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韓国薬事法改正 医薬品の再審査制度を廃止し、イノベーティブ医薬品創出を促進する臨床試験資料保護制度(データ保護制度)新設へ 後れを取る日本

2024年2月20日、韓国の薬事法の一部改正法(法律第20328号)が公布されました。

この法律は、公布後1年が経過した日(2025年2月21日)から施行します。

この改正法において注目すべきポイントは、新規医薬品の承認時に先発医薬品メーカーにより提出された臨床試験資料をもとに後発医薬品を承認申請することを一定期間禁止する臨床試験資料保護制度(いわゆる「データ保護制度」、第31条の6)を新設し、一方で、これまで実質的に規制上の新規医薬品の保護期間として働いていた従前の新薬等の再審査制度(第32条)を廃止して、新設する医薬品市販後安全管理制度(第32条の2)に統合することとした点です。

データ保護制度(第31条の6)は、同条第1項各号のいずれか1つに該当する医薬品に対して品目承認・変更承認申請時に提出した臨床試験資料をもとに、この法律施行後に後発医薬品の品目承認・変更承認を申請する場合から適用されます。

また、この改正法施行時に従前の再審査制度(第32条)により再審査期間が付与された品目については、改正規定にかかわらず、従前の規定が適用されます。廃止となる再審査制度(第32条)は、「新規医薬品等はその承認から4年又は6年が過ぎた日から3ヶ月以内に再審査を受けなければならず、その方法・手続・時期等に必要な事項は総理令で定める(例えば、新規有効成分の医薬品の再審査期間は6年(医薬品等の安全に関する規則 第22条)」と規定されていました。

情報源:

  • 薬事法 法律第20328号、2024年2月20日、一部改正(약사법
    [시행 2024. 2. 20.] [법률 제20328호, 2024. 2. 20., 일부개정])
  • 国家法令情報センター(국가법령정보센터) 法制処(법네처): https://www.law.go.kr/
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1.新設「データ保護制度」の詳細と意義

今回の韓国の薬事法改正により新設された「データ保護制度」(第31条の6)は、以下のとおりです(日本語は仮訳)。

제31조의6(허가 시 제출된 임상시험자료의 보호)

第31条の6(承認時に提出された臨床試験資料の保護)

① 제31조제1항에 따른 의약품 제조업자 또는 같은 조 제3항에 따른 위탁제조판매업신고를 한 자는 다음 각 호의 어느 하나에 해당하는 의약품(이하 “자료보호의약품”이라 한다)의 품목허가(변경허가를 포함한다. 이하 이 조에서 같다) 당시 제출되었던 임상시험자료(생물학적 동등성시험에 관한 자료는 제외한다. 이하 이 조에서 같다)를 근거로 하여 다음 각 호의 구분에 따른 기간(이하 “자료보호기간”이라 한다) 동안 새롭게 의약품의 품목허가를 신청하거나 품목신고(변경신고를 포함한다. 이하 이 조에서 같다)를 할 수 없다. 다만, 제31조제10항제2호 및 제3호와 동등한 수준 이상의 자료를 별도로 작성하여 제출한 경우에는 그러하지 아니하다.

① 第31条第1項の規定による医薬品製造業者又は同条第3項の規定による委託製造販売業の届出をした者は、次の各号のいずれかに該当する医薬品(以下、「資料保護医薬品」という)の品目承認(変更承認を含む。以下、この条で同じ。)当時に提出された臨床試験資料(生物学的同等性試験に関する資料を除く。以下、この条で同じ)を基に、次の各号の区分による期間(以下、「資料保護期間」という。)の間、新たに医薬品の品目承認を申請したり、品目申告(変更申告を含む。以下、この条で同じ)をすることができない。ただし、第31条第10項第2号及び第3号と同等の水準以上の資料を別途作成して提出した場合には、この限りではない。

1. 희귀의약품: 품목허가를 받은 날부터 10년(소아 적응증을 추가하는 경우에는 1년을 연장할 수 있다)

1. 希少医薬品:品目承認を受けた日から10年(小児適応症を追加する場合は1年延長可能)

2. 신약: 품목허가를 받은 날부터 6년

2. 新薬:品目承認を受けた日から6年

3. 이미 품목허가를 받은 의약품의 안전성ㆍ유효성ㆍ유용성을 개선하기 위하여 유효성분 종류를 변경하는 등 중요한 사항을 변경함에 따라 새로운 임상시험자료를 제출하여야 하는 총리령으로 정하는 의약품: 새로운 임상시험자료를 제출하여 품목허가를 받은 날부터 6년

3. 既に品目承認を受けた医薬品の安全性・有効性・有用性を改善するために有効成分の種類を変更するなど重要な事項を変更することにより、新たな臨床試験資料を提出しなければならない総理令で定める医薬品:新たな臨床試験資料を提出して品目承認を受けた日から6年

4. 그 밖에 자료를 보호할 필요가 있다고 인정되는 경우로서 새로운 임상시험자료를 제출하여야 하는 총리령으로 정하는 의약품: 새로운 임상시험자료를 제출하여 품목허가를 받은 날부터 4년

4. その他、資料を保護する必要があると認められる場合で、新たな臨床試験資料を提出しなければならない総理令で定める医薬品:新たな臨床試験資料を提出して品目承認を受けた日から4年

② 제1항에도 불구하고 다음 각 호의 어느 하나에 해당하는 경우에는 자료보호기간에도 품목허가를 신청하거나 품목신고를 할 수 있다.

② 第1項にもかかわらず、次の各号のいずれかに該当する場合には、資料保護期間中にも品目承認を申請したり、品目申告をすることができる。

1. 자료보호의약품의 품목허가를 받은 자가 해당 의약품의 임상시험자료를 근거로 하여 다른 의약품의 제조업자 또는 위탁제조판매업 신고를 한 자가 품목허가를 신청하거나 품목신고를 하는 것에 동의한 경우

1. 資料保護医薬品の品目承認を受けた者が、当該医薬品の臨床試験資料を基に、他の医薬品の製造業者又は委託製造販売業の申告をした者が品目承認を申請したり、品目申告をすることに同意した場合。

2. 그 밖에 식품의약품안전처장이 「공중보건 위기대응 의료제품의 개발 촉진 및 긴급 공급을 위한 특별법」에 따른 공중보건 위기상황에 효과적으로 대응하기 위하여 필요하다고 인정하는 경우

2. その他、食品医薬品安全処長が「公衆衛生危機対応医療製品の開発促進及び緊急供給のための特別法」に基づく公衆衛生危機状況に効果的に対応するために必要と認める場合。

③ 식품의약품안전처장은 자료보호의약품의 제품명 및 자료보호기간 등 총리령으로 정하는 사항을 인터넷 홈페이지에 공개하여야 한다.

③ 食品医薬品安全処長は、資料保護医薬品の製品名及び資料保護期間など、総理令で定める事項をインターネットホームページに公開しなければならない。

④ 제1항부터 제3항까지에서 규정한 사항 외에 자료보호의약품의 자료보호 및 공개 등에 필요한 사항은 총리령으로 정한다.

④ 第1項から第3項までで規定した事項のほか、資料保護医薬品の資料保護及び公開等に必要な事項は、総理令で定める。

[본조신설 2024. 2. 20.]
[시행일: 2025. 2. 21.] 제31조의6

[本条新設 2024. 2. 20.]
[施行日:2025. 2. 21.] 第31条の6

従前の再審査制度(第32条)は、本来、医薬品の安全性等の確認を目的として新規医薬品の承認を受けた先発医薬品メーカーに課される規制上の義務を定めたものであるにもかかわらず、後発医薬品が承認されない新規医薬品の独占期間という先発医薬品メーカーのインセンティブとしても働いていました。

今回の薬事法の一部改正は、新規医薬品の承認時に先発医薬品メーカーにより提出された臨床試験資料をもとに後発医薬品を承認申請することを一定期間禁止する「データ保護制度」(第31条の6)を新設し、一方で、再審査制度(第32条)を廃止して、新設する医薬品市販後安全管理制度(第32条の2)に統合することによって、異なる目的と期待とが混在していた歪な状況から目的に沿った法システムに整備したといえるでしょう。

製薬企業が革新的な医薬品の承認を取得するためには、前臨床試験や臨床試験に関連する膨大なデータを提出し、承認される医薬品の品質、有効性、安全性を証明する必要があります。

それら貴重なデータを承認から一定期間保護する制度が薬事規制上のデータ保護制度であり、この制度は、医薬品の安全性と有効性を実証するために必要な多額の投資を奨励する一方で、一定期間を経過すれば他社がこのデータに依拠して後続の医薬品を申請することを可能としており、医薬品アクセスを促進するために重要なものといえます。

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2.後れを取る日本

TRIPS協定(第39条(3))、日英包括的経済連携協定(第14章B7第14.42条)や日EU経済連携協定(第14章B7第14.37条)においても、臨床試験データを保護することが定められていますが、実は、この医薬品のデータ保護制度を規定する法律は、日本に存在しません。

日本政府は再審査制度が医薬品データ保護制度に相当するとの立場のようですが(2016.11.02 内閣官房TPP政府対策本部「TPPに関するQ&Aの公表」。CPTTPでは医薬品データ保護条項は凍結。)、そもそも再審査制度は、医薬品の品質、有効性及び安全性を再確認する制度(薬機法第14条の4)であって、製造販売業者に一定期間の調査等報告義務を課すものです。医薬品データ保護の必要性を趣旨とするものとは全く異なります。

日本では、趣旨が異なる「再審査制度」が、法律の裏付けもないまま公然と「医薬品データ保護制度」であるかのように運用され続けている歪な状況が放置されています。

長い期間と莫大な投資とが必要でありながら、製品にまで至る確率が極めて低い医薬品産業において、新たな治療の開発に投資を促すためのインセンティブを提供し公衆衛生の発展を促進する重要な役割を担うものとして、このデータ保護制度は、少なくとも、米・欧州・中国では法制度化されており、そして今回とうとう韓国でも法制度化されました。

このように、日本を除く主要国・地域では、自国・自地域の公衆衛生の発展を促進するために、医薬品データ保護制度をしっかりと法制化しているにもかかわらず、日本にはそのような新薬開発にインセンティブを与える制度が法整備されていないことからも、ライフサイエンス産業の発展と公衆衛生の発展の両面を推進することが期待される政策において、日本は、残念ながら後進国であると言わざるを得ません。

日本製薬工業協会や日本知的財産協会、そして、これら国内産業界からだけでなく、PhRMA(米国研究製薬工業協会)という海外の製薬産業界からも、日本での医薬品の「データ保護制度」の法制化が以前から強く要望されています。

例えば、「知的財産推進計画2023」の策定に対して、日本知的財産協会が要望した内容を以下に引用します。

「日本では、データ保護を規定する法律はありません。再審査制度(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、第十四の四)が、データ保護の役割も有していると捉える向きもありますが、再審査制度にはデータ保護として明文化されていません。そもそも、再審査制度の目的は承認医薬品の安全性の確認でありデータ保護制度の目的とは全く相違していることから、本来データ保護制度は、再審査制度とは別にして存在するべきものであり、再審査制度から独立したデータ保護制度の創設によってデータ保護の恒久的な安定化が期待されます。

以上のことに鑑みて、欧米と同様に、日本におけるデータ保護制度の法制化を要望します。データ保護が法制化されることで、日本において安定して医薬品を開発するインセンティブが高まることが期待できます。」

研究開発投資を促進する適切な市場独占期間を確保することは、イノベーティブな医薬品が日本国内市場で上市されるインセンティブを新薬メーカーに与え、患者が最新の医薬品を享受できることを促し、結果として、国内の公衆衛生の発展を促進することになります。

そのために、再審査制度から独立したデータ保護制度の創設による、データ保護の恒久的な安定化に向け、現在の歪な法運用を正すことは、国民の利益につながる重要な取り組みであると思われます。

「我が国の創薬力の強化に向けた取り組みを強力に進めていきたい(岸田文雄首相)」(2023年2月14日の衆院予算委員会にて)のであれば、日本も本当の意味での薬事規制上のデータ保護制度の立法化に向けた本格議論が必要なのではないでしょうか。

産業界からの要望を待つのではなく、政府もイニシアチブをとって議論を進めてほしいと思います。

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