Dec 9, 2012

2012.06.26 「フェリング v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10198

ミニリンメルト®OD錠に関する出願の進歩性: 知財高裁平成23年(行ケ)10198

【背景】

「デスモプレシンの口腔内分散性医薬製剤」に関する特許出願(特願2004-502972, 特表2006-502972, WO03/94886)の拒絶審決(不服2008-30442号)取消訴訟。

請求項1:
デスモプレシン酢酸塩とゼラチンとマンニトールとを含み,口腔内で10秒以内に崩壊し,口腔粘膜からデスモプレシン酢酸塩を吸収するための口腔内分散性医薬製剤。
審決は、本願発明は、WO00/61117号(「引用例1」、引用例1に記載された発明を「引用発明」という)、特開平5-148154号公報(「引用例2」)に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項により特許を受けることができない、とするものであった。
審決は、上記結論を導くに当たり、引用発明、同発明と本願発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。

引用発明:
「ペプチド活性成分と魚類ゼラチンとマンニトールとを含み,口腔内で10秒以内に崩壊する,経口投与のために設計され,口腔内で活性成分をすばやく放出する,急速分散型投与形態の薬理学的組成物。」
一致点:
「ペプチド活性成分とゼラチンとマンニトールとを含み,口腔内で10秒以内に崩壊する,口腔内分散性医薬製剤」
相違点:
(ア) 相違点1
本願発明では,ペプチド活性成分が,「デスモプレシン酢酸塩」と特定されているのに対して,引用発明ではそのような特定がされていない点。

(イ) 相違点2
本願発明では,口腔内分散性医薬製剤が,「口腔粘膜からデスモプレシン酢酸塩を吸収するための」ものであるのに対して,引用発明ではそのような特定がされていない点。
【要旨】

主文
原告の請求を棄却する。(他略)
1 取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について
「引用例2の記載によれば,生理活性ポリペプチド含有の経口投与用または口腔内投与用製剤に使用できるポリペプチドは,比較的低分子量のものであればよく,そのようなものの一つとしてデスモプレシンが周知であったことが認められる。そうすると,ペプチドを活性成分とし,口腔内で分散させる,すなわち口腔内投与される引用発明の製剤において,活性成分のペプチドとしてデスモプレシンを使用することは容易であったといえる。
したがって,相違点1に係る構成は,引用発明に引用例2に記載された事項及び周知技術を適用することにより,容易に想到できたといえる。
~引用例1には,活性成分としてペプチドを用いることが記載されているところ,引用例2~によれば,引用例2に記載されるようなゼラチンを基剤とする口腔内投与用製剤には,生理的に活性なポリペプチドのうち比較的低分子量のものであれば広く使用でき,デスモプレシンもそのようなものとして周知であったことが理解できる。そうすると,引用例2の発明の課題が,引用発明の課題と共通でないとしても,口腔内投与される引用発明の製剤において,活性成分のペプチドとして,引用例2に記載されたデスモプレシンを使用することに想到することは容易であったと認められ,上記原告の主張は採用することはできない。」
2 取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)について
「本願発明に係る特許請求の範囲の記載のうち「口腔粘膜からデスモプレシン酢酸塩を吸収するための」との記載の意義について,本願明細書には,「本発明の医薬製剤は活性成分を口腔に供給するのに適している。活性成分は舌下粘膜を通して及び/又は(例えば頬側及び/又は歯肉粘膜を通して)他の経路で口腔から及び/又は全身分配用として胃腸管から吸収させることができる。」(甲1段落【0013】)と記載されており,活性成分の吸収部位を口腔粘膜に限定していないものと理解することができる(この点に関し,原告自身,本願発明に係る特許請求の範囲の「口腔粘膜からデスモプレシン酢酸塩を吸収するための」という文言は,デスモプレシン酢酸塩が口腔粘膜から吸収されるものであれば足り,吸収部位を口腔粘膜に限定するものではなく,他の部位からの吸収の可能性を排除するものではない旨主張している。)。他方,引用例1には,ペプチドを活性成分とする口腔内投与用速溶性製剤が記載されており,この製剤は,口腔中で活性成分を放出するためのものであるから(甲4段落【0017】,【0031】),それが口腔内に投与されて崩壊すれば,活性成分が唾液とともに口腔内に広がり,活性成分であるペプチドの一部は,当然本願発明と同様に口腔粘膜から吸収されるものと考えられる。
以上によれば,本願発明と引用発明の相違点2について,実質的な相違点とは認められないとした審決の判断に誤りはない。」
3 取消事由3(本願発明の顕著な作用効果の看過)について
「原告は,上記実施例,比較例の薬物動態分析の結果から,本願発明に係る製剤のバイオアベイラビリティの向上は,顕著な作用効果であると主張する。この点,上記本願明細書の記載によれば,実施例7と比較例4(なお,比較例4で投与される,比較例2,3は,慣用錠剤処方例であり,比較例4において「投与」とされているのは,口からの投与直後に嚥下するような一般的な経口投与であると認められる。)の薬物動態分析を比較すると,本願発明に係る製剤である実施例4ないし6の製剤を舌下投与した場合,従来の錠剤を経口投与した場合と比較して,バイオアベイラビリティが向上したことが一応認められる。しかし,実施例7が比較例4よりもバイオアベイラビリティに優れているのは,製剤の口腔内投与の中でも,特に,薬剤を分散し難くし,舌下小血管から直接吸収させる方法である舌下投与という投与法に起因する効果と考えるのが相当である上,本願発明に係る製剤と従来の舌下に長時間留めておく舌下剤との間でバイオアベイラビリティを比較した的確な資料はないから,本願発明において活性成分のポリペプチドとしてデスモプレシン酢酸塩を用いた口腔内急速分散性製剤としたことによる顕著な効果があるとまでは認めることができない。」
【コメント】

本願明細書には、従来の口からの投与直後に嚥下するような一般的な経口錠剤を経口投与した比較例に比べて本願発明が優れているデータは示されていた。しかし、進歩性で問題となった引用発明は口腔内崩壊錠であったため、本願発明に顕著な効果があると認められるには、従来の口腔内崩壊錠(舌下錠)と比べたデータを示す必要があった。

フェリング・ファーマ及び協和発酵キリンより販売されているミニリンメルト®OD錠の有効成分であるデスモプレシン酢酸塩水和物(Desmopressin Acetate Hydrate)は、フェリング社で開発されたアルギニンバソプレシン(AVP)の誘導体合成ペプチド。添加物にはゼラチン及びD-マンニトールが含有されていることから、本願はミニリンメルト®OD錠を保護する出願だったと考えられる。

本願に相当する欧米出願は既に特許として成立している(US7,560,429; EP1501534B1)。

参考:

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