Jan 13, 2013

2012.06.28 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10179

hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用の裏付け: 知財高裁平成23年(行ケ)10179

【背景】

「血管内皮増殖因子拮抗剤」に関する特許出願(平成8年特許願第529682号、特表平11-502853、WO96/30046)の拒絶審決(不服2007-23530号)取消訴訟。審決は、実施可能要件違反およびサポート要件違反であると判断した。

請求項1:
加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)

裁判所は、
「本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを直接的に示す実施例等に基づく説明は一切存在しない(当事者間に争いがない)。そこで,旧特許法36条4項の要件充足性の有無,すなわち,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合して,当業者において,本願発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載ないし開示があると評価できるか否かについて,検討する。

~加齢性黄斑変性の原因である脈絡膜での血管新生は,甲9記載の病的状態を作り出す血管新生のカテゴリーに属するものであるが,上記のとおり,甲9には,血管新生を促進する因子としては,FGFのみではなくVEGFやHGFが知られていたこと,血管新生のメカニズムは解明されつつあるものの,どのような病態でどの増殖因子が血管新生に関与しているかは不明な点が多い点が記載されている。
上記の記載に照らすならば,脈絡膜での血管新生がVEGFにより促進されるとの事項は,本願の優先権主張日当時に知られていたとはいえず,また,同事項が技術常識として確立していたともいえない。すなわち,甲9では,VEGFが血管新生を促進する因子であることは示されているものの,血管新生にVEGFのみが関与している点は明らかでなく,結局,どの増殖因子が原因であるかは不明であることから,甲9から,hVEGF拮抗剤でVEGFの作用を抑制しさえすれば,脈絡膜における血管新生が抑制できることを合理的に理解することはできない。
以上に照らすならば,本願発明~の内容が,本願明細書における実施例その他の説明により,「hVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤」を使用することによって,加齢性黄斑変性に対する治療効果があることを,実施例等その他合理的な根拠に基づいた説明がされることが必要となる。
しかし,前記のとおり,本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを示した実施例等に基づく説明等は一切存在しないから,本願明細書の記載が,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものということができない。
したがって,旧特許法36条4項に規定する要件を満たしていないと判断した審決に誤りはない。」
と判断した。

原告は、
「本願明細書には,加齢性黄斑変性が脈絡膜新血管新生によって特徴づけられることが明確に記載され,「脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本発明のVEGF拮抗剤は,AMD の重篤性の緩和において特に有用であると思われる」などと記載されていることから,当業者であれば,hVEGF拮抗剤が脈絡膜の血管新生を阻害することによって加齢性黄斑変性の治療に使用できることが理解できる」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「同記載は,本件特許の出願時に知られていた血管新生を促進する3種の因子の1つであるVEGFの拮抗剤を,加齢性黄斑変性の治療に利用する可能性があるということを超えては,意味を有しない。前記のとおり,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合しても,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることが何らの説明もされていない以上,同記載部分をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載であると解することはできない。」
と判断した。

また、原告は、
「本願明細書の実施例1ないし6は,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたことを明確にする実験結果であり,同記載をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものと理解できる」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「同実験で使用された~細胞はウシ副腎皮質の毛細血管内皮細胞~ヒトグリオーマ,ヒト横紋筋肉腫及び平滑筋肉腫~ヒトへそ血管内皮細胞であって,脈絡膜の血管内皮細胞ではないから,同実験が,脈絡膜における血管新生の抑制を示すものとはいえない。
以上のとおり,本願明細書の実施例は,これらの実験で使用された血管内皮細胞の増殖活性若しくは走行活性,又は腫瘍細胞の血管新生にVEGFが関与することが示されるとはいえるものの,VEGFの脈絡膜における血管新生に対する作用を示すものではない。上記実施例により,脈絡膜における血管新生とVEGFの関係を示したとはいえない。
したがって,本願明細書に,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとことに関する実施例が記載されていても,同実施例から,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用が裏付けられたとはいえず,原告の主張は採用できない。」
と判断した。

裁判所は、
「~以上のとおり,旧特許法36条4項に規定する要件を充足していないとした審決の判断には誤りはないから,その余の審決の当否を判断するまでもなく,原告の取消事由に係る主張は採用できない。原告は,他に縷々主張するが,いずれも理由がない。」
と判断した。

【コメント】

クレーム自体は、「hVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用」という、いわゆる機能表現クレームである。しかし、本事件で実施可能要件に関して問題となった点は、そのような機能表現クレームの範囲が広すぎて実施可能要件を満たさないということではなく、明細書に記載されたin vitro実験等だけではアウトプットである疾患「加齢性黄斑変性」に対する治療作用が裏づけられていないという点であった。

一般的に、ある疾病治療に関する医薬用途発明の実施可能要件を満たすために、明細書に記載すべき薬理データとして、必ずしもその疾病患者での治療効果を裏付ける臨床試験結果の記載が求められているというわけではない。しかし、本事案のように、その疾病の原因である病態メカニズムに関与する生体内因子として、いくつかの因子が知られているが、結局、どの因子が原因であるかは不明である場合、そのひとつの因子の作用を抑制すれば、その疾病に対する治療作用を期待できる、と合理的に理解できるかどうか、そのような理解が出願時の技術常識であるかどうかを注意深く検討して、どんな薬理データを明細書に記載すべきか決める必要がある。


ところで欧州では下記のようなクレームで成立している。

EP0817648B1
Claims 1. Use of a hVEGF antagonist in the preparation of a medicament for the treatment of age-related macular degeneration, wherein the hVEGF antagonist interferes with the binding of hVEGF to the flt receptor and/or to the flk-1 receptor, and wherein the hVEGF antagonist is an anti-VEGF antibody or fragment thereof.
EP1506787B1
Claim 1. Use of a hVEGF antagonist in the preparation of a medicament for the treatment of age-related macular degeneration in a human patient, wherein the hVEGF antagonist comprises the amino acid sequence of the extracellular domain of a hVEGFr.

作用メカがVEGFに関連する加齢性黄斑変性治療薬:
  • EYLEA™ (aflibercept injection)
  • Lucentis® (ranibizumab injection)
  • Avastin® (bevacizumab injection)
  • Macugen® (pegaptanib sodium injection)

参考:

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