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2026.04.22 「ニプロ v. ベーリンガー インゲルハイム」 知財高裁令和7年(行ケ)10082 ― 糖尿病治療におけるリナグリプチン併用療法発明と記載要件判断③

Summary

本件は、被告であるベーリンガーインゲルハイムが特許権を有する、DPP-4阻害剤リナグリプチンとスルホニル尿素との併用による糖尿病治療に関する特許について、原告ニプロが無効審判請求不成立審決の取消しを求めた事案である。

知財高裁は、実施可能要件及びサポート要件を充足するとした特許庁の判断を是認し、原告の請求を棄却した。

本判決の意義は、医薬用途発明における実施可能要件及びサポート要件の判断枠組みを改めて整理した点にある。すなわち、両要件の判断において、「明細書の記載」と「出願時の技術常識」との相互補完関係を明確に位置づけるとともに、これらの要件と進歩性判断との峻別を明示した点が注目される。

また、本件特許は、リナグリプチンを有効成分とするトラゼンタ®錠の特定の使用態様(医薬用途)を保護するものと位置づけられ、その存続は後発医薬品の参入時期に実質的な影響を及ぼし得る。この点において、本件は、単なる記載要件論にとどまらず、リナグリプチン製剤の後発医薬品参入時期を左右し得る用途特許群の有効性に関する重要な紛争として位置付けられる。

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1.背景

本件(知財高裁令和7年(行ケ)10082)は、被告ベーリンガーインゲルハイムが特許権者である発明の名称を「DPP-4阻害剤(リナグリプチン)を任意で他の抗糖尿病薬と組み合わせて含む抗糖尿病薬」とする特許第6556767号(以下「本件特許」)に対し、原告ニプロが無効審判(無効2024-800031号事件)を請求したが、特許庁は訂正を認めたうえでこれを成り立たないとする審決をしたため、原告が当該審決の取消しを求めた事案である。

本件特許における特許請求の範囲のうち請求項1の記載は、次のとおりである。

【請求項1】
それを必要とする患者において、
-2型糖尿病を治療するための、または
-血糖コントロールを改善するための、および/または、空腹時血漿グルコース、摂食後の血漿グルコースおよび/もしくはグリコシル化ヘモグロビンHbA1cを低下させるための、または
-糖尿病合併症、例えば白内障、ならびに微小血管性および大血管性疾患、例えば腎症、網膜症、ニューロパシー、学習障害および記憶障害、神経変性障害もしくは認知障害、心臓血管もしくは脳血管の疾患、組織虚血、糖尿病性足病変もしくは胃潰瘍、動脈硬化、高血圧、内皮障害、心筋梗塞、急性冠不全症候群、不安定狭心症、安定狭心症、脳卒中、末梢性動脈閉塞性疾患、心筋症、心不全、心臓リズム障害および血管再狭窄からなる群から選択される状態もしくは障害を予防、その進行を緩徐、遅延、または治療するための医薬組成物であって、
(a)リナグリプチンであるDPP-4阻害剤、又はその医薬的に許容される塩を含み、
(b)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α-グルコシダーゼ阻害剤およびGLP-1類縁体または医薬的に許容されるその塩からなる群から選択される第2の抗糖尿病薬と組み合わせて投与され、
(c)ビグアニド、チアゾリジンジオン、スルホニル尿素、グリニド、α-グルコシダーゼ阻害剤およびGLP-1類縁体または医薬的に許容されるその塩からなる群から選択される(b)と異なる第3の抗糖尿病薬、と組み合わせて投与されてもよく、
第2の抗糖尿病薬、または存在する場合には第3の抗糖尿病薬のいずれかがスルホニル尿素であり、
患者が、第2の抗糖尿病薬を用いた単剤療法にもかかわらず、血糖コントロールが不十分であり、または、
患者が、第2および第3の抗糖尿病薬を用いた2剤療法にもかかわらず、血糖コントロールが不十分であり、
例えば低血糖の発症を低下させるため、DPP-4阻害剤と組み合わせた際にスルホニル尿素が削減された量で用いられてもよく、
患者が、肝臓疾患、に対してより高いリスクを示すか、または有する、
医薬組成物。

本件発明は、このように血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者等に対し、DPP-4阻害剤であるリナグリプチンとスルホニル尿素を含む他の抗糖尿病薬の併用療法を内容とするものであるところ、原告は実施可能要件(特許法36条4項1号)違反及びサポート要件(同36条6項1号)違反を主張した。これに対し、特許庁はいずれの無効理由も認めず特許の有効性を維持したため、その判断の当否が本件の争点となった。

なお、本件明細書の発明の詳細な説明には、リナグリプチンとスルホニル尿素の組合せについて、治療効果を確認した薬理試験結果は示されていなかった。

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2.裁判所の判断

2026年4月22日、知的財産高等裁判所第4部(以下「裁判所」)は、本件審決についての原告の取消事由(実施可能要件及びサポート要件に関する判断の誤り)に関する主張は採用できず、そのほかに本件において本件審決を取り消すべき事由は認められないことから、原告の請求は理由がないとしてこれを棄却する判決を言い渡した。

本判決は、実施可能要件及びサポート要件の解釈について一般的な判断枠組みを示した上で、本件発明への当てはめを行っている点に特徴がある。

(1)実施可能要件について

まず、実施可能要件について裁判所は、次のとおりその意義を明確にしている。

「実施可能要件を充たすためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度の記載があることを要する。」

さらに、医薬用途発明に特有の要請として、薬理データ等の位置付けについて次のように判示した。

「医薬用途発明においては、…実施可能要件を満たすというためには、明細書において、当該物質が当該用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある」

もっとも、本判決は同時に、薬理データの記載が不可欠であるとまではしていない点に注意を要する。この点について裁判所は明確に、

「物の発明である医薬用途発明については、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できれば足り、薬理データの記載を欠くことから直ちに実施可能要件を満たさないことにはならない。」

と判示し、明細書の記載と技術常識との総合判断で足りるとする柔軟な枠組みを採用した。

その上で本件については、①DPP-4阻害剤とスルホニル尿素の補完的作用機序、②糖尿病患者における薬剤選択に関する技術常識、③各薬剤の安全性に関する知見等を総合考慮し、本件明細書に接した当業者は、本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づいて、DPP-4阻害剤であるリナグリプチンを作用機序が異なるスルホニル尿素と併用し、本件患者に投与することにより、両剤の作用が補完し合い、それぞれ単独で用いた場合に比べて2型糖尿病等に対する治療効果が向上すると理解できると認定した。そして、その結果、本件発明は実施可能要件を満たすと判断した。

また、原告は、①薬理データによる裏付けの必要性、②併用時の安全性リスク、③優れた効果の裏付けの必要性を主張したが、裁判所はいずれも退けている。特に③に関しては、実施可能要件と進歩性の峻別を強調し、

「実施可能要件を充足するか否かとの判断は上記の観点から行われるべきであり、その枠組みに新規性・進歩性の判断を取り込むべきではない」

と判示した点が注目される。

(2)サポート要件について

次に、サポート要件について裁判所は、次の一般的判断枠組みを示している。

「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、…当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべき」

そして本件においては、本件発明の課題を本件審決が認定したとおりであるとした上で、前記実施可能要件と同様の理由により、当業者においては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき、リナグリプチンとスルホニル尿素を本件患者に併用投与すると、それぞれ単独で用いた場合に比べて2型糖尿病に対する治療効果が向上すると理解することができると解されるから、上記課題を解決できることを認識し得ると判断した。

これに対し原告は、「従来技術より優れた効果」を基準とすべきと主張したが、裁判所はこれについても、

「サポート要件の判断に進歩性の判断を取り込むものとして、採用することができない」

として明確に排斥した。

以上のとおり、裁判所は、実施可能要件及びサポート要件のいずれについても特許庁の判断に誤りはないとし、原告の請求を棄却した。

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3.コメント

(1)同日判決と共通する意義

本判決と同日に、リナグリプチンの医薬用途発明に係る別件特許(特許第6189374号及び特許第6262023号)についても、審決取消請求事件の判決言渡しがされている(下記ブログ記事参照)。

本件を含むこれら一連の事件において、裁判所はいずれも、実施可能要件及びサポート要件に関する特許庁の判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。

これらの判決に共通する意義は、医薬用途発明における記載要件、特に実施可能要件及びサポート要件の判断枠組みを改めて整理した点にある。とりわけ、両要件の判断において、「明細書の記載」と「出願時の技術常識」とが相互に補完し得る関係にあることを前提としつつ、その判断を進歩性判断と峻別すべきことを明確に示した点は重要である。詳細については、別記事「2026.04.22 「ニプロ v. ベーリンガー インゲルハイム」 知財高裁令和7年(行ケ)10058 ― 糖尿病治療におけるリナグリプチン併用療法発明と記載要件判断①」を参照されたい。

2026.04.22 「ニプロ v. ベーリンガー インゲルハイム」 知財高裁令和7年(行ケ)10058 ― 糖尿病治療におけるリナグリプチン併用療法発明と記載要件判断①
Summary本件は、被告であるベーリンガーインゲルハイムが特許権を有する、DPP-4阻害薬リナグリプチンと長時間作用型インスリンとの併用による糖尿病治療に関する特許について、原告ニプロが無効審判請求不成立審決の取消しを求めた事案である。知財高裁は、実施可能要件及びサポート要件を充足するとした特許庁の判断を是認し、原告の請求を棄却した。本判決の意義は、医薬用途発明における実施可能要件及びサポート要...

裁判所は、原告が主張した「従来技術より優れた効果の裏付け」を、実施可能要件及びサポート要件の問題として取り込むことを明確に否定し、これらの記載要件はあくまで「公開の対価としての開示の十分性」を問うものであり、「特許付与の価値判断」である進歩性とは制度趣旨を異にすることを強調している。この峻別は理論的には当然であり、その意味で本判決は再確認的意義を有する。

他方で、実務上は、記載要件と進歩性を完全に切り離して論じることは容易ではない。本判決が示すように、「技術常識への依拠」により実施可能性や課題解決可能性を基礎付ければ付けるほど、その内容は逆に「当業者が容易に想到し得た」ものとして進歩性判断において不利に作用し得るからである。

本件は進歩性が争点とされていないが、仮に将来的に進歩性欠如が問題となる場合、特許権者としては、このジレンマを乗り越える形で主張立証を構築する必要がある。実際、ニプロは、2025年6月に本件特許に対する別件無効審判請求をしており特許庁に係属中である。その無効理由は進歩性の欠如にあるのかもしれない(無効2025-800073号事件)。

このように、本判決は、記載要件に関する個別判断にとどまらず、医薬用途発明におけるクレームドラフティング及び出願戦略全体に内在する「技術常識への依拠」と「進歩性確保」とのバランス、すなわち、出願時にどの程度のデータを開示すべきか、また将来の無効リスクを見据えてどのようなストーリーを構築しておくべきかという問題を浮き彫りにするものであり、医薬分野における特許実務に対して、より戦略的かつ整合的なストーリーテリングを要求する判例であると位置付けることができる。

(2)本件特許の位置づけ

リナグリプチン(Linagliptin)は、ベーリンガーインゲルハイムが創製した、胆汁排泄型の選択的ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬である。日本では2011年7月1日、「2型糖尿病(ただし、食事療法・運動療法のみでは十分な効果が得られない場合に限る)」を効能・効果として製造販売承認を取得し、「トラゼンタ®錠」として上市された。その後、2013年3月には効能・効果が「2型糖尿病」へと拡張されている。チナグリプチンを含有する製品とその後発医薬品参入の実質的障壁として特許権の存在が機能している状況にある点についての詳細については、別記事「2026.04.22 「ニプロ v. ベーリンガー インゲルハイム」 知財高裁令和7年(行ケ)10058 ― 糖尿病治療におけるリナグリプチン併用療法発明と記載要件判断①」を参照されたい。

2026.04.22 「ニプロ v. ベーリンガー インゲルハイム」 知財高裁令和7年(行ケ)10058 ― 糖尿病治療におけるリナグリプチン併用療法発明と記載要件判断①
Summary本件は、被告であるベーリンガーインゲルハイムが特許権を有する、DPP-4阻害薬リナグリプチンと長時間作用型インスリンとの併用による糖尿病治療に関する特許について、原告ニプロが無効審判請求不成立審決の取消しを求めた事案である。知財高裁は、実施可能要件及びサポート要件を充足するとした特許庁の判断を是認し、原告の請求を棄却した。本判決の意義は、医薬用途発明における実施可能要件及びサポート要...

本件特許(特許第6556767号)の請求項1は、

  • ①血糖コントロールが不十分な患者であり、
  • ②肝臓疾患に対してより高いリスクを示すかまたは有する患者に対し、
  • ③スルホニル尿素と組み合わせて、リナグリプチンを経口投与する医薬組成物

を構成とするものである。

トラゼンタ®錠(リナグリプチン)の添付文書及びインタビューフォームには、少なくとも以下のように、上記各構成との関係を示す記載が存在する。

まず、スルホニル尿素との併用について、インタビューフォームには、「既承認の経口血糖降下薬であるビグアナイド薬、速効型インスリン分泌促進薬、チアゾリジン薬、スルホニルウレア剤又はα-グルコシダーゼ阻害薬による治療にもかかわらず、血糖コントロールが不十分な日本人2型糖尿病患者に本剤5mgを1日1回投与し…」との記載がある。また、別の箇所では、「リナグリプチンを既存の経口血糖降下薬(…スルホニルウレア剤…)1剤と52週間併用した国内臨床試験」との記載がある。これは、①スルホニル尿素でも血糖コントロールが不十分な患者に、③リナグリプチンも追加投与するとの併用療法が、承認時に具体的に想定された臨床使用態様であったことを示すものといえる。

次に、肝臓疾患リスクとの関係についてである。トラゼンタ®錠(リナグリプチン)関連資料には、「肝臓疾患リスクを有する患者」を対象としたことを示唆する記載が存在する。例えば、ベーリンガーインゲルハイムの解析資料では、「肝疾患を有する成人2型糖尿病患者に対するリナグリプチンの有効性と忍容性」「肝胆道疾患がある患者 n=418」との記載があり、脂肪肝、胆石症、胆のう炎既往患者などを含む解析が実施されている。また、PMDA承認審査資料には、「軽度、中等度及び高度の肝機能障害患者でも用量調節は不要と考えられた」との記載がある。したがって、リナグリプチンについては、少なくとも、②肝臓疾患に対してより高いリスクを示すかまたは有する患者を対象とした評価・試験が実施されていたことは認められる。

以上からすると、本件特許は、トラゼンタ®錠(リナグリプチン)の使用態様のうち特定の患者群に対する特定の併用投与態様という医薬用途を保護対象とする特許として位置づけることができる。同特許の存続期間満了日は2030年2月12日である。

なお、最近の事例であるルビプロストン事件において、大阪地裁は、医薬用途発明に係る特許権の侵害判断に関し、沢井製薬(被告)が主張したいわゆる「ラベル論」や「専ら論」といった形式的な枠組みに依拠するのではなく、あくまで特許発明の構成要件の解釈を出発点として、被告製品の実施が当該用途発明の一態様としての実施に該当するかという観点から技術的範囲への属否を判断するという、特許法の原則に忠実な手法を採用している。すなわち、添付文書の記載を形式的に基準とするのではなく、用途発明としての技術内容への該当性を実質的に評価する姿勢が明確に示されている(2026.04.01ブログ記事「2026.03.03 「ヴィアトリス製薬 v. 沢井製薬」 大阪地裁令和7年(ワ)10786, 10790 ― 後行延長特許権の効力は先行延長の対象医薬品に及ぶか(ルビプロストン事件)」参照)。

2026.03.03 「ヴィアトリス製薬 v. 沢井製薬」 大阪地裁令和7年(ワ)10786, 10790 ― 後行延長特許権の効力は先行延長の対象医薬品に及ぶか(ルビプロストン事件)
Summary本件は、アミティーザ®24μg及び同12μgを製造販売するヴィアトリス製薬(原告)が、同12μgの承認処分に基づく存続期間延長登録によって延長された特許権の効力が同24μgの後発医薬品である沢井製薬(被告)製品の生産等にも及ぶと主張し、その差止め等を求めた事案である。本判決は、特許権の存続期間延長制度において、先後複数承認処分が存在する場合の延長特許権の効力範囲を明確に示した点で重要...

したがって、本件のような特定の使用態様を保護する用途特許が存続する限り、日本版パテントリンケージの運用(いわゆる二課長通知)において「トラゼンタ®錠」の後発医薬品の承認は制限される可能性が高い(2025.10.11ブログ記事「厚労省、日本版パテントリンケージ制度の根拠となっている平成21年二課長通知を改正、新たな通知を発出」参照)。

厚労省、日本版パテントリンケージ制度の根拠となっている平成21年二課長通知を改正、新たな通知を発出
■ パテントリンケージ厚生労働省は、これまで後発医薬品の承認審査において、平成21年の「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」(平成21年6月5日付け医政経発第0605001号、薬食審査発第0605014号医政局経済課長、医薬食品局審査管理課長連名通知。以下「二課長通知」)に基づき、先発医薬品の特許(物質特許・用途特許)と後発医薬品との関係を確認してきま...

他方で、パテントリンケージに新たに導入された専門家委員制度において、当該用途特許の技術的範囲に関する判断がどのように行われるのか、またどのような意見が提出されるのかは外部からは把握困難であり、透明性および判断の予見可能性の観点からなお課題が残されている(2026.03.19ブログ記事[寄稿]田村善之「パテント・リンケージ制度について」参照)。

[寄稿] パテント・リンケージ制度について
東京大学法学政治学研究科教授 田村善之いつも最新かつ重要な情報を次々と与えてくださるFubukiさんから、「医薬分野の知的財産の世界に思うこと」をテーマにするコラムの寄稿依頼をいただいた。よい機会なので、医薬の特許保護の一角を占めるパテント・リンケージ制度について、一筆思うところを書かさせていただこうと思う。改訂二課長通知の問題点パテント・リンケージを導入することは、環太平洋パートナーシップ協定(...

本件特許の存続は後発医薬品の参入時期に実質的な影響を及ぼし得る。この点において、本件は、同製品の後発医薬品参入を企図するニプロとの間の特許紛争の重要な局面にあるといえる。

(3)日本の分割及び欧米ファミリーの状況

本件特許(特許第6556767号)は、PCT出願(出願番号:PCT/EP2010/051817、国際公開番号:WO2010/092163)を基礎とする特許ファミリーに属し、第二世代分割出願に由来するものである。他方、欧米においては、現時点で対応出願(EP2395988A及びUS2026-0076972A1)はいずれも審査係属中であり、登録に至った特許は存在していない。

そのような中、日本においてベーリンガーインゲルハイムが、実際の製品使用態様に接続し得る併用療法クレームを継続的に追求し、本件特許として権利化に成功したのみならず、本件訴訟においてその有効性維持にも至ったことは、トラゼンタ®錠のライフサイクルマネジメント及び製品価値の維持・最大化に一定程度寄与し得るものと考えられる。

もっとも、本件については、既に別件無効審判(無効2025-800073号事件)が係属しており、少なくとも進歩性欠如が主要な争点となる可能性がある。記載要件に関する本判決の論理が、今後の進歩性判断との関係でどのように整理されるのかという点も含め、次の主戦場は、まさにこの新たな無効審判の帰趨に移っていくことになりそうである。


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