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2006.06.27 「ヴィアトリス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10630

公知化合物(フリー体)に対する塩体の進歩性は?: 知財高裁平成17年(行ケ)10630

【背景】

「R-チオクト酸の固体塩を含有する服用形」の発明について、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起した。引例とは「R-チオクト酸を含有する固体形状の服用形」で一致、本件発明は塩であるが、引例はフリー体である点で相違していた。

請求項1:

R-チオクト酸と,
アルカリ金属又はアルカリ土類金属,水酸化アンモニウム,塩基性アミノ酸,例えばオルニチン,シスチン,メチオニン,アルギニン及びリジン,式:NR1R2R3[式中,基R1,R1及びR3は同一又は異なるものであり,水素,C1-C4-アルキル又はC1-C4-オキシアルキルを表わす]のアミン,C-原子数2~6のアルキレン鎖を有するアルキレンジアミン,例えばエチレンジアミンまたはヘキサメチレンテトラミン,ピロリドン,モルホリン;N-メチルグルカミン,クレアチン及びトロメタモール
から選択された塩基
とから成る固体塩を含有する,経口適用のための服用形。

【要旨】

医薬品の技術分野において、「R-チオクト酸」が、他の医薬品と同様に製薬学的に使用可能な塩の形を用い得ることは周知の技術事項であり、本件塩基は常用の塩基である。

安定性や製剤のしやすさ、バイオアベイラビリティーの観点から製剤に好ましい塩の形態のものを選択することは容易である。

原告は、引例との課題の相違を主張したが、課題が相違しているからといって動機付けがないということにはなりえないとされた。

また、溶解速度が10倍高まる点について顕著な作用効果を主張したが、技術常識であり、当業者の通常の応用力の発揮の範囲内とされた。

進歩性なし。

請求棄却。

【コメント】

新規な塩体を発明したとしても、進歩性のハードルは非常に高いといえる。

米国の話ではあるが、USPTOがKSR事件における最高裁判決を受けて2007年10月10日に公表した自明性判断の審査ガイドラインにも、”Obvious to try”により自明とされる発明の例として、塩体の非自明性が争われたPfizer v. Apotex事件が挙げられている。

フリー体を開示した化合物特許出願が公開された後、その特定の塩体を見出し、その塩体を有効成分として開発を進めていくこととなった場合、その塩体の発明を”特許的”にどのように扱っていくか、注意深く検討する必要があるだろう。

ちなみに、チオクト酸(α-リポ酸)は、日本では、従来、医薬品としてのみ使用が許可された成分だったらしいが、2004年に食品としての使用も許可され、現在は、サプリメントに配合されて健康食品としても販売されているようである。

欧州では、チオクト酸(α-リポ酸)は糖尿病患者の末梢神経障害の治療薬として使用されているらしい(Thioctacid®)。

参考:

コメント

  1. 匿名 より:

    「当業者の通常の応用力の発揮の範囲内」って言われれば、どんな発明もそうちゃうんかな?よっぽどの奇人・変人が研究しない限り。最近の進歩性判断、厳しすぎますね。特に公知物の新規組み合わせ。

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