2022年10月20日、Medicines Patent Pool(MPP)は、慢性骨髄性白血病の治療に使用され、成人および1歳以上の小児の治療に用いられるWHO必須医薬品モデルリストの一部であるnilotinib(ニロチニブ)へのアクセスを拡大するため、Novartisとボランタリーライセンス契約を締結したことを発表しました。
1.がん治療薬に関する初めてのボランタリーライセンス
この慢性骨髄性白血病治療薬ニロチニブに関するNovartisとのボランタリーライセンス契約は、Medicines Patent Pool(MPP)が、がん治療薬について締結する初めてのケースであり、また、公衆衛生を重視したボランタリーライセンスの仕組みを通じて、企業が特許を有するがん治療薬をライセンスする初めてのケースでもあるとのことです。
- 2022.10.20 MPP press release: The Medicines Patent Pool (MPP) signs licence agreement to increase access to nilotinib for the treatment of chronic myeloid leukaemia
ニロチニブは、Bcr-Ablチロシンキナーゼインヒビターで、日本では、2009年1月に「イマチニブ抵抗性の慢性期又は移行期の慢性骨髄性白血病」を適応症として承認され、その後、効能追加により、「慢性期又は移行期の慢性骨髄性白血病」を適応症として、ノバルティス ファーマ(株)により製造販売されています(販売名: タシグナ®カプセル)。
本契約の内容は、こちら(Access the licence agreement)から閲覧できます。
この契約により、選択された後発医薬品メーカーは、現地の規制当局の認可を条件として、ライセンス対象地域においてニロチニブの後発医薬品を開発、製造、供給する機会を得ることができます。
特に、本契約には、本製品に関する特許が係属中または現在有効であるエジプト、グアテマラ、インドネシア、モロッコ、パキスタン、フィリピン、チュニジアの中所得7カ国も含まれています。
2.Medicines Patent Pool
Medicines Patent Pool(MPP)は、Unitaidが2010年に設立した、公衆衛生のために安価で良質な治療法へのアクセスを促進させることを使命とする最初のパテントプールです。
MPPは、非営利組織として運営されており、医薬品のオリジネーターである製薬企業やジェネリックメーカーとのパートナーシップ(非独占的なボランタリーライセンス)を通じて、低・中所得国での医薬品アクセスを容易にし、イノベーションを促進することを目的として活動しています。
2010年の設立以来、MPPは、HIV治療薬、C型肝炎治療薬、結核治療薬へのアクセス改善のために活動してきました。
最近では、COVID-19治療薬のグローバルアクセスを促進する活動が脚光を浴びました。
- 2022.01.23記事: 医薬品特許プール Medicines Patent Pool(MPP)を介してSARS-CoV-2による感染症(COVID-19)治療薬モルヌピラビル/molnupiravirを低・中所得国105カ国に供給へ
がん治療薬のボランタリーライセンスについては今回のニロチニブが初めてとなります。
今回の契約は、製薬企業によるボランタリーライセンスをがん治療薬に拡大したという点で、低・中所得国における公衆衛生の改善への取組みとして極めて大きな一歩といえるでしょう。
3.Access to Oncology Medicines (ATOM) Coalition
2022年5月、NovartisとMPPは、Access to Oncology Medicines (ATOM) Coalitionに参加しました。
- 2022.05.20 UICC press release: UICC announces a new global coalition to increase access to and the use of essential cancer medicines in low- and lower middle-income countries
- 2022.05.24 Novartis: Boosting access to cancer care where it’s needed most
- 2022.05.20 Medicines Patent Pool: MPP joins ATOM, a new global coalition to increase access to and the use of essential cancer medicines in low and lower middle-income countries
ATOM Coalitionは、Union for International Cancer Control(UICC)(国際対がん連合)とそのパートナーが主導する新しいグローバルな取り組みで、低・中所得国における必須がん治療薬へのアクセスを改善し、がんの診断とこれらの医薬品の適切な取り扱いと供給監視の能力を向上させるためのものです。
MPPを通じて、ATOM Coalitionは、特定の製品および国について後発医薬品メーカーに非独占的ライセンスを供与し、がん治療薬への安価なアクセス促進に取り組んでいます。
9月22日時点で、パートナーとして以下の企業・団体等が参加しています。
日系企業はパトーナーとしてまだ参加していないのかな・・・
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