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2007.08.30 「バクスター v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10559

国際公開が特30条1項「刊行物に発表」に該当するか?: 知財高裁平成18年(行ケ)10559

【背景】

「腹膜透析または連続的な腎臓置換治療のための2部分の重炭酸塩ベースの溶液」に関する出願(特願2001-167510、特開2002-370988)に係る発明について、出願人(バクスター社)がした国際出願の公開(WO01/17534)は、特30条1項にいう「刊行物に発表」には該当しないから、同規定の適用を受けることはできず、本願発明は特29条1項3号に該当、特許を受けることはできないと判断されたため、原告(バクスター社)は審決取消訴訟を提起した。

【要旨】

裁判所は、

「本件パンフレットによる公開が最高裁平成元年判決(1989.11.10 最高裁昭和61(行ツ)160)のいう「特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物に発表した場合」に該当しないことは,最高裁平成元年判決の判示内容から導き出されるものであると認められる。」

とし、国際公開は、特30条1項にいう「刊行物に発表」には該当しないと判断した。

請求棄却。

【コメント】

国際公開も、日本又は外国の公開特許公報による公開と同様に特30条1項にいう「刊行物に発表」には該当しない。

本件出願に関する手続は下記のように進んだようである。

・2001年3月15日、本件日本出願(特願2001-167510、特開2002-370988)と全く同じ内容のPCT出願(WO01/17534、優先日1999年9月10日)が国際公開された。

・2001年4月10日(優先日から1年7月)、該PCT出願の国際予備審査は請求はされず。

・2001年5月10日(優先日から1年8月)、該PCT出願について、外国語でされた国際特許出願として要求される翻訳文は提出されず(旧特184条の4)。

・2001年6月1日、該PCT出願とは独立して本件日本出願を行うと同時に早期審査請求も行った。その3日後には特30条適用のための証明書面を特許庁に提出した。

・2002年3月10日、該PCT出願の国内段階への30ヶ月移行期限を迎えた。US, EP, CA, AU, CN等の国内段階へ移行したようだが、どうも日本へは移行しなかったようである。

・2004年3月11日、本件日本出願において拒絶理由通知を受け、その後、出願人は補正することなしに意見書で特30条適用の正当性を主張し、拒絶査定となった。

何故、出願人は本件出願の特30条適用という道を選んだのか?

上記最高裁の判断から類推すれば特30条適用が認められない可能性が大いに考えられたはずであり、そのリスクを考慮すれば、出願人は、本件日本出願の特30条適用の道ではなく、本件出願と独立して存在していた同内容のPCT出願がまだ移行期限を迎えていなかったのだから、該PCT出願を日本に移行して特許取得を目指す道を選択すべきだった。特30条適用をまず選んだとしても、それが認められない可能性を考慮して、同時に該PCT出願も日本に国内移行させるという保険も掛けることもできたはずである。

出願人は、該PCT出願について国際予備審査の請求をしなかったようであり、外国語でされた国際特許出願として要求される翻訳文(旧特184条の4)も提出しなかったようであることから、その国内書面提出期間が満了する時点では日本への国内移行を考えていなかった(?)ようだが、それから一月もたたないうちに本件出願をしており、その間何があったのか気になるところである。
(2009.02.11訂正: 下線・取消線)

コメント

  1. 匿名 より:

    既にお気づきかもしれませんが、たいへんユニークで示唆に富む内容を拝見し、特許業界・知的財産業界情報トップス(http://iptops.com/)にリンクを追加させていただきました。なお、特許業界・知的財産業界情報トップスを今後リンク集などに加えていただくようなことがございましたら幸いでございます。今後もよろしくお願い申し上げます。

  2. 匿名 より:

    本件で問題となった国際出願(PCT/US00/20486;国際出願日2000年7月27日)に対して適用される、特許法第184条の4第1項の規定をご覧下さい。推測になりますが、該国際出願では国際予備審査請求がなされなかったのではないでしょうか?

  3. Fubuki より:

    ご指摘ありがとうございました。本文を訂正いたします。今後ともよろしくお願い致します。

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