Nov 1, 2011

2011.05.23 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10073

ヒトパピローマウイルス遺伝子の進歩性: 知財高裁平成22年(行ケ)10073

【背景】
「ヒトパピローマウイルス18型をコードするDNA」に関する出願(特願平8-528535; 特表平11-502704; WO96/29413)の拒絶審決(不服2006-28563)取消訴訟。

請求項7:
下記の配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなる単離精製されたヒトパピローマウイルス18型のL1DNA分子または,下記の配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなる単離精製されたヒトパピローマウイルス18型のL2DNA分子。
(配列番号1及び3は省略)
審決の要点は、本願発明のうち,配列番号3で表されるL2DNA分子の発明(本願発明7-2)は引用発明(J.Mol.Biol. (1987), Vil.193, p599-608)に基づいて当業者が容易に発明することができたから特29条2項により特許を受けることができない、というものだった。

審決が認定した本願発明7-2と引用発明との一致点及び相違点は次のとおり。
  • 一致点
    特定のヌクレオチド配列を含むヒトパピローマウイルス18型のDNA分子である点。

  • 相違点(1)
    引用発明においては、配列番号3で表されるヌクレオチド配列とは1389bpのうち39bpが相違している(すなわち97%が同一である)点。

  • 相違点(2)
    該DNA分子が、本願発明7-2においては単離精製されたL2DNA分子であるのに対して、引用発明においては全長ゲノムDNA分子の一部であり、実際にL2DNA分子を単離精製していない点。


【要旨】
取消事由1(相違点(1)についての認定の誤り)について

原告は、塩基対の相違に伴い14個のアミノ酸が相違し、その中で4個の相違がプロリンに関するものであり、プロリンがアミノ酸配列中に入ることによりねじれやターンに影響を及ぼしその結果立体構造が大きく変化する点を主張した。

しかし、裁判所は、立体構造が必ず大きく変化することが当業者の技術常識と認めることができず、単に影響を与える可能性が高いという程度にすぎないというべきであるとした。また、

「仮に,プロリンがアミノ酸配列中に入ることによりねじれやターンに影響を及ぼしその結果立体構造が大きく変化するという原告の主張が正しいとしても,上記主張は本願発明7-2と引用発明がコードするタンパク質に関する主張にすぎないところ,本願発明7-2はあくまでもDNA分子そのものに関する発明であって,DNA分子がコードするタ
ンパク質は発明を特定するための事項には含まれない。このことは,たとえ本願発明の目的が,原告が主張するように,HPV18L1タンパク質とVLPを形成するという観点から,構造上機能的なHPV18L2の配列を得ることであったとしても,本願発明7-2はL2DNA分子という物の発明であるから,そのことは発明を特定するための事項には含まれないというべきである。
したがって,該DNA分子がコードするタンパク質と引用発明がコードするタンパク質が立体構造上の相違を示すか否かは,本来本願発明7-2の進歩性の判断に影響を与える事項ではないというべきである。
以上のとおり,相違点(1) の認定に誤りがあるとの原告の上記主張は採用することができない。」

と判断した。

取消事由2(容易想到性の判断の誤り)及び取消自由3(顕著な作用効果の看過)についても裁判所は原告の主張を採用せず。

請求棄却。

【コメント】

欧米では特許が成立している(EP 0817851B1; US 5,840,306)。そして両審査とも本件で問題となった文献が引用されている。三極で結論の違いが生じたのはなぜか。日本における審査が厳しいのか。本件は、日本における遺伝子関連発明の進歩性を検討する良い事例かもしれない。

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