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第一三共ADC技術の知的財産権の帰属を巡るSeagen社との紛争における仲裁 Seagen社の主張を退け第一三共を支持

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1.第一三共のプレスリリース

2022年8月13日付の第一三共のプレスリリースによると、第一三共の抗体薬物複合体(以下「ADC」)技術の知的財産権の帰属を巡りSeagen社と第一三共との間で争われていた仲裁事件で、仲裁廷は、Seagen社の主張を全面的に否定する判断を下したとのことです。

もし、Seagen社に帰属するとの仲裁判断となっていたならば、第一三共は、Enhertu®(1)や他のADC製品に対しても、Seagen社からのライセンスを得なければならない事態となる可能性、その結果、実施料等を長期にわたって支払い続ける必要がでてくるかもしれない可能性がありました。

しかし、この仲裁判断により、Enhertu®の有効成分であるトラスツズマブ デルクステカンおよび他のいくつかの医薬品候補に第一三共が使用した特定のADC技術に関する知的財産権がSeagen社に帰属するとの同社の主張は退けられ、上記リスクは回避されました。

第一三共は、係争対象となったADC技術に関する当該知的財産権をこれまでどおり保持し、今後も計画通りに第一三共ADC製品の開発および商業化を進めていくことになるとのことです。


(1) Enhertu®(エンハーツ)は、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)に対するヒト化モノクローナル抗体とトポイソメラーゼI阻害作用を有するカンプトテシン誘導体(ペイロード)を、リンカーを介して結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate: ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(trastuzumab deruxtecan)を有効成分とする抗悪性腫瘍剤です。2019年3月、第一三共とAstraZeneca社は、全世界(第一三共が独占的権利を有する日本は除く)においてトラスツズマブ デルクステカンを共同で開発及び商業化する契約を締結し、2019年12月に米国で承認、2020年3月には日本でも承認され、販売されています。

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2.Seagen社のプレスリリース

Seagen社は、この仲裁の結果を受けて、以下のとおり声明を出しています。

“While we are disappointed with the arbitration decision, it was important for us to pursue this legal action,” said Roger Dansey, M.D., interim Chief Executive Officer and Chief Medical Officer, Seagen.

“This does not impact our existing business. Looking forward, we are well-positioned to drive continued innovation and growth with four commercial products and a deep and diverse pipeline of promising programs. Seagen remains focused on developing innovative medicines that make a meaningful difference in the lives of cancer patients.”

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3.仲裁に至るまでの経緯

第一三共とSeattle Genetics, Inc.(シアトル ジェネティクス社。現Seagen社)は、2008年7月から2015年6月にかけて、ADCの共同研究を実施しました。

この共同研究終了から数か月後、ADC製品Enhertu®の有効成分であるトラスツズマブ デルクステカン(DS-8201a)の臨床試験が開始されていることが伺えます。例えば、以下参照。

  • “固形癌患者を対象としたDS-8201aの第I相試験”(JapicCTI-152978)は2015年7月31日に初回登録
  • “Study of DS-8201a in Subjects With Advanced Solid Malignant Tumors”(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT02564900)は2015年9月に開始

2019年3月、第一三共とAstraZeneca社は、全世界(第一三共が独占的権利を有する日本は除く)においてトラスツズマブ デルクステカンを共同で開発及び商業化する契約を締結し、2019年12月に米国で承認、2020年3月には日本でも承認され、Enhertu®が販売されるに至りました。

シアトル ジェネティクス社は、第一三共との共同研究に関連して、第一三共ADC技術に関する特定の知的財産権はシアトル ジェネティクス社に帰属すると主張する旨の異議を第一三共に通知しました。

第一三共は、この通知を受け、2019年11月、米国デラウェア州連邦地方裁判所にシアトル ジェネティクス社を被告として確認訴訟を提起しました。第一三共は、シアトル ジェネティクス社の主張には根拠がないと考えており、当該ADC技術に係る知的財産権は専ら第一三共に帰属することを判決で明らかにすることを裁判所に求めました。

第一三共がADC技術の帰属を巡り訴訟提起
第一三共(株)の2019年11月5日付プレスリリース(「当社の抗体薬物複合体(ADC)技術に関する訴訟の提起について」)によると、第一三共は、2008年7月から2015年6月にかけて抗体薬物複合体(ADC)の共同研究を実施していたSeattle Genetics, Inc.(シアトル ジェネティクス社)から、第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張する旨の異議の通知を受けたことから、...

これに対し、シアトル ジェネティクス社は、同月、第一三共がEnhertu®の有効成分であるトラスツズマブ デルクステカンおよび他のいくつかの医薬品候補に使用した特定のADC技術に関する知的財産権が同社に帰属すると主張して、米国仲裁協会に仲裁を申立てました(American Arbitration Association Case No. 01-19-0004-0115 (Brown, Arb.))。これにより、特定のADC技術に関する知的財産権の帰属の問題は、仲裁にて決することとなりました。

この仲裁において、シアトル ジェネティクス社は、これらのADCに使用されているリンカーおよびその他のADC技術は、同社の先駆的なADC技術の改良であり、その帰属は2008年の第一三共と同社との共同研究契約に基づき同社に自動的に譲渡されると主張しました。

第一三共とシアトル ジェネティクス社が締結した共同研究契約は以下で参照できます。

  • Seattle Genetics, Inc. SEC Filing 11/07/2008 Form10-Q Quarterly Report Exhibit 10.2 Collaboration Agreement dated July 2, 2008 between Seattle Genetics, Inc. and Daiichi Sankyo Co., Ltd.

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4.Seagen社との一連の特許係争が第一三共の業績に与える影響

前述の第一三共が保有する特定のADC技術に関する知的財産権の帰属を巡る仲裁事件とは別に、Seagen社は、第一三共による米国でのEnhertu®の販売行為が、Seagen社が保有するADC技術に関する米国特許10,808,039(以下「‘039特許」。※Seagen社の特許であり、前述仲裁対象ではありません。)を侵害していると主張して、2020年10月19日に米国テキサス州東部地区連邦地方裁判所に提訴しました(No.2:20-cv-00337 (E.D.Tex.))。

Seagen社(旧Seattle Genetics社)が第一三共による米国でのエンハーツ(ENHERTU)の販売等を特許侵害で提訴
Seagen社(旧Seattle Genetics社)の2020年10月30日付Quarterly Report(10-Q)によると、Seagen社は、第一三共による米国でのエンハーツ(ENHERTU)の販売等行為が、Seagen社が保有する米国特許10,808,039を侵害していると主張して、テキサス州東部地区連邦地方裁判所に提訴したとのことです。Separately from the on-...

事件が並行しててややこしいかもですが、

・Seagen「第一三共のエンハーツは俺の特許侵害してるよね?これまでとこれからの実施料支払ってね」→特許権侵害訴訟事件として裁判所で審理中。

・Seagen「第一三共のエンハーツ特許(開発中のADC特許)も俺のものじゃね?」→仲裁で否定(今回これ)。

ということですね

この特許権侵害訴訟事件において、第一三共による米国でのEnhertu®の販売行為が’039 特許の侵害に当たるとする、第一三共にとって不利な判決が見込まれています。

Seagen社の抗体薬物複合体(ADC)特許と第一三共「Enhertu®(エンハーツ)」を巡る米国特許侵害訴訟 第一三共に対して特許の故意侵害があったと陪審員が認定
Seagen社と第一三共との間で争われていたEnhertu®(エンハーツ)を巡る米国特許侵害訴訟において、テキサス州東部地区連邦地方裁判所の陪審員は、第一三共による特許の故意侵害があったと評決したことを、2022年4月8日(現地時間)、両社のプレスリリースは伝えました。2022.04.08 Seagen press release: Seagen Announces Jury Award in...
Seagen社の抗体薬物複合体(ADC)特許と第一三共「Enhertu®(エンハーツ)」を巡る特許紛争 米国特許商標庁が特許付与後レビュー手続きを進めないことを決定
1.第一三共のプレスリリース2022年7月19日付の第一三共プレスリリース(当社ADC製品に関するSeagen社との特許係争に関するお知らせ)によると、第一三共が米国特許商標庁に請求していたSeagen社の米国特許 10,808,039(以下「'039特許」)の有効性を審査する特許付与後レビュー(Post Grant Review、以下「PGR」)について、米国特許商標庁がSeagen社の...

しかし、その審理において、Seagen社への損害賠償の支払額($41.8M)も見えてきており、これから判断されるだろう将来にわたる実施料の支払い額もSeagen社の’039 特許が満了する2024年11月までの辛抱、また、Enhertu®の販売は差止められていません。

前述の第一三共を支持した仲裁判断により今後もADC製品の開発および商業化を進めていくことに支障がなくなったことからも、Seagen社との一連の特許係争が第一三共の業績に与える影響は、予測可能な範囲のものとなったといえるでしょう。

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    第一三共
    予想通りというか、予想を超えるといいますか・・・

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