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2021.02.09 「X v. アムジェン」 知財高裁令和2年(ネ)10051・・・新薬承認を得るために必要な試験は特許法69条1項の『試験又は研究』に該当するか

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1.事件の概要・・・本件治験は特許法69条1項の『試験又は研究』に該当するか

本件(知財高裁令和2年(ネ)10051)は、「ウイルス及び治療法におけるそれらの使用」に関する特許第4212897号に係る特許権者である控訴人(X)が、被控訴人(アムジェン)が腫瘍溶解性ウイルス「T-VEC」の国内ブリッジング試験(本件治験)を実施していることが、本件発明の実施に当たり、本件特許権を侵害すると主張して、同ウイルスの使用の差止・廃棄を求めた事案である。

アムジェンは、「T-VEC」について、悪性黒色腫の治療薬として、2015年にFDA及びEMAの各承認(商品名: IMLYGIC(talimogene laherparepvec; AMG678))を受けており、本件治験は、これらの外国臨床データを利用するブリッジング試験を行うものであった。

後発医薬品の製造販売承認を得るために必要な試験の実施を特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するとした平成11年最判(最高裁平成10年(受)第153号同11年4月16日第二小法廷判決・民10集53巻4号627頁)の趣旨が、新薬(先発医薬品)の製造販売承認を得るために必要な本件治験にも該当するのかどうかが争われた。

背景となる腫瘍溶解性ウイルスの開発競争及び原判決(東京地裁平成31年(ワ)1409)については以下の記事(2020.07.22 「X v. アムジェン」 東京地裁平成31年(ワ)1409)により詳しく述べている。

2020.07.22 「X v. アムジェン」 東京地裁平成31年(ワ)1409
腫瘍溶解性ウイルスの開発競争に特許侵害訴訟も勃発(G47Δ/DS-1647 v. T-VEC/IMLYGIC)・・・本件治験が特許法69条1項「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当するか・・・ 腫瘍溶解性ウイルスの開発競争 東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授は、がん細胞でのみ増殖可能となるよう設計された遺伝子組換え第三世代がん治療用単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)である「DS-16...

原判決が控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴し、訴えを変更して、①特許法100条1項に基づき、上記ウイルスの生産、使用、譲渡等、輸出、輸入及び譲渡等の申出の差止め、②同条2項に基づき、上記ウイルスについて製造販売承認申請の差止め、③同項に基づき、上記ウイルスの廃棄、④不当利得返還請求又は特許権侵害に基づく不法行為の損害賠償等の支払を求めた。

知財高裁は、「平成11年最判の趣旨は本件治験についても妥当するので,本件治験は,特許法69条1項の『試験又は研究のためにする特許発明の実施』に当たる」と判断した原判決を支持し、控訴人の請求は、追加した請求を含め、いずれも棄却すべきものと判断した。

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2.裁判所の判断・・・控訴棄却、追加請求いずれも棄却

1 当裁判所は,控訴人の請求は,当審で追加した請求を含め,いずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり,原判決を補正し,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第4の1のとおりであるから,これを引用する。

2 原判決の補正

・・・(省略)・・・

3 当審における控訴人の主張に対する判断

(1) 控訴人は,新薬の製造販売承認を得るための必要な試験は,平成11年最判の射程外であるところ,特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するかについては特許権者の利益と第三者の利益を綿密に検討する必要があり,本件治験は,同項の「試験又は研究」に該当しないと主張する。
しかし,新薬の製造販売承認を得るために必要な本件治験が,特許法69条1項の「試験又は研究」に該当することは,原判決「事実及び理由」の第4の1(2)のとおりである。
控訴人は,新薬の製造販売承認のためにする試験と後発薬の製造販売承認のための試験の内容が異なる旨主張するが,平成11年最判の趣旨が本件治験についても該当することは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(2)のとおりであって,このことは,製造販売承認のための試験の内容によって左右されるとは解されない。

・・・(省略)・・・

(6) 控訴人は,本件治験は本件特許権の存続期間満了「前」の販売を目的としたものであると主張する。
しかし,本件治験は,本件特許権の存続期間中の製造販売を目的としたものであるといえないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(3)イのとおりであって,被控訴人が,本件特許権の存続期間満了日より前に T-VEC の承認を得られる可能性があるかどうかやそのような可能性がある時点で本件治験を開始したかどうかによって,この判断が左右されることはない。
控訴人は,原判決が判示する論理が認められるとすると,特許権の存続期間中に行われるすべての治験について特許権の存続期間中の製造販売を目的としていると認定されることはおよそないこととなるから,平成11年最判が目的要件を提示した趣旨を完全に逸脱していると主張するが,原判決の判示する論理によったからといって,特許権の存続期間中に行われるすべての治験について特許権の存続期間中の製造販売を目的としていると認定されることはおよそないこととなるとはいえないことが明らかである。
(7) 控訴人のその他の主張は,既に判示したところに照らし,いずれも採用することができないことが明らかである。
(8) 以上によると,本件治験を行うことは,本件特許権を侵害するものではない。

4 当審において追加された請求について

上記3(8)のとおり,被控訴人が本件特許権を侵害していると認められないから,当審において追加された請求はいずれも理由がない。

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3.コメント

知財高裁は、後発医薬品の製造販売承認を得るために必要な試験の実施を特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するとした平成11年最判の趣旨が本件治験についても妥当するので、本件治験は、特許法69条1項の「試験又は研究」のためにする特許発明の実施に当たると判断した原判決を支持した。

この裁判所の判断は、本件治験(本件)に限らず、特許権の存続期間中の製造販売を目的としたものでないことを前提として、新薬(先発医薬品)の製造販売承認を得るために必要な試験全般にも適用可能であり、従って、特許権の効力が及ばない安全域(セーフハーバー)を先発医薬品メーカー間の新薬開発競争においても明確にした点で非常に意義のあるものといえるだろう。

原判決(東京地裁平成31年(ワ)1409)については以下の記事(2020.07.22 「X v. アムジェン」 東京地裁平成31年(ワ)1409)を参照。

2020.07.22 「X v. アムジェン」 東京地裁平成31年(ワ)1409
腫瘍溶解性ウイルスの開発競争に特許侵害訴訟も勃発(G47Δ/DS-1647 v. T-VEC/IMLYGIC)・・・本件治験が特許法69条1項「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当するか・・・ 腫瘍溶解性ウイルスの開発競争 東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授は、がん細胞でのみ増殖可能となるよう設計された遺伝子組換え第三世代がん治療用単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)である「DS-16...

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    2021.06.11 第一三共 press release: がん治療用ウイルスG47Δ製品「デリタクト®注」の国内における製造販売承認取得のお知らせhttps://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/pressrelease/pdf/202106/20210611_J.pdf

  2. Fubuki Fubuki より:

    上告受理申立て⇒不受理(2021.07.26)
    https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=5513

  3. Fubuki Fubuki より:

    知財高裁の判断で、再審査期間についての下記言及は注目に値する。
    「再審査制度は,新薬が承認された後の一定期間経過後に,実地医療での使用における安全性情報等の調査結果に基づき,その医薬品の品質,有効性及び安全性を再度確認することを目的とした制度であり,再審査期間中は,実質的に後発薬の市場参入が制限された状態となったとしても,それは,同法の規制による事実上の反射的利益にすぎない。
    上記のような事実上の反射的利益を考慮して,当該特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果をもたらすような解釈を採用することはできない。」

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