前立腺がん治療剤XTANDI®(イクスタンジ)のパテントクリフ

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2027年度以降の備え – 問われるアステラスの事業戦略 –

アステラス製薬のR&Dミーティング(2020年12月10日開催)の冒頭、安川健司氏(代表取締役社長 CEO)から、

最近よく私共が受ける質問としましては、『アステラス製薬の2027年度以降の戦略が良く分からない。説明してほしい。その備えは何なのか。』・・・をよくお聞き致します。・・・その答えがFocus Areaアプローチなのであります。

とのご発言がありました(音声配信)。

この「2027年度以降」が意味していることのひとつは、前立腺がん治療剤XTANDI®(イクスタンジ)のパテントクリフ、すなわち特許権満了に伴うジェネリックの市場参入によりXTANDI®(イクスタンジ)の売上が激減し始めるかもしれない時期のことであり、それを見据えたアステラス製薬の事業戦略が問われています。

XTANDI®(イクスタンジ)は、アステラス製薬とMedivation社(現Pfizer社)が共同開発した経口のアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害薬であるエンザルタミド(Enzalutamide)を有効成分とする前立腺がん治療剤。そのグローバル売上(2019年度)は4,000億円(米国売上は2,000億円以上)であり、2020年度(2021年3月期)にはアステラス製薬の全売上収益の約4割を占めるほどにまで成長しそうです。従って、そのパテントクリフは、アステラス製薬の経営に大きなインパクトを与えると想像できます。

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XTANDI®(イクスタンジ)のパテントクリフはいつ?

有効成分であるエンザルタミドを保護する物質特許の存続期間満了タイミングがジェネリックの市場参入の引き金になると推測されます。

米国では2027年、欧州では2028年、日本では2029年に満了すると見込まれます。

以下に、XTANDI®(イクスタンジ)に関する米・欧・日の特許状況とジェネリックの市場参入タイミングについてもう少しだけ詳しく説明します。

米国における予測・・・X dayは2027年8月13日か

米国では、XTANDI®は、「ドセタキセルによる化学療法施行歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん」の効能・効果で2012年8月31日に承認されました。その後の適応追加により、現在は、「去勢抵抗性前立腺がん」と「転移性去勢感受性前立腺がん」が適応症となっています。

XTANDI®には、非転移性去勢抵抗性前立腺がんの追加適応(2018年7年13日)による3年(~2021年7月13日)、転移性去勢感受性前立腺がんの追加適応(2019年12月16日)による3年(~2022年12月16日)のData Exclusivity(データ保護期間)が与えられていますが、以下のとおり、XTANDI®の特許期間のほうが長く存続します。

XTANDI®のOrange bookにリストされている特許は以下の3つ。

有効成分であるエンザルタミドを保護する物質特許(’517特許)にpatent term adjustmentが付加されたことにより特許期間満了日(2027.08.13)が14年キャップ(承認日から14年となる2026年8月31日)を越えたため、1回限りの特許期間延長(patent term extension)は’517特許ではなく前立腺がん用途特許(’274特許)について行われました。とはいえ、’517特許の満了日がやはり一番最後となります。

また、ジェネリックメーカーとのANDA訴訟は起きていましたが、全て解決済であり(2019年11月7日付のPfizer SEC 10-Qより)、ジェネリックメーカーが’517特許の満了前に販売を開始するような和解をしているとは想像しにくいと思われます。

米国では、’517特許が有効に存続する限り、その満了日である2027年8月13日までジェネリックの市場参入はないと推測されます。

(2019年11月7日付のPfizer SEC 10-Qより)

Xtandi (enzalutamide)
In December 2016, Medivation and Medivation Prostate Therapeutics, Inc. (collectively, the Medivation Group); Astellas Pharma Inc., Astellas US LLC and Astellas Pharma US, Inc. (collectively, Astellas); and The Regents of the University of California filed patent-infringement suits in the U.S. District Court for the District of Delaware against Actavis Laboratories FL, Inc. and Actavis LLC (collectively, Actavis); Zydus; and Apotex Inc. and Apotex Corp. (collectively, Apotex) in connection with those companies’ respective abbreviated new drug applications filed with the FDA for approval to market generic versions of enzalutamide. The generic manufacturers are challenging patents, which expire as early as 2026, covering enzalutamide and treatments for prostate cancer. In May 2017, the Medivation Group filed a patent-infringement suit against Roxane Laboratories Inc. (Roxane) in the same court in connection with Roxane’s abbreviated new drug application with the FDA for approval to market a generic version of enzalutamide. In 2018 and 2019, we settled all pending claims against the various generic challengers on terms not material to Pfizer.

欧州における予測・・・2028年6月25日頃にジェネリックが市場参入か

欧州では、XTANDI®は、「ドセタキセルによる化学療法施行歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん」の効能・効果で2013年6月下旬に承認されました(2013.06.24 アステラス製薬 press release: 経口アンドロゲン受容体阻害剤XTANDITM(エンザルタミド) 欧州で承認取得のお知らせ)。

有効成分であるエンザルタミドを保護する物質特許EP1893196B2に基づく各国特許にSupplemental Protection Certificates(SPC)が付加され、満了日は2026年3月29日(20年)から2028年6月下旬(承認日からの15年キャップ)に延長されました。

例えば、

に物質特許が満了するようです。

欧州でもData Exclusivity(データ保護期間)として承認(2013年)から8+2(+1)年の独占期間が与えらますが、上記のとおり、SPCにより延長された物質特許期間のほうが長く存続します。

欧州では、物質特許が有効に存続する限り、その満了日である2028年6月25日頃までジェネリックの市場参入はないと推測されます。

日本における予測・・・2029年末か2030年上期にジェネリックが市場参入か

日本では、2014年3月24日に「去勢抵抗性前立腺癌」を効能・効果としてイクスタンジ®カプセル 40mgが承認されました。2018年2月23日にはイクスタンジ®錠40mg及び錠80mgが承認され(カプセルは販売中止)、2020年5月29日に「遠隔転移を有する前立腺癌」の効能追加が承認されました。再審査期間は、去勢抵抗性前立腺癌が2022年3月23日まで、遠隔転移を有する前立腺癌が2022年3月23日までとなっています。

J-PlatPatによると、存続期間延長登録出願の対象となった特許権は5件(表1)です。

カプセル40mg
去勢抵抗性前立腺癌
錠40mg/80mg
去勢抵抗性前立腺癌
錠40mg/80mg
遠隔転移を有する前立腺癌
物質特許
4644737
+3y3m13d=2029/07/12+3y7m12d=2029/11/10+5y=2031/03/29
(延長出願中)
用途特許
5138753
+1y4m1d=2027/07/30+3y7m12d=2029/11/10+5y=2031/03/29
(延長出願中)
製法特許
5718372
+2y10m26d=2034/01/19+5y=2036/02/24
(延長出願中)
用途特許
5150780
+5y=2031/03/29
(延長出願中)
製剤特許
6404217
+1y8m7d=2035/05/18
(延長出願中)
表1 存続期間延長登録出願による延長された期間及び満了日

有効成分エンザルタミドを保護する物質特許4644737の存続期間は、「去勢抵抗性前立腺癌」のカプセル40mg又は錠40mg/80mgの承認に基づいて2029年7月12日又は同年11月10日まで延長されました。用途特許5138753についても、それぞれの承認に基づいて存続期間は2027年7月30日又は同年11月10日まで延長されました。

その他に、製法特許、用途特許、製剤特許がありますが、ジェネリックはこれら特許発明の技術的範囲を回避して承認を獲得できる可能性がありますので、やはり、ジェネリック参入障壁としての製品保護の観点から「去勢抵抗性前立腺癌」の承認に基づき2029年まで延長された物質特許が最重要といえます。

「去勢抵抗性前立腺癌」の承認に基づき延長された物質特許満了日(2029年7月12日又は同年11月10日)経過後、イクスタンジ®のジェネリックが「去勢抵抗性前立腺癌」のみを効能効果(いわゆる虫食い)として承認され(2029年8月又は2030年2月)、2029年末又は2030年上期には販売開始となることが想定されます。

2021年5月26日に開催が予定されているアステラス製薬の「次期経営計画に関する説明会」では、「2027年度以降」の備えとして、どのような事業戦略が示されるのか期待しています。

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