RCEP(地域的な包括的経済連携協定)が2022年1月1日に発効・・・知的財産分野、特に医薬品に関連する条項について

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1.はじめに

2022年1月1日、RCEP(地域的な包括的経済連携協定 Regional Comprehensive Economic Partnership Agreement)が発効します。

本記事では、RCEPの中でも、知的財産の分野、特に、医薬品に関連する条項について取り上げます。

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2.RCEPとは

「RCEP協定の経済効果分析(2021.03.19 外務省)」https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100162437.pdfより

RCEP(地域的な包括的経済連携協定 Regional Comprehensive Economic Partnership Agreement)は、東南アジア諸国連合(ASEAN)構成国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、日本、中国、韓国、豪州及びニュージーランドの計15か国が参加、その参加国のGDP、貿易総額及び人口の合計が世界全体の約3割、我が国の貿易総額のうち約5割を占める経済連携協定であり、地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備するものです。

2012年11月に交渉が開始され、2013年5月以降、31回の交渉会合、19回の閣僚会合、4回の首脳会議が開催され、2019年11月のインド離脱はありましたが、2020年11月15日の第4回RCEP首脳会議において署名されました。

ルールについては、以下の分野が全20章及び17の附属書において規定されています。

冒頭の規定及び一般的定義、物品の貿易、原産地規則、税関手続及び貿易円滑化、衛生植物検疫措置、任意規格、強制規格及び適合性評価手続、貿易上の救済、サービス貿易(金融サービス、電気通信サービス、自由職業サービスを含む。)、自然人の一時的な移動、投資、知的財産、電子商取引、競争、中小企業、経済協力及び技術協力、政府調達、一般規定及び例外、制度に関する規定、紛争解決、最終規定

参考:

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3.知的財産分野のルール概要

知的財産の分野(第11章)の概要は以下のとおりです(「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に関するファクトシート(2021年3月 外務省)」より)。

  • 知的財産権の効果的かつ十分な創造、利用、保護及び行使を通じて一層深い経済的な統合及び協力を促進することにより、貿易及び投資にもたらされるゆがみ及び障害を軽減するためのルールを規定する。
  • 著作権及び関連する権利、商標、地理的表示、意匠、特許等を対象に、知的財産権の取得や行使(民事上及び刑事上の権利行使手続並びに国境措置等、デジタル環境においても適用される。)など、WTO協定の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)を上回る保護等を規定する。
  • また、締約国がWIPO著作権条約(WCT)、WIPO実演・レコード条約(WPPT)、視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約等の知的財産に関する多数国間協定を批准し、又はこれに加入する義務を規定する。
  • 知的財産権の取得について、TRIPS協定を上回る規定として具体的には、①広く認識されている商標であることを決定するための条件として、自国又は他国で商標として登録されていること等を要求することを禁止する義務、②自国の法令に従い、商標の登録の出願が悪意で行われたものである場合に、自国の権限のある当局が当該出願を拒絶し、又は当該登録を取り消す権限を有することを定める義務、及び③物品の一部に具体化された意匠又は物品の全体との関係において当該物品の一部について特別に考慮された意匠が意匠としての保護の対象となることの確認等について規定する。
  • 知的財産権の行使について、TRIPS協定を上回る規定として具体的には、①民事上の司法手続において司法当局が、知的財産権の侵害行為から生じた損害賠償の額を決定するに当たり、権利者が提示する合理的な価値の評価を考慮し、侵害者に対し損害賠償を支払うよう命じる権限を有すること、②著作権侵害物品及び不正商標商品の輸入を権限のある当局が職権で差し止めることができる手続を採用し、又は維持すること、③映画館において上映中の映画の著作物の許諾を得ない商業的規模の複製に関して適当な刑事上の手続及び刑罰を含む措置を採用し、又は維持すること等を規定する。
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4.医薬品に関連するルール

知的財産分野(第11章)において、特に、医薬品に関連する条項は主に以下の3点です。

  • 「TRIPS協定及び公衆の健康に関する宣言」(ドーハ宣言)の再確認(第11.8条)
  • 特許の対象から除外することができるもの(第11.36条第2項)
  • 「遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承」の保護が可能(第11.53条) 

CPTPP(TPP11)のような医薬品の独占期間(医薬品特許期間延長、パテント・リンケージ、新薬データ保護)に関わる条項はありません。

以下に、これら3点と、該当するRCEPの条文テキスト(和文)を抜粋して紹介します。

(1)「TRIPS協定及び公衆の健康に関する宣言」(ドーハ宣言)の再確認

第十一・八条において、締約国は、医薬品へのアクセス及び公衆の健康の保護の重要性について規定された「TRIPS協定(Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights Agreement)及び公衆の健康に関する宣言」(ドーハ宣言)を再確認するとされ、開発途上国における公衆の健康の問題に対処するため特許権者以外の者が感染症に関する医薬品を生産しこれらの諸国に輸出することを可能にすることを目的としているTRIPS協定第31条の2の規定の重要性を認識するとされています。

しかし、それらの規定を含め本協定第十一・八条はTRIPS協定を越えるものでのはなく、我が国で新たな法整備が必要となる事項はありません。

参考:

第十一・三条 他の協定との関係(注)

注 この条の規定の適用上、締約国は、知的財産についてこの章の規定が貿易関連知的所有権協定において要求される保護よりも広範な保護を定めるという事実をもって、この条及び第二十・二条(他の協定との関係)2に規定する抵触が存在することを意味するものではないことに合意する。

知的財産に関し、この章の規定と貿易関連知的所有権協定の規定とが抵触する場合には、その抵触の限りにおいて、貿易関連知的所有権協定の規定が優先する。

第十一・四条 原則

1 締約国は、自国の法令の制定又は改正に当たり、公衆の健康及び栄養を保護し、並びに自国の社会経済的及び技術的発展に極めて重要な分野における公共の利益を促進するために必要な措置を、当該措置がこの章の規定に適合する限りにおいて、とることができる。

2 締約国は、権利者による知的財産権の濫用の防止又は貿易を不当に制限し、若しくは技術の国際的移転に悪影響を及ぼす慣行の利用の防止のために必要とされる適当な措置を、当該措置がこの章の規定に適合する限りにおいて、とることができる。(注)

注 締約国は、知的財産権がそれ自体では必ずしも市場における支配力を与えるものではないことを認識する。

3 2の規定を適用するほか、締約国は、競争を促進することの必要性を認識する。

第十一・八条 貿易関連知的所有権協定及び公衆の健康

1 締約国は、二千一年十一月十四日に採択された知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び公衆の健康に関するドーハ宣言を再確認する。締約国は、特に、この章の規定について次の了解に到達した。

(a) 締約国は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び公衆の健康に関するドーハ宣言において正当に認められた柔軟性を十分に利用する権利を確認する。

(b) 締約国は、この章の規定が、各締約国が公衆の健康を保護するための措置をとることを妨げるものでなく、また、妨げるべきでないことを合意する。

(c) 締約国は、各締約国が有する公衆の健康を保護する権利、特に全ての人の医薬品へのアクセスを促進する権利を支持するような方法でこの章の規定を解釈し、及び実施することができ、また、そのような方法で解釈し、及び実施すべきであることを確認する。

2 この章の規定は、医薬品へのアクセス及び公衆の健康に係る締約国の約束に鑑み、貿易関連知的所有権協定第三十一条の二並びに貿易関連知的所有権協定附属書及びその付録の規定の効果的な利用を妨げるものでなく、また、妨げるべきでない。

3 締約国は、貿易関連知的所有権協定第三十一条の二並びに貿易関連知的所有権協定附属書及びその付録の規定を実施するための国際的な努力に貢献することの重要性を認識する。

(2)特許の対象から除外することができるもの

第十一・三十六条第三項において、締約国は、人の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法を特許の対象から除外することができるとされています。これら点は、TRIPS協定第27条(3)と同じです。

第十一・三十六条 特許を受けることができる対象事項

3 締約国は、また、次のものを特許の対象から除外することができる。

(a) 人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法

(b) 微生物以外の動植物並びに非生物学的方法及び微生物学的方法以外の動植物の生産のための本質的に生物学的な方法。ただし、各締約国は、特許若しくは効果的な特別の制度又はこれらの組合せによって植物の品種の保護を定める。締約国は、貿易関連知的所有権協定第二十七条3(b)の規定が改正される場合には、この(b)の規定について類似の改正を行うかどうかを決定するためにこの(b)の規定の見直しを行う。

(3)「遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承」の保護が可能

第G節の第十一・五十三条において、締約国は、知的財産の一種であるとされる「遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承」を保護する適当な措置を定めることができると規定されています。

TRIPS協定にはこれに相当する条項はありませんが、CPTPP(TPP11)第18.16条(伝統的な知識の分野における協力)には「締約国は、知的財産の制度と遺伝資源に関連する伝統的な知識との相互の関連性について、当該伝統的な知識が当該制度に関連している場合には、当該関連性を認める。(第1項)」と規定されています。

ところで、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS: Access and Benefit Sharing)を着実に実施するための手続きを定める「生物の多様性に関する条約(CBD: Convention on Biological Diversity)の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」(名古屋議定書)は、2017年8月20日に、我が国で発効しています。

本協定の締約国は、遺伝資源等を保護する措置を定めることができ、その国から取得した遺伝資源等を利用する者(利用者)は、その提供国で定められている国内法令等を順守することが求められます。

「遺伝資源及び関連する伝統的知識」の対象範囲が提供国によっては異なる場合もあるでしょうから、利用者は日本政府への報告義務対象範囲とは別に、その取得した遺伝資源等が提供国において法令順守すべき対象であるのかどうかにも注意する必要があります。

参考:

第G節 遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承(注)

注 この節の規定は、遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承についての締約国の立場(WIPOの知的財産並びに遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承に関する政府間委員会等の場を通じた二国間又は多数国間の交渉におけるものを含む。)に影響を及ぼすものではない。

第十一・五十三条 遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承

1 各締約国は、自国の国際的な義務に従うことを条件として、遺伝資源、伝統的な知識及び民間伝承を保護する適当な措置(注)を定めることができる。

注 締約国は、「適当な措置」が、各締約国の決定する事項であり、及び当該各締約国の知的財産制度に必ずしも関係しないことがあることを了解する。

2 締約国は、自国の特許制度の一部として遺伝資源の出所又は起源に関する開示の要件(注)がある場合には、当該要件に関する法令及び手続を、利害関係を有する者及び他の締約国が知ることができるような方法により、実行可能なときはインターネット等において、利用可能なものとするよう努める。

注 締約国は、一部の締約国が、該当する場合には、自国の特許制度において、情報に基づく事前の同意の証拠並びに遺伝資源及び関連する伝統的な知識についての取得の機会及び利益の配分の証拠も要求しているという事実を認識する。

3 各締約国は、質の高い特許の審査を実施するよう努める。当該審査には、次のことを含めることができる。

(a) 先行技術を決定するに当たり、関連する公に利用可能な記録された情報であって、遺伝資源に関連する伝統的な知識に関するものを考慮に入れることができること。

(b) 特許を付与することができるかどうかに関係し得る先行技術の開示(遺伝資源に関連する伝統的な知識に関する先行技術の開示を含む。)を第三者が権限のある審査当局に対して書面により引用するための機会を与えること。

(c) 適当な場合には、遺伝資源に関連する伝統的な知識に関する情報を含むデータベース又はデジタルライブラリーを利用すること。

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5.おわりに

2022年1月1日に発効するRCEPをきっかけとして・・・

貿易・投資が拡大し、生産性の高い創造的な企業群との取引や、新たなイノベーションが生じることにより、我が国の生産性は高まると期待される。生産性の向上は賃金の上昇につながり、実質所得を押し上げる。また、企業活動の活性化や賃金の上昇は、人々の働くインセンティブとなり、労働参加を促すと期待される。所得の増加は更なる投資を生み、成長力を高める経済の好循環メカニズムが持続する

RCEP協定の経済効果分析(2021年3月19日 外務省)より

・・・と期待どおりに実現することを切に願います。

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