Jun 10, 2019

2019.06.07 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(ネ)10063

特許法102条2項・3項(損害の額の推定)についての知財高裁大合議判決知財高裁平成30年(ネ)10063

「二酸化炭素含有粘性組成物」に関する特許権(第4912492号; 第4659980号)を保有するメディオン(被控訴人)が、炭酸パック化粧料(被告各製品)を製造・販売したネオケミア(控訴人)らに対して提起した特許権侵害訴訟。損害賠償請求の一部を容認した原判決(大阪地裁平成27年(ワ)4292)を不服として控訴人らが控訴した。

知財高裁(大合議)は、被告各製品は特許発明の技術的範囲に属し、特許の無効理由が存するとは認められないとした上で、被控訴人の損害額について、概要、以下のとおり判示して、控訴人らの控訴を棄却した。損害の額の推定を規定した特許法102条2項における「侵害した者・・・がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額」を算定するための考え方及び同条3項で定める「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」において適用すべき実施料率に考慮すべき事情が判示された。

(1) 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額について
  • 特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費(例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運送費等が該当し,管理部門の人件費や交通・通信費等は,通常,該当しない。)を控除した限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
  • 本件において,控訴人らが主張する人件費,試験研究費,宣伝広告費,サンプル代及び在庫品の仕入金額のうち,試験研究費及び宣伝広告費の一部については被告各製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったといえるから,控除すべき経費に当たるが,その余については,被告各製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったということはできないから,控除すべき経費とみるのは相当ではない。

(2) 特許法102条2項の推定覆滅事由について
  • 特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。
    例えば,
    ①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),
    ②市場における競合品の存在,
    ③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),
    ④侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)
    などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。
  • 競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される。また,侵害品が特許権者の製品に比べて優れた効能を有する,あるいは,侵害品が他の特許発明の実施品であるといった事情があるとしても,そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,優れた効能があることや他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献しているといった事情がなければならないというべきである。
  • 本件において,控訴人らの主張する推定覆滅事由のうち,競合品の存在,控訴人らの営業努力,被告各製品が顕著に優れた効能を有すること,被告各製品が控訴人らのうちの1名の特許発明の実施品であることについては,いずれも,その事実が認められないか,それが侵害者の売上げに貢献しているといった事情が認められない。また,控訴人らが主張するその余の推定覆滅事由は,被控訴人の受ける損害とは無関係であり,推定覆滅事由に当たらない。したがって,特許法102条2項による推定の覆滅は認められない。

(3) 特許法102条3項所定の受けるべき金銭の額について
  • 特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
  • 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定められる,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
    したがって,実施に対し受けるべき料率は,
    ①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,
    ②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,
    ③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,
    ④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
    等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
  • 本件において,
    ①本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は本件訴訟に現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること,
    ②本件発明1-1及び本件発明2-1は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,
    ③本件発明1-1及び本件発明2-1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること,
    ④被控訴人と控訴人らは競業関係にあること
    など,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき本件での実施に対し受けるべき料率は,10%を下回らないものと認めるのが相当である。

過去関連記事:

Jun 8, 2019

テリパラチド酢酸塩に関する特許権について

2019年6月5日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」によると、旭化成ファーマ(株)は、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許権(日本特許第6522715号)が以下の特許請求の範囲(請求項2は省略)にて登録されたとのことです。

【請求項1】
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を対象とし、皮下注射投与であることを特徴とする、骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である
上記特許権は元をたどると特願2011-530844(再表2011/030774; WO2011/030774)を原出願とするものです。この特願2011-530844については、拒絶審決取消訴訟(2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241)で新規性・進歩性が争われた経緯があります。本件特許権は、拒絶査定不服審判(不服2018-8267)において、発明の効果について、上記判決を踏まえつつ実験成績証明書とともに意見書で反論(2018.10.29提出)したことで、進歩性における拒絶理由が解消され登録に至ったようです。

旭化成ファーマ(株)は、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分であるN端側の1-34ペプチド断片であるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩を有効成分とする週1回皮下投与の骨粗鬆症治療剤「テリボン(TERIBONE)®皮下注用56.5μg」を製造販売しています(再審査期間は終了、2011年9月26日~2017年9月25日(6年))。テリボン®皮下注用56.5μgの添付文書には、以下のように記載されています。
【効能又は効果】
骨折の危険性の高い骨粗鬆症
【効能・効果に関連する使用上の注意】
本剤の適用にあたっては、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頸部骨折の家族歴等の骨折の危険因子を有する患者を対象とすること。

2019年2月に、子会社の旭化成シンメッドが、テリボン®皮下注用56.5μgのオーソライズド・ジェネリックの承認を得ています。

参考:

May 28, 2019

2019.05.17 「Dana-Farber Cancer Institute, Inc. v. Ono Pharmaceutical Co., Ltd. et al」 UNITED STATES DISTRICT COURT DISTRICT OF MASSACHUSETTS Case 1:15-cv-13443-PBS

2019年5月17日、米国地裁は、PD-1に関する所謂「本庶特許」について、Dana-Farber Cancer InstituteのFreeman博士とWood博士の二名が共同発明者であるとの判決を下しました。以下、判決文の一部を引用。
"Dr. Honjo reached out to Dr. Wood to find PD-L1 because he did not fully understand the biological mechanism of the PD-1 signaling pathway. While Dr. Honjo knew that activation of PD-1 has an inhibitory effect, he did not know that PD-L1 triggers this effect when it binds to PD-1 or how strong the inhibitory signal is."

"Dr. Freeman and Dr. Wood discovered that anti-PD-1 and anti-PD-L1 antibodies can block the pathway’s inhibitory signal. Dr. Wood conducted an experiment using one of Dr. Honjo’s anti-PD-1 antibodies that showed blockage of the PD1/PD-L1 pathway, and both Dr. Freeman and Dr. Wood developed their own anti-PD-L1 blocking antibodies. They communicated these results to Dr. Honjo at multiple collaboration meetings before the date of conception."

"It is clear Dr. Honjo and his colleagues were focused on the relationship between PD-1 and autoimmune disease, not cancer, before the collaboration with Dr. Freeman and Dr. Wood began."

"Even if it is not clear who was the first to contribute the idea of blocking the pathway to treat cancer, Dr. Freeman and Dr. Wood made the contributions described above as part of a collaboration aimed at developing a treatment for cancer, and they all understood and communicated with excitement the connection between their discoveries relating to the pathway and cancer. Ultimately, conception of the inventions in the Honjo patents was the result of the collaboration of all three scientists."

参考:


May 27, 2019

2019.04.25 「ニプロ v. 千葉大学・扶桑薬品工業」 知財高裁平成30年(行ケ)10061

用時混合型急性血液浄化用薬液の進歩性: 知財高裁平成30年(行ケ)10061

被告(千葉大学・扶桑薬品工業)が保有する「安定な炭酸水素イオン含有薬液」に関する特許(第5329420号)に対して原告(ニプロ)がした無効審判請求の不成立審決(無効2017-800014号)取消訴訟。裁判所は、本件訂正発明1は当業者が甲3に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、これと異なる本件審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由は理由があるとして、本件審決を取り消した。
本件特許の分割出願特許(第5636075号)に対しても、無効審判請求不成立審決(無効2017-800015号)の取消訴訟が進行中のようである(平成30年(行ケ)10165)。

相違点の容易想到性について

訂正発明1
引用発明2との相違点
裁判所の判断
ナトリウムイオン,塩素イオン,炭酸水素イオンおよび水を含むA液と,ナトリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,塩素イオン,ブドウ糖および水を含むB液を含み,そして・・・
(相違点(甲3-1-1’))
本件訂正発明1では,ナトリウムイオンはA液にもB液にも配合されているのに対し,引用発明2では,第一単一溶液にしか配合されていない点。
甲3記載の実施例4(引用発明2)において,ナトリウムイオンを,通常のように,第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合させる構成とすることは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2において,第一単一溶液のみに配合されているナトリウムイオンを第一単一溶液及び第二単一溶液の両方に配合する構成(相違点(甲3-1-1’)に係る本件訂正発明1の構成)に変更することを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
A液とB液を合した混合液において,・・・無機リン濃度が4.0mg/dLであり,
(相違点(甲3-1-6’))
混合液中の無機リン濃度が,本件訂正発明1では4.0mg/dLであるのに対し,引用発明2では3.72mg/dLであると算出される点。
甲3に接した当業者においては,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を得るために,引用発明2における第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の「HPO₄²⁻」(リン酸イオン濃度)「1.20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)を上記③の「1.0~2.8mM」(無機リン濃度3.1~8.7mg/dL)の範囲内で調整することを試みる動機付けがあるものと認められるから,引用発明2における無機リン濃度を上記数値範囲内の「4.0mEq/L」(相違点(甲3-1-6’)に係る本件訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,


マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,
(相違点(甲3-1-7’))
混合液中のマグネシウムイオン濃度が,本件訂正発明1では1.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2では1.2mEq/Lであると算出
される点。
技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mEq/L」)及び炭酸水素イオン濃度(「30.0mEq/L」)を市販されている透析液及び補充液のそれぞれの数値範囲の中で調整することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3-1-7’)に係る本件訂正発明1の構成)に,炭酸水素イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の上記数値範囲に含まれる「32.0mEq/L」(相違点(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成)にすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,
(相違点(甲3-1-8’))
混合液中の炭酸水素イオン濃度が,本件訂正発明1では32.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2では30.0mq/Lであると算出される点。
そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,
(相違点(甲3-1-3’))
本件訂正発明1では,「A液とB液を合した混合液において,……,少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ことが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2では,それに対応する発明特定事項がない点。
本件訂正発明1の「少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用発明2において,相違点(甲3-1-1’),(甲3-1-4’),(甲3-1-6’)ないし(甲3-1-8’)に係る本件訂正発明1の構成とした場合に,自ずと備えるものといえる。
したがって,引用発明2において,相違点(甲3-1-3’)に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
用時混合型急性血液浄化用薬液。
(相違点(甲3-1-4’))
本件訂正発明1は「急性血液浄化用薬液」であるのに対し,引用発明2は「医薬溶液」である点。
甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2)において,当該「医療溶液」を「用時混合型急性血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3-1-4’)に係る本件訂正発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。


 顕著な効果について
「患者に対する混合液の使用を「7日間」継続し,その間に「pHが7.23~7.29から7.89~7.94までほぼ直線的に上昇した状況」に置くことは,用時混合型急性血液浄化用薬液の通常の使用方法としては想定されないものといえる。そうすると,かかる状況下で7日間にわたり不溶性微粒子や沈殿の形成が抑制されたという効果は,用時混合型急性血液浄化用薬液に通常求められる効果であるとはいえない・・・。
次に・・・本件明細書には,本件訂正発明1の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpHの推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験の結果(甲18の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本件訂正発明1の効果であるとは認められない。
さらに,本件審決は,本件訂正発明1は,「急性血液浄化用薬液」として有用であるという,甲3の記載からは予想し得ない効果を奏するものである旨判断したが,・・・当業者は,引用発明2を「用時混合型急性血液浄化用薬液」として使用することを容易に想到することができたものと認められるから,甲3の記載からは予想し得ない効果であるとは認められず,本件審決の上記判断は,誤りである。」

May 19, 2019

2019.04.12 「アーシャ ニュートリション サイエンシーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成30年(行ケ)10117

明確性要件は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべき知財高裁平成30年(行ケ)10117

【背景】

「脂質含有組成物およびその使用方法」に関する特許出願(特願2011-506377)の分割出願(特願2014-99072)の拒絶審決(不服2016-5871)取消訴訟。審決理由は、明確性要件(特許法36条6項2号)及びサポート要件(同項1号)に適合しないというもの。

請求項1(特定事項A~Iに分説):
A 対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選択するための指標としての使用であって,
B 前記対象の一つ以上の要素は,以下:前記対象の年齢,前記対象の性別,前記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の身体活動レベル,前記対象の脂質忍容性レベル,前記対象の医学的状態,前記対象の家族の病歴,および前記対象の生活圏の周囲の温度範囲から選択され,
C ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含む脂肪酸を含み,
D ここでω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比,およびそれらの量が,前記一つ以上の要素に基づいており;
E ここでω-6対ω-3の比が,4:1以上,ここでω-6の前記用量が40グラム以下であり;
F または前記対象の食餌および/または配合物における抗酸化物質,植物化学物質,およびシーフードの量に基づいて1:1~50:1;
G またはここでω-6の増加が緩やかおよび/またはω-3の中止が緩やかであり,かつω-6の用量が,40グラム以下であり;
H またはここで前記脂肪酸の含有量は,下記表6:(表は略)と適合する,
I 前記使用。

【要旨】

裁判所は、原告主張の取消事由(明確性要件の判断の誤り)2及び3(サポート要件の判断の誤り)は理由があるから、原告の請求を認容することとし、審決を取り消した。以下、裁判所の判断の抜粋。

取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について
「特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

・・・特定事項Aは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を「指標」として使用する方法である旨特定するものである。特定事項Aに係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。

・・・特定事項Cは,対象に投与される脂質含有配合物が脂肪酸を含み,当該脂肪酸は,具体的には,ω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸とともに,その余の脂肪酸を含むことができ,これらの脂肪酸全体の量が脂肪酸の一日用量に相当し,これらの脂肪酸は,当該脂質含有配合物の1又は複数の部分に含まれる旨特定するものである。特定事項Cに係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。

よって,取消事由2は理由があり,本願発明は明確性要件違反を理由に拒絶すべきものとはいえない。」

取消事由3(サポート要件の判断の誤り)について
「本件審決は,サポート要件について,「ω-6の増加が緩やかおよび/またはω-3の中止が緩やかであり,かつω-6の用量が,40グラム以下であり」との技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。
そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。・・・本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由がある。」

【コメント】

本件特許出願(特願2014-99072)の原出願にあたる特願2011-506377は、拒絶審決取消訴訟(2017.10.13 「アーシャ ニュートリション サイエンシーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10216)にて請求棄却後、上告受理申立したが却下となっている。

Asha Nutrition Sciences, Inc.のwebpageからの知的財産情報(http://asha-nutrition.com/research/intellectual-property/)によると、現時点で、本件特許出願(特願2014-99072)は、製品名「LipiLife」、「Tailored Lipids & Micronutrients」、「Low-lipid or Lipids Free Complements」をカバーする特許情報としてリストされている。

May 15, 2019

2019.03.14 「レッドエックス ファーマ v. 国」 知財高裁平成30年(行コ)10002

事務所員の誤入力により国内書面提出期間内に手続できなかったことに「正当な理由」があったか?: 知財高裁平成30年(行コ)10002

知財高裁も、本件却下処分に控訴人主張の違法があるとは認められず、控訴人の請求は理由がないものと判断した。控訴棄却。

原審: 2018.07.13 「レッドエックス ファーマ v. 国」 東京地裁平成29年(行ウ)290


May 12, 2019

2019.02.14 「大阪ガスケミカル v. 田岡化学工業」 知財高裁平成29年(行ケ)10236; 平成29年(行ケ)10237

結晶多形関連発明の進歩性等が争われた事例: 知財高裁平成29年(行ケ)10236; 平成29年(行ケ)10237

【背景】

田岡化学工業が保有する「フルオレン誘導体の結晶多形体およびその製造方法」に関する特許(第4140975号)に対して大阪ガスケミカルがした無効審判請求(無効2013-800029号)を不成立とした審決(第一次審決)の取消訴訟(2016.01.27 「大阪ガスケミカル v. 田岡化学工業」 知財高裁平成26年(行ケ)10202)確定後、特許庁での再審理における訂正請求を経て、請求項7に係る発明についての特許を無効、請求項1~4、6、8、9に係る発明についての審判請求は成り立たない等の第二次審決に対して、原告(無効審判請求人: 大阪ガスケミカル)及び被告(特許権者: 田岡化学工業)は取消しを求める訴訟を提起した。原告主張の取消事由1~7は、本件発明1~4、6~9の容易想到性判断の誤り、被告主張の取消事由1は、公然実施及び公知についての認定判断の誤りである。

請求項1(本件発明1):
「ヘテロポリ酸の存在下,フルオレノンと2-フェノキシエタノールとを反応させた後,得られた反応混合物から50℃未満で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させることにより9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物を得,次いで,純度が85%以上の該粗精製物を芳香族炭化水素溶媒に溶解させた後に65℃以上で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体の製造方法。」
請求項7(本件発明7):
「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体。」
請求項8(本件発明8):
「Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが12.3°,13.5°,16.1°,17.9°,18.4°,20.4°,21.0°,23.4°および24.1°にピークを有する9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体。」
請求項9(本件発明9):
「回折角2θの最大ピークが18.4°である請求項8に記載の結晶多形体。」

【要旨】

裁判所は、原告の請求及び被告の請求はいずれも理由がないからそれぞれ棄却した。

1.裁判所は、取消事由1(本件発明1の容易想到性判断の誤り)について、以下のとおり、相違点1-2、相違点1-3が容易想到であるとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事由1は理由がないと判断した。

相違点1-2(本件発明1においては,「次いで,該粗精製物を芳香族炭化水素溶媒,に溶解させた後にBPEFの析出を開始」させるという特定の溶媒を用いた再結晶化の操作を更に行っているのに対して,引用方法発明においては特定の溶媒を用いた再結晶化の操作が更に行われていない点。)の容易想到性について
「ア 異なる結晶多形体を製造する動機付けについて
本件発明1では,BPEFの多形体Bを製造するために特定の溶媒(芳香族炭化水素溶媒)を用いた再結晶化操作が行われているのに対し,引用方法発明では,多形体Aと異なる結晶多形体を得るための再結晶化操作が行われず,単に多形体Aの白色結晶が製造されているにすぎない。したがって,引用方法発明に接した当業者が,多形体Aと異なる結晶多形体を製造しようと動機付けられるのかどうかについて,以下検討する。
a 前記5~9で認定した各刊行物の記載によると,「多くの化合物について,結晶多形体が存在しており,結晶多形体の違いにより,化合物の嵩密度,流動性,ろ過性,沈降性等の粉体特性,結晶の形状,密度,純度,粒径,非線型性光学特性,バイオアベイラビリティー,安定性などが変わり得るもので,特にバイオアベイラビリティーの向上等が求められる医・農薬品化合物や単体で特異的な機能性発現が求められる化合物の分野では,結晶多形体の制御は,工業的にも重要なものとされている。」という技術常識が,本件優先日当時に存在していたことが認められるものの,このような技術常識から直ちにBPEFについて,多形体Aと異なる結晶多形体を製造する動機付けの存在を認めることはできない。
b ・・・本件で問題になっているBPEFは,専ら合成樹脂(ポリマー)の原材料として使用される単量体(モノマー)であり,最終的には溶融重合又は溶液重合されて結晶形をとどめなくなり,結晶多形体の違いにかかわらず,同じ化学構造のポリマーとなる化合物であると認められるのであり,単体で使用され何らかの機能を発揮する医薬品化合物のようなものとは異なり,その用途・性質の面から直ちに結晶多形体の探索が基礎付けられるようなものではないといえる。
c ・・・BPEFについて,高純度で高い反応性を有し,ポリマーに合成したときに分子量が高くて分子量分布が狭く,かつ未反応モノマーやオリゴマー含有率が低いことが要求されていたと認められるところ,本件優先日当時,それらの事項やその他の物性,嵩密度をはじめとする粉体特性等に関して,多形体Aについて何らかの課題があったり,工業的プロセスでの不都合があったりして,多形体A以外の結晶多形体を得る必要性があると当業者に認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
f 以上をまとめると,本件優先日当時,BPEFについて,その用途・性質の面からみて,直ちに結晶多形体探索の動機付けがあるとはいえず,かつ,多形体Aについて純度向上やその他の物性,粉体特性等の点で特に課題が認識されておらず,しかも,純度向上のためには結晶多形体の制御以外に他に適切な手法が複数あったのであるから,敢えて時間や費用を要する異なる結晶多形体を製造する動機付けがあったと認めることはできない。
・・・
イ 特定の溶媒を用いることについて
甲6,9~13には,BPEFを析出する際の溶媒として芳香族炭化水素を用いることができることが記載されている。しかし,甲6の・・・との記載,甲12の・・・との記載からすると,BPEFを析出する際の溶媒としては,芳香族炭化水素以外にも混合溶媒を含む様々なものがあり,かつ,芳香族炭化水素以外の溶媒を用いても高純度化は期待できるから,そのような中で,当業者が敢えて芳香族炭化水素という特定の溶媒を異なる結晶多形体を得るための再結晶化工程に使用することを容易に想到し得るとはいえない。
・・・
ウ 小括
以上からすると,相違点1-2について,引用方法発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。」
相違点1-3(本件発明1においては,再結晶化の段階で「65℃以上でBPEFの析出を開始」させているのに対して,引用方法発明においては再結晶化の段階がなく,その段階における析出開始温度が特定されていない点)の容易想到性について
「ア 再結晶化の段階で析出開始温度を明示的に65℃以上としている文献等は存在せず,当業者において,再結晶化の際に析出開始温度を65℃以上とすることが動機付けられるものではない。したがって,相違点1-3について,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
イ 原告は,①スクリーニング法を用いて析出開始温度を上げたり下げたりすることや,②引用方法発明である甲6の実施例10に,副引例である甲9又は甲10に記載された再結晶化の操作を適用することで,当業者は相違点1-3を容易に想到し得た,③「65℃以上でBPEFの析出開始」とは,「現象」にすぎないところ,そのような現象を確認することは容易であると主張する。
しかし,原告の上記①,②の主張は,BPEFについて異なる結晶多形体を製造する動機付けがあることを前提として,析出開始温度が65℃以上となるように,当業者が,スクリーニング法を用いたり,甲9又は甲10の各実施例1を参考にするなどして溶液濃度を敢えて高く設定したりすることが容易想到である旨をいうものであると解されるところ,前記(2)アのとおり,そのような結晶多形体を作り分ける動機付けの存在は認められず,その主張は前提を欠いている。」

2.裁判所は、取消事由6,7(本件発明8,9の容易想到性判断の誤り)について、以下の通り、当業者が引用方法発明に基づいて多形体Bである本件発明8、9を容易に想到することができたとはいえないから原告主張の取消事由6、7はいずれも理由がないと判断した。
「・・・引用方法発明で製造された引用結晶発明は,多形体Aと推認されるところ,原告は,本件発明8,9について,①取消事由1の主張を援用するとともに,②当業者は,高純度化のために,甲6の段落【0025】の示唆に基づき再結晶化操作を動機付けられ,その際に引用方法発明に甲9又は甲10の発明を組み合わせることで,多形体Bを製造できるから容易想到であると主張する。
しかし,取消事由1に理由がないことは前記17のとおりである。また,引用方法発明について,仮に高純度化のために再結晶化操作が動機付けられたとしても,そこから特定の溶媒を使用して異なる結晶多形体を得ることまでが容易想到とはいえないことは,前記17(2)イのとおりである。加えて,前記17(3)で検討したとおり,再結晶化の段階で析出開始温度を明示的に65℃以上としている文献等が存在しないことや異なる結晶多形体を製造する動機付けがないことなどからすると,析出開始温度を65℃以上とすることも容易想到とはいえない。」

3.裁判所は、取消事由8(本件発明7の公然実施及び公知についての認定判断の誤り)について、以下の通り、公知の点について判断するまでもなく、被告主張の取消事由8は理由がないと判断した。
「前訴判決は,前記(1)のとおり,本件発明7は,第6取引を除く本件各取引によって公然実施されたと判断しているから,この部分に拘束力が及び,審判手続においてこれに反する主張をすることは許されないものというべきである。したがって,この点についての第二次審決の判断に誤りがあるということはできない。・・・なお,念のため,被告の主張する原告又はY社とα社~ε社との間の共同開発に基づく信義則上の秘密保持義務の有無についても・・・以上のとおり,被告が主張する上記①~⑤の事実は,共同開発及びそれに基づく信義則上の秘密保持義務の存在を推認させるものではなく,他に信義則上の秘密保持義務の存在を認めるに足りる証拠はない。」

【コメント】

結晶多形発明の進歩性が争われた。本件発明は医薬品の有効成分に関するものではなく、合成樹脂(ポリマー)の原材料として使用される単量体(モノマー)に関する結晶多形発明であるが、異なる結晶多形体を製造する動機付けについての裁判所の判断の中で、「バイオアベイラビリティーの向上等が求められる医薬品化合物の分野とは異なり、その用途・性質の面から直ちに結晶多形体の探索が基礎付けられるようなものではない」旨が言及されている(上記、判決文中に付した下線部分)。逆に言えば、医薬品化合物の分野は、その用途・性質の面から直ちに結晶多形体の探索が基礎付けられるようなものであるということなのだろう。それでも、医薬品化合物の新規な結晶多形体発明の進歩性を主張したい出願人の立場として、本件のように、特定の溶媒や再結晶化の段階での特定の析出開始温度を使用して結晶多形体を得ることの動機づけを否定する主張をすることにはチャンスが残されているのだろうか?


第一次審決取消訴訟:
2016.01.27 「大阪ガスケミカル v. 田岡化学工業」 知財高裁平成26年(行ケ)10202

大阪ガスケミカルと田岡化学工業の特許紛争の他の過去判決:

Apr 20, 2019

2019.03.19 「サン ファーマ v. ジェネンテック」 知財高裁平成30年(行ケ)10036

IL-23アンタゴニストによるIL-17産生阻害の新経路発見に基づく作用機序特許、乾癬治療用途は同じでも新規?知財高裁平成30年(行ケ)10036

【背景】

被告(ジェネンテック)が保有する「IL-17産生の阻害」に関する特許(第5705483号)に対して原告(サン ファーマ)がした無効審判請求に対する不成立審決(無効2017-800007号)の取消訴訟である。争点は、①新規性、②進歩性、③明確性要件、④サポート要件、⑤実施可能要件の各判断の誤りの有無である。

請求項1(本件特許発明1):
T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための,インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。

【要旨】

裁判所は、取消事由はいずれも理由がないと判断し、原告の請求を棄却した。以下、裁判所の判断の抜粋。

取消事由1(甲5に基づく新規性判断の誤り)について

裁判所は、
「本件特許発明1と甲5発明とは,審決認定のとおり,相違点5(本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し,甲5発明にはそのような特定がない点)で相違する。・・・甲5発明の「T細胞を処理する」とは,IL-12によるT細胞の処理,すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲5には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことを指すものではないことは明らかである。・・・本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づき,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであり,上記知見は,従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なるものであると認められる。したがって,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであるから,甲5発明の「T細胞を処理するため」とは明確に異なるものであり,相違点5は,実質的な相違点であると認められる。」
と判断した。

原告は、
「甲5X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく,「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に,「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲5X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5X発明と本件特許発明1との間に相違点はない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,次のとおり理由がない。
(ア) ・・・本件特許発明1は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づいて,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」について「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための)」という用途の限定を付したものであると認められるところ,慢性関節リウマチの患者であってもIL-17濃度の上昇がみられなかった者がいるように,すべての炎症性疾患においてIL-17濃度が上昇するものではないし,特定の炎症性疾患においてもすべての患者のIL-17濃度が上昇するものではないと認められるから,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。
(イ) 他方,前記(1)のとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲5発明が,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲5発明の「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することができるという甲5に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。
(ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。」
と判断した。

原告は、
「本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲5X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性について判断すべき旨の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特許発明1の用途が,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。」
と判断した。
以上のとおり、裁判所は、本件特許発明1は甲5発明ではないと判断した。

取消事由2(甲5に基づく進歩性判断の誤り)について

裁判所は、
「本件明細書には,本件優先日前の文献を引用して,IL-17は,リウマチ様関節炎を含む様々な炎症性疾患に関係しており,それらの疾患においてIL-17の濃度の著しい上昇が見られること,乾癬においてIL-17の濃度が著しく上昇することが認められ,IL-17は乾癬に関係していると文献に記載されている旨が記載されており(【0003】,【0054】~【0060】),本件優先日当時,乾癬等の炎症性疾患とIL-17との関連性が報告されていたことが認められる。
しかし,前記2(4)アのとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされておらず,甲1,3を含む本件で提出されたその余の証拠によっても,本件優先日当時,当業者において,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることを認識していたとは認められないから,甲5に接した当業者において,甲5発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」(IL-23のアンタゴニスト)を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められない。」
と判断した。

原告は、
「乾癬患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,乾癬の治療効果を高めることはないし,甲5には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく乾癬患者に抗体含有組成物を使用することが開示され,それによる病巣消失の効果までもが既に開示されており,その効果は,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経るか否かによって,変わることはない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「・・・甲5には,「J695」と称される「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されているが,甲5に接した当業者において,この「p40サブユニットを中和することができる抗体」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められないことは,前記(1)のとおりであり,原告の上記主張は,この判断を左右するものではない。」
と判断した。

原告は、
「たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかであるし,被告によると,本件特許発明は,「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明において必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「前記2(4)ウのとおり,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができるのであって,被告の主張は採用できないから,本件特許発明1がIL-17濃度の上昇が見られるか否かを問わずに利用されることを前提とした原告の上記主張は,前提において失当である。」
と判断した。

原告は、
「本件特許発明の用途は,甲5に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲5X発明の「P40サブユニットを中和することができる抗体」(IL-23アンタゴニスト)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲5X発明が実質的に異なることを示すようなものではない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「前記2(4)のとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞の処理による乾癬治療のため」という用途とは,明確に異なるものであり,本件特許発明1の用途は,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものではないから,原告の上記主張は,理由がない。以上によると,本件特許発明1は,甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。・・・よって,取消事由2は,理由がない。」
と判断した。

取消事由7(明確性要件の判断の誤り)について

裁判所は、
「本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には,「炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択する」旨の文言は記載されていないが,上記のとおり,「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための)」という用途を限定した文言により,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができる。
また,前記1(1)のとおり,本件明細書には,IL-17が慢性関節リウマチ,同種異系移植拒絶反応中,多発性硬化症を含む他の慢性炎症疾患,乾癬,ベーチェット病,喘息,全身性エリテマトーデスにおいて,IL-17の濃度が上昇することが先行技術文献を引用して記載されており,炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。
そうすると,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,不明瞭であるとはいえず,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。」
と判断した。

原告は、
「本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップが必須であることについて,必ずしも明確に表現しておらず,仮に,このように不明確な特許請求の範囲の記載のまま特許登録が維持されることとなれば,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ない乾癬等の疾患治療のための組成物の利用についても,あたかも本件特許発明の技術的範囲に属するかの如き外観を呈し,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれが非常に高いから,本件特許に係る請求項1~10の記載は,明確性要件を満たさない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本件特許の請求項1の記載により,請求項1に記載された組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができることは,前記(1)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。」
と判断した。

取消事由8(サポート要件の判断の誤り)について

裁判所は、
「当業者は,本件明細書の記載から,IL-23アンタゴニストにより,IL-23により誘導されるT細胞によるIL-17産生を阻害することができること,すなわち,本件特許発明の課題を解決できることを認識することができる。」
と判断した。

原告は、
「審決のように,本件特許発明の組成物を炎症等を治療するという医薬用途に利用する場合,当然にIL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるものであるとすると,本件特許発明の課題解決のためには,IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択できることも要すると解すべきであるが,「IL-17発現の上昇したレベル」の技術的意味やその確認方法自体も,本件明細書において明確にされているとはいえないし,技術常識を考慮してもそれが明らかであるとはいえない」
などと主張した。

しかし、裁判所は、
「前記8(1)のとおり,炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。」
と判断した。

取消事由9(実施可能要件の判断の誤り)について

裁判所は、
「取消事由9に係る原告の主張は,・・・いずれも取消事由8に係る原告の主張と同旨であるから,これらにいずれも理由がないことは,前記9(2)ア~ウの説示から明らかである。よって,取消事由9は,理由がない。」
と判断した。

【コメント】

医薬用途発明の新規性の判断について、物の「用途」とは何かということを考えさせられる判決。本願発明1(請求項1)において、「物」とは「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物」であり引用発明と一致していたが、「用途」という点で、本願発明1は「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するため」であるのに対して、引用発明は「IL-12によるT細胞を処理(すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害)するためのインビボ処理方法において使用するため」であるという点で文言上相違していた。しかし、問題は、両発明とも、上記の通り「インビボ処理方法」がどんな体内作用機序を経るための処理方法なのかという意味での用途は相違している一方で、T細胞を処理して最終的には乾癬の治療のために効果を発揮させる発明であるという意味では共通していたため、その相違点は新たに発見した作用機序で表現(説明)しただけにすぎないではない(用途は異ならない)のではないかという論点があった。

図は弁理士会バイオ・ライフサイエンス委員会からの審議委嘱事項2「バイオ関連・医薬発明の特許性についての国際的な比較に基づく問題点の調査及び研究」についての報告書(平成31年2月8日)より

乾癬では、IL-12やIL-23によって活性化されるヘルパーT細胞およびナチュラルキラー細胞といった免疫担当細胞の細胞内シグナル伝達およびサイトカイン分泌が重要な役割を担っており、IL-12がCD4陽性ナイーブT細胞のTh1への分化に関与し、IL-23はTh17の活性化を促すとされている。IL-23受容体へのIL-23の結合を阻害し、細胞内シグナル伝達並びにそれに続く活性化及びサイトカイン産生を抑制するという作用メカニズムから、抗IL-23抗体はT細胞からのIL-17産生を阻害することによって乾癬の治療効果を発揮すると想定される。

医薬品の有効成分が、疾患への治療効果を発揮するに至るための体内での作用機序は単純ではない。ある医薬品の有効成分がT細胞によるIL-17の産生を阻害するという体内現象ひとつとっても、刺激分子であるIL-12も阻害しているのかも知れないし、それらの上流下流の知られていない作用経路がまだあるのかも知れない。例えば、IL-23アンタゴニストの乾癬治療効果に○○タンパク質の阻害も関与していたという作用機序が新たに発見されるたびに、同じ乾癬治療に用いるにもかかわらず、その作用機序を表現(説明)した構成要件を盛り込んだ「○○タンパク質を阻害するためのIL-23アンタゴニスト組成物」や「IL-23アンタゴニストを含む○○タンパク質阻害剤」というクレームで出願をすれば、そのたびに新規性は認められることになるのだろうか。すでにIL-23アンタゴニストを乾癬治療薬として実施している者への影響があってはならない。最終的な疾患治療用途は一致しているのに、新たに発見された作用機序の表現(説明)を構成要件として付加した医薬用途発明の新規性を認めるような本件における裁判所の判断は、発明の実施という点では同一の権利を乱立させ特許権の効力範囲と権利行使の予測可能性を不透明にしてしまうのではないか。

明確性要件の判断の中では、発明の技術的範囲をIL-17発現上昇患者への選択使用にのみ限定するかのような言及(配慮?)もされたように感じられるが、本件は、技術的範囲を争点としている訳ではなく、あくまで特許が無効かどうかを争点とし判断しているものである。もし、本件特許権者が、他社の乾癬治療薬としての抗IL-23抗体
  • ヒト型抗ヒトIL/23p19モノクローナル抗体製剤トレムフィア(Tremfya)Ⓡ(有効成分: グセルクマブ(guselkumab))
  • ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤ステラーラ(Stelara)Ⓡ(有効成分: ウステキヌマブ(ustekinumab))
  • ヒト型抗ヒトIL/23p19モノクローナル抗体製剤スキリージ(Skyrizi)Ⓡ(有効成分: リサンキズマブ(risankizumab))
の製造販売に対する本件特許の侵害訴訟を提起した場合には、属否判断について裁判所の判断がどのようにされるのか非常に楽しみである。

本件特許無効を審判請求したサンファーマはというと、MSD社が開発していたヒト型抗ヒトIL/23p19モノクローナル抗体チルドラキズマブ(Tildrakizumab; MK-3222)の全世界での独占的な使用権を有しており、その製剤は、2018年5月20日に米国にて尋常性乾癬を適応症として承認(商品名: ILUMYA)(BLA APPROVAL LETTER)されたが、日本ではまだ承認されていない。
参考:
以下、本件特許の三極での状況を示す。欧州では新規性欠如判断、米国では患者限定となっており、クレームの成立性・広さで言うと日本(特に本件特許及びその分割出願特許)が欧米に比べて緩い印象である。

本件特許の日本ファミリー情報:
  • 特願2004-550229
    特許5477998(登録日2014.02.21)
    存続期間満了日2023.10.29(現時点で期間延長出願無し)
    請求項1:
    インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む、健康な被験体と比較して、インターロイキン17(IL-17)発現の上昇したレベルを有することが測定された哺乳動物被験体における炎症疾患の処置のための組成物であって、前記アンタゴニストが抗IL-23または抗IL-23レセプター抗体である、組成物。
  • (分割)特願2010-210980
    特開2011-42658
    特許5705483(登録日2015.03.06)【本件特許】
    存続期間満了日2023.10.29(現時点で期間延長出願無し)
    無効2017-800007
    知財高裁平成30年(行ケ)10036(出訴日2018.03.20)
    請求項1:
    T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための、インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。
  • (分割)特願2013-123690
    特許5870067(登録日2016.1.15)
    存続期間満了日2023.10.29(現時点で期間延長出願無し)
    無効2017-800008
    知財高裁平30(行ケ)10144(出訴日2018.10.11)
    請求項1:
    T細胞をインターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストで処理する工程を包含する方法により、前記T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するための組成物であって、有効成分として前記アンタゴニストを含み、前記アンタゴニストが抗IL-23抗体または抗IL-23レセプター抗体である、組成物。
本件特許の欧米ファミリー情報:
米国では、同様な作用機序で表現したクレームで特許成立している(US7510709B2; US8287869B2)が、クレームは、IL-17の発現上昇を示したことが決定された患者に投与するという構成要件で明確に患者を限定した表現となっている点では日本の本件特許クレームと異なっている。
  • US7510709B2:
    "・・・comprising administering to a mammalian subject, having been determined to express an elevated level of IL-17 compared to a healthy individual,・・・"
  • US8287869B2:
    "・・・comprising measureing the expression level of interleukin-17 (IL-17) in said subject, and, if IL-17 expression level is determined to be elevated,・・・"
欧州では、同様な作用機序で表現したクレームで特許(EP1576011B1)が一旦成立したが、Eli Lilly社含む4社から異議申立てがされ、特許は取り消された(特許権者が手続をあきらめたようである)。分割出願(EP2108660A1)ではEPOの審査で新規性欠如(患者のsubpopulationはinherentに引用文献に開示されていること)を理由に拒絶されている。日米欧での新しい体内作用メカニズムを構成要件とした医薬用途発明の新規性の取り扱いを比較してみると必ずしも三極で一致していないことがわかる。
本件特許についての三極比較が、弁理士会バイオ・ライフサイエンス委員会からの審議委嘱事項2「バイオ関連・医薬発明の特許性についての国際的な比較に基づく問題点の調査及び研究」についての報告書(平成31年2月8日)に掲載されており、参考になる。

Apr 6, 2019

2019.03.25 「テバ v. 大日本住友」 知財高裁平成30年(行ケ)10098

トレリーフ®(ゾニサミド)を保護する用途特許の進歩性知財高裁平成30年(行ケ)10098

【背景】

被告(大日本住友)が保有する「神経変性疾患治療薬」に関する特許(第3364481号)に対して原告(テバ)がした無効審判請求の不成立審決(無効2017-800120号)の取消訴訟。争点は進歩性。審決の理由は、本件各発明は、引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものであった。

本件発明1(請求項1):
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする神経変性疾患治療薬。
引用発明:
ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬であって,ゾニサミドの投与量が20mg/kg,50mg/kgであり,雄のwistarラットの線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す,抗てんかん薬。
本件発明1と引用発明との一致点及び相違点:
(ア) 一致点
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする医薬。
(イ) 相違点
医薬について、本件発明1では「神経変性疾患」を治療対象とするのに対して、引用発明では「てんかん」を治療対象としている点。
【要旨】

裁判所は、本件発明は引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というべきであるとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がない、と判断した。請求棄却。

以下、引用発明において相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けについての裁判所の判断を抜粋。
「(ア) 引用例及び甲3文献は,いずれも,ゾニサミドが,健常動物において,線条体ドパミン量の増加作用を有すること,MAO-B阻害作用を有することを示唆するにとどまるものである。
そして,前記ウ(ア)のとおり,本件優先日当時の当業者は,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動が,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたものである。
そうすると,当業者は,引用例及び甲3文献から上記示唆を受けても,そもそもパーキンソン病疾患を有する患者において,ゾニサミドが線条体ドパミン量を増加させたり,ゾニサミドがMAO-B活性を阻害したりするとは理解しないから,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になる可能性を認識し得ないというべきである。
(イ) また,引用例及び甲3文献における前記示唆から,健常動物以外であっても,ゾニサミドの投与が線条体ドパミン量の増加作用及びMAO-B阻害作用を僅かでも有する可能性があることまでは否定できない。
しかし,前記ウ(イ)及び(ウ)のとおり,本件優先日当時の当業者は,抗てんかん薬であるゾニサミドについて,線条体ドパミン量の増加作用の観点からも,MAO-B阻害作用の観点からも,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。
そうすると,このような技術常識を有する当業者は,引用例及び甲3文献から,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になると合理的に期待し得ないというべきである。
(ウ) よって,当業者は,引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することを動機付けられることはないというべきである。」

【コメント】

引用発明において、相違点に係る本件発明1の構成を採用することの阻害要因について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない、と判断された。①引用例に記載された健常動物で得られた挙動は疾患モデル動物の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識、②線条体ドパミン量を増加させる薬物にはパーキンソン病患者への使用が禁忌とされるものがあり治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識、③ゾニサミドのMAO-B阻害作用の程度から他のパーキンソン病治療薬と同程度の薬理効果を奏する可能性が低いとの技術常識、を当業者は有していたという主張を被告は展開し、相違点の構成を採用することの動機づけを認めさせないことに成功した。医薬用途発明の進歩性が認められた事例として参考になる。

ゾニサミド(Zonisamide)/トレリーフ®:
ゾニサミド(Zonisamide)は大日本住友において1974年に合成され、抗てんかん剤として開発された化合物であり、1989年3月に抗てんかん剤のエクセグラン®として日本で承認を取得、同年6月に販売を開始した。その後、パーキンソン病治療薬としての開発が進められ、2009年1月にトレリーフ®錠25mgとして日本で承認を取得した。2013年8月にはパーキンソン病の症状の日内変動(wearing-off 現象)の改善を目的として1日1回50mgを投与する用法・用量の一部変更が承認、2014年8月にはトレリーフ®OD錠25mgが承認、2017年8月にはトレリーフ®OD錠50mgが承認された。また、2018年7月にはレビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムの効能・効果及び用法・用量が追加承認された。ゾニサミド製剤は、抗パーキンソン病薬としては外国で販売されていないようである(2018年6月時点)。

本件特許(JP3364481B):
本件特許は、トレリーフ®を保護する用途特許である。早期審査請求により拒絶理由通知が発せられることなく特許査定となった。分割出願はない。本件出願ファミリー(WO1999/033465)として、欧米では一旦特許が成立したが(EP1040830B; US6342515B)、いずれも放棄された。下記表のとおり、本件特許権の存続期間延長登録出願がトレリーフ®の各承認に基づいて行われている。ゾニサミドが1989年にエクセグラン®として上市されたことから物質特許は既に満了していると考えられる。これまでのトレリーフ®承認時の延長出願対象特許の有無から、トレリーフ®を保護する主要な特許権は用途特許3364481のみと推定される。

トレリーフ®(ゾニサミド/Zonisamide)のヒストリー:


製品ヒストリー

用途特許3364481ヒストリー

ジェネリックの動き

1974

ゾニサミドが合成される

 

 

1989.03.31

抗てんかん薬エクセグラン®として承認

 

 

1997.12.26

 

特許出願(優先日)

 

1998.12.21

 

特許出願(PCT出願日)

 

2002.10.25

 

日本特許成立(登録日)

 

2009.01.21

パーキンソン病治療薬トレリーフ®25mgとして承認

 

 

 

 

25mg/パーキンソン病について延長出願2009-7000285年延長登録)

 

2013.01.20

パーキンソン病の再審査期間(4)終了

 

 

2013.08.20

25mgに症状の日内変動の改善を目的として用法・用量(1150mg)の追加承認

 

 

2014.08.15

OD25mgの承認

 

 

 

 

OD25mg/パーキンソン病について延長出願2014-7002305年延長登録)

 

2014.12.17

OD25mgに症状の日内変動の改善を目的として用法・用量(1150mg)の追加承認

 

 

2017.08.15

OD50mgの承認

 

 

 

 

OD50mg/パーキンソン病について延長出願2017-7003075年延長審査中)

 

2017.08.30

 

 

テバが特許無効審判請求(無効2017-800120号事件)

2018.06.13

 

 

特許無効審判請求不成立審決(無効2017-800120号事件)

2018.07.02

25mg/OD25mgのレビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムの効能・効果の追加承認

 

 

 

 

25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長出願2018-7002955年延長審査中)

 

 

 

OD25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長出願2018-7002965年延長審査中)

 

2018.12.21

 

特許存続期間(20年)の満了

 

2019.03.25

 

 

不成立審決(無効2017-800120号事件)取消訴訟請求棄却判決(平成30(行ケ)10098

2019.10.

25mgの販売中止/出荷終了(予定)

 

 

2022.07.01

レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムの再審査期間(4)終了

 

 

2023.12.21

 

25mg/パーキンソン病について延長2009-700028期間(5年)満了

 1)

2023.12.21

 

OD25mg/パーキンソン病について延長2014-7002305期間(5年)満了

 2)

2023.12.21

(みなし)

 

OD50mg/パーキンソン病について延長2017-700307期間(みなし5年)満了

 3)

2023.12.21

(みなし)

 

25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長2009-700028期間(みなし5年)満了

 

2023.12.21

(みなし)

 

OD25mg/レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムについて延長2014-7002305期間(みなし5年)満了

 
2019.04.06現在の情報として、J-PlatPat、トレリーフ®インタビューフォーム、大日本住友ウエブサイト等より参照。

脚注
1) 現状ではトレリーフ®後発品は用途特許存続期間満了(2023.12.21)後の2024.02承認/2024.06薬価収載となる見込み。
2) 先行処分(錠25mg)の後、後行処分(OD錠25mg)を得るために要した期間をどのように主張して5年得たのかは延長期間算定の根拠主張に参考になるかも知れない。
3) 先行処分(OD錠25mg)の後、後行処分(OD錠50mg)を得るために要した期間をどのように主張して5年得るのかは延長期間算定の根拠主張に参考になるかも知れない。仮に、延長5年が認められず、2023.12.21より前にOD錠50mgのジェネリックが承認販売されると想定した場合、OD錠50mgのジェネリックは錠25mgやOD錠25mgに基づく延長用途特許の傘の下にあるとしてそれら延長特許権の効力が及ぶのか(傘の下説)、それともOD錠50mgだけ延長期間に穴が開いたと考える(傘穴開き説/短冊説)のか、それら観点を厚労省/PMDAは適切に判断しパテントリンケージを運用できるのか。