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医薬品特許プール Medicines Patent Pool(MPP)を介してSARS-CoV-2による感染症(COVID-19)治療薬モルヌピラビル/molnupiravirを低・中所得国105カ国に供給へ

本記事では、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)に対する経口治療薬であるモルヌピラビル/molnupiravirについて、ジェネリックメーカー27社がMedicines Patent Pool(MPP)とサブライセンス契約を締結し、低・中所得国105カ国にそのジェネリック製品を供給するという2022年1月20日の発表を取り上げます。

米メルク社(MSD)とMPPとの間で締結されたライセンス契約及び今回のジェネリックメーカーとMPPとの間で締結されたサブライセンス契約の中での取り決めの内容について紹介します。

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1.モルヌピラビルとは?

モルヌピラビル/molnupiravirは、米国の非営利団体である Drug Innovation Ventures at Emory University(DRIVE), LLC(エモリー大学)により創製され、米メルク社(MSD)及びRidgeback Biotherapeuticsにより開発されたSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示す低分子化合物です。

モルヌピラビルは、生体内で加水分解されN-ヒドロキシシチジン(NHC)となり、細胞内でリン酸化され、N-ヒドロキシシチジン 5´-三リン酸(NHC-TP)となります。そのNHC-TPが、SARS-CoV-2のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の基質となり、ウイルス複製過程で新たに合成されるウイルスゲノムの変異割合を増加させ、ウイルス複製を阻害します。

モルヌピラビルは、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)に対する経口治療薬として、2021年11月に世界で初めて英国で承認され、日本でも同年12月に特例承認されました。

商品名はラゲブリオ®/LAGEVRIO®です。

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2.Medicines Patent Pool(MPP)とは?

Medicines Patent Pool(MPP)は、Unitaidが2010年に設立した、公衆衛生のために安価で良質な治療法へのアクセスを促進させることを使命とする最初のパテントプールです。MPPは、非営利組織として運営されており、医薬品のオリジネーターである製薬企業やジェネリックメーカーとのパートナーシップ(非独占的なボランタリーライセンス)を通じて、低・中所得国(LMICs)での医薬品アクセスを容易にし、イノベーションを促進することを目的として活動しています。

2010年の設立以来、MPPは、HIV治療薬、C型肝炎治療薬、結核治療薬へのアクセス改善のために活動してきました。

最近では、COVID-19治療薬のグローバルアクセスを促進する活動として以下の出来事が挙げられます。

本記事では、MSDのモルヌピラビルに関して紹介します。

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3.ジェネリックメーカー27社がMPPとモルヌピラビルに関するサブライセンス契約を締結

2022年1月20日、MPPは、モルヌピラビルの低・中所得国105カ国向け廉価版(ジェネリック製品)を製造する契約を、バングラデシュ、中国、エジプト・ヨルダン、インド、インドネシア、ケニア、パキスタン、南アフリカ、韓国、ベトナムのジェネリックメーカー27社と締結したと発表しました。

この契約により、5社が原料の生産を、13社が原料と最終製品の両方の生産を、9社が最終製品の生産をするとのことです。

Medicines Patent Pool website (2022.01.20 news) より

今回の契約は、モルヌピラビルのグローバルアクセスを促進するために、2021年10月にMPPとMSDとの間で契約したライセンス契約に基づくもので、非独占的なサブライセンス契約となります。

2021年10月にMPPとMSDとの間で締結したライセンス契約(Exhibit Aに関連特許リスト、Exhibit Bにterritory(供給先国)、Exhibit Cはサブライセンス契約ひな型)はこちらから閲覧することができます。

今回のMPPとジェネリックメーカーとの間で締結したサブライセンス契約はこちらから各メーカーのアイコンをクリックすると閲覧することができます(共通のひな型を用いているので内容は基本共通)。

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4.モルヌピラビルに関するライセンス対象特許

2021年10月にMPPとMSDとの間で締結したライセンス契約のExhibit Aに関連特許リストが示されています。リストは4つの発明(Ref. A~D)に分類されており、例えば、PCT出願としては以下のものが挙げられています。

Ref.CountryApplication No.Int’l Filing DateTitle
AWOPCT/US2015/066144Dec. 16, 2015N4-Hydroxycytidine And Derivatives And Anti-Viral Uses Related Thereto
BWOPCT/US2018/064503Dec. 7, 2018N4-Hydroxycytidine And Derivatives And Anti-Viral Uses Related Thereto
CWOPCT/US2021/016984Feb. 7, 2021N4-Hydroxycytidine And Derivatives And Anti-Viral Uses Related Thereto
DWOPCT/US2021/048054Aug. 27, 2021Novel Forms Of Antiviral Nucleosides

Ref. CのPCT出願(PCT/US2021/016984)ファミリーにおいて、モルヌピラビルを含む “A pharmaceutical composition for the treatment of 2019nCoV/SARS-CoV-2 infection” の発明がクレームされており、そのファミリー出願国は、Argentina、Jamaica、Lebanon、Pakistan、Taiwan、US、Venezuela、WOとなっています。

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5.MSDはサブライセンス先からロイヤリティを受け取らない

今回のMPPとジェネリックメーカーとの間で締結したサブライセンス契約(Section 5A.4)によると、COVID-19がWHOにより国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)に分類されている間は、MSD、Ridgeback Biotherapeuticsおよびエモリー大学のいずれも、MPPのサブライセンス先からのジェネリック製品の販売によるロイヤリティを受け取らないと規定されています。

5A.4 Notwithstanding the aforesaid, the license provided under Section 2 of this Agreement is royalty-free until the end of the month in which the World Health Organization (WHO) declares the end of the Public Health Emergency of International Concern regarding COVID-19.

その旨は2021年10月のMSDのプレスリリースでも発表されています。

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6.MSDの商標は使用不可

MPPとMSDとの間で締結したライセンス契約(Section 2.11)及び今回のジェネリックメーカーとのサブライセンス契約(Section 3A.1及び3A.2)によると、MPPまたはサブライセンス先はMSDの商標をそのジェネリック製品に使用してはならないとされています。

またサブライセンス先が供給するジェネリック製品に使用される商標は、その使用前にMSDの承認を得なければならない旨の義務が規定されています。

2.11  No rights in any MSD Trademarks are granted to MPP or Sublicensees under this Agreement. MPP shall require that Sublicensees do not, appropriate or otherwise use or register any MSD Trademarks in connection with the Product in the Territory, including without limitation in connection with any sale, distribution, promotion, or marketing of the Product. MPP will require that a complete description of any trademark to be used by Sublicensees in connection with the sale of the Product in the Territory shall be submitted to MPP to be transmitted to MSD for written approval prior to use or filing an application to register such trademark. Such written approval shall be given within 30 days of receipt by MSD from MPP of all the relevant documentation necessary to consider the Sublicensee’s request. Such approval may be withheld if the subject trademark is determined by MSD, in its sole discretion, to be identical to or confusingly similar to any MSD Trademark, however, any such approval shall not waive any rights with respect to the MSD Trademarks. In addition to the foregoing, for the avoidance of doubt, MPP shall require that Sublicensees do not: (i) register or, in connection with the sale of any Product, use any trademark or trade name which is identical to or confusingly similar (as MSD shall determine in its sole discretion) to any MSD Trademark; (ii) use trade dress, packaging (both internal and external) or labeling which is the same as or similar (as MSD shall determine in its sole discretion) to that of MSD or any Affiliate of MSD in connection with the sale of any Product; and (iii) give the impression to the public, to physicians or to the trade that the Product is manufactured by or in any way connected with MSD or any of its Affiliates.

ジェネリックメーカーによる製品の供給先は低・中所得国105カ国に限定しているため、それらジェネリックメーカーによる製品が、MSDによるモルヌピラビルを含有する先発医薬品ラゲブリオ®/LAGEVRIO®の販売国(その105カ国以外の先進国)での市場を荒らすことはないはずです(契約が履行されていれば)。

しかし、それら低・中所得国で出回ったそれら安価なジェネリック製品を、先発医薬品であるラゲブリオ®/LAGEVRIO®と偽って先進国内に不正に輸入する犯罪行為が横行すること、ジェネリック製品と先発医薬品との混同が生じて先発医薬品のブランドが棄損されること、ジェネリック製品が出回ることに伴いカウンターフェイト(偽造医薬品)が蔓延するリスクが高まること、そして何よりも結果としてそのような行為により患者が不利益を被る・・・というようなことがあってはなりません。

これらに向けて対策するためには、MSD(ラゲブリオ®/LAGEVRIO®)の商標をサブライセンス先に一切使用させない、そしてサブライセンス先が使用するジェネリック製品の商標を厳格に管理する義務を課し、また監視することは必要な措置となります。

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7.その他、MSDによるモルヌピラビルのグローバルアクセスの促進

MSDは、世界各国の政府と事前購入・供給契約を締結しており、現在、追加の政府との協議を進めています(参考: https://www.merck.com/research-and-products/covid-19/)。

また、MPPとは別に、インドの大手ジェネリックメーカー5社(Cipla Limited, Dr. Reddy’s Laboratories Limited, Emcure Pharmaceuticals Limited, Hetero Labs Limited and Sun Pharmaceutical Industries Limited)とモルヌピラビルの非独占的なライセンス契約を締結しており、現地規制当局による承認または緊急承認後に100以上の低・中所得国でモルヌピラビルの入手を加速させることも発表しています。

また、MSDは、先週には、国際連合児童基金/United Nations Children’s Fund(ユニセフ/UNICEF)との間でモルヌピラビルの供給契約を締結し、2022年前半を通じてUNICEFに最大300万コースのモルヌピラビルを割り当て、規制当局の承認後に100以上の低・中所得国で配布する予定であると発表しました。

MSDによるMPP等も活用した自発的且つ積極果敢な取り組みにより、ジェネリックメーカーも協働して、モルヌピラビルのグローバルアクセスがさらに加速することを願います。

COVID-19に対する医薬品アクセスについて、ご興味あれば以下の記事もご覧ください。

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コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    【関連情報追加】

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      2022.08.10 ミクスOnline: 経口新型コロナ治療薬・ラゲブリオ 8月18日に薬価収載へ 一般流通は「できるだけ速やかに」
      https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=73464
    • 2022.08.18 MSD press release: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)経口治療薬 「ラゲブリオ®カプセル200mg」薬価基準収載のお知らせ
      https://www.msd.co.jp/news/product-news-20220818/
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