Apr 6, 2013

2012.12.03 「三栄源エフ・エフ・アイ v. ツルヤ化成工業」 知財高裁平成24年(行ケ)10057

酸味のマスキング方法の進歩性: 知財高裁平成24年(行ケ)10057

【背景】

原告(三栄源エフ・エフ・アイ)の「酸味のマスキング方法」に関する特許第3929101号の無効審判請求を認容した審決(無効2011-800050号)の取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1(本件発明):
「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012~0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法。」
審決は、甲3には、「0.1%酢酸溶液に,5~10%のショ糖を添加して,酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする方法。」(甲3発明)が記載されていることが認められるとした上で、本件発明と甲3発明の一致点と相違点を次のとおりであると認定した。

一致点:
クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は経口利用に酸味を呈する製品に,所定量の甘味剤を用いる酸
味のマスキング方法である点。
相違点:
所定量の甘味剤が、本件発明では、「スクラロースを0.012~0.015重量%」であるのに対して、甲3発明では、「5~10%のショ糖」である点。
そして、甲3発明において、ショ糖に代えて周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し、その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ、スクラロースの濃度を0.012~0.015重量%という範囲に適宜決定することで本件発明のごとくすることは、当業者が容易になし得たことといえ、効果も格別顕著でないと判断した。

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
裁判所の判断(一部抜粋)
2 取消事由2(本件発明と甲3発明との相違点判断の誤り)について
~以上の認定によれば,甲3発明との間の相違点について審決が「味は食品にとって非常に重要な要素であり,各種人工甘味料の味に関する特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであるから,甲3発明において,ショ糖に代えて,周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し,その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ,スクラロースの濃度を0.012~0.015重量%という範囲に適宜決定することで,本件訂正発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。」と判断した点に誤りはない。
(4) 原告は,甘味料といっても極めて多数の種類があり,それぞれに固有の分子構造を有し,その酸に対する作用効果も様々であり,全く予想ができないと主張する。
しかし,前記のとおり,各種甘味料の中でも高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンで,酸味を呈する食品や調味料の酸味をマスキングする例が知られていた。そうすると,当業者が,他の高甘味度甘味料についても酸味マスキング作用の可能性を認識し,高甘味度甘味料として当業者において周知であったスクラロースについても,これを酸味を呈する製品に添加することにより,当該製品の酸味がマスクキングできると考えて,その作用効果を確認しようとすることは容易に想到することができたというべきである。
原告は,甘味料が酸味をマスキングする作用機序は解明されておらず,甘味料が酸味をマスキングするか否かは不明である点などとも主張するが,代表的な複数の高甘味度甘味料において酸味マスキング作用を有する例が知られていたのであるから,高甘味度甘味料に属するネオヘスペリジンジヒドロカルコンがマスキング作用とは反対の増強作用を有する例が公知であったり,酸味マスクの作用機序が不明であったとしても,高甘味度甘味料が酸味を呈する製品の酸味をマスキングできる可能性を当業者は認識するというべきである。
(5) 原告は,本件出願当時,日本ではスクラロースを食品に使用することは認可されておらず,また,わずか6か国においてのみ食品添加物として販売されていたので,当業者であってもスクラロースを容易に入手することはできなかったものであり,また,スクラロースの世界市場におけるシェアはわずか0.047パーセントに過ぎなかったので,当業者が,あえてスクラロースを選択して,酸味マスキング効果を試すことについての動機付けはないと主張する。
しかし,そもそもスクラロースなどの高甘味度甘味料は砂糖(ショ糖)の代替甘味料として用いられてきたものであるところ(甲39の別紙2),酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するといったことは経験的によく知られた味の相互作用であるから(甲3の132頁左欄4行~9行,甲12の61頁右欄5行~6行),当業者には,甲3発明の「ショ糖」を高度甘味度甘味料として周知であったスクラロースで代替しようと考える動機付けがあるというべきである。食品添加物として未認可であったことや,甘味料市場におけるシェアが低いことから,多数ある甘味料の中からあえてスクラロースを選択して,酸味マスキング効果を試すことについての動機付けを否定することはできない。
(6) 原告は,審決が,本件発明の①製品本来の味のバランスを保持する,②マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにする,③長期安定性及び熱安定性にすぐれている顕著な作用効果を看過していると主張する。
しかし,前記のとおり,高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンで,酸味を呈する食品や調味料の酸味をマスキングする例が知られていたことからすれば,上記①及び②程度の効果は,これを予測できない顕著な作用効果ということはできない。
また,カナダが1991年に食品添加物として許可した際の許可食品に,調理の過程で加熱されることを前提とするベーキング・ミックスやパンが挙げられていることからすれば,③の安定性は,スクラロース自体の安定性のことであると認められる(なお,本件出願後の文献ではあるが,「スクラロースの食品添加物指定要請」にかかる食品衛生調査会毒性・添加物合同部会報告(食調第5号,平成11年1月6日)の別添資料のうち「第6章 使用基準案に関する資料」(甲2の2)に,スクラロースは物理科学的安定な食品添加物であって広範囲の食品への使用が可能であることや通常の保存状態ではほとんど分解しないし,対象食品中でも極めて安定である旨が記載され,対象食品として調理の経過で熱が加えられる焼菓子が挙げられている)。このことは,訂正明細書に,甘味料が経時的に分解し試料中の甘味料の量が減れば,酸味マスキング効果も消失し,これに対して,甘味料が経時的に分解せずに安定であれば,酸味マスキング作用が消失しない旨が記載されている(段落【0010】,【0011】及び図1)ことからも理解できる。このように,③の長期安定性及び熱安定性という効果は,スクラロース自体の公知の特性であり,この特性は,酸味を有する製品の酸味マスキングにスクラロースを用いた場合にのみ生ずる特有の作用効果ではないことからすれば,この効果を酸味のマスキング方法についての発明における顕著な効果とすることはできない。
(7) 結局,審決がした相違点の判断に誤りはない。
【コメント】

ショ糖に代えてスクラロースを採用してみようとする動機付けはやはりありそうな気がするが、スクラロースを0.012~0.015重量%とした点については、原告は何かしらもう少し反論材料はなかったのだろうか。

ツルヤ化成工業website:

三栄源エフ・エフ・アイwebsite:


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