2019/12/13

2019.11.11 「バイエル薬品 v. コーアイセイ」 知財高裁平成31年(行ケ)10003

バイエルの炭酸ランタンOD錠特許 サポート要件満たさず無効: 知財高裁平成31年(行ケ)10003

「ランタン化合物を含む医薬組成物」に関する特許(第6093829号)を保有するバイエル薬品(原告)は、特許庁が無効2017-800104号事件(請求人: コーアイセイ)についてした審決のうちサポート要件違反を理由に特許無効とした部分の取消しを求めて審決取消訴訟を提起した。裁判所も、バイエル薬品主張の取消事由は理由がなく審決に取り消されるべき違法があるとは認められないとして、バイエル薬品による無効部分の取消請求を棄却した。

請求項6:
唾液又は少量の水により,口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする口腔内崩壊錠であって,崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が70~90質量%で炭酸ランタン又はその薬学的に許容される塩を含有し,前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6~12質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く,医薬組成物。

裁判所の判断(抜粋):
「特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

・・・原告が本件発明の実施例であると主張する実施例4においては・・・「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠であり,摩損度が0.4%とする実施例4の摩損度の評価の記載を,日本薬局方参考情報における錠剤の摩損度試験法で「明らかなひび・割れ・欠け」が見られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとされていることとの関係で一義的に整合するように理解することができない。そして,本件明細書には「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠である実施例4の場合に,どのような方法で摩損度を測定した結果0.4%という数値を得たのかに関する説明はなく,この点についての当業者の技術常識を示す的確な証拠もない。
以上によれば,当業者は,本件明細書の実施例4の記載から,当該実施例において低い摩損度を含む本件課題が実現されていることを理解することができないし,本件明細書のその余の部分にも,本件発明が,「高い原薬含有率で,速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供する」という本件課題を解決できることを示唆する記載はなく,この点に関する技術常識を示す的確な証拠もない。したがって,・・・本件発明がサポート要件に適合するものということはできない。」

【コメント】

本件では、実施例の記載から、課題が解決されていることを理解することができなかったため、サポート要件違反と判断された。

本件特許は、おそらくホスレノール®(炭酸ランタン)のOD錠を保護するものだったと思われる。ホスレノール®を保護する特許としては他に特許3224544(「高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物」に関する用途特許)がある。用途特許3224544については、下記過去記事参照。
以下に、ホスレノール®の製品ヒストリー、特許ヒストリー、ジェネリックメーカーの動きを時系列で示すとともに、用途特許は無効判断されてしまったが、延長された用途特許が有効に存続していたと仮定した場合においてそれぞれの延長特許の効力が各剤形にどのように及ぶと考えられるかについて考察を行った。

以下の表は、ホスレノール®(炭酸ランタン)のヒストリー(日本)

製品ヒストリー
特許ヒストリー
ジェネリックメーカーの動き


用途特許3224544
OD錠特許6093829

1996

3/19 出願


1998
シャイア社により第I相臨床試験実施



2003
バイエル薬品が国内開発・製造販売権獲得



2008
10/16 ホスレノール(チュアブル錠250/500mg)が「透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善」の効能効果の承認
延長出願2009-700005; 2009-700006(いずれも5年~2021319満了)



2012
1/25 顆粒分包250mg承認
2/1 顆粒分包500mg承認
延長出願2012-700074(219日~20184月満了)
延長出願2012-700075(2116日~20184月満了)


2013
8/20 「慢性腎臓病患者における高リン血症の改善」に適応拡大
延長出願2013-700227; 2013-700228; ; 2013-700229; 2013-700230 (いずれも359日~20198月満了)


2015


10/2 出願

2016
10/15 再審査期間(8)
3/19 満了日(20)
9/15 沢井が特許無効審判を請求
11/30 早期審査請求

2017
2/6 OD250/500mg承認
8/7 沢井の無効審判請求が不成立審決
9/8 沢井が審決取消訴訟を提起
2/17 特許登録
3/8 特許公報発行
8/4 コーアイセイが特許無効審判を請求

2018

4月 顆粒分包承認(2012)に基づく期間延長満了
8/19 無効審判請求不成立審決を取消す判決
9/3 バイエルがOD錠ジェネリックの製造販売差止め求め東京地裁に特許侵害訴訟提起
12/12 コーアイセイの特許無効審判請求により特許一部無効審決
顆粒分包
「サワイ」2/15承認; 6/15薬価収載・発売
「トーワ」2/15承認; 6/15薬価収載・発売
「フソー」2/15承認; 6/15薬価収載・発売
YD2/15承認; 6/15薬価収載; 6/25発売
「ケミファ」2/15承認; 6/15薬価収載; 9/14発売
JG2/15承認; 12/14薬価収載・発売
「共創未来」2/15承認; 薬価未収載
「日新」2/15承認; 薬価未収載
「ニプロ」8/15承認; 12/14薬価収載・発売
OD
「イセイ」2/15承認; 6/15薬価収載; 9/3発売
「ケミファ」2/15承認; 6/15薬価収載後削除;
「フソー」2/15承認; 薬価未収載
JG2/15承認; 薬価未収載
NP2/15承認; 薬価未収載
以上全て効能効果「慢性腎臓病患者における高リン血症の改善」

2/21 東和薬品が「炭酸ランタン水和物に関する特許権について」の謹告文が掲載
2019

8月 適応拡大承認(2013)に基づく期間延長満了
10/16 特許無効審決
1/11 バイエルが特許無効部分の審決取消訴訟を提起
2/21 バイエルが特許侵害訴訟でコーアイセイに対して特許法1051項に基づく書類提出命令の申立て
4/11東京地裁が特許侵害訴訟で書類提出命令の申立てを却下
7/31 バイエルが特許侵害訴訟の控訴を取下げ
11/11 バイエルによる審決取消訴訟が請求棄却判決


以下表に、処分毎の各特許満了日(期間延長満了日)を整理した。下記の註※1及び※2についての考察の根底にある個人的・希望的解釈は、基本的には、延長特許権の効力が及ぶ実質同一物の範囲は、特許発明との関連を第一に見ることによって判断する、すなわち、特許請求の範囲に含まれる「ジェネリック」(処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)には延長効力が基本及ぶとするものである。
処分対象用途
処分対象物
ホスレノール
(2008.10.16初承認)
用途特許
3224544
1996.3.19出願
OD錠特許
6093829
2015.10.2出願
透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善
(2008.10.16承認)
チュアブル錠
250mg
(2008.10.16承認)
特願2009-700005
+5y
2021.3.191
-
チュアブル錠
500mg
(2008.10.16承認)
特願2009-700006
+5y
2021.3.191
-
顆粒分包
250mg
(20012.1.25承認)
特願2012-700074
+2y1m9d
2018.4.282
-
顆粒分包
500mg
(2012.2.1承認)
特願2012-700075
+2y1m16d
2018.5.52
-
慢性腎臓病患者における高リン血症の改善(透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善を除く)
(2013.8.20承認)
チュアブル錠
250mg
特願2013-700227
+3y5m9d
2019.8.28
-
チュアブル錠
500mg
特願2013-700228
+3y5m9d
2019.8.28
-
顆粒分包
250mg
特願2013-700229
+3y5m9d
2019.8.28
-
顆粒分包
500mg
特願2013-700230
+3y5m9d
2019.8.28
-
慢性腎臓病患者における高リン血症の改善
OD250mg
(2017.2.6承認)
延長出願無し
2016.3.19
延長出願無し
2035.10.2
OD500mg
(2017.2.6承認)
延長出願無し
2016.3.19
延長出願無し
2035.10.2

※1:知財高裁判決(2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046)で示されたように、延長特許権の効力は実質同一物にまで及び、その範囲は「特許発明の内容との関連で、技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断する」との一般原則に照らせば、これら延長用途特許権の効力が及ぶ実質同一の範囲は、具体的な製剤成分の一致に拘るのではなく、特許発明の内容(用途)との関連で同一性を比較検討して判断されると考えられる。これら延長用途特許の効力がどのようなジェネリックに及ぶかについて考えるにあたり、ジェネリックがチュアブル錠であるか、顆粒分包であるか、OD錠であるか、あるいは250mgまたは500mgであるか・・・よりも、重要なのは、延長されたのは「高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物」という用途発明であることである。すなわち、特許発明(用途発明)の内容との関連で、「透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善」の効能・効果で一致するジェネリックなら、どの剤形であっても実質同一物として、延長期間が満了するはずだった2021年3月19日まで延長特許権の効力が及んでいたと考えることができる。
2018年8月19日の特許無効審決がでる前の同年2月15日にジェネリックが承認されたことは、パテントリンケージを厚労省が解いたことを意味する。日本のパテントリンケージにおいて行政判断の一貫性は担保されているのか疑問である(この点は、過去記事(2018.09.19 「沢井製薬 v. シャイア」 知財高裁平成29年(行ケ)10171で取り上げた)。厚労省は「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて(平成21年6月5日付け医政経発第0605001号/薬食審査発第0605014号)」及び「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて(平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知)」において、後発医薬品の薬事法上の承認審査にあたっては、先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるとしている。もし、用途特許が存在すると認識していたにもかかわらず、延長特許権の効力は不透明だからとパテントリンケージを運用せずに当事者どうしの紛争解決に委ねているとしたら、それはリンケージではない。

※2: 顆粒分包の承認に基づいたこれら延長用途特許権の効力は、上記※1で考察したことと同様に、特許発明の内容(「高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物」という用途)との関連で「透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善」の効能・効果で一致するジェネリックなら顆粒分包だけでなくどの剤形であっても、延長期間が満了するはずだった2018年4月28日または同年5月5日まで延長特許権の効力が及ぶとまずは考えてよいのではないだろうか(しかし、上記※1の延長特許期間満了日(2021年3月19日)を越えないため、上記※1の延長特許権が存在する限り、※2の延長は価値がないとも考えられる)。但し、※2の延長登録出願審査の際に、先行処分であるチェアブル錠を除くような主張をしたり、後に承認されるOD錠など他の剤形や製剤成分を除くような主張をしたり等、特段の事情がある場合には、※2の延長特許権は、それらの剤形や製剤成分であるジェネリックに対して効力は及ばない(またはその部分については延長登録に無効理由が存在する)と考えればよいのではないだろうか。

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2019/11/30

コセンティクス(Cosentyx)®特許の延長について

コセンティクス(Cosentyx)®を保護する特許の存続期間延長について紹介するとともに、最後に延長の登録要件と効力に関して疑問に思った点に触れたい。

コセンティクス®は、ノバルティスが開発したセクキヌマブ(Secukinumab)(遺伝子組換え)を有効成分とするヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤である。日本では、2014年12月26日にプレフィルドシリンジ製剤である「コセンティクス®皮下注 150mg シリンジ」が尋常性乾癬及び関節症性乾癬を効能・効果として初承認され、その後、2015年12月21日に膿疱性乾癬が追加承認、2016年9月13日にオートインジェクター製剤である「コセンティクス®皮下注 150mg ペン」が承認、2018年12月21日に強直性脊椎炎が追加承認された。再審査期間は8年間(2014年12月26日~2022年12月25日)であるため、バイオ後続品の参入時期は、コセンティクス®を保護する特許期間に拠ることになる。コセンティクス®は、ノバルティスが保有する以下の3つの特許で保護されている。

1.物質特許: 特許4682200号(出願日2005年8月4日、登録日2011年2月10日、最長存続期間満了日2029年6月19日)。

請求項1:
重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変ドメインの両方を含んでなるIL-17抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
a)該VHドメインは、順に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3(前記CDR1は、配列番号1のアミノ酸配列を有し、前記CDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を有し、そして前記CDR3は、配列番号3のアミノ酸配列を有する)を含み;および
b)該VLドメインは、順に超可変領域CDR1'、CDR2'およびCDR3'(前記CDR1'は、配列番号4のアミノ酸配列を有し、前記CDR2'は、配列番号5のアミノ酸配列を有し、そして前記CDR3'は、配列番号6のアミノ酸配列を有する)を含む、IL-17抗体またはその抗原結合フラグメント。
存続期間延長登録出願:
  • 特願2015-700057(延長の期間: 3年10月15日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
    処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬
  • 特願2015-700058(延長の期間 3年10月15日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
    処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬
  • 特願2016-700029(延長の期間 2年7月5日(延長を求める期間は4年10月10日だった))
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
    処分対象用途: 膿疱性乾癬
  • 特願2016-700030(延長の期間 2年7月5日(延長を求める期間は4年10月10日だった))
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
    処分対象用途: 膿疱性乾癬
  • 特願2016-700353(延長の期間 7月15日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
    処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬
  • 特願2019-700038(延長を求める期間 5年)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
    処分対象用途: 強直性脊椎炎
  • 特願2019-700039(延長を求める期間 5年)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
    処分対象用途: 強直性脊椎炎

2.乾癬用途用法用量特許: 特許5537740号(出願日2011年10月7日、登録日2014年5月9日、最長存続期間満了日2033年5月18日)。

請求項1:
乾癬を治療するための、IL-17抗体を含む医薬組成物であり、
IL-17抗体が、
a)導入レジメン中にそれを必要とする患者に投与されるものであり、ここで導入レジメンは、負荷レジメンを含み、負荷レジメンは、ゼロ週目に始めて、150mg~300mgの用量のIL-17抗体を5回皮下投与するステップを含み、5回の用量のそれぞれは週1回送達され、及び
b)その後、維持レジメン中に投与されるものであり、維持レジメンが、4週間ごと、150mg~300mgの用量のIL-17抗体を皮下投与するステップを含むこと
を特徴とし、
ここで、前記IL-17抗体は2つの成熟IL-17タンパク質鎖を有するIL-17ホモ二量体のエピトープに結合し、ここで前記エピトープは、1つの鎖上のLeu74、Tyr85、His86、Met87、Asn88、Val124、Thr125、Pro126、Ile127、Val128、His129及び他の鎖上のTyr43、Tyr44、Arg46、Ala79、Asp80を含み、IL-17抗体が100~200pMのKDを有し、IL-17抗体が23~30日のインビボ半減期を有する、
前記医薬組成物。
存続期間延長登録出願:
  • 特願2015-700059(延長の期間 7月16日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
    処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬
  • 特願2015-700060(延長の期間 7月16日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
    処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬
  • 特願2016-700031(延長の期間 1年7月11日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
    処分対象用途: 膿疱性乾癬
  • 特願2016-700032(延長の期間 1年7月11日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mg
    処分対象用途: 膿疱性乾癬
  • 特願2016-700354(延長の期間 7月15日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
    処分対象用途: 尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬

3.強直性脊椎炎用途用法用量特許: 特許6049843号(原出願日2011年11月4日、登録日2016年12月2日)。

請求項1:
IL-17抗体を含む、強直性脊椎炎(AS)を治療するための医薬組成物であって、前記IL-17抗体は、
a)150mg~300mgの用量の前記IL-17抗体をそれを必要とする患者に5回皮下投与し、当該5回の用量のそれぞれは週1回送達され、
b)その後、前記患者に、150mg~300mgの用量で前記ステップa)の第5回目の皮下投与の送達から1ヵ月目に始めて毎月皮下投与するものであり、
ここで、前記IL-17抗体は、セクキヌマブである、前記医薬組成物。
存続期間延長登録出願:
  • 特願2019-700040(延長を求める期間 2年18日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgシリンジ
    処分対象用途: 強直性脊椎炎
  • 特願2019-700041(延長を求める期間 2年18日)
    処分対象物: コセンティクス皮下注150mgペン
    処分対象用途: 強直性脊椎炎


以下に、処分毎の各特許満了日(期間延長満了日)を整理した。すべての特許が有効であれば、バイオ後続品の承認(少なくとも尋常性乾癬及び関節症性乾癬を効能・効果として)は2032年となる見込み。

処分対象用途
処分対象物
物質
特許
4682200
2025.8.4
乾癬・用法用量
特許
5537740
2031.10.7
強直性脊椎炎・用法用量特許
6049843
2031.11.4
尋常性乾癬
及び
関節症性乾癬
150mg
+3y10m15d
2029.6.19
+7m16d
2032.5.23
-
150mgシリンジ
+3y10m15d
2029.6.19
+7m16d
2032.5.23
-
150mgペン
+7m15d
2026.3.19
+7m15d
2032.5.22
-
膿疱性乾癬
150mg
+2y7m5d
2028.3.9
+1y7m11d
2033.5.18
-
150mgシリンジ
+2y7m5d
2028.3.9
+1y7m11d
2033.5.18
-
150mgペン
+7m15d
2026.3.19
+7m15d
2032.5.22
-
強直性脊椎炎
150mgシリンジ
(+5y)
(2030.8.4)
-
(+2y18d)
(2033.11.22)
150mgペン
(+5y)
(2030.8.4)
-
(+2y18d)
(2033.11.22)


ジェネリックメーカーが、乾癬用途用法用量特許の無効審決を勝ち取った場合を想定したとき、2028年に膿疱性乾癬の効能・効果でバイオ後続品が初承認となる可能性はある。
しかし、それよりも、「150mgペン」の承認に基づいて取得した延長物質特許の期間満了は2026年となっており、こちらが先に満了してしまうことの影響があるかもしれない。「150mgシリンジ」での各効能効果承認時に取得した延長物質特許の効力が、尋常性乾癬及び関節症性乾癬については2029年6月19日まで、膿疱性乾癬については2028年3月9日まで、「150mgペン」の後続品に対しても及ぶと考えることができるのだろうか。そもそも、「150mgシリンジ」承認という先行処分の存在は、剤形違いである(でしかない?)後行処分である「150mgペン」の延長登録要件には影響しないのだろうか。「150mgシリンジ」と「150mgペン」の「成分」は同一である。パテントリンケージの観点から、2026年に「150mgペン」の後続品は承認されるのだろうか。ノバルティスは処分対象物を「150mgシリンジ」とする延長出願(特願2015-700057)と同時に、処分対象物を「150mg」とする延長出願(特願2015-700058)もしており、それぞれ登録されている。処分対象物を「150mg」とした延長特許は「150mgペン」にも効力が及ぶのだろうか。

上記疑問をよりシンプルに一般化すると・・・

1.先行処分の存在は、先行処分と「剤形」が異なる後行処分(本件処分)に基づいて出願する物質特許の延長登録要件にどのように関わるか。「成分」が実質同一なものの範囲であれば、剤形の異同は問わず、先行処分で禁止の解除なのか、それとも、「成分」が実質同一なものの範囲であっても、剤形が異なれば、本件処分で初めて禁止の解除となるのか。

参考:
  • 2015.11.17 「特許庁長官 v. ジェネンテック」 最高裁 平成26年(行ヒ)356
    「延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である。・・・これを本件についてみると,本件特許権の特許発明は,血管内皮細胞増殖因子アンタゴニストを治療有効量含有する,がんを治療するための組成物に関するものであって,医薬品の成分を対象とする物の発明であるところ,医薬品の成分を対象とする物の発明について,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両処分の審査事項は,医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果である。」
  • 2014.05.30 「帝人 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10399
    特許権の存続期間延長登録が認められなった事例(リノコートパウダースプレー鼻用のノズル(カウンター付))

2.延長された物質特許権の効力は、「剤形」が異なるジェネリック(後発医薬品/バイオ後続品)に及ぶのか。「成分」が実質同一なものの範囲であれば、剤形の異同は問わず効力は及ぶのか、それとも「成分」が実質同一なものの範囲であっても、剤形が異なれば、効力は及ばないのか。

参考:
  • 知財高裁大合議判決(2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046
    延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。