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2022.01.12 「ポータル インストルメンツ v. 特許庁長官」 知財高裁令和3年(行ケ)10067・・・針を使わない医療用デバイスに用いるカートリッジの意匠登録出願

裁判所は、本願意匠に係る物品「インジェクターカートリッジ」と引用意匠に係る物品「注射器用シリンジ」を同一であると判断した拒絶審決を取り消した。

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1.本件の概要

本件(知財高裁令和3年(行ケ)10067)は、意匠登録出願(意願2019-017357)の拒絶査定に対する不服審判請求(不服2020-11187号事件)を不成立とした審決の取消訴訟である。

本件審決は、意匠に係る物品の対比及び類否判断において、本願意匠及び引用意匠に係る物品は、本願意匠が「インジェクターカートリッジ」であり、引用意匠は「注射器用シリンジ」であって表記は異なるが、共に医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するものであるから、共通し、したがって、両意匠に係る物品は同一であると判断した。

しかし、裁判所は、「インジェクターカートリッジ」は、「注射器用の交換可能な液体・ガスなどを充填した小容器」を意味すると認めるのが相当であるとし、本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通せず、したがって、本件審決の本願意匠に係る物品の認定及び本願意匠と引用意匠の同一性の認定には誤りがあるとして、その余の点につき判断するまでもなく、本件審決は取り消されるべきであると判断した。

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2.原告が本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることは禁反言により許されないか

被告(特許庁長官)は、原告が本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることは禁反言により許されないとも主張したが、裁判所は、以下のとおり、原告の主張を制限する理由はないとした。

意匠登録出願についての拒絶理由の存否は,審査官が職権により判断すべきものであって(旧法17条),出願人が審査段階又は審判段階において述べたことについて自白の拘束力が働くものではない上,権利行使の当否ではなく権利設定の適否が問題となる審決取消訴訟である本件において,被告は行政庁として対応しているものであって,本願意匠の意匠に係る物品につき,査定及び審判の各段階における原告の主張が本訴における主張と異なるものであったことにより被告の利益が不当に害されるとの関係もないことからすると,本件意見書や本件審判請求書における上記の原告の主張をもって,禁反言の法理の適用などによって原告が本訴において本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることが許されないとまでいうことはできない。

また,被告以外の第三者との関係において,禁反言の法理が適用されることにより,原告が本願意匠に係る意匠権を行使する場面に制限を受けるおそれがあるとしても,特定の当事者間における権利行使の制限の当否と権利の付与の適否とは,およそ場面が異なるのであるから,直ちに本願意匠について,意匠権登録による保護を与えるべきではないなどということはできない。

さらに,審決取消訴訟の審理対象は,当該審決の判断の違法であり,その範囲は当該審判手続において具体的に争われた拒絶理由に限定されるものであるから(最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照),各当事者は,審判手続において具体的に争われていない拒絶理由を主張することは許されないものの,審判手続において具体的に争われた拒絶理由に係る判断の当否に係る主張やそれを裏付ける証拠の提出についてまで制限を受けるものではない。そして,原告の,本願意匠の意匠に係る物品が「自動注射器等の内部に挿入される,交換可能な薬液溶液」であり,引用意匠に係る物品である「注射器用シリンジ」とは異なる旨の主張は,本件の審判手続について争われた拒絶理由である「引用意匠との類似」に関する主張であって,審理対象に含まれない事項に係るものではないから,この観点からも原告の主張を制限する理由はない。

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3.Portal Instruments社の「針を使わない医療用デバイス」

Portal Instruments社ウエブサイト (https://www.portalinstruments.com/)より

2017年11月8日、武田薬品は、針を使わない医療用デバイスの開発および商品化についてPortal Instruments社と提携契約を締結し、本提携にもとづき、Portal Instruments社の技術を武田薬品の開発中または承認済みの生物学的製剤へ応用することを目指すと発表した。

マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)のIan Hunter教授の研究室が開発したこの医療用デバイスと技術は、注射による皮下投与が必要とされる様々な生物学的製剤へ応用できる可能性があるとのこと。

Portal Instruments社の針を使わない医療用デバイスは、針のかわりに加圧液体を使用して生物学的製剤を投与するもので、針を使用する標準的な注射と比べて、痛みが少なく患者に好まれていることが臨床試験で示されており、患者が在宅で自己投与することを想定しているとのことである。

また、2019年12月4日、LEO Pharma社も、LEO Pharma社の治験薬および承認済み医薬品と併せて使用するPortal Instruments社の針を使わない医療用デバイスの開発に関するグローバルな提携およびライセンス契約を締結したことを発表した。

上記提携が現在もなお順調に進んでいるのかどうかは定かではないが、Portal Instruments社のウェブサイト(https://www.portalinstruments.com/)には、針を使わない医療用デバイス(Needle-Free Drug Delivery)について動画による紹介および2021年末に公表された下記論文が紹介されている。

  • E. Lynne Kelley et al. Advances in subcutaneous injections: PRECISE II: a study of safety and subject preference for an innovative needle-free injection system. Drug Deliv. 2021 Dec;28(1):1915-1922. DOI: 10.1080/10717544.2021.1976309.

また、同社ウェブサイトには、製品を保護する米国特許番号(design patentを含む)のリストが掲載されており、それら米国特許リストのうち、Portal Cartridgeのdesign patentとして挙げられているUS D926,970US D926,971US D926,972が、本件意匠登録出願の米国ファミリーに相当するものと思われる。

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