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2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458

各々効果が確認されている有効成分の配合剤に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10458

【背景】

「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明の進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟である。

特許請求の範囲:

1. クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有することを特徴とする点鼻剤又は点眼剤。
2. 抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記載の点鼻剤又は点眼剤。
3. 血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の点鼻剤又は点眼剤。

本件発明1と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると、両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、以下の点で相違していた。

(A) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの他に抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤も含有するのに対し、後者は有効成分はクロモグリク酸ナトリウムのみである点
(B) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%であるのに対し、後者はその倍の2%である点

【要旨】

1. 相違点(A)に関する進歩性判断について

ゼファーマ(参加人)は、

「クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合しても鼻炎治療効果に差が見られず,逆に,抗ヒスタミン剤を配合することは副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物6,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することを避けようとする。」

と主張したが、

裁判所は、

「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」

と判断した。

また、同様に、ゼファーマ(参加人)は、

「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合しても鼻炎治療効果が増大せず,逆に,血管収縮剤を配合することが副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物3,4,8,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することを避けようとする。」

と主張したが、裁判所は、

「特に留意すべき副作用が確認されなかったことも踏まえると,これを阻害するべき個別具体的な事情はないといわざるを得ない。」

と判断した。

2. 相違点(B)に関する進歩性判断について

裁判所は、

「「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤や抗ヒスタミン剤を配合した場合,各配合成分の使用濃度を単剤の場合より減少させ,配合剤としての総合的な作用を適切な範囲に留めようとすることは当業者が当然に配慮することであって,特にその濃度を単剤の場合の2%(刊行物7)から,有効濃度の範囲内である1%とする点にしても格別な創意を要するものと認めることはできない。」とした決定の判断に誤りはない。」

と判断した。

ゼファーマ(参加人)は、明細書記載の試験例等で示された有効率の上昇が当業者の予想を超える顕著な効果である旨主張したが、

裁判所は、

「訂正発明に係る具体的3剤,すなわち,クロモグリク酸ナトリウム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンは,いずれも鼻炎の症状緩和に使用され,その効果が確認されている成分であり,特に後者の2成分は,日本においても,その配合剤(一般薬)としても広く使用されているものであるところ,これら3剤の配合に当たっては,有効性,安全性が高い範囲を考慮して設定されるのが常識であることは前記のとおりであり,最終的には臨床的に有効性,安全性を確認することは当然に必要ではあるものの,設計の段階では,期待するところとしての効果は既に明確に存在している。3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。」

と判断した。

進歩性無し。

請求棄却。

【コメント】

「効果に差が認められない」とか、単に「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。容易に想到することを妨げる具体的事情を主張する必要がある。

脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。

これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。

異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。

ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。

本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。

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