Mar 21, 2017

2017.02.14 「ナンジン キャベンディッシュ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10112

レブラミド(Revlimid)®の有効成分レナリドミド(lenalidomide)の結晶多形: 知財高裁平成28年(行ケ)10112

【背景】

「3-(置換ジヒドロイソインドール-2-イル)-2,6-ピペリジンジオン多結晶体及び薬用組成物」に関する特許出願(特願2012-535589; 特表2013-509357)の拒絶審決(不服2014-15527)取消訴訟。

請求項1:

Cu-Kα放射を使用したX線回折図が下記の回折ピークを有する,3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体I。


【要旨】

結晶形の発明の新規性・進歩性が争点。裁判所は、新規性欠如を理由とした拒絶審決を否定したが、進歩性欠如については審決に誤りはないと判断した。また、引用発明認定の誤りと意見書提出機会の付与に関して一部手続違背はあるもののこれらは審決の結論に影響を及ぼすものでないと判断した。請求棄却。

1. 新規性について
「本願補正発明に係る結晶と引用発明に係る結晶の各粉末X線回折パターンとの間には,おおむね同じ位置(2θ値)に存在する回折ピークであっても,その高さ(相対強度)が異なるものがあるということができる。そして,前記のとおり,粉末X線回折パターンの比較による結晶の同定に当たり,回折ピークの強度は,回折ピークの数や位置と同様に重要なパラメータであるから,本願補正発明に係る結晶と引用発明に係る結晶は同一の結晶ということはできず,よって,本願補正発明は,引用発明と同一のものとして特許法29条1項3号に該当するということはできない。」

2. 進歩性について

(1) 本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性について

本願補正発明と引用発明との一致点:
3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン(以下、化合物Pという。)の半水和物の結晶である点
本願補正発明と引用発明との相違点:
本願補正発明に係る結晶は,Cu-Kα放射を使用したX線回折図が,表1記載の19個の2θの数値及びその2θの数値ごとに特定の数値のFlex幅,d-値,強度及びL/LOである,回折ピークの組を有する,化合物Pの半水和物の多結晶体I(すなわち,結晶多形のうちIと称する結晶)であると特定されているのに対し,引用発明に係る結晶は,図6で代表される,約16,18,22,及び27度の2θに回折ピークを有するCu-Kα放射を使用したX線回折図を与える,化合物Pの半水和物の形体Bの結晶である点
動機付けについて、裁判所は、
「(ア) 周知例2の化学便覧には,「おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である。これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性…などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である。」との記載があることから,①結晶多形は,晶癖や粒径等と共に主な結晶特性の1つであり,結晶特性が異なれば,溶解度や安定性等が異なってくること,②特に医薬品の場合は,結晶特性によってバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なるので,結晶特性の制御が重要な意義を有することは,本件優先日当時において技術常識であったものと認められる。
そして,引用例には,「発明の分野」として「本発明は,化合物Pの多形相…並びに制限されないが炎症性疾患,自己免疫疾患,及び癌を含む疾患及び状態を治療するためのこれらの使用方法に関するものである。」との記載があることから,化合物Pの結晶を医薬品として用いることは明らかであり,引用例に接した当業者は,上記技術常識を踏まえて,結晶多形を含む主な結晶特性に注目するものということができる。
(イ) さらに,引用例には,…(略)…との記載がある。本件優先日当時の当業者は,これらの記載に接して,前記(ア)の主な結晶特性のうちとりわけ結晶多形に着目し,①化合物Pには,溶解性,安定性,バイオアベイラビリティなど医薬品において特に重視される性質が引用発明に係る結晶よりも優れた異なる構造を有する結晶が存在し得ること,②そのような結晶を,溶媒再結晶化等の公知の方法によって製造するとともに,X線粉末回折法等の周知技術によって検出し得ることを認識するものといえる。したがって,引用発明に接した当業者は,上記の医薬品において特に重視される性質がより優れた異なる構造の結晶を求めて,さらに溶媒再結晶化等の公知の方法による化合物Pの結晶の製造及びX線粉末回折法等の周知技術による検出を試行する動機付けがあるものというべきである。」
と判断した。

原告らは、
「対象化合物の結晶形及び形成可能な条件は予測不可能なものであり,結晶多形の分野において,動機付けがあることと実際に結晶を得ることができることとを単純に結び付けることはできない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用発明に接した当業者には,溶解性や安定性など医薬品において特に重視される性質がより優れた異なる構造の結晶を求めて,さらに溶媒再結晶化等の公知の方法による化合物Pの結晶の製造及びX線粉末回折法等の周知技術による検出を試行する動機付けがあったということができる。確かに,当業者は,引用発明から直ちに本願補正発明に係る結晶の構造及びその製造方法を具体的に想定し得たとまではいえないものの,上記動機付けに基づき,公知の方法による化合物Pの結晶の製造及び周知技術による検出を試行する過程において,前記ウ(イ)のとおり本件優先日当時において技術常識ないし周知技術であった貧溶媒晶析の操作及び粉末X線回折法によって本願補正発明に係る結晶を製造・検出し得たといえるのであるから,本願補正発明を容易に想到し得たものというべきである。」
と判断した。

(2) 顕著な効果の看過について

原告らは、
「本願補正発明に係る結晶の製造方法は,引用例及び周知例2から5に接した当業者であれば回避するジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを溶媒として用いて結晶化を行い,その結果得られる上記結晶は,安定性が高く,また,残留溶媒がほとんどないという顕著な効果を奏するにもかかわらず,本件審決は,これを看過した」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用例及び周知例2から5に接した当業者が必ずしもジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを溶媒として使用することを回避するとはいい難い。…(略)…当業者は,引用例の上記の記載により,引用発明に係る結晶は一定の安定性を備えたものであることを認識し,さらに,前記(4)イ(イ)のとおり,化合物Pには,安定性等において引用発明よりも優れた異なる構造の結晶が存在し得ることを認識するものといえる。また,前記(4)ウ(イ)のとおり本願補正発明に係る結晶の製造方法は,本件優先日当時の技術常識であったのであるから,上記結晶の製造に当たり残留溶媒がほぼ生じなかったとしても,それは,当業者において予期し得ないものとまではいうことができない。したがって,原告らが主張する効果は,引用発明に接した当業者において予期し得ない,顕著なものとまでは認めるに足りないというべきである。」
と判断した。

【コメント】

特許庁は、本願発明は粉末X線結晶回折パターンを値によって限定したに過ぎないことからもともとの回折パターン図と引用発明の粉末X線結晶回折パターンが「ほぼ同じ」であることから、測定誤差等の技術常識を踏まえて、同一であるものと推認した。

この審決判断に対して、裁判所は、粉末X線回折パターンの比較による結晶の同定に当たっては回折角及び回折X線の相対強度は重要なパラメータであることを踏まえ、本願発明の剛体強度は異なるから同一ではないと判断した。

互いに現物を持ち寄って直接同時比較しない限り、回折パターンが全く同一なのか、したがって互いに同一の結晶形であるのかどうかの判断には困難を伴う場合があるところ、裁判所は進歩性の問題として結論を導いた。結晶形発明において、①クレームに記載された数値に対して限定的に発明を認定して引用発明との同一性を判断する方向性、および、②新たな結晶形発明を発見しても、既に同一有効成分について他の結晶形が知られている場合にはその進歩性のハードルが高いという方向性、は、これまでのいくつかの判決の流れと変わりはないと思われる(結晶形に関する過去全記事はこちら)。

本件発明の結晶は、レブラミド(Revlimid)®カプセルの有効成分であるレナリドミド水和物(Lenalidomide Hydrate)に関連するものである。レブラミド(Revlimid)®カプセルは、セルジーン(Celgene)社が創製した多発性骨髄腫及び5番染色体長腕部欠失を伴う骨髄異形成症候群を効能・効果とする抗造血器悪性腫瘍剤。本件の引用例はセルジーン(Celgene)社の出願(特表2007-504248)であった。セルジーン社の2016年Financial Information(CELGENE REPORTS FOURTH QUARTER AND FULL-YEAR 2016 OPERATING AND FINANCIAL RESULTS)によれば、2016年のREVLIMID®の売上は69億7400万ドル。

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