売行為に対して当該特許による権利行使は可能か・・・いろいろと気になるところです。

請求項1:
「・・・(略)・・・で表される2−フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩を有効成分として含有する、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、若しくは単芽球性急性骨髄性白血病である、又は抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、若しくは抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、高リスク患者における腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬。」

表1:フェブリク®錠の各承認に基づく再審査期間及び存続期間延長登録出願
赤字はこれから来る再審査期間終了日または特許権の存続期間満了日)

痛風、高尿酸血症
承認2011.1.21
がん化学療法に伴う高尿酸血症(通常、成人にはフェブキソスタットとして60mg11回経口投与する。)
承認2016.5.23
再審査期間(当初)
2011.1.212019.1.20 (8y)
2016.5.232020.5.22 (4y)
延長された
再審査期間
2021.1.20
理由: 小児に対する用法・用量設定及び小児集団における有効性・安全性を把握する目的で治験を実施する必要があると認められたもの
物質特許
特許2725886
出願日1991.11.29
登録日1997.12.5
10mg (特願2011-700069)
2011.11.29+5y
=2016.11.29

20mg (特願2011-700094)
2011.11.29+5y
=2016.11.29

40mg (特願2011-700088)
2011.11.29+5y
=2016.11.29

製法特許
特許2834971
出願日1993.5.25
登録日1998.10.2
10mg (特願2011-700070)
2013.5.25+5y
=2018.5.25

20mg (特願2011-700095)
2013.5.25+5y
=2018.5.25

40mg (特願2011-700089)
2013.5.25+5y
=2018.5.25

製法特許
特許2706037
出願日1993.8.24
登録日1997.10.9
特願2011-700071拒絶査定
特願2011-700090拒絶査定
特願2011-700096拒絶査定

製法特許
特許3202607
出願日1996.8.1
登録日2001.6.22
10mg (特願2011-700072)
2016.8.1+5y
=2021.8.1

20mg (特願2011-700097)
2016.8.1+5y
=2021.8.1

40mg (特願2011-700091)
2016.8.1+5y
=2021.8.1

結晶特許
特許3547707
出願日1999.6.18
登録日2004.4.23
無効2016-800037
平成29(行ケ)10147
10mg (特願2011-700073)
2019.6.18+5y
=2024.6.18
10mg (特願2016-700212)
2019.6.18+3y7m15d
=2023.2.2
20mg (特願2011-700098)
2019.6.18+5y
=2024.6.18
20 mg (特願2016-700213)
2019.6.18+3y7m15d
=2023.2.2
40mg (特願2011-700092)
2019.6.18+5y
=2024.6.18
40mg (特願2016-700214)
2019.6.18+3y7m15d
=2023.2.2
製剤特許
特許4084309
出願日2003.3.28
登録日2008.2.22
10mg (特願2011-700074)
2023.3.28+2y10m29d
=2026.2.26
10mg (特願2016-700215)
2023.3.28+3y7m15d
=2026.11.12
20mg (特願2011-700099)
2023.3.28+2y10m29d
=2026.2.26
20mg (特願2016-700216)
2023.3.28+3y7m15d
=2026.11.12
40mg (特願2011-700093)
2023.3.28+2y10m29d
=2026.2.26
40mg (特願2016-700217)
2023.3.28+3y7m15d
=2026.11.12
用途特許
(w/福井大学)
特許5907396
出願日2013.10.22
登録日2016.4.1
無効2020-800008

10mg (特願2016-700218)
2033.10.22+1m21d
=2033.12.13

20mg (特願2016-700219)
2033.10.22+1m21d
=2033.12.13

40mg (特願2016-700220)
2033.10.22+1m21d
=2033.12.13

関連記事:
参考:



2020/03/18

アビガン®錠(ファビピラビル(favipiravir))の物質特許

1.アビガン®錠について

ファビピラビル
アビガン®錠200mg(一般名: ファビピラビル(favipiravir))は、富山化学工業(株)(現:富士フイルム富山化学(株))により研究・創製された低分子の経口抗インフルエンザウイルス薬です。RNAポリメラーゼを選択的に阻害し、抗インフルエンザウイルス活性を示します。

ファビピラビルは、非臨床試験において鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)及びA(H7N9)等に対する抗ウイルス作用が確認されています。最近のインフルエンザを取り巻く状況を鑑みると、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対して、既承認の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なウイルスであり、ファビピラビルの有効性が期待できる可能性のある場合に、ファビピラビルを使用可能な状態にしておくことは意義があると判断され、2014年3月24日に、「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る。)」の効能・効果で、商品名「アビガンⓇ錠200mg」として製造販売承認を取得しました。

アビガン®は、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品であり、厚生労働大臣からの要請を受けて製造販売を行うものとされています。

2.アビガン®錠の物質特許(日本)について

富士フイルム富山化学(株)が保有する「含窒素複素環カルボキサミド誘導体またはその塩並びにそれらを含有する抗ウイルス剤 」に関する特許(第3453362号)はアビガン®錠の有効成分であるファビピラビルを保護する物質特許であり、20年の存続期間満了日は2019年8月18日です。

特許3453362号の請求項6及び7:


効能・効果を「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る。)」とする製造販売承認(2014年3月24日)に基づいて、当該特許の存続期間延長登録出願(2014-700070)がされ、5年間の延長登録を受けました。その結果、特許権の存続期間満了日は2024年8月18日となっています。

当該特許の存続期間延長登録において、「処分の対象となった物について特定された用途」は「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症・・・」ですから、当該延長された特許権の効力は当該用途に使用されるアビガン®錠(ファビピラビルを有効成分とする薬剤)の実施以外の行為には及ばないことになります(特許法第68条の2)。物質特許が5年間延長されたから、その延長された特許権の効力がそのまま同じような範囲で及び続ける、というわけではありません。

つまり、例えば、アビガン®錠(ファビピラビルを有効成分とする薬剤)を「新型コロナウイルス感染症」のための薬剤として使用することに対して、当該延長された特許権の効力は及ばないことになります。

アビガン®錠に関連したどのような特許が当該物質特許以外に存在するかは調べておりませんが、当該物質特許のみということであれば、アビガン®錠(ファビピラビルを有効成分とする薬剤)を「新型コロナウイルス感染症」のための薬剤として使用する行為について、日本において障壁となる特許権は無いということになる、と考えられます。

参考:

2020/03/15

ザイザル®(レボセチリジン塩酸塩)に関する特許権について

2020年2月17日に、持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤ザイザル®(有効成分: レボセチリジン塩酸塩(levocetirizine hydrochloride))の後発医薬品(21社・43品目)が初承認となりました。そのうち、武田テバファーマ(株)がオーソライズド・ジェネリック(AG)の承認を取得しています(2020.02.17 武田テバファーマ press release)。

その約1か月前である2020年1月14日、UCB Farchim SAより「持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤 (販売名 ザイザル®) に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(日刊薬業website: 【謹告】持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤 (販売名 ザイザル®) に関する特許権について)。この謹告文によると、UCB Farchim SAは、ザイザル®の有効成分であるレボセチリジン塩酸塩の製剤に関連する特許として、
  • 特許第4724367号(マンニトールを含むことが必須の構成要件となっている経口医薬組成物に関する)・・・存続期間満了日は2023年1月14日
  • 特許第4902875号(パラヒドロキシ安息香酸エステルを含むことが必須の構成要件となっている液体医薬組成物に関する)・・・存続期間満了日は2025年7月7日
  • 特許第6506301号(固形水溶性ポリオールを含むことが必須の構成要件となっている固形形態の医薬組成物に関する)・・・存続期間満了日は2035年3月26日
を有しているとのことですが、いずれも有効成分以外の特定の製剤成分等を必須とする製剤特許であり、ひとつひとつ各後発品の製剤成分と特許発明とを対比確認しておりませんが、各後発医薬品製剤はそれら特許発明の技術的範囲を回避したものなのかもしれません。上記3つの特許に対して無効審判請求はされていないようです。

日本国内における独占的ライセンシー及び独占的販売会社であるグラクソ・スミスクライン(株)は、2010年10月27日にアレルギー性鼻炎、蕁麻疹、湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚そう痒症を適応症としてザイザル®錠5mgの承認を取得しました。その後、2014年1月17日にザイザル®シロップ0.05%、2020年2月17日にザイザル®OD錠2.5mg・5mgの承認を取得しました。再審査期間は、錠5mgが8年(2010年10月27日~2018年10月26日)、シロップ0.05%がザイザル錠の残余期間(2014年1月17日~2018年10月26日)、OD錠2.5mg・5mgは該当しない、となっており、終了しています。

レボセチリジンは、ラセミ体であるセチリジンのR-エナンチオマーです。セチリジン塩酸塩(cetirizine hydrochloride)を有効成分とするジルテック®錠/ドライシロップ(製造販売元ユーシービージャパン(株)、販売元グラクソ・スミスクライン(株))についての後発医薬品は、2007年7月6日に初薬価収載(28社・56品目)となり販売されています。

参考:

2020/03/08

骨粗鬆症治療剤テリボン®(テリパラチド酢酸塩)の週1回投与に関連する特許群とジェネリックメーカーの動き

旭化成ファーマは、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34番目のアミノ酸に相当する化学合成ペプチドであるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩を有効成分とする週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤「テリボン®皮下注用56.5μg」を製造販売しています(再審査期間は、2011年9月26日~2017年9月25日(6年))。2019年9月には「テリボン®皮下注28.2μgオートインジェクター」の製造販売承認を取得し、12月に販売を開始しました。旭化成(株)の2019年度第3四半期決算説明資料(2020年2月7日)によるとテリボン®の国内売上高2018年度実績は283億円、2019年度も第3四半期実績までの推移から260億円程度は見込めそうです。2019年2月に、子会社の旭化成シンメッドが、テリボン®皮下注用56.5μgのオーソライズド・ジェネリックの承認を得ていますが、他のジェネリックメーカーからテリボン®のジェネリックは今だ承認されていません。そのジェネリック参入の障壁となっているのが下記の特許権群の存在と考えられます。

1.テリボン®(テリパラチド酢酸塩)に関連する特許群(日本):

2018年1月29日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」及び2019年6月5日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」によれば、旭化成ファーマは、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許権(特許第6150846号、特許第6043008号、特許第6198346号、特許第6522715号)、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤に関する特許権(特許第5922833号、特許第5960935号、特許第5996824号、特許第6031633号、特許第6057492号)およびテリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤の製造方法に関する特許権(特許第6025881号、特許第6258426号)を保有しており、これら特許権は有効に存続しているとのことです。

上記特許権(特許第6150846号、特許第6043008号、特許第6198346号、特許第6522715号)は元をたどると特願2011-530844(再表2011/030774; WO2011/030774)を原出願とするもので、現在その出願から派生した7つの特許が存続しています。特願2011-530844については、拒絶審決取消訴訟(2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241)で新規性・進歩性が争われた経緯があります(請求棄却判決。上告受理申立却下。)。

[表1] 旭化成ファーマが保有するテリパラチドの週1回投与を特徴とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許群(請求項1の構成)



特許6150846
特許6043008
特許6198346
特許6275900
特許6274634
(下線は訂正部分)
特許6301524
(下線は訂正部分)
特許6522715
A
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
1回当たり200単位のヒトPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、ヒトPTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、
B
増悪椎体骨折抑制のための






C
骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、
骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、 
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、
D
下記(1)(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする、
下記(1)(4)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を対象とする、
下記(1)(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、
クレアチニンクリアランスが30以上80未満ml/minである腎機能障害を有する骨粗鬆症患者を対象とする、
下記(1)(4)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を対象とする、
下記(1)(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者であり、かつ、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がL-アスパラギン酸カルシウム、アルファカルシドール、及び塩酸ラロキシフェンからなる群より選択される1つの薬剤である骨粗鬆症患者を対象とする、
下記(1)(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を対象とし、
E


48週を超過して72週以上までの間投与される、




F






皮下注射投与であることを特徴とする、
G
増悪椎体骨折抑制のための

骨折抑制のための

骨折抑制のための
骨折抑制のための
骨折抑制のための
H
骨粗鬆症治療ないし予防剤;
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;
骨粗鬆症治療ないし予防剤;
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤。
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤。
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;
I
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存椎体骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。

(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である
J

(4)クレアチニンクリアランスが30以上50未満ml/minである中等度腎機能障害を有する。


(4)クレアチニンクリアランスが50以上80未満ml/minである腎機能障害を有する。




2.ジェネリックメーカーの動き

[表2] 旭化成ファーマが保有するテリパラチドの週1回投与を特徴とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許群に対するジェネリックメーカーの動き

特許6150846
特許6043008
特許6198346
特許6275900
特許6274634
特許6301524
特許6522715
特許設定登録日
2017.06.02
2016.11.18
2017.09.01
2018.01.19
2018.01.19
2018.03.09
2019.05.10
異議申立
異議2017-701219
2017.12.21申立。
2018.03.28特許維持決定。
異議2017-700591
2017.06.13申立。
2017.09.27特許維持決定。
異議2018-700232
2018.03.20申立。
2018.05.30特許維持決定。




沢井製薬 v. 旭化成ファーマ

(ニプロ及びテバは、それぞれ2018.10.11及び2018.11.08に参加したが、それぞれ2019.07.24及び2019.04.11に参加申請を取下げている)
無効2018-800080
2018.06.22請求。

沢井は、理由1(実施可能要件)、理由2(サポート要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
無効2018-800064
2018.05.24請求。

沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
無効2018-800065
2018.05.24請求。

沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(サポート要件)、理由4(進歩性)により、特許無効を主張。
無効2018-800077
2018.06.12請求。

沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
無効2018-800076
2018.06.12請求。

沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
無効2018-800066
2018.05.24請求。

沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(サポート要件)、理由4(進歩性)により、特許無効を主張。

2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。





2019.12.18訂正を認めた上で特許無効審決。
2020.02.18訂正を認めた上で無効審判請求不成立審決。





2020.01.12旭化成ファーマは、審決取消訴訟提起(令和2(行ケ)10004)。


日医工 v. 旭化成ファーマ


無効2019-800062
2019.08.29請求。
2020.04.27口頭審理(予定)。



無効2019-800075
2019.09.30請求。
2020.04.27口頭審理(予定)。

上記旭化成ファーマの7つの特許は、沢井製薬により請求された無効審判において、5つの特許については無効とする審決の予告又は無効審決を受けています(表2中の赤字。いずれも、現在、審理・裁判係属中であり確定していません。)。日医工もそのうち2つの特許(特許6198346、特許6522715)に対して無効審判を請求しており、いずれも2020年4月27日に口頭審理が予定されています。

気になる点:
  • 沢井製薬が、上記旭化成ファーマの7つの特許権のうち、特許6522715だけ無効審判を請求していないこと。
  • 日医工が、上記旭化成ファーマの7つの特許権のうち、2つ(特許6198346、特許6522715)以外は無効審判を請求をしていないこと。
  • ニプロ及びテバは、沢井製薬が請求した無効審判全てに参加したが、審決予告前には参加を取下げた理由は。
  • 沢井製薬と旭化成ファーマとで和解(無効審判請求取下げ、ジェネリックの販売を一定時期から)はあるだろうか。
  • 旭化成シンメッドがテリボン®皮下注用56.5μgのオーソライズド・ジェネリックを販売開始するのはいつか。