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2009.03.25 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10261

キシリトール調合物: 知財高裁平成20年(行ケ)10261

【背景】

「上気道状態を治療するためのキシリトール調合物」に関する特許出願(特願2000-537427)の拒絶審決取消訴訟。

請求項1:

鼻の鬱血,再発性副鼻洞感染,又はバクテリアに伴う鼻の感染又は炎症を治療又は防止するために,それを必要としている人に対して鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であって,キシリトールを水溶液の状態で含有しており,キシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されている調合物。

進歩性なしの審決において、

引用発明との一致点は、再発性副鼻洞感染又はバクテリアに伴う鼻の感染を治療又は防止するためにそれを必要としている人に対して投与するためのキシリトールを水溶液の状態で含有している調合物である点であり、相違点は下記のとおりと認定された。

相違点1:

本願発明が鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であるのに対し,引用発明は経口投与用溶液製剤である点

相違点2:

本願発明がキシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されているのに対し,引用発明は水溶液1mlあたり400mgのキシリトールを含有する点

【要旨】

(1) 引用例2の記載内容の認定の誤りについて

裁判所は、

「引用例2~における「鼻の中に投与されることができる。」との記載部分は,エアロゾル粒子を,抗炎症剤及び/又は抗感染剤を感染部位である「気道下部」に直接的に投与するために,通過経路の入り口に当たる鼻孔から「鼻の中」に向けて投与されることができるという意味に理解すべきであり,鼻自体が感染部位であることを前提として,鼻を治療する目的等で,鼻に抗炎症剤及び/又は抗感染剤を投与するという意味に理解することはできない。」

として審決の認定は誤りであると判断した。

これに対して被告(特許庁)は、

「当業者であれば,引用例2~の記載は,「気道下部」のみならず,「上気道」を含めて感染性の呼吸性疾患について述べたものと理解することができる」

主張した。

しかし裁判所は、

「引用例2は,前記のとおり感染部位を「気道下部」とする疾患の治療方法を提供しようとするものであることを,繰り返し述べている記載態様に照らすならば,被告引用に係る上記記載部分は,感染部位を「気道下部」とする疾患に関する記述であると解するのが自然である。」

として、特許庁の主張を採用しなかった。

(2) 引用発明と引用発明2との組合せの容易想到性について

裁判所は、特許法29条2項が定める要件を充足することについての判断過程についての一般原則を示した(2009.01.28 知財高裁平成20年(行ケ)10096参照)。

「特許法29条2項が定める~要件である,当業者が先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたとの点は,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものであるから,先行技術の内容を的確に認定することが必要であることはいうまでもない。また,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであることが通常であるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の有無の判断においては,事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために,当該発明が目的とする「課題」の把握又は先行技術の内容の把握に当たって,その中に無意識的に当該発明の「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在することが必要であるというべきである」

これらの点を踏まえ、本件について裁判所は、

「引用発明~と引用発明2~とは,解決課題,解決に至る機序,投与量等に共通性はなく,相違するから,それらを組み合わせる合理的理由を見いだすことはできないし,そもそも,エアロゾルの形態のままでは吸気しながら鼻へ投与すると,有効成分(キシリトール)が感染部位とは異なる気道下部にまで到達することがあるため,感染部位である鼻内への局所投与の実現は,困難であるというべきである。以上のとおりであり,引用例1に接した当業者は,~引用例2を適用することによって,~本願発明の構成(相違点1の構成)に容易に想到できたと解することはできない。
この点について,成分や用途に係る医薬品等に係る発明が存在する場合に,その投与量の軽減化,安全性の向上等を図ることは,当業者であれば,当然に目標とすべき解決課題といえるであろうし,そのための手段として格別の技術的要素を伴うことなく,課題を解決することができる場合もあり得よう。しかし,そのような事情があるからといって,審決が,本願発明の相違点1の構成は,引用例2の記載内容から容易であるとの理由を示して結論を導いている場合に,その理由付けに誤りがある以上,上記のような事情が存在することから直ちに審決のした判断を是認することは許されない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

そもそも引例の記載内容の認定に誤りがあり、結果、引用発明同士を組み合わせる合理的理由は見出せないとされた事案。

裁判所は、特29条2項における容易想到性の判断手法について、2009.01.28 知財高裁平成20年(行ケ)10096を参照して同様のセリフを判示している。

引用発明同士の組合せ容易想到性の有無を判断するには、「課題」及び「解決手段(発明の特徴点)」を的確に把握することが必要不可欠であること、発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうではなく、したはずであるという示唆等の存在することが必要であること、といった裁判所のメッセージは、EPOのproblem-solution approachやcould-would approachに非常に近い印象。

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