2011/12/31

2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

特許権の存続期間の延長の問題
2011年、医薬メーカーにとって最もホットだった"特許的"ニュースは、特許権の存続期間の延長問題だったのではないでしょうか?

「物」の発明における「物」の構成ではない記載
下記判決では、「物」の発明において、必ずしもその「物」の構成と言うことができない(かもしれない)クレームの記載が、特許性の判断にどのように影響するか、考えさせられました。

2011/12/28

2011.12.28 「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂

「特許権の存続期間の延長」の審査基準が改訂されました。改訂後の審査基準は、2011年12月28日に係属中の延長登録出願及びそれ以降に行われた延長登録出願について、2011年12月28日以降の審査に適用されます。改訂審査基準の公表まで止まっていた延長登録出願の審査も再開したとのことです。

2011.12.28 特許庁調整課審査基準室:



2011/12/20

2011.06.29 「アベンテイス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10330

プラスミドDNAの精製方法: 知財高裁平成22年(行ケ)10330

【背景】

「固定化させたオリゴヌクレオチドと三重らせんを形成させることによるDNA精製」に関する出願(特願2008-267538; 特開2009-045070)の進歩性違反を理由とする拒絶審決(不服2009-25085号)に対する取消訴訟。

請求項30(本願発明):
他の構成成分と混ざっているプラスミドDNAを含む溶液を,前記DNAに存在する特定のホモプリン/ホモピリミジン配列とのハイブリダイゼーションにより三重らせんを形成することが可能なオリゴヌクレオチドが共有結合したクロマトグラフィー用支持体に通す少なくとも一つの段階を含み,前記オリゴヌクレオチドが10から30の間の長さを有することを特徴とする,プラスミドDNAの精製方法。

【要旨】

裁判所は、

「本願発明は,オリゴヌクレオチドが結合した支持体が,オリゴヌクレオチドを共有結合させたクロマトグラフィー用支持体であり,該支持体にプラスミドDNAを含む溶液を通して接触させるのに対し,引用発明は,オリゴヌクレオチドを結合した支持体が,オリゴヌクレオチドをビオチン-ストレプトアビジンの親和性結合により結合させた磁性ビーズであり,プラスミドDNAを含む溶液にビーズを混合して接触させる点で異なっている。しかし,~本願優先日当時,遺伝子治療等において,DNA精製の効率化という課題が存在していたことが認められ,~オリゴヌクレオチドと支持体を共有結合により固定化するという手段が周知技術であったことが認められる。そうすると,DNA精製の効率化のため,引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明における,オリゴヌクレオチドを結合した支持体について,ビオチン-ストレプトアビジンの親和性結合により結合させた磁性ビーズであるとの構成に替えて,オリゴヌクレオチドを共有結合により固定させる構成とすることは,容易に着想できたといえる。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

欧米では成立。しかも、それぞれ本願発明よりも広い範囲で成立している。
  • EP 797682B1; claim 30
  • US 6,287,762B1; claim 1



2011/12/17

2011.12.15 「サノフィ・アベンティス アレグラ®特許無効審決取消訴訟」

サノフィ・アベンティスのpress releaseによると、同社は、アレルギー性疾患治療剤「アレグラ®」(一般名:フェキソフェナジン塩酸塩; Fexofenadine Hydrochloride)に関する特許(第3041954号及び第3037697号)の無効審決を不服とし、2011年12月15日付けで審決取消訴訟を提起したとのことです。

各特許についての無効審決の請求人は高田製薬と沢井製薬。特許庁は各々下記理由で無効審決を下しました。

特許第3041954号
  • 無効2010-800207(請求人: 高田製薬)進歩性欠如
  • 無効2010-800220(請求人: 沢井製薬)進歩性欠如・実施可能要件違反

特許第3037697号(上記出願の分割)
  • 無効2010-800206(請求人: 高田製薬)新規性欠如・進歩性欠如
  • 無効2010-800215(請求人: 沢井製薬)新規性欠如・進歩性欠如


参考:


2011/12/13

2011.06.14 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10158

固定された医薬的組合せ組成物とは?: 知財高裁平成22年(行ケ)10158

【背景】

「バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの抗高血圧組合わせ」に関する出願(特願2000-558803号、特表2002-520274号、WO2000/002543)について下記本件補正は補正要件を充足せず却下した上で本願発明と引用発明に相違する点はないとした拒絶審決(不服2005-23932号)の取消訴訟。

本件補正後の請求項7:
(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,
(ii)アムロジピンまたはその薬学的に許容される塩を,
医薬的に許容される担体とともに含む,医薬的組合せ組成物。

審決での補正却下の原因は、「医薬的組合せ組成物」の形態については何ら限定するものではない本件補正後の請求項7が、「医薬的組合せ組成物」の形態が「固定された」ものに限定される本件補正前の請求項12~14のいずれかを減縮するものとはいえないというものだった。

【要旨】

裁判所は、

「本件補正を一体のものとして扱った審決に誤りはないことは既に判断したとおりである。また,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をする特許庁の実務を支持できることも前記のとおりである。したがって,本件補正前の請求項12についてのみ特許要件の判断をした上で,これに新規性がないことを理由に請求不成立とした審決に,原告主張の判断遺脱はない。」

と裁判所は判断した。

また、本件補正前の請求項12と引用発明との相違点については具体的には下記のように検討された。

本願発明12:
(i)AT1レセプターアンタゴニストバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,
(ii)カルシウムチャンネルブロッカーである遊離形または塩形のを,
医薬的に許容される坦体(ママ)とともに含む,固定された医薬的組合せ組成物。

引用例には、バルサルタンとニフェジピンの投与方法に関し、
①2種の薬剤の懸濁液を別個に用意し、2回に分けて連続して注入投与したのか、
②2種の薬剤を同一の懸濁液に溶解し、一度に注入投与したのか
は記載されていなかった。

原告は、引用発明は上記①の単なる併用実験であると認定されるべきであると主張したが、裁判所は、いずれの方法であっても引用例に記載された実験の目的を達成する上では相違がないこと等からすれば、引用例の記載された発明として上記②の方法は排除され,①の方法に限られるとすることはできないというべきであると判断した。

また、本願発明12における「固定された」の意義について、裁判所は、

「~「医薬的組合せ組成物」を「固定された」なる一義的に明らかでない用語で特定しようとするときのその「固定された」とは,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)に固定されていることを意味するものということはできても,これを超えて,2種の医薬が別個に存在したとして,これを2回に分けて逐次投与するのか,それとも,2種の医薬を混合して1回で投与するのかの限定が規定されたものと解することはできない。」

と判断した。

そして、本願発明12と引用発明の対比判断において、裁判所は、

「引用発明は,バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーを医薬的に許容される担体とともに含み,前記(4)で認定した意味にとどまる趣旨での固定された医薬的組合せ組成物である。
そうすると,本願発明12と引用発明は,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカー(引用発明においてはニフェジピン)を医薬的に許容される坦体(引用発明においてはCMC-Na)とともに含む医薬的組合せ組成物であって,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)が固定された(引用発明においてはバルサルタンをラットの体重1kg 当たり3mg 及びニフェジピンをラットの体重1kg 当たり1mg 含有するよう固定され,かつ,バルサルタンとニフェジピンの配合比が3:1に固定された)医薬的組合せ組成物で一致し,両者に相違点はない。
したがって,本願発明12と引用発明が同一であるとした審決の判断に誤りはない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本件補正の「バルサルタン(Valsartan)とアムロジピン(Amlodipine)」の組み合わせ組成物は、日本では、エックスフォージ®配合錠(EXFORGE® Combination Tablets)として2010 年1月20日に製造販売承認され、原告(ノバルティス)が販売している。エックスフォージ配合錠は、世界で降圧剤として広範に使用されている、アンジオテンシンⅡ受容体サブタイプ1に作用する選択的AT1受容体ブロッカーであるバルサルタンと持続性Ca拮抗薬であるアムロジピンの配合剤である。また、エックスフォージに利尿剤を加えた3剤の配合剤であるエックスフォージHCTが米国では既に上市されている。

補正却下のそもそもの原因は、「医薬的組合せ組成物」の形態を「固定された」ものに限定していた請求項から、「固定された」という限定を除いた本件補正をしたことにあった。この「固定された」との限定を補正せずに残しておけば、補正却下されず、引用発明との相違点を勝負できたと想像できる(それでも認められるかどうかは難しい気がするが。)。

バルサルタン関連:


2011/12/04

2011.06.09 「千寿 v. 参天」 知財高裁平成22年(行ケ)10322

併用の進歩性: 知財高裁平成22年(行ケ)10322

【背景】

被告(参天製薬)が保有する「Rhoキナーゼ阻害剤とβ遮断薬からなる緑内障治療剤」に関する特許(第4314433号)に対して、原告(千寿製薬)は無効審判(無効2009-800243号)を請求したが請求は成り立たないとした審決の取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
Rhoキナーゼ阻害剤とβ遮断薬との組み合わせからなる緑内障治療剤であって,
該Rhoキナーゼ阻害剤が(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドであり,
該β遮断薬がチモロールである,
緑内障治療剤

【要旨】

取消事由1(引用発明1に基づく容易想到性の判断の誤り)について

引用例1には、カルシウムアンタゴニストと眼圧を下降させる化合物との組合せが記載されており、好ましいカルシウムアンタゴニストとして220の化合物が列記されているところ、その中の1つにHA1077が記載されていた。また、眼圧を下降させる化合物についても、縮瞳薬、交感神経作用薬、β-ブロッカー、炭酸脱水酵素インヒビターが含まれると記載されており、チモロール等多数の化合物が列記されていた。

原告は、

「HA 1077がカルシウムアンタゴニストであり,かつ,Rhoキナーゼ阻害剤であることは技術常識であったとして,引用例1におけるHA 1077の記載から,当業者はRhoキナーゼ阻害剤が記載されているに等しいものと認識することができた」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「特許法29条2項により,同条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,同条1項3号に記載された発明について,まず刊行物に記載された事項から認定すべきである。引用例1には,緑内障治療にカルシウムアンタゴニスト活性を有する薬剤と眼圧を下降させる薬剤の併用が開示されているのみで,Rhoキナーゼ阻害活性と緑内障治療についての開示は一切存在しないことに照らすと,引用例1の記載に接した当業者は,たとえ,そこに記載された具体例の1つであるHA1077が,たまたまRhoキナーゼ阻害活性をも有するとしても,そのことをもって,引用例1に,Rhoキナーゼ阻害活性を有する薬剤と眼圧を下降させる薬剤を併用する緑内障治療が記載されているとまでは認識することができないというべきである。
なお,特許出願時における技術常識を参酌することにより当業者が刊行物に記載されている事項から導き出せる事項は,同条1項3号に掲げる刊行物に記載されているに等しい事項ということができるが,刊行物に記載されたある性質を有する物質の中に,たまたまそれとは別のもう一つの性質を有するものが記載されていたと
しても,直ちに当該刊行物に当該別の性質に係る物質が記載されているということはできず,このことは,むしろ,容易想到性の判断において斟酌されるべき事項である。」

と判断し、原告の上記主張は採用しなかった。

また、置換容易性の判断においても、裁判所は、

「引用例1に記載されたカルシウムアンタゴニストの具体例の1つであるHA 1077が,カルシウムアンタゴニストであるのと同時にRhoキナーゼ阻害剤であることは,周知であった(甲12~14)。しかし,引用例1には,220種類ものカルシウムアンタゴニストが記載されているが,カルシウムアンタゴニストとRhoキナーゼ阻害剤とは,薬物が作用する生体内の分子が異なることからすると,引用例1に記載のほとんどのカルシウムアンタゴニストが,同時にRhoキナーゼ阻害剤としての性格を常に有するものではない。そうすると,引用例1に,カルシウムアンタゴニストの1例としてHA 1077が記載されているとしても,β遮断薬と組み合わせる薬剤として,カルシウムアンタゴニストに換えて,Rhoキナーゼ阻害剤とすることは,容易とはいえない。」

と判断した。

また、原告は、

「引用例1に記載されたカルシウムアンタゴニストがRhoキナーゼ阻害剤と一致することを主張しているのではなく,両者が共通して有する血管拡張作用という人体に対して奏する作用機序の同等性を根拠として,当業者であればカルシウムアンタゴニストをRhoキナーゼ阻害剤に置換することを容易に試み得た」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例1では,カルシウムアンタゴニストが有する血管拡張作用に加え,虚血状態下で起こるカルシウム過負荷の有害な影響からの細胞保護作用も期待して,カルシウムアンタゴニストを緑内障治療に使用するものであるから,血管拡張作用の共通性のみをもって,カルシウムアンタゴニストをRhoキナーゼ阻害剤に置換するということはできない。」

と判断した。

また、原告は、甲29を提出し、

「カルシウムアンタゴニストの薬理的性質が主房水流出能にあることは優先権主張日当時当業者に明らかであったので,引用例1におけるHA 1077を,カルシウムアンタゴニストと同じ薬理活性を示すRhoキナーゼ阻害剤に置換することは当業者が容易に想到できた」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例1では,従来の眼圧を下降させることによる治療とは異なる視点でカルシウムアンタゴニストを使用していることは明らかである。そうすると,~カルシウムアンタゴニストに主房水流出路の流出能増大を惹起し,眼圧を下降させる作用があるとしても,これとは異なる技術思想でカルシウムアンタゴニストの使用を開示する引用例1に接した当業者が,カルシウムアンタゴニストとRhoキナーゼ阻害剤の薬理活性の共通性を根拠に,置換することが可能であるとは考え難い。」

と判断し、原告の上記主張も採用しなかった。

取消事由2(引用発明2に基づく容易想到性の判断の誤り)について

本件発明1と引用発明2との相違点は、本件発明1が,β遮断薬であるチモロールとRhoキナーゼ阻害剤である((R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドとの組合せからなるのに対し,引用発明2はRhoキナーゼ阻害剤である((R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドからなる単剤である点である。

裁判所は、

「Rhoキナーゼ阻害剤に,経シュレム管流出路からの房水流出の促進作用とは異なる,他の薬理活性(作用機序)を有する別の眼圧降下薬を併用しようとすること自体は,当業者が想到し得たということができる。
しかしながら~併用する薬剤には,非選択的β遮断薬であるチモロールのほか,α2アドレナリン作動薬や炭酸脱水酵素阻害薬が存在し,また,β1選択性のβ遮断薬やαβ遮断薬も存在する。また,薬剤を併用した場合の効果は各薬剤の薬理作用から必ずしも理論どおりとなるものではなく~緑内障治療における薬剤併用の効果は,個々の具体的な薬剤のレベルでは各薬剤の薬理作用から類推した結果と実験の結果が一致しない場合もある。加えて,優先権主張日前に,Rhoキナーゼ阻害剤と他の眼圧降下薬を併用し緑内障の治療に使用する先行技術を認めるに足りる証拠はないから,Rhoキナーゼ阻害剤について,これを他の眼圧降下薬と併用した場合の効果を,先行技術から類推することはできない状況にあった。
そうすると,Rhoキナーゼ阻害剤である(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドに,組み合わせる薬剤としてβ遮断薬であるチモロールを選択したことは,この組合せによる緑内障治療剤が,各薬剤の単独使用時と比較して眼圧下降作用が増強されることを確認したことに照らし,容易に想到することができたとはいえない。
~(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドと併用する薬剤は,眼圧降下の作用機序に基づきある程度その数が絞られたとはいえ,依然,数多くあり,これらの薬剤について,その効果を実際に確認しなければ併用における効果は不明であるところ,この数多くの薬剤の中から,示唆もなくチモロールを選択することには困難がある。緑内障治療に係る眼圧降下薬の併用療法による効果は症例に実際に適用して判定する以外に方法はないとの指摘に対して,進歩性を判断するに際し考慮すべきは,併用による効果は実際に確認しなければ分からないということで十分であり,症例,すなわち,緑内障の患者やモデル動物に投薬しその効果を判定しなければならないというものではない。そして,本件明細書では,健常なウサギにより,併用療法と単独療法を対比して眼圧降下薬の効果を確認しているから,原告が主張する誤りはない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

薬剤の組み合わせ(併用)に関する出願について、進歩性を検討するのに参考になる事件。

本特許クレームの併用薬のうちの一つである「チモロール」はチモプトールXE点眼液として参天、MSDの他、後発品も販売されている。一方、Rhoキナーゼ阻害剤である「(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミド」は、千寿が開発中のY-39983である。

千寿のhomepageで確認してみると、2011年4月1日現在の開発品状況一覧には、田辺三菱製薬より導入されたY-39983(開発コード: SNJ-1656)が日本でPhase II進行中であり、米国ではNovartis社が開発中とある。そして、千寿のhomepageに示されている発表論文のうち、たとえばInvest Ophthalmol Vis Sci. 2007;48:3216-3222には、Y-39983の構造式が記載されており、「(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミド」がY-39983であることがわかる。

参天でRhoキナーゼ阻害剤の開発を行っているかどうか参天のhomepageで確認してみると、2006年5年9日にDE-104を宇部興産と共同開発する旨のプレスリリースがされているが、2010年11月2日の平成23年3月期 第2四半期決算短信によれば、「ROCK阻害剤のDE-104は、米国における臨床試験(第Ⅰ相/前期第Ⅱ相試験)の成績等を検討した結果、新薬として所期の達成基準を満たすことが困難であると判断したため、点眼剤の開発を中止しました。」とあり、これらのpublic available informationからは参天がRhoキナーゼ阻害剤を開発している状況は見えない。

本事件で問題となった発明は米国でも成立している(特許番号7,972,612)。

IPDLのテキスト検索で、請求の範囲に「(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミド」が存在する出願がないか検索してみると、本件の特許(4314433)及びその分割出願(特開2009-029828)以外にも、参天の下記出願が見つかる。
  • 特許4482726(特開2004-107335)
    出願人: 参天製薬
    発明の名称: Rho阻害剤とプロスタグランジン類からなる緑内障治療剤
    請求項1: Rhoキナーゼ阻害剤とプロスタグランジン類との組み合わせからなる緑内障治療剤であって、該Rho キナーゼ阻害剤が(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドであり、該プロスタグランジン類がラタノプロストである緑内障治療剤。

    ラタノプロストは、ファイザーの先発品(キサラタン(Xalatan)点眼液)の他、後発品(千寿含む)が既に参入している。出願人である参天はラタノプロストを含有する製品は販売していない。上記出願については無効審判は請求されていない。


本事件特許及び上記の特許は、緑内障治療薬分野で千寿と競合している参天が、千寿によるY-39983の開発を牽制する目的で出願、特許を取得したと思われる。Y-39983のように開発化合物の構造情報が公になってしまうと、本事件のように、競合他社に試験され、新たな発明を出願され、将来の開発に制約を受けるリスクがあるかもしれないことに注意しなければならない。Y-39983は、試薬としても販売されている。有効成分が試薬販売されればさらに上述のリスクは助長されることになるだろう。特に、併用療法が主流となり、類似薬の存在によりその組み合わせが多様化・混沌としてきた分野では、自社特許取得だけでなく、他社特許成立阻止にどれだけ注意を払うかが重要になるといえるだろう。

2011/11/29

アリセプト後発品 薬価基準追補初収載

2011年11月の後発医薬品薬価追補収載で初収載となったアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」(一般名: 塩酸ドネペジル、先発会社: エーザイ)の後発品は30社101品目でした。

先発品の【効能・効果】が「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」であるのに対して、いずれの後発品も【効能・効果】は「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」となっており、「高度のアルツハイマー型認知症」は除外されているようです。後発品メーカー(沢井製薬・シオノケミカル・大正薬品工業・大洋薬品工業・東和薬品・日医工・日本薬品工業・陽進堂)とエーザイとで繰り広げられた追加適応(効能・効果)に関する存続期間延長登録の有効性の争いは下記を参照。

2011.02.22 「沢井製薬等の後発品メーカー8社 v. エーザイ」 知財高裁平成21年(行ケ)10423/10424/10425/10426/10427/10428/10429

後発品申請会社は以下の通り。


2011/11/28

第7回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ議事録

2011年10月24日に開催された、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第7回特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループの議事録が公開されました。現在パブコメ募集中の審査基準案に最終合意した各委員のコメントを見ることができます。

2011/11/04

「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案に対する意見募集

「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂案が作成され、意見募集が行われています。意見提出期限は2011年12月1日となっています。下記のような問題点があるのではないかと思いますが。

  • 最高裁判決の限定的な判断との整合は取るにしても、他の知財高裁で示されている判示事項に基づく考え方(事務局案1)との整合を取らなくてもよいのか。その結果、法律上定められている特許権者の権利を、審査基準で限定的に狭めていることになるのではないか。




  • 「医薬発明」の審査基準によれば、「医薬用途」とは、(i)特定の疾病への適用、又は、(ii)投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量(以下、「用法又は用量」という。)が特定された、特定の疾病への適用、を意味する。つまり、上記(ii)のような用法・用量で特定された、特定の疾病への適用も用途である。審査基準上で医薬用途発明として認めている。一方で、改定案(2.4 願書の記載事項)では、用途とは、「原則として、医薬品の場合は効能・効果」としている。医薬用途発明の審査基準で定めた「用途(用法用量による特定も含む)」の概念と、特許権延長登録出願の審査基準改定案で意味している「用途」の概念はどのように整合させられるだろうか。具体的には、用法又は用量についての追加承認時の取り扱い、小児適用追加承認の取り扱い等。



  • 審査基準改定案の3.1.1(2)の例5を説明する基本的な考え方が明確でない。なぜ例5の請求項2(注射剤限定)が錠剤の先行処分によって結果的に実施できるようになっているといえるのか、理解し難い。改定案によれば「先行処分によって実施できるようになっているか否かの判断に当たっては、通常、複数の請求項のうちの発明特定事項が最も少ない請求項から検討する」としているが、最高裁判決で示された「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない」との判示事項と全く相反しているのではないか。下記知財高裁判決でも、発明特定事項が最も少ない請求項1~11は実施できるようになっていたという場合であっても、請求項12では実施できるようになっていたとは認められず延長登録が認められている。



  • 有効成分を複数含有する合剤、または、他の有効成分との併用について追加承認を得た単剤について、単一の有効成分「物質A」のみをクレームした物質特許は延長登録が認められるのか。具体的には、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」は「物質A」となってしまうのか、それとも、クレームには記載されていない本件処分の併用相手である有効成分も「発明特定事項に該当する事項」として捉えるという取り扱いをするのか?



  • 物の製法特許についての取り扱いについての記載が、改定案では削除されているが、具体的にどのように取り扱うのか明記すべきでは。


  • 2012年4月1日に予定されている法改正が施行されると通常実施権の登録は不要となるが、特許権者と処分を受けた通常実施権者との関係を確認するために、特許庁はどのような手続きを延長登録出願人に求めるのか。


  • これまで認められてきた延長登録において、改定案に基づけば無効理由を有する登録が出てくるのかわからないが、いずれにしてもこの改定案はretroactiveに適用されるのか。


2011/11/01

2011.05.23 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10073

ヒトパピローマウイルス遺伝子の進歩性: 知財高裁平成22年(行ケ)10073

【背景】
「ヒトパピローマウイルス18型をコードするDNA」に関する出願(特願平8-528535; 特表平11-502704; WO96/29413)の拒絶審決(不服2006-28563)取消訴訟。

請求項7:
下記の配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなる単離精製されたヒトパピローマウイルス18型のL1DNA分子または,下記の配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなる単離精製されたヒトパピローマウイルス18型のL2DNA分子。
(配列番号1及び3は省略)
審決の要点は、本願発明のうち,配列番号3で表されるL2DNA分子の発明(本願発明7-2)は引用発明(J.Mol.Biol. (1987), Vil.193, p599-608)に基づいて当業者が容易に発明することができたから特29条2項により特許を受けることができない、というものだった。

審決が認定した本願発明7-2と引用発明との一致点及び相違点は次のとおり。
  • 一致点
    特定のヌクレオチド配列を含むヒトパピローマウイルス18型のDNA分子である点。

  • 相違点(1)
    引用発明においては、配列番号3で表されるヌクレオチド配列とは1389bpのうち39bpが相違している(すなわち97%が同一である)点。

  • 相違点(2)
    該DNA分子が、本願発明7-2においては単離精製されたL2DNA分子であるのに対して、引用発明においては全長ゲノムDNA分子の一部であり、実際にL2DNA分子を単離精製していない点。


【要旨】
取消事由1(相違点(1)についての認定の誤り)について

原告は、塩基対の相違に伴い14個のアミノ酸が相違し、その中で4個の相違がプロリンに関するものであり、プロリンがアミノ酸配列中に入ることによりねじれやターンに影響を及ぼしその結果立体構造が大きく変化する点を主張した。

しかし、裁判所は、立体構造が必ず大きく変化することが当業者の技術常識と認めることができず、単に影響を与える可能性が高いという程度にすぎないというべきであるとした。また、

「仮に,プロリンがアミノ酸配列中に入ることによりねじれやターンに影響を及ぼしその結果立体構造が大きく変化するという原告の主張が正しいとしても,上記主張は本願発明7-2と引用発明がコードするタンパク質に関する主張にすぎないところ,本願発明7-2はあくまでもDNA分子そのものに関する発明であって,DNA分子がコードするタ
ンパク質は発明を特定するための事項には含まれない。このことは,たとえ本願発明の目的が,原告が主張するように,HPV18L1タンパク質とVLPを形成するという観点から,構造上機能的なHPV18L2の配列を得ることであったとしても,本願発明7-2はL2DNA分子という物の発明であるから,そのことは発明を特定するための事項には含まれないというべきである。
したがって,該DNA分子がコードするタンパク質と引用発明がコードするタンパク質が立体構造上の相違を示すか否かは,本来本願発明7-2の進歩性の判断に影響を与える事項ではないというべきである。
以上のとおり,相違点(1) の認定に誤りがあるとの原告の上記主張は採用することができない。」

と判断した。

取消事由2(容易想到性の判断の誤り)及び取消自由3(顕著な作用効果の看過)についても裁判所は原告の主張を採用せず。

請求棄却。

【コメント】

欧米では特許が成立している(EP 0817851B1; US 5,840,306)。そして両審査とも本件で問題となった文献が引用されている。三極で結論の違いが生じたのはなぜか。日本における審査が厳しいのか。本件は、日本における遺伝子関連発明の進歩性を検討する良い事例かもしれない。

GARDASIL®(ガーダシル®)水性懸濁筋注シリンジ・同水性懸濁筋注は、Merck & Co., Inc.が開発・製造したHPV 感染及びHPV 関連疾患の予防を目的としたHPV6、11、16 及び18 型のL1 たん白質のウイルス様粒子(virus-like particle:VLP)を含む酵母細胞由来の遺伝子組換え型4 価ワクチン。米国では2006年6月8日に承認され、日本では2011年7月にMSD(旧万有製薬)が製造販売承認を得た。

2011/10/16

2011.04.07 「アボット・セントラル硝子 v. バクスター」 知財高裁平成22年(行ケ)10249, 10250

数値限定と実施可能要件: 知財高裁平成22年(行ケ)10249, 10250

【背景】

「フルオロエーテル組成物及びルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する原告らの特許(特許第3183520号)の無効審決(無効2007-800138; 無効2005-80139)取消訴訟である。争点は、訂正後の請求項1ないし4の発明の実施可能要件の有無だった。

請求項1(本件訂正発明1)(下線部が訂正箇所):
「麻酔薬組成物であって,
一定量のセボフルラン;及び
206ppm以上,0.14%(重量/重量)未満の水を含むことを特徴とする,
前記麻酔薬組成物。」

無効審決の理由の要点は、「本件訂正発明は、その発明の少なくとも一部につき明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度、すなわちセボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し、安定した麻酔薬組成物を実現するという所期の作用効果を奏することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものではないから、実施可能要件を欠く」というものだった。

本事件の経緯は下記のとおり。
登録(特許第3183520号)

無効審判請求(無効2005-80139)

請求不成立(特許維持審決(第1次審決))

審決取消訴訟(2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489

審決取消判決→訂正請求→訂正を認め無効審決(無効2005-800139)→本件無効審決取消訴訟

無効審判請求(無効2007-800138)→訂正請求(上記訂正請求と同じ内容)→訂正を認め無効審決→本件無効審決取消訴訟

【要旨】

裁判所は、

「もともとセボフルランは麻酔剤の成分として相当程度安定であるところ,水が一般にルイス酸(触媒)を失活させる化合物,すなわちルイス酸抑制剤として周知であること~をも考慮すれば,前記の206ppm以上0.14%w/w未満の含有率となるよう(この点が,無効2005-80139号事件の第一次取消判決後に限定された構成である。)セボフルランに水分を添加することで~相当期間セボフルランの分解を防止(抑制)し得ることを当業者において容易に理解することができるというべきである。
なお,確かにルイス酸は極めて広範な概念であり,ルイス酸の作用機序も様々である上,各訂正発明の優先日当時に,原告や各訂正発明の発明者以外の当業者が,セボフルランがルイス酸によって分解されることを知らなかったとしても,訂正明細書の発明の詳細な説明にはルイス酸がセボフルランを攻撃・分解する機構や分解を防止(抑制)する機構が一応記載されているし,各訂正発明では,前記のとおり一般にルイス酸抑制剤として周知な水が分解防止のための成分として採用されているから,麻酔薬に使用される組成物の調製程度のことであれば,必要に応じて上記の範囲内で含有水分量を適宜増量することで,当業者の技術常識に照らして,ルイス酸によるセボフルランの分解防止という各訂正発明の作用効果を奏することができるというべきである。
したがって,訂正明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,セボフルランに一定の含有率で水を含有させた麻酔薬組成物(本件訂正発明1)及びかかる含有を特徴とする麻酔薬組成物の調製方法(本件訂正発明2,3)を実施できることはもちろん,かかる含有によりルイス酸によるセボフルランの分解を防止する方法(本件訂正発明4)についても,これを実施できる程度に明確かつ十分な記載がされているということができ,各訂正発明につき特許法36条4項1号の実施可能要件に欠けるところはない。審決は実施可能要件の充足の有無につきこれと異なる判断をするものであって,その判断には誤りがある。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

知財高裁は、2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489では特許無効とされた下記クレームを、本件訂正発明のように数値限定したクレームは有効と判断した(上限下限は明細書に記載されている)。

請求項1:
「麻酔薬組成物であって,
一定量のセボフルラン;及び
少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むことを特徴とする,
前記麻酔薬組成物。」

上記クレームについて実施可能要件満たすとした特許庁の第1次審決(無効2005-80139)は取り消され(知的財産高等裁判所第4部(2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489))、逆に本件訂正クレームについては実施可能要件満たさずとした特許庁の無効審決(無効2007-800138; 無効2005-80139)は、本件判決によって取り消され(知的財産高等裁判所第2部)、当事者、特許庁、行方を見守る第三者にとっても、数値限定発明の実施可能要件判断に翻弄された一連の事件であった。さて、バクスターのセボフルラン製品は本件特許発明の技術的範囲内なのでしょうか?

参考:



2011/10/01

2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)361

小児適用の追加承認処分と特許法67条の3第1項1号: 東京高裁平成10年(行ケ)361

【背景】

原告は、塩酸オンダンセトロンを有効成分とし、抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快を効能・効果とする医薬について承認を受けた(「前回承認」)。その後、原告は、上記と同じ有効成分、効能・効果の医薬について、「今回承認」を受けた。前回承認と今回承認とは、前者が適用対象を成人に限るとしていたのに対して、後者が小児をも適用対象としている点で相違していた。原告は、今回承認を理由として特許権(特許第1663594号)の存続期間延長登録出願(平成8年特許権存続期間延長登録願第700022号)をしたが、特67条の3第1項1号に該当することを理由に特許庁から拒絶審決(平成9年審判第15350号)を受けたため、審決取消訴訟を提起した。

本件発明の特許請求の範囲:

1. 活性成分として、1、2、3、9-テトラヒドロ-9-メチル-3-[(2-メチル-1H-イミダゾル-1-イル)メチル]-4H-カルバゾル-4-オン又はその生理学的に許容される塩又は溶媒和物を含むことを特徴とする、吐気及び嘔吐の軽減及び/又は胃内容物排出の促進のためにヒト及び獣医学で用いるための薬剤組成物。

【要旨】

1. 取消事由1 (承認の必要性についての判断の誤り)について

裁判所は、

「特許法68条の2~の規定は、前記の特許権の存続期間延長登録の制度の趣旨、立法の経緯及び条文の文言に照らし、存続期間が延長された後の特許権の効力につき、一方では、処分と無関係な範囲には及ぼさないこととすると同時に、他方では、期間延長後の特許権者の権利主張の実効性を確保するため、処分単位で認めることとしないで、その処分において特定の用途が定められている場合には、処分の対象となった物につき、その処分において定められた特定の用途について実施する場合全般にまで拡大して及ぼしたものであることが明らかである。これを前提とした場合、特許法68条の2のみならず、特許法67条及び67条の3にいう「特許発明の実施」の文言についても、具体的な処分の対象そのもの(品目)を単位としてではなく、処分の対象となった「物」と、その処分において定められた特定の「用途」によって特定される範囲のものすべてを単位として解釈するのが自然かつ合理的であるものというべきである。~上記解釈によれば、特許発明の延長登録が認められるためには、同じ「物」と「用途」によって特定される範囲において既に別の処分を受け特許発明の実施をすることができるようになっていないことが必要であり、逆に、同じ「物」を同じ「用途」に使用する以上、その使用形態、用法等の変更のため重ねて政令で定める処分が必要とされる場合であっても、そのことを理由に特許期間の登録延長を認めることはできないものというべきである。

~本件において、特許法68条の2の規定にいう「物」に該当するのが、薬事法14条1項に係る処分の対象となる、有効成分によって特定される医薬品であることは明らかであり、~「用途」とは、「物」(有効成分によって特定される医薬品)自体の特定の性質を専ら利用することを意味するもの、換言すれば、当該医薬品の効能・効果によって特定される使いみちを意味するものと解するのが合理的である。以上によれば、最初に薬事法14条1項による処分を受けて、所定の有効成分、効能・効果を有する医薬品について製造承認を得た特許権者は、その有効成分、効能・効果を有する医薬品に関して、特定の品目に限ってであれ、特許発明を実施することができるようになっていたのであるから、同じ有効成分、効能・効果の範囲内で、剤型、用法、用量等の変更の必要上、再度処分を受ける必要が生じたとしても、特許期間の登録延長を認めることはできないというべきである。

~原告は、前回承認において、塩酸オンダンセトロンを有効成分とし、抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快を効能・効果とする医薬品について承認を受けていたのであるから、原告は、塩酸オンダンセトロンを有効成分とする医薬品で、かつ、抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快という用途のものについて、本件発明に係る特許権を実施していたことになり、有効成分が同じであり、その効能・効果も同じである以上、適用対象に小児を追加して前回承認とは異なる品目で承認を受ける必要があったとしても、本件延長登録出願をもって、延長登録の要件を満たすものということはできない。」

と判断した。

2. 取消事由2 (「用途」についての解釈の誤り)について

原告は、

「本件においては、前回承認は成人用であり、今回承認は小児用をも含むようにしたものであるから、明らかに用途が異なっている。審決は、特許法68条の2の「用途」の解釈を誤った結果、本件延長登録出願を拒絶したものであって誤っているから、取り消されるべきである。」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「前記1(3)認定のとおり、特許法68条の2にいう「用途」とは、当該医薬品の効能・効果によって特定される使いみちを意味するものであって、成人用か小児用かは、同じ効能・効果の医薬品について適用対象を異にしているに過ぎないから、原告の取消事由2も理由がない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

前投稿(第6回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ議事録)でも言及したが、特許庁が提示した事務局案2の拠り所として引用した過去の判決。特67条の3第1項という延長登録出願の拒絶理由を規定した法文の文言解釈に、直接、権利の効力に関する規定である特68条の2を持ち出してきて解釈してきた過去の判決である。この点は、まさに、近年、知財高裁における 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460等の判決によって、延長登録出願の登録要件について詳細に再検討された。

本判決は、特67条の3の規定の解釈をほとんどすることなく、判決文中の判断における検討のほとんどを特68条の2の規定の解釈に割いていおり、また、それだけを検討しているに過ぎない。特68条の2の「物」の解釈において、「医薬品」であることは明らかとしつつも、いつのまにか「有効成分」に摩り替わり、さらに、いつのまにか医薬品の異同ではなく、有効成分の異同を特67条の3の延長登録の要件として判断するという、今振り返って読むとかなり強引な結論の導き方をしているように感じられる。

本判決文中で、裁判所は、特68条の2の規定にいう「用途」の意義については特許法に定義があるわけではないので解釈の問題となり得ることは明らかである、と言及したが、結論として、「用途」とは、当該医薬品の効能・効果によって特定される使いみちを意味するものと解するのが合理的であると判断し、「成人用」、「小児用」といった使い道が、「用途」であるかどうかという検討をすることなく、門前払いとしている。

しかし、投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量が特定された、特定の疾病への適用、を意味する「医薬用途」を提供する「物」の発明(医薬用途発明)が審査基準によっても明示的に認められるなど、現在の医薬「用途」の一般的解釈は、本判決が解釈したような「効能・効果」という狭い解釈とは異なるものとなってきているのは明らかである。「成人用」、「小児用」という使い道が、「用途」であるのかどうかは詳細に検討されなければならないだろう。
「医薬用途」とは、(i)特定の疾病への適用、又は、(ii)投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量(以下、「用法又は用量」という。)が特定された、特定の疾病への適用、を意味する。
つまり、上記(ii)のような用法・用量で特定された、特定の疾病への適用も用途である。少なくとも審査基準上で医薬用途発明として認めている「用途(用法用量による特定も含む)」の概念と、現在検討されている特許権延長登録出願の事務局案2の「用途(効能・効果)」の概念はどのように整合させられるだろうか。

本事件と同趣旨の判決:

  • 2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)362(特許第1720916号)(平成8年特許権存続期間延長登録願第700023号)


  • 2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)363(特許第1663594号)(平成8年特許権存続期間延長登録願第700024号)


  • 2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)364(特許第1720916号)(平成8年特許権存続期間延長登録願第700025号)


2011/09/21

第6回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ議事録

2011年8月19日に開催された、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第6回特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループの議事録が公開されました。事務局案2と製薬協案とを軸に検討するようです。

しかし、最高裁判決(2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326)によって肯定された原審(2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460)に基づく考え方(事務局案1)は、特許庁のこれまでの運用を大きく変えてしまうことになる(現実的でない)という理由だけでその意義についてほとんど検討されていないようです。

また、事務局案2の拠り所として特許庁が引用した2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)361は、相澤委員が言う通り、これまでの特許庁の運用の根拠としてきた判決であり、この判決が最高裁の考え方に反しないとして議論を進めることに疑問は本当にないのでしょうか。

参考:


2011/08/28

2011.03.28 「ウエルカム v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10178

先行医薬品どうしを組み合わせた合剤承認に係る特許存続期間延長登録: 知財高裁平成22年(行ケ)10178

【背景】

原告(ウエルカム)は、

  • 処分の対象になった物: ラミブジンおよび硫酸アバカビル(この2種類の合剤)
  • 処分の対象となった物について特定された用途: HIV感染症


とする薬事承認処分(販売名:エプジコム(Epzicom)錠、海外ではカイベクサ錠)に基づいて「ジドブジン,1592U89および3TCまたはFTCの相乗的組み合わせ」に関する特許権(特許第2954357; 請求項1は、「硫酸アバカビルおよびラミブジンを含む医薬組成物」。)の存続期間延長登録出願(2005-700030)を試みた。

ラミブジンを有効成分とする抗HIV薬であるエピビル錠については抗HIV薬との併用療法とする承認(先行処分)が本件処分より前に既になされていた。硫酸アバカビルを有効成分とする抗HIV薬であるザイアジェン錠は先行処分時に既に販売されており、本件処分時にはエピビル錠とザイアジェン錠との併用療法はおこなわれていた。

特許庁は、
「この2種類の抗HIV薬を合剤とすることに関して審査がなされ,合剤であるカイベクサ錠に対して承認がなされたものである。そうすると,本件先行処分でいうラミブジン(エピビル錠)と併用する「他のHIV薬」には、当時既に販売されていた抗HIV薬であって,他の抗HIV医薬と併用されていた硫酸アバカビル(ザイアジェン錠)が含まれる。したがって,本件処分と本件先行処分とは,処分の対象となった物及び処分の対象となった物について特定された用途のいずれにおいても重複し,本件発明の実施に本件処分が必要であったとは認められないから,本件出願は特許法67条の3第1項1号に該当し,特許権存続期間の延長登録を受けることができない。」
という拒絶審決を下した。本事案は、その審決取消訴訟である。

【要旨】

裁判所は、
「このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。そうとすると,「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。」
と判示し、本件事案について下記の通り判断した。
「被告は,本件処分によっては本件医薬品の製造等に係る禁止が解除されていないことを立証しない。したがって,前記①の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえない」との要件を充足していない。
次に,~本件医薬品はラミブジンと硫酸アバカビルの合剤であること,本件発明1は,「硫酸アバカビルおよびラミブジンを含む医薬組成物」であることが認められる。~そうすると,本件医薬品は本件発明1のすべての構成要件を充足し,その技術的範囲に属し,本件医薬品の製造は,本件発明の実施に該当する行為に含まれると解される(この点につき,被告は明らかに争わない。)。一方,被告は,本件処分によって禁止が解除された行為(本件医薬品の製造)が本件発明の実施に該当する行為に含まれないことを立証しない。したがって,前記②の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれない」との要件も充足しないといえる。
なお,本件処分の前である平成12年3月29日に,本件先行処分が存在し,本件先行処分を受けたのは,本件特許に係る現在の専用実施権者であるグラクソ・ウェルカム株式会社(同社は,合併によりグラクソ・スミスクライン株式会社となった。)である(甲11ないし13)。しかし,本件医薬品の製造には,本件先行処分の存在によってもなお,薬事法上,本件処分を受けることが必要であったものであるから,上記の点は結論を左右しない。
したがって,本件出願について,特許法67条の3第1項1号の要件に該当する事実があるといえず,本件出願が同号に該当するとしてこれを拒絶した審決には誤りがあり,結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
審決を取り消す。

【コメント】

対象となった特許権及びその特許権者は異なるが、対象となった処分は2011.03.28 「シャイアー v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10177と同じであり、判決内容も同じである。

2011/08/21

2011.08.19 「第6回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ開催」

2011年8月19日、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第6回特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループが開催され、配布資料が公開されました。

最高裁判決(平成21年(行ヒ)324~326)が言い渡され、特許庁の上告が棄却された結果、特許庁の審査基準を早急に見直す必要がでてきました。今回の審議では、特許庁から運用案(1)及び(2)が提案され、日本製薬工業協会(製薬協)及び日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)からそれぞれ意見・要望が提出されました。

製薬協は、「本判決は、先行医薬品が本件特許権の特許発明の技術的範囲に属しないときについてのみ判断したものであり、技術的範囲に属するときについての判断を示すものではない。~今回の運用変更は、最高裁判決の要旨から導かれる内容に止めるべきである。延長制度の全体像の見直しには判例の蓄積と十分な検討が必要であり、それを行う場合には法改正も視野に入れた議論が必須である。」という慎重な立場を示しました。2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326で言及しましたが、「属する」場合の解釈によっては、影響大という点を考慮したものと思われます。

GE薬協は、「今回の最高裁判決でも、それぞれの特許について、最初の承認で延長が認められるものであれば「特許発明の実施」が可能となっていると考えられるため、例えば、効能追加、用法用量追加、剤形追加等、後の医薬品の承認による2回目以降の延長を認める必要はないとの解釈も可能かと考えられます。」との意見を提出し、「今回の判例に対して、審査基準の改定による手当てを行うのであれば、特許の種類に係わらず、「特許発明の実施」が可能となった最初の処分に基づく延長のみを許容する運用、すなわち一の特許につき1回のみの延長とする運用への変更」を要望しています。

落とし所を求めるためには、非常にタフな議論を経なければならないと予想されますが、特許庁から提示された運用案(2)を見ると、特67条の3第1項1号の要件適合性について、いまだに「物と用途」という特68条の2の観点、しかもその「物」を「有効成分」と見る立場、にしがみついているように感じられます(2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)361を引用するなど、苦心しているのは理解できますが)。

参考:


2011/08/01

2011.03.28 「シャイアー v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10177

先行医薬品どうしを組み合わせた合剤承認に係る特許存続期間延長登録: 知財高裁平成22年(行ケ)10177

【背景】

原告(シャイアー)は、

  • 処分の対象になった物: ラミブジンおよび硫酸アバカビル(この2種類の合剤)
  • 処分の対象となった物について特定された用途: HIV感染症


とする薬事承認処分(販売名:エプジコム(Epzicom)錠、海外ではカイベクサ錠)に基づいて「抗ウィルス性置換1,3-オキサチオラン」に関する特許権(特許第2644357号)の存続期間延長登録出願(2005-700029)を試みた。

ラミブジンを有効成分とする抗HIV薬であるエピビル錠については抗HIV薬との併用療法とする承認(先行処分)が本件処分より前に既になされていた。硫酸アバカビルを有効成分とする抗HIV薬であるザイアジェン錠は先行処分時に既に販売されており、本件処分時にはエピビル錠とザイアジェン錠との併用療法はおこなわれていた。

特許庁は、
「この2種類の抗HIV薬を合剤とすることに関して審査がなされ,合剤であるカイベクサ錠に対して承認がなされたものである。そうすると,本件先行処分でいうラミブジン(エピビル錠)と併用する「他のHIV薬」には、当時既に販売されていた抗HIV薬であって,他の抗HIV医薬と併用されていた硫酸アバカビル(ザイアジェン錠)が含まれる。したがって,本件処分と本件先行処分とは,処分の対象となった物及び処分の対象となった物について特定された用途のいずれにおいても重複し,本件発明の実施に本件処分が必要であったとは認められないから,本件出願は特許法67条の3第1項1号に該当し,特許権存続期間の延長登録を受けることができない。」
という拒絶審決を下した。本事案は、その審決取消訴訟である。

【要旨】

裁判所は、
「このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長するという方法を講じることによって,特許発明を実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる。そうとすると,「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。」
と判示し、本件事案について下記の通り判断した。
「被告は,本件処分によっては本件医薬品の製造等に係る禁止が解除されていないことを立証しない。したがって,前記①の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえない」との要件を充足していない。
次に,~本件医薬品はラミブジンと硫酸アバカビルの合剤であること,本件発明12は,「請求項1から9のいずれかに記載の式(Ⅰ)で表される化合物を付加的な活性成分と組み合わせて含む,抗ウイルス用医薬組成物。」であることが認められる。そうすると,文言上,ラミブジンと硫酸アバカビルの合剤は「抗ウイルス用医薬組成物」に該当し,ラミブジンは,本件特許の明細書の請求項5ないし7に記載されるシス-2-ヒドロキシメチル-5-(シトシン-1´-イル)-1,3-オキサチオランであって,「請求項1から9のいずれかに記載の式(Ⅰ)で表される化合物」に該当し,硫酸アバカビルは活性物質であるから,「付加的な活性成分と組み合わせて含む」という要件も充足することとなり,本件医薬品の製造は,本件発明の実施に該当する行為に含まれると解される(この点につき,被告は明らかに争わない。)。一方,被告は,本件処分によって禁止が解除された行為(本件医薬品の製造)が本件発明の実施に該当する行為に含まれないことを立証しない。したがって,前記②の要件,すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれない」との要件も充足しないといえる。
なお,本件処分の前である平成12年3月29日に,本件先行処分が存在し,本件先行処分を受けたのは,本件特許の登録された通常実施権者であるグラクソ・ウェルカム株式会社(平成18年3月14日にグラクソ・スミスクライン株式会社に表示の変更をした。)である(甲13)。しかし,本件医薬品の製造には,本件先行処分の存在によってもなお,薬事法上,本件処分を受けることが必要であったものであるから,上記の点は結論を左右しない。
したがって,本件出願について,特許法67条の3第1項1号の要件に該当する事実があるといえず,本件出願が同号に該当するとしてこれを拒絶した審決には誤りがあり,結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
審決を取り消す。

【コメント】

裁判所は、審査官が特67条の3第1項1号の拒絶要件「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」として、前記の要件①及び②を示した。

前記①の要件、すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえない」との要件への本件事案への当てはめについては、「本件処分によっては本件医薬品の製造等に係る禁止が解除されていないこと」を被告は立証していないことから要件を充足しないとした。要件①とは、出願人にとって、政令で定められた処分、すなわち医薬品製造等の承認が得られたという事実が存在しさえすればよいということを意味している。この点は、裁判所判決中、「本件医薬品の製造には,本件先行処分の存在によってもなお,薬事法上,本件処分を受けることが必要であったものであるから,上記の点は結論を左右しない。」との見解からも伺える。

審査官が特67条の3第1項1号の拒絶要件として裁判所が示したもう一方の要件②、すなわち「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれない」との要件については、出願人にとって、禁止が解除された行為(医薬品製造等)が特許発明の実施に該当しさえすればよいということを意味している。

これら①及び②の要件を満たしさえすれば、つまり、薬事法のもと処分が必要だった医薬品の製造・販売行為が特許発明の実施に該当しさえすれば、特67条の3第1項1号には該当しないことを意味する。先行処分があろうが無かろうが、医薬品の禁止解除に基づいて延長登録が認められるというロジックである。

同様の事実関係で問題となった過去の事案として2005.05.30 「シャイアー・バイオケム v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10012がある。このときは、特許庁のロジックを前提に判断が下されてしまったが、実は問題となった特許は、本事件と同じ特許(特許第2644357号)であり、ラミブジンとジドブミンとの合剤(販売名コンビビル錠)の承認に基づいた当該特許権の存続期間延長登録が許されるか否かであった。

今回の判決後、同様に先行処分の存在と後行処分時の特許期間存続期間延長登録要件について争われていた武田薬品事件の最高裁判決(2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326)が出されたが、知財高裁が示した上記判断要件①②については言及せず、下記のようなロジックで結論を導いた。
「後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえない」との理由から、「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない」
そこで、最高裁の判断手法に本事案をあてはめてみる。先行医薬品であるエピビル錠は、延長登録出願に係る特許権の請求項1~11に係る特許発明の技術的範囲に属していたが、最後の請求項12に係る特許発明、すなわち、
「請求項1から9のいずれかに記載の式(I)で表される化合物を付加的な活性成分と組み合わせて含む,抗ウイルス用医薬組成物。」
という合剤発明の技術的範囲には属していない。従って、請求項12に係る特許発明を実施することができたとはいえず、先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないとして特67条の3第1項1号の拒絶をすることはできないことになる。

本事件における知財高裁判決の結論は、一応、上記最高裁の判断手法を当てはめたとしても結論は一致する。しかし、ここで気になるのは、本件特許権のうち請求項12が存在しなかった場合である。最高裁の判断手法に基づけば、先行医薬品の製造等が請求項1~11に係る特許発明の技術的範囲に「属する」ことになるから、特67条の3第1項1号を理由に拒絶されそうである。しかし、知財高裁の判断基準に基づけば、①「本件処分によって本件医薬品の製造等に係る禁止が解除」され、且つ、②「その禁止が解除された行為が請求項1~11に係る特許発明の実施に該当する」ことになるから、特67条の3第1項1号を理由によって拒絶されないと考えられる(本事件で、知財高裁は請求項12のみ検討しており、請求項1~11は検討していない。)。

最高裁判決に関する過去記事でも述べたとおり、武田薬品事件含めた知財高裁による判断手法と最高裁による判断手法は異なる(導き方が異なれば、当然、結論が異なる事案が生じ得る)ことから、今後、最高裁判決を受けて知財高裁も整合した判断手法を検討せざるを得ないだろう。

参考:


2011/07/10

2011.03.23 「アイノベックス v. アプト」 知財高裁平成22年(行ケ)10256

「物の発明」としての用途発明と新規性: 知財高裁平成22年(行ケ)10256


【背景】

被告(アプト)が有する「スーパーオキサイドアニオン分解剤」に関する特許(特許第4058072号)について、原告(アイノベックス)による無効審判請求は成り立たないとの審決(無効2009-800033号)に対する審決取消訴訟。

請求項1:
A ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸,シクロデキストリン,アミノペクチン,又はメチルセルロースの存在下で
B 金属塩還元反応法により調整され,
C 顕微鏡下で観察した場合に粒径が6nm 以下の白金の微粉末からなる
D スーパーオキサイドアニオン分解剤。
本件特許発明の上記構成AないしC記載の白金の微粉末は、甲1の白金微粉末を含んでいるから公知の物質である点に当事者間に争いはなかった。甲1には、白金微粉末を体内に取り入れる方法が示されており、各種病気の症状改善に効果があること等が記載、開示されていたが、白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用は明示的形式的には記載されていなかった。審決は、甲1との相違点を上記構成Dとし、甲1記載の発明とは同一でないと判断した。

【要旨】

裁判所は、
「本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は、甲1において記載、開示されていた、白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく、新規な方法(用途)とはいえず、白金微粉末に備わった上記の性質を、構成Dとして付加したにすぎず、本件特許発明は、甲1の記載と実質的には同一のものであって、新規性を欠くことになるから、これと異なる審決の認定、判断には誤りがあると解する。」
と判断した。その理由は以下のとおり。
「一般に,公知の物は,特許法29条1項各号に該当するから,特許の要件を欠くことになる。しかし,その例外として,①その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証又は機序の解明等がされるなどし,②その性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり,③その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合には,単に同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず,同項1号の「物の発明」としても,特許が成立する余地がある点において,異論はない(特許法29条1項,2項,2条1項)。もっとも,物に関する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点にかんがみるならば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。

以上に照らして,本件特許発明の新規性の有無について検討する。

~本件補正明細書の記載によれば,①スーパーオキサイドアニオン等の活性酸素種が関与する疾病として,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー,網膜色素変性症等が存在すること,②構成AないしCに該当する白金微粉末には,スーパーオキサイドアニオンを分解できる属性を有することが確認されたことが記載されている。また,特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明は,構成AないしCに該当する白金微粉末を,「医薬品」「健康食品」又は「化粧品」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されたのではなく,「スーパーオキサイドアニオン分解剤」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されて
いる。

他方,甲1には,構成AないしCに該当する白金微粉末は,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎などの予防又は治療に有効であると期待されていること,そのような効果を期待して,水溶液として,体内に投与する方法が示されていることが記載され,同記載によれば,そのような使用方法は,公知であることが認められる。そう
すると,甲1には,白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用が明示的形式的に記載されていないものの,従来技術(甲1)の下においても,白金微粉末を上記のような方法で用いれば,スーパーオキサイドアニオンが分解されることは明らかであり,白金微粉末によりスーパーオキサイドアニオンが分解されるという属性に基づく方法が利用されたものと合理的に理解される(甲24参照)。

以上によれば,本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく,新規な方法(用途)とはいえないのであって,せいぜい,白金微粉末に備わった上記の性質を,構
成Dとして付加したにすぎないといえる。すなわち,構成Dは,白金微粉末の使用方法として,従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない。」
これに対し、被告は、
「本件発明は,白金微粉末における,新たに発見した属性に基づいて,同微粉末を「剤」として用いるものである以上,新規性を有する」
と主張した。しかし、裁判所は、
「確かに,一般論としては,既知の物質であったとしても,その属性を発見し,新たな方法(用途)を示すことにより物の発明が成立する余地がある点は否定されないが,本件においては,新規の方法(用途)として主張する技術構成は,従来技術と同一又は重複する方法(用途)にすぎないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。」
と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

既知の物質に係る新たな方法(用途)について、「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かの判断について参考になる事例である。用途発明に関する特許庁の取り扱いが必ずしも整理されていないことを感じさせた審決取消判決である。

原審決では、
「審査基準においても「一般に、用途発明は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明と解される。」(「特許・実用新案 審査基準」第II部1.5.2(2)「用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合の考え方」)と記載され、ある物が本来的に有している属性であったとしても、それが未知の属性であり、その属性の発見により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明は、用途発明として特許され得るものとされている。そして、その物が本来的に有している属性でなければ、発見することはできないわけであるから、見いだされた属性が、その物が本来的に有している属性であることは、用途発明の特許性を否定する根拠とはなり得ないものである。そして、本件特許発明は、要件A~Cで規定される白金微粉末の用途発明に関するものと認められるので、請求人の主張のうち「ナノサイズの白金微粒子が本来的に有している属性に過ぎない」ことという主張は、本件特許発明の特許性を否定する根拠とはならない。」
と審査基準を引用しながら、本件発明は、新たな用途への使用に適することを見出したことに基づくものである、としている。

しかし、本件発明でいう「新たな用途」とは一体何なのであろうか?

審査基準第VII部第3章医薬発明2.2(3)新規性の判断(3-2)特定の属性に基づく医薬用途に関して(3-2-1)特定の疾病への適用(d)には下記のように記載されている。
「請求項に係る医薬発明の医薬用途が、引用発明の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないものであり、両医薬用途が実質的に区別できないときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。」


ところで、米国では下記クレームで成立(US7,838,043)している。
1. A method for eliminating superoxide anion in a mammal, comprising administering to the mammal platinum fine powder having a particle size of 6 nm or less as observed under a microscope which is prepared by metal salt reduction method in the presence of at least one water-soluble polymer comprising one or more of polyvinylpyrrolidone, polyvinyl alcohol, polyacrylic acid, cyclodextrin, amylopectin, and methylcellulose.

用途の新規性が争われた事例:


参考:
 

2011/07/02

2011.03.10 「アベンティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10170

LPL欠損の遺伝子治療: 知財高裁平成22年(行ケ)10170

【背景】

「組換えウイルス,製造方法および遺伝子治療での使用」に関する出願(特願平8-500419号; 特表平10-500859; WO95/33840)の拒絶審決(不服2007-020372; 進歩性違反)取消訴訟。

請求項1:

リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス

【要旨】

裁判所は、

「本件優先日当時,遺伝子治療は,遺伝病に対する原因療法として有力な手段であり,かつ,成功治験例が存在することは周知であったところ,引用例1には,遺伝病の一種であるLPL欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群について,遺伝子治療の可能性が示唆されているのであるから,引用例1に接した当業者は,当然,かかる疾患について遺伝子治療を試みるものということができる。そして,家族性高カイロミクロン血症症候群の原因であるLPLをコードする核酸配列も,本件審決が指摘するとおり~であったことからすると,引用例1に接した当業者が,家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療の実現のために,引用例2及び3により開示された知見を組み合わせて,相違点の構成,すなわち「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス」の創製を着想し,具体化に向けた努力を行うことは,当業者における通常の創作能力の発現というべきである。したがって,本件補正発明は,引用例1ないし3に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということができる。」

と判断した。

この点について、原告は、

「引用例1は,遺伝子治療に関する将来の可能性を示唆するにとどまり,本件優先日当時,LPL欠損症の遺伝子治療は時期尚早とされていたのであるから,引用例1の記載からは,LPL遺伝子を遺伝子治療に用いようとすることを動機付けられるものではない」

等主張した。

しかし、裁判所は、

「確かに引用例1の文言自体は,「未来の遺伝子治療の可能性の基礎を与えるであろう」とするにとどまるもので,短期間において遺伝子治療に係る技術が確立することが期待できないかのように解する余地はあるものの,先に指摘したとおり,本件優先日当時,欠陥組換えウイルスを用いた遺伝子治療の研究が進められており,一部の遺伝病(血友病B,家族性高コレステロール血症,ADA欠損症)においては,人間を対象にした成功治験例が報告されていたのであるから,かかる技術水準を前提とすると,引用例1に接した当業者が,上記文言から,将来における実現に係るLPL遺伝子を使用した遺伝子治療の実現可能性を期待するものということができるから,引用例1の上記文言自体は,LPL遺伝子を遺伝子治療に用いることの阻害要因となるものではない。

~また、~本願明細書において,その製造方法及び使用方法については開示されているものの,当該ウイルスを具体的に製造できたこと及び当該ウイルスが遺伝子治療に使用するウイルスベクターとして有用であることを示す具体的な結果も記載されていない以上,本件補正発明は,LPLが関与する疾患の遺伝子治療のウイルスベクターとして使用するために,自己複製できないように改変されたウイルスにLPLをコードする核酸配列を導入するという着想を示したにすぎないものであって,同発明が,従来技術からは予測不可能な効果を有するものであるということもできない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

判決内容について特にコメントする点はない。

ところで、本件Aventisの出願は、欧州(EP0763116)にて下記クレームが成立した。
Claim 1: Defective recombinant virus comprising a nucleic acid sequence encoding all or part of the lipoprotein lipase (LPL) or of a derivative thereof.
しかし、Amsterdam Molecular Therapeutics等の異議申し立てがあり、下記のように補正された。
Claim 1: Defective recombinant virus, excluding phagemid CDM8, comprising a nucleic acid sequence encoding all or part of the lipoprotein lipase (LPL) or of a derivative thereof.
Amsterdam Molecular Therapeuticsは、Lipoprotein Lipase Deficiency (“LPLD”)の遺伝子治療薬Glybera® (alipogene tiparvovec; AMT-011)を欧州にて承認申請(marketing authorisation application (MAA) )していたが、2011年6月23日付でEuropean Medicines Agency(EMA)から現時点では承認できない旨の通知を受けている。Amsterdam Molecular Therapeuticsの2006年のAnnual reportによれば、上記AMT-011のFTOを確保するため、(恐らく上記欧州特許に関して)Aventisとライセンス契約をしたようである。
"Finally, in 2006 AMT continued to widen its IP portfolio significantly. Both the signing of the Aventis license as well as the Targeted Genetics License give AMT freedom-to-operate in respect of AMT’s lead product AMT-011."

このような背景からすれば、Aventisが本件日本出願も知財高裁まで争ってでも権利化を目指そうとしたことに納得できる。

参考:


2011/06/14

2011.02.01 「大塚製薬工場 v. 味の素」 知財高裁平成22年(行ケ)10133

副作用の懸念という阻害要因: 知財高裁平成22年(行ケ)10133

【背景】

味の素(被告)が有する「2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤」に関する特許権(特許第4120018号)について無効審判請求不成立とした審決(無効2008-800110号事件及び無効2008-800256号事件)の取消訴訟。

輸液におけるアミノ酸を安定化するための抗酸化剤として亜硫酸塩を配合すると、その亜硝酸塩がビタミンB1の安定性に悪影響を及ぼすという背景があり、輸液混合前後の亜硫酸塩濃度に関する発明の構成と引用例との相違点は容易に発明できたものといえるかどうか(進歩性)、が主な争点となった。

請求項1:

A 連通可能な隔離手段により2室に区画された可撓性容器の第1室にグルコース及びビタミンとしてビタミンB1のみを含有する輸液が収容され,第2室にアミノ酸を含有する輸液が収容され,その第1室及び第2室に収容されている輸液の一方又は両方に電解質が配合された輸液入り容器において,
B 第1室の輸液にビタミンB1として塩酸チアミン又は硝酸チアミン1.25~15.0mg/Lを含有し,メンブランフィルターで濾過して充填し,
C 且つ第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.05~0.2g/Lを含有し, メンブランフィルターで濾過して充填し,
D 更に2室を開通し混合したときの亜硫酸塩の濃度が0.0136~0.07g/Lであり,
E 混合後,48時間後のビタミンB1の残存率が90%以上であることを特徴とする2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤。

【要旨】

裁判所は、本件発明と特開平8-709号公報(甲4)記載の発明との対比において本件発明の構成C(相違点4)、D及びE(相違点6)は容易に発明できたものとはいえないとした審決の判断に誤りがあると判断した。

なお、審決は

「甲4記載の発明における抗酸化剤は,第2室に収容される輸液の安定性を考慮したにすぎないから,混合後の輸液におけるビタミンB1の安定性のために亜硫酸塩の濃度を調整することは導き出すことができない」

と判断し、被告もこれと同様の主張をしたが、裁判所は、

「~混合後の亜硫酸塩の濃度に関する構成は,甲4の記載に基づいて,当業者が第2室のアミノ酸輸液を適切に安定化した結果,同時に満足されるものであるから,ビタミンB1の安定性を目的とする混合後の亜硫酸塩の濃度調整の示唆までは必要ない。」

と判断した。

また、審決は、

「当業者が,ビタミンB1の分解が亜硫酸塩の濃度に依存することを知った場合には,亜硫酸塩の添加は避けようとするのが自然であり,これを添加しようとすることの動機付けが存在しない」

と判断し、被告もこれと類似する主張をしたが、裁判所は、

「アミノ酸輸液に安定性保持のために亜硫酸塩を抗酸化剤として添加することは,従来から広く行われていたことであり~,抗酸化剤を添加しない場合,アミノ酸輸液の医薬製品としての安定性は十分でないと考える方が当業者にとって一般的であったと認められる。」

と判断した。

また、被告は、

「亜硫酸塩の添加については,喘息等の問題点が指摘されていた」

と主張したが、裁判所は、

「医薬品や食品添加剤等において使用されるような成分について,その成分の有効性と同時に何らかの副作用が指摘されるのは一般的なことである。そのような場合,当業者は,当該成分を使用するか否かについて,その有効性と副作用の両面から検討すると考えられる。すなわち,有効性が十分に高く,一方,指摘される副作用について,当該成分の使用割合や使用方法などの手段を検討することによってある程度低減できる場合や,副作用の発生頻度が非常に低い場合などは,有効性の方が重視されると考えられる。したがって,単に問題点が指摘されているからといって,当該成分が使用されないとはいえない。実際,亜硫酸塩の輸液への添加が本件出願当時から現在においても禁止されていないことからすれば,被告の指摘する副作用は,本件出願当時の当業者において,それほど重要視しなければならなかった問題点とは認められない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

ある成分の副作用という点を阻害要因として、その成分を用いることについて当業者が容易に想到できたものとは認められないと主張する場合には、単に問題が指摘されている程度なのか、それとも使用が禁止されているほどのものなのか、当業者にとってどれほど重要視されるべき問題なのかを検討する必要があるだろう。

2011/06/06

2011.01.31 「X v. デビオファーム」 知財高裁平成22年(行ケ)10122

効果に着目した構成: 知財高裁平成22年(行ケ)10122

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許(特許第3547755号; 出願日1995.08.07)について原告(X)の進歩性欠如を理由とする無効審判請求(無効2009-800029号)は成り立たないとの審決に対する審決取消訴訟。

請求項1:
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。

【要旨】

本件発明1及び相違点の認定等の誤りについて、原告は、

「本件発明1における「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである(こと)」(貯蔵安定性)は,医薬品の承認に必要な当然の品質であるから,審決が,これを本件発明1の独立の構成であるとした上で,甲1発明との相違点とした認定には誤りがある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本件発明1の特許請求の範囲における「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」との記載は,確かに,貯蔵安定性という効果に着目した構成であるということができる。しかし,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」の条件を満たしさえすれば,他のいかなる条件が加わっても,常に,上記の貯蔵安定性に係る構成を充足するという関係が成立するものではない。仮に,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であっても,上記の貯蔵安定性に係る構成を充足しない製剤であれば,本件発明1の技術的範囲から除外されることになるのは当然である。以上のとおりであり,本件発明1の貯蔵安定性に係る構成は,独立の構成であると理解すべきであり,これに反する原告の主張は,採用できない。
また,甲1には,オキサリプラティヌムの溶解度が7.9mg/mlであると記載されている。しかし,溶解度について示した記載があったとしても,他に格別の説明がない甲1によって,0ないし7.9mg/mlの中の特定の範囲の濃度である「濃度が1ないし5mg/ml」のオキサリプラティヌムの水溶液が使用されるべきであることが示されていると理解することはできない。本件発明1と甲1発明とが,濃度において共通する記載があると解すべきではない。」

と判断した。

また、数値範囲における意義について、原告は、

「数値限定発明において容易想到性でないとされるためには,数値範囲の全般において効果が顕著に優れているとの臨界的意義が示されることを要すると解されるが,本件発明1は,そのような効果が示されていないので,本件発明1が容易想到でなかったとした審決の判断には誤りがある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「一般に,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,当該発明と特定の先行発明とを対比し,当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして,出願時の技術水準を前提として,当業者であれば,相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くのが合理的である。そして,当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。この点は,当該発明の相違点に係る構成が,数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく,当該発明の技術的意義,課題解決の内容,作用効果等について,他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。」

との一般的考え方を示し、本件に関しては、

「・・・総合考慮すると,当業者にとって,本件発明1の限定された数値範囲において,上記の課題を解決する顕著な作用効果が示されていると解することができる。したがって,本件発明1における「pHが4.5ないし6」との数値範囲で示された構成について,当業者が,容易に想到することができないとした審決に誤りはない。」

と判断した。

【コメント】

数値範囲における意義について、進歩性を主張するには臨界的意義が必ずしも必要というわけではなく、「当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。」という進歩性の容易想到性判断の手法の原則が裁判所によって確認された。

貯蔵安定性という効果に着目した構成が、独立の構成であるとした判断は興味深い。審決でも、このような構成については「技術的に意味のある事項であり、本件特許発明1を特定する事項であることは明らかである」と断言している。このような効果に着目した構成は今後積極的に活用できる余地がある(しかし記載要件の観点からの注意は必要だろう)。

ヤクルトは被告の補助参加人。オキサリプラチン(Oxaliplatin)は白金錯体系抗悪性腫瘍剤。本剤はDebiopharm 社(スイス)がライセンスを保有しており、欧米における開発・販売権はSanofi-Aventis社が保有している(商品名: ELOXATIN)。日本における開発・販売権はヤクルトが取得し、商品名エルプラット(ELPLAT)として製造販売している。2010年6月には水溶性製剤(点滴静注液)を発売し、既存の凍結乾燥製剤(注射用)からの切り替えを行った。

本件特許権(特許第3547755号; 出願日1995.08.07)は存続期間の延長登録(2009-700145(点滴静注液100mgについて延長の期間は11月21日); 2009-700142(点滴静注液50mgについて延長の期間は4年5月22日); いずれも処分の対象となった物について特定された用途は追加された効能効果である「結腸癌における術後補助化学療法」)がなされ、存続期間満了日は最長2020年1月29日となっている。エルプラットの再審査期間は2013年3月17日まで。IPDLによれば別の無効審判2010-800191が係属中のようである。

参考:



2011/05/16

特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準及び審査の取扱いについて

2011年5月16日、特許庁は、最高裁判決(平成21年(行ヒ)第324~326号)を受け、特許権の存続期間延長登録出願に関する改訂審査基準を本年秋頃を目途に公表する予定であり、また、延長登録出願の審査着手は、原則として、改訂審査基準の公表まで止めると発表しました。

参考:


2011/05/08

2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326

武田薬品 特許権の存続期間の延長登録出願 最高裁判決 (The Supreme Court affirms the IP High Court decision that allows Takeda's patent term extension application in Takeda v. JPO case): 最高裁平成21(行ヒ)326

原審事件: 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460

【背景】

徐放性モルヒネ製剤に関する特許(第3134187号)の特許権者である武田薬品がパシーフカプセル30mg(有効成分: 塩酸モルヒネ)の承認処分に基づき本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700090)をしたが、当該承認に先行して当該医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行処分の存在を理由に拒絶査定・拒絶審決(不服2006-20937号)を受けたので、審決取消訴訟が提起され、知財高裁は審決を取り消した。その判断の是非について最高裁に上告されていた。

【要旨】

「特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。
本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから,本件において,本件先行処分がされていることを根拠として,その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。

以上によれば,本件先行処分がされていることは,本件特許権の特許発明の実施に当たり,薬事法14条1項による製造販売の承認を受けることが必要であったことを否定する理由にはならないとして,本件審決を違法であるとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。」

上告棄却。

【コメント】

最高裁は、「後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえない」との理由から、「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない」と判示した。

先行医薬品についての先行処分の存在を理由に特67条の3第1項1号で定める「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」かどうか判断する際には、先行医薬品が延長登録に係る特許権の「請求項に係る特許発明の技術的範囲に属するかどうか」がポイントになる(以下、「侵害テスト」という。)。この最高裁判決により、医薬品の製剤改良発明に関する特許に関して延長登録の道が開けたことになる。この点で非常に意義のある判決である(延長された特許権の効力について不透明な部分は残されているが)。これまでの特許庁の運用(「有効成分及び効能・効果同一性テスト」)は否定され、審査基準( 第VI部 特許権の存続期間の延長)は早急に改められなければならない。

ところで、本件は、先行医薬品が本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しなかったため、上記最高裁の判示基準(「侵害テスト」)への当てはめと結論は容易に導かれることができた。しかし、もし、先行医薬品が延長登録に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも「属する」事例では、この最高裁の判示基準からどのような結論へと導かれるのだろうか。
---
先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも

  • 「属しない」ときは、先行処分の存在を理由に、当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったと認められる。
  • 「属する」ときは、先行処分の存在を理由に、当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められない?
    それとも…?

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最高裁の判示基準(「侵害テスト」)を、反対解釈すれば、「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属する場合には、いずれの請求項に係る特許発明も実施することができたといえることになるから、先行処分がされていることを根拠として当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められない」ということになる。この反対解釈によって問題が生じ得るのは、後行処分時に化合物特許について延長登録したケースや同一の特許権に基づいて適応症追加処分ごとに延長登録を複数回得ているケースのほとんどではないだろうか。

このような解釈に対して、今回の最高裁の判決はあくまで先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも「属しない」場合についてのみ判断したのであって、「属する」場合に直ちに「当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められない」とすることまでは触れられていないから、「属する」場合には、別途、第二の判断ステップがあるはずだという意見もあるかもしれない。そのような意見の拠り所は、おそらく、「属する」場合であったとしても、後行医薬品の実施について「政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された」のだから、延長登録は認められるはずだとする知財高裁で示されている考え方(以下「医薬品禁止解除テスト」という。)かもしれない。

しかし、最高裁は、本件審決を違法であるとした知財高裁の判断は正当として是認しつつも、先行処分の存在を理由に特67条の3第1項1号で定める「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」かどうか判断する際のロジックについては、知財高裁の「医薬品禁止解除テスト」に言及せず、「侵害テスト」により結論を導いた。この「医薬品禁止解除テスト」は、先行処分があろうが無かろうが、すなわち先行医薬品が本件特許権の請求項に係る特許発明の技術的範囲に入るかどうかとは関係なく、(後行)処分という医薬品の禁止解除に基づいて延長登録が認められるというロジックであるように思われるから、最高裁が示した「侵害テスト」のロジックとは併存しえないもののように思われる。知財高裁で示されている「禁止が解除された」という客体の意味が、医薬品についての禁止解除(「医薬品禁止解除テスト」)という意味ではなく、請求項に係る特許発明の禁止解除(「請求項に係る特許発明禁止解除テスト」)という意味なのであれば、最高裁の「侵害テスト」とも整合しそうではあるのだが。

「属する」場合の解釈・判断は今後の判決の蓄積又は法・基準改正等を待つ必要があるかもしれないが、現時点では、いずれの解釈であれ、延長登録が拒絶・無効とされるリスクを最小化するためには、先行処分が存在する場合には請求項との関係を検討し、できる限り先行医薬品が技術的範囲に属さない、或いは先行医薬品と後行医薬品とを区分けできるような請求項づくり又は訂正可能な請求項づくりを検討する必要があるだろう(実際、将来の複数回処分を想定して請求項を検討するのは難しいことではあるかもしれないが)。

ところで、2011.03.28 「シャイアー v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10177において、原告は請求項12については先行処分が「属さない」ということでその請求項のみにフォーカスして結果的には延長登録について勝訴している。合剤に関する判決ではあるが、先行処分の存在による影響についての原告の主張は最高裁の「侵害テスト」を先取りした点もあり、ヒントとなるかもしれない事例である。

参考:


2011/04/24

2010.12.22 「エティファーム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10062

特許権存続期間延長登録出願において、禁止が解除された「物」が特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要があるのか?: 知財高裁平成21年(行ケ)10062

【背景】

「急速崩壊性多粒子状錠剤」に関する特許(特許2820319号; 20年の存続期間満了日は2012.7.21)に基づく存続期間延長登録出願(2006-700077号; 延長を求める期間は3年9月10日)をした。本件出願は,本件特許の専用実施権者である武田薬品が受けた錠剤「タケプロンOD錠15」(有効成分: ランソプラゾール(lansoprazole))に関する薬事法上の承認(非びらん性胃食道逆流炎)に基づくものであったが、下記本件請求項1のとおり、請求項には有効成分であるランソプラゾールが特定の構成要件として明示されておらず、明細書中にもランソプラゾールについての明示的な記載はなかった。

請求項1:
投与前に水中に分散させることなく経口投与する錠剤であって,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質と,賦形剤混合物とを含む材料を圧縮して得られ,前記賦形剤混合物がカルボキシメチルセルロース又は錠剤の全重量に対して13.3%以下の不溶網状PVPを含む少なくとも1つの崩壊剤,及び,澱粉,加工澱粉,あるいは微結晶セルロースから選択され,水と接触して高粘度を生じない少なくとも1つの膨張剤を含み,発泡剤及び遊離の有機酸を含まず,口中で唾液の存在下で咀嚼無しに60秒より短い時間で崩壊する急速崩壊性多粒子錠剤。
審決の理由は、医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには、少なくともその処分によって特定される「物」、すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するので、本件出願は特67条の3第1項1号の規定に該当する、というものだった。

【要旨】

裁判所は、
「「特許発明の実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったと認められるためには,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除される行為のうちに「特許発明の実施」に当たる行為の部分が存することが必要である。そして,「政令で定める処分」が,例えば,薬事法14条所定の医薬品の製造の承認や医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る承認である場合に,上記要件を充足するためには,薬事法14条所定の当該承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為に,当該特許発明の実施に当たる部分がなければならないと解される。」
と特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について判示した後、特68条の2の解釈についても言及したうえで、
「このように,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」に限定して特許権の存続期間の延長が認められるのであるから,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対して不測の不利益を与えないという観点から,存続期間の延長登録出願が適法であるためには,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」についてみれば,それらが客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」を基準とし,「発明の詳細な説明」の記載に照らして認識できるものでなければならず,また,それで足りるということができる。すなわち,存続期間の延長登録出願に際し,「政令で定める処分」を前提として,その対象となった「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,上記の手法に基づいて認識できるような場合には,当該「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為に,「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるからである。そして,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明が,様々な上位概念で記載され,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広い場合であっても,当該「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足りるのであり,上記の禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が,特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない。審決は,「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」と判断したものであるが,この判断は,当裁判所の上記判断に反するものである。」
と判断した。

そして、さらに、
「特許権の存続期間延長制度の対象となる特許発明は,前記2のとおり,その条文上の記載から明らかなように,「特許を受けている発明」(特許法2条2項)全般であり,新しい有効成分に関する特許発明,あるいは,新たな効能・効果に関する特許発明という特定の特許発明に限定して存続期間の延長を認めるべき合理的根拠はない。」
とも言及し、特許発明の実施に処分を受けることが必要かどうかを、「有効成分(物)と効能・効果(用途)」という限定的観点で判断した審決を否定した。

審決を取り消す。

【コメント】

特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について、裁判所は、2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458; 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10459; 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460で示された基準:
「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。
と同様の考えを示した。

裁判所は、禁止が解除された行為に「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるかどうかは、当該特許発明に含まれるものであることが「特許請求の範囲」、「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足り、禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない、と判示した。

特許請求の範囲又は明細書における処分対象物(有効成分あるいは医薬品)の記載の程度に関して判断された判決は下記が参考になるかもしれない。


原告が主張の中で引用した判決:


その他のランソプラゾールに関する判決:


2011/04/17

2011.03.22 「沢井製薬 v. 武田薬品」 特許無効審判事件 2010-800087, 2010-800088

アクトス(ACTOS)併用の進歩性判断における効果の格別顕著性: 無効2010-800087及び無効2010-800088

沢井製薬が請求した、武田薬品が有する「ピオグリタゾンと他の糖尿病薬との併用」に関する特許(特許3148973及び特許3973280)の無効審判(無効2010-800087及び無効2010-800088)について、特許庁は一部クレームについては無効としたが、他のクレームについての無効請求は成り立たないとした。各特許における特許庁の判断の要旨は下記の通り。

【特許3148973】

「ピオグリタゾンと、アカルボース、ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」に関するクレームについて、特許庁は、請求人が提出した刊行物(甲第1~4号証)は、
①いずれも将来的な糖尿病治療を前提とするものと認められる。
②ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース,ボグリボース又はミグリトールとを併用については単にそのことが記載又は示唆されているにとどまる。
③当該併用により実際に糖尿病治療が行われたことや,その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認したことについて何ら記載するものではない。
④いずれもピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース,ミグリトール又はボグリボースとの併用に係る医薬につき,当業者が直ちにその有用性を理解することができるように発明として記載されていると言うことはできない。
という理由から、ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース、ボグリボース又はミグリトールとの組み合わせに係る薬理効果の実証を伴わないこれら記載のみからでは、これら刊行物(甲第1~4号証)において本件発明が記載されているとは認められないと判断した。

一方、進歩性判断については、
「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース,ミグリトール又はボグリボースとを併用することにより実際に糖尿病治療が行われたことや,その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認したことについては何ら記載はなされていなくとも,~ピオグリタゾンとアカルボースとの組み合わせ,又は,ピオグリタゾンとボグリボースとの組み合わせとする動機付けを,当業者に与えるに足るものであると言うことはできる」
として、本件発明に係る糖尿病治療薬の構成自体は、これら刊行物(甲第1~4号証)の記載から当業者が容易に想到することができたと言うべきであると判断した。

しかしながら、本件発明の効果について、
①その作用機序の組み合わせが全く試みられていないという状況の下では,実際の効果は現実に使用してみなければ分からないという認識が,当業者には一般的であると認められる。
②糖尿病に対する薬剤の併用治療に関し,本件特許の優先権主張の日前において,異なる作用機序の薬剤を併用して用いれば例外なく,相加的又は相乗的な効果が必ずもたらされることを当業者が認識していたという事実を認めるに足る根拠は全く見出せない。
③請求人が提出した甲第1~4号証に記載された技術的事項は上記のとおりいずれも,併用すれば効果の高い治療が可能となるかもしれない,という単なる期待の域を出ないものであり、相加的又は相乗的な効果をもたらすかもしれないという期待があることを単に記載するにとどまり,いずれの証拠も異なる作用機序に基づく糖尿病治療薬の併用は相加的又は相乗的な効果を必ずもたらすことを裏付けるものでは何らない。
④その併用により相加的又は相乗的な効果が奏されるか否かは,本件特許の優先権主張の日前において,当業者をしても実際に試験を行って逐一その確認をしてみないことには直ちに予測し得るものではない,という技術水準にあったと認められる。
⑤本件特許明細書の実験例1において示される併用効果が相加効果又は相乗効果のいずれであるのかまでは直ちには判断し得ないとしても,ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとの併用による本件発明1の効果は,甲第1~4号証における記載からは当業者が予測できない格別顕著なものであると言うべきである。
とし、本件発明に係る糖尿病治療薬は、これら刊行物の記載から当業者が容易に想到することができたとは認められないと判断した。

【特許3973280】

「ピオグリタゾンと、グリメピリドとを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」に関するクレームについて、特許庁は、上記特許3148973と同様の判断により、無効請求は成り立たないと判断した。一方、「ピオグリタゾンと、ビグアナイド剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」に関するクレームについては、実施可能要件及びサポート要件に違反してなされたものであると判断し、それらクレームについては無効とした。

【コメント】

明細書に薬理試験結果が示されていた併用は、①塩酸ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとの組み合わせ(実験例1)、および②塩酸ピオグリタゾンとSU剤であるグリベンクラミドとの組み合わせ(実験例2)、のみであったため、ピオグリタゾンとビグアナイド剤との併用クレームを実施可能要件違反及びサポート要件違反と判断した特許庁の判断は妥当に思えるが、進歩性の判断、特に効果が顕著であるかどうかの判断が果たして妥当なものなのかどうか・・・。特許庁の判断は、「動機付けはあっても、試験してみなければ効果があるのかどうか分からないものについて試験をした結果、一定の効果が認められれば、効果の程度にかかわらず、効果につき格別顕著性がある」と言っているように思えのだが。そして、本件明細書に記載されていた併用投与による効果を示す試験結果は、それぞれの単独投与と比較したものだけであり、他の組み合わせと比較したものではないという点も、これまでの下記判決と整合するのかどうか気になるところである。



本件は、進歩性判断について、ぜひ知財高裁に出訴して再検討されるべきだろう。なお、特許3148973は存続期間延長登録されており(出願番号2002-700098、2002-700099)、存続期間満了日は2017年11月15日となっている(20年目は2016年6月18日)。一方、特許3973280は存続期間延長登録出願(出願番号2010-700127、2010-700128)されたがこちらはいずれも拒絶査定(発送日2011年2月15日)、その他、分割出願(特開2007-191494)も拒絶査定となっている(発送日2011年2月1日)。

アクトス(ACTOS; 有効成分:塩酸ピオグリタゾン(Pioglitazone Hydrochloride))の効能効果は下記のとおり。
2型糖尿病
ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗性が推定される場合に限る。
1.①食事療法、運動療法のみ②食事療法、運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用③食事療法、運動療法に加えてα-グルコシダーゼ阻害剤を使用④食事療法、運動療法に加えてビグアナイド系薬剤を使用
2.食事療法、運動療法に加えてインスリン製剤を使用


メタクト配合錠LD/メタクト配合錠HD(有効成分: ピオグリタゾン塩酸塩(Pioglitazone Hydrochloride)およびメトホルミン塩酸塩(Metformin Hydrochloride))は昨年7月から日本で販売開始されている。

参考(追記):

2011/04/08

2011.04.06 USPTO proposed new PTA and PTE rules

2011年4月6日、USPTOはPTA(patent term adjustment)及びPTE(patent term extension)に関する規則改正案を発表しました。パブリックコメントは5月6日まで募集しています。

参考:

2011/03/27

2011.01.18 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10055

発明の作用効果に関するクレームの構成: 知財高裁平成22年(行ケ)10055

【背景】

「血管老化抑制剤および老化防止抑制製剤」に関する出願(特願2008-131621, 特開2009-280508)に係る本件補正発明が引用発明及び周知技術に基づいて進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

本件補正発明:
タラ目又はカレイ目の皮を原料とし,分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温度40℃で20分間酵素分解を行い得られた重量平均分子量が3,000の魚皮由来低分子コラーゲンを必須成分とする,血管内膜厚を減少させることを特徴とする血管老化抑制剤。
引用発明:
コラーゲンの酵素処理により得られた,平均分子量が1300ないし4000程度の,コラーゲンより分子量が小さいコラーゲン加水分解物を含有する,血管組織の老化を予防又は改善する医薬組成品。
本件補正発明と引用発明との一致点:
コラーゲンを原料とし酵素分解を行い得られた低分子コラーゲンを必須成分とする血管老化抑制剤。
本件補正発明と引用発明との相違点1:
本件補正発明では,酵素分解に供するコラーゲンの由来を「タラ目又はカレイ目の皮」である「魚皮由来」とする旨及び酵素分解の条件を「分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温度40℃で20分間酵素分解を行」うものであるとする旨それぞれ特定しているに対し,引用発明では,コラーゲンの由来及び酵素分解の条件について特定していない点。
本件補正発明と引用発明との相違点3(本件補正による補正箇所に相当):
血管老化抑制剤について,本件補正発明では,「血管内膜厚を減少させる」と特定しているのに対し,引用発明ではそのような特定をしていない点。
【要旨】

原告の主張の要旨は下記の通り。
引用発明の記載は、動脈硬化症の三分類のうちのひとつであるメンケベルク型の中膜石灰化症及び細小動脈硬化症の治療についてのものであり、動脈硬化症のもう一つの分類である「血管内膜厚を減少させる」こと(相違点3)、すなわち粥状動脈硬化症の予防及び治療効果や医薬用途については記載も裏付けもない。周知例にも「タラ目又はカレイ目の皮由来」(相違点1)コラーゲンの粥状動脈硬化症治療効果についての記載はない。従って、粥状動脈硬化症の治療に効果があるコラーゲンとして「タラ目又はカレイ目の皮由来」のコラーゲンを選択することは、当業者が容易に想到し得るものではない(取消事由1, 2)。さらに、本件補正発明は、粥状動脈硬化症に対する治療効果という引用発明がもたらすものとは異なる新たな医薬用途を提供するものであって、臨床実験によりその格別顕著な効果が確認されている (取消事由3)。
裁判所は、引用発明の内容について、
「引用例は,前記のとおり,血管組織の強化作用(血管の機械的強度,伸展性及び弾力性の向上)を目的とするものであり(【0006】【0007】),このような血管組織の強化による予防又は治療の必要性は,動脈の有するしなやかさ(弾力性)を喪失しているという点では,メンケベルク型の中膜石灰化症及び細小動脈硬化症のみならず,粥状動脈硬化症に対しても等しく妥当するものである。しかも,引用例は,引用発明が対象とする動脈硬化症の前症状として,「血管の肥厚,血管の機械的強度や伸展性,弾力性の低下など」(【0003】)と記載しているところ,このうち特に血管の肥厚は,粥状動脈硬化症の一症状でもある(甲32,34)ばかりか,引用例には,最も頻度の高い重大な血管疾患である粥状動脈硬化症を引用発明による予防又は治療の対象から除外していることを示唆ないし指摘する記載が何ら見当たらない。以上によれば,引用発明が対象とする動脈硬化症には,メンケベルク型の中膜石灰化症及び細小動脈硬化症に加えて,粥状動脈硬化症が含まれるものと認めるのが相当である。」
と認定したうえで、相違点1の容易想到性について、
「本件特許出願当時,魚由来のコラーゲンが人体に対して安全なものであり,かつ,畜肉由来のコラーゲンよりも消化性が優れていることは,当業者の周知技術であったものと認められるほか,周知例1にも記載のとおりBSE問題が発生していたことから(甲24参照),当業者は,畜肉由来ではなく魚由来のコラーゲンを使用することについて動機付けがあったものといえる。そして,現に,本件補正明細書の【図1】は,周知例1に記載の前記グラフ図と同一のものである。しかるところ,引用発明は,前記のとおり,その対象とする動脈硬化症に本件補正発明が対象としている粥状動脈硬化症を含んでおり,かつ,ウシ又はブタ由来のコラーゲンに劣後するとしながらも,魚皮由来のコラーゲンを使用することも好例として記載していたのであるから(【0018】【0020】),引用発明に前記周知技術を適用して酵素分解に供するコラーゲンの由来を「タラ目又はカレイ目の皮」である「魚皮由来」と構成することは,当業者が容易に想到することができたものというべきである。また,引用例には,前記のとおり,加水分解に用いる酵素はペプチド加水分解酵素であれば特に限定されない旨の記載があり,酵素としてペプシンAないしCも例示されているばかりか(【0027】【0028】),加水分解処理の諸条件が適宜設定できる旨の記載もある(【0029】)。したがって~周知の条件を適宜選択し得ることが明らかである。以上によれば,引用発明に周知技術を適用することで本件補正発明の相違点1に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到することができたものいうべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。」
と判断し、また、相違点3の容易想到性について、
「引用発明及び本件補正発明は,いずれも物の発明であるところ,相違点3に係る本件補正発明の構成である「血管内膜を減少させる」ことは,発明の作用効果に関する事項であって,本件補正発明を物の観点から特定するものではない。したがって,「血管内膜を減少させる」との記載の有無は,物の発明である引用発明と本件補正発明との実質的な相違点とはいえない。よって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。」
と判断した。

作用効果について、裁判所は、
「試験例は,例えば偽薬を経口投与した群や,あるいは引用発明同様に畜肉由来のコラーゲンを経口投与した群との比較を行っているわけではないから,仮に頸動脈内膜厚の減少等が本件補正発明の経口投与によるものであったとしても,それが特に引用発明との関係で顕著な作用効果を示していることを立証するものとはいい難い。」
と判断した。

これに対し、原告は、
「本件補正発明のPro-Hyp の含量が低く,他にAla-Hyp,Leu-Hyp 及びPhe-Hyp など多様なペプチドを含有し,腸管での吸収が速やかで吸収効率がよいことから,本件補正発明が粥状動脈硬化症に対して当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏することが明らかである」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「腸管での吸収効率がよいことと粥状動脈硬化症に対する効果が顕著であることの因果関係については,推測の域を出るものではなく,何ら具体的な証拠がない。」
として、原告の主張を採用せず。

請求棄却。

【コメント】

引用発明に周知技術を適用することで本願補正発明の進歩性が否定された事例。引用発明の医薬用途は、本願補正発明の医薬用途(粥状動脈硬化症)の上位概念(動脈硬化症)で記載されていたが、出願時における技術常識及び引用例の記載から、下位概念である本願補正発明の医薬用途も引用発明に含まれると認定された。

また、発明の作用効果に関する本件補正発明の構成(「血管内膜厚を減少させる」)は、発明を物の観点から特定するものではなく、その記載の有無は物の発明である引用発明と本件補正発明との実質的な相違点とはいえないとされた。 原告は、本願補正発明の構成である「血管内膜厚を減少させる」ことはすなわち粥状動脈硬化症に対する予防及び治療という医薬用途を提供するものである旨主張したので、本願補正発明と、認定された引用発明の医薬用途(粥状動脈硬化症)に相違点はなくなり、補正によって追加された「血管内膜厚を減少させる」という作用効果に関する構成は意味をなさなくなったと言えるかもしれない。 このような、発明の作用効果に関する構成をクレームに加えることは、医薬用途発明の新規性・進歩性においてどのような意味を持つのだろうか?

引用発明にはコラーゲンの粥状動脈硬化症治療用途が含まれていたと判断されたが、引用例及び周知例にはコラーゲンが血管内膜厚を減少させるという記載も裏付けもなかったと思われる。仮にもし、本願発明が「血管内膜厚減少剤」のように補正し(このような用途発明的記述がそもそも記載要件の立場から許されるかどうかはわからないが)、この点での引用発明との相違点に関して容易想到を論じた場合には、どのようなロジックで特許庁・裁判所は判断していただろうか?

2011/03/17

2011.03.16 「アステラス Tarceva特許侵害訴訟でTevaと和解」

アステラスは、その米国子会社OSIがGenentech及びPfizerとともに、Tevaに対して2009年3月19日に米国で提起したがん治療剤Tarceva®(一般名: 塩酸エルロチニブ)の物質特許(米国再発行特許番号:RE41,065)及び用途特許(米国特許番号:6,900,221及び7,087,613)に関する特許侵害訴訟について、Teva社と和解契約を締結したと発表した。

Tarceva®はOSI及びPfizer により創製されたキナゾリン誘導体であり、上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor:EGFR)を標的とした選択的チロシンキナーゼ阻害剤(Tyrosine Kinase Inhibitor:TKI)である。本剤は、EGFR 細胞内チロシンキナーゼ領域のATP 結合部位においてATPと競合的に拮抗することにより、癌細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導に基づいて抗腫瘍効果を示すと考えられている。

参考:


2011/03/07

2010.12.22 「伏見製作所/X v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10163

出願当時の技術水準を出願後の刊行物により認定: 知財高裁平成22年(行ケ)10163

【背景】

「経管栄養剤」に関する出願(特願2003-003526)に係る発明が引用例1及び2に記載された発明に基づいて進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:

胃瘻に配置された管状材を通して、数分間で200ml~400ml が加圧供給される栄養剤であって、該栄養剤は、その粘度が、1000ミリパスカル秒以上~60000ミリパスカル秒以下の粘体であって、管状材を通過する前後において、粘体の状態が維持されるように調製されていることを特徴とする経管栄養剤。

本願発明と引用発明(引用例1に記載された発明: 胃瘻から注入した半固形状食品®テルミールソフト)との一致点及び相違点:

  • 一致点:胃瘻に配置された管状材を通して,供給される経管栄養剤

  • 相違点1:本願発明では,「粘度が,1000ミリパスカル秒以上~60000ミリパスカル秒以下の粘体であって」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点

  • 相違点2:本願発明では,「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている経管栄養剤」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない経管栄養剤である点

  • 相違点3:本願発明では,「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点


【要旨】

*取消事由2及び4(相違点1及び3についての判断の誤り)を以下に取り上げた。

取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について、裁判所は、
「~これを,特許を受けようとする発明が物の発明である場合についてみると,特許を受けようとする発明と対比される同条1項3号にいう刊行物の記載としては,その物の構成が,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば,必ずしも,当該刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はなく,それをもって足りるというべきである。」
と、特29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について説示したうえで、本件について下記のように判示した。
「~引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「®テルミールソフト」が記載されていることが認められる。また,「®テルミールソフト」は,本件出願前から~テルモ株式会社により販売され,容易に入手可能であったものと認められる(甲6,弁論の全趣旨)。そうすると,刊行物である引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「®テルミールソフト」の発明が記載されているということができる。
そして,本願出願後に頒布されたものであることに争いのない刊行物D(甲17)には,「®テルミールソフト」が20℃で20000ミリパスカル秒の粘度であることが記載されている。この事実に弁論の全趣旨を総合すれば,本願出願時においても,同一商品名で販売されていた「®テルミールソフト」が,本願発明の粘度範囲である1000~60000ミリパスカル秒の範囲にあったものと推認できる。」
と認定した。

これに対し、原告らは、
「本件審決が,本願出願後に頒布された刊行物D(甲17)に基づいて,引用例1記載の「®テルミールソフト」の粘度を認定したことは誤りである」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「発明の進歩性の有無を判断するに当たり,上記出願当時の技術水準を出願後に領布された刊行物によって認定し,これにより上記進歩性の有無を判断しても,そのこと自体は,特許法29条2項の規定に反するものではない(最高裁昭和51年(行ツ)第9号同年4月30日第二小法廷判決・判例タイムズ360号148頁参照)。よって,本願発明の進歩性の有無を判断するにあたって,引用発明である「®テルミールソフト」が持つ粘度を認定するために,本願出願後に頒布された刊行物Dを参酌したことは,特許法29条2項に反するものではない。以上のとおり,引用発明に係る「®テルミールソフト」は,本願発明の粘度範囲である1000~60000ミリパスカル秒の範囲にあったものと推認できるから,相違点1について,実質的に相違するものではないとした本件審決の判断に誤りはない。」
と判断した。

取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について、裁判所は下記の通り判断した。
(1) 本願発明の相違点3に係る構成について
~本願発明の相違点3に係る発明特定事項である「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」点については,単に本願発明である経管栄養剤の使用態様を説明するだけのものであり,経管栄養剤という物の発明である本願発明が有する特有の性状を示すものと解することはできない。本願明細書~の記載を勘案しても,本願発明の上記発明特定事項の意義を見いだすことができないし,「数分間で200ml~400ml」という数値の臨界的意義を見いだすこともできない。そもそも,~一定時間貯留されるとの効果は,「粘度が,1000ミリパスカル秒以上~60000ミリパスカル秒以下」であることから奏する効果であり,「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」ことと関係があるとはいい難い。そうすると,相違点3に係る本願発明の構成には,そもそも技術的意義を認めることはできないといわなければならない。

(2) 相違点3の容易想到性について
上記(1)のとおり,本願発明の相違点3に係る構成には,何ら技術的意義を認めることができない以上,引用発明に係る「®テルミールソフト」において,経管栄養剤という物の発明の解決課題とは無関係である,胃瘻から注入する際の使用態様について,上記相違点3に係る構成のように「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないといわざるを得ない。

(3) 本件審決の判断について
上記(2)のとおり,引用発明から相違点3に係る本願発明の構成(数分間で200ml~400ml が加圧供給される)に至ることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず,引用例2に記載されている事実等とは無関係であって,引用例2を組み合わせるまでもないことである。本件審決の上記判断は,措辞必ずしも適切とはいえないが,当業者が容易に想到し得たという結論において誤りがあるとはいえない。
請求棄却。

【コメント】

特29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について、当業者が、刊行物の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば、必ずしも、刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はない。

そして、出願当時の技術水準を出願後に領布された刊行物によって認定し、これにより進歩性の有無を判断しても、そのこと自体は特29条2項の規定に反するものではない(1976.04.30 昭和51(行ツ)9)。

取消事由4(相違点3についての判断の誤りについて)の争いは、医薬発明の用法に関する発明特定事項について技術的意義が見出されず、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないとされた典型例ともいえる。用法・用量に特徴のある医薬発明の進歩性を検討する際には参考になるかもしれない。


2011/02/27

2011.02.22 「沢井製薬等の後発品メーカー8社 v. エーザイ」 知財高裁平成21年(行ケ)10423/10424/10425/10426/10427/10428/10429

アリセプト特許の存続期間延長登録: 知財高裁平成21年(行ケ)10423/10424/10425/10426/10427/10428/10429

【背景】

アリセプト特許権存続期間延長登録 無効審決取消訴訟の記事のつづき。アリセプトの特許権(特許2578475)の存続期間延長登録に対する無効審判請求を不成立とした審決に対して、後発品メーカー(沢井製薬・シオノケミカル・大正薬品工業・大洋薬品工業・東和薬品・日医工・日本薬品工業・陽進堂)が審決取消を求めて訴訟を提起した。

【要旨】

争点は、本件延長登録に先だってされた延長登録(先の延長登録; 特許2578475の特許権存続期間延長登録(平11-700114); 延長期間は2年11月17日)の理由となった処分の対象物について特定された用途(「軽度及び中等度」のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制)と、本件延長登録(特許2578475の特許権存続期間延長登録(2007-700111等); 延長期間は5年)の理由となった処分の対象物について特定された用途(「高度」のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制)とが実質的に同一であるか否か、であった。

裁判所は、
「先の承認処分及び本件承認処分における「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」と「高度アルツハイマー型認知症」は実質的に異なる疾患というよりも,アルツハイマー型認知症という1つの疾患を重症度によって区分したものであると認めるのが相当である。」
と認定したうえで、先の承認処分における用途と本件承認処分における用途の同一性について、
「前記認定によれば,軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と高度アルツハイマー型認知症との差異は,緩やかにかつ不可逆的に進行するアルツハイマー型認知症の重症度による差異であると解されるところ,塩酸ドネペジルが軽度及び中等度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても,より重症である高度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であるとするには,高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し,その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められる。
そして,~医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいうと解され,「用途」の同一性は,医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく,先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理),薬理作用,症状等を考慮して実質的に決すべきであると解されるところ,本件のように,対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり,薬理作用はアセチルコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも,先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり,先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には,特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして,重症度による用途の差異を認めることができるというべきである。
よって,本件においては,前記判示のとおり,疾患としては1つのものとして認められるとしても,用途についてみれば,先の承認処分における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるといえないとして,存続期間の延長登録無効審判請求を不成立とした審決は,その判断の結論において誤りはない。」
と判断した。

また、裁判所は、原告らの主張する弊害について、
「~先の承認処分及び本件承認処分においてアルツハイマー型認知症のうちの「軽度」「中等度」「高度」について明確な定義や基準が示されていないこと,FASTはアルツハイマー型認知症を病期や重症度によって区別する判定基準の1つにすぎないこと(甲44)に照らすと,軽度及び中等度アルツハイマー型認知症に対してはいわゆる後発薬を使用できるが,高度アルツハイマー型認知症に対しては後発薬は使用できないことになるという事態が医療現場に混乱が生じさせるものであるとの主張自体をあながち理由のないものとすることはできない。
しかし,この主張自体仮定的なものであるし,また,基準が一義的に明確ではないにしろ,アルツハイマー型認知症が初期・中期・後期,あるいは軽度・中等度・高度といった段階に分けられることは前記のとおりである。そして,本件全証拠に照らしても,被告が,本件特許権の存続期間を延長するために,アルツハイマー型認知症の病期の一部(高度アルツハイマー型認知症)のみをことさら便宜的に取り出して,軽度及び中等度アルツハイマー型認知症とは別に臨床試験等を行ったとは認められない。また,先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり,先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要であった場合には,その臨床試験等のために費やした期間は特許存続期間が浸食されており,特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当すると解されることは前記のとおりである。
そうすると,原告らの指摘する医療現場に混乱が生じるおそれや先の承認処分と本件承認処分のいずれもアルツハイマー型認知症という点では用途が同じであることを理由にして,先の承認処分と本件承認処分の用途が同じであるということはできない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本件存続期間延長登録の対象となった特許発明(特許2578475)は下記の通り。これは先だってされた延長登録の対象となった特許権と同じである。いずれの請求項もアルツハイマー型認知症について、「軽度及び中等度」ではなく「高度」であることを特定するような記載はない。

  • 請求項1:
    下記化学式で表される1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩。(化学式は省略)
  • 請求項2:
    請求項1記載の1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩を有効成分とするアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
  • 請求項3:
    請求項1記載の1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩を有効成分とする各種老人性痴呆症治療・予防剤。
  • 請求項4:
    各種老人性痴呆症がアルツハイマー型老年痴呆である請求項3記載の治療・予防剤。
  • 請求項5:
    1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イリデニル〕メチルピペリジンを還元し,必要により造塩反応を行うことを特徴とする請求項1記載の1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩の製造法。
  • 請求項6:
    1-ベンジル-4-ピペリジンカルバルデヒドと5,6-ジメトキシ-1-インダノンを反応させて1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イリデニル〕メチルピペリジンとし,次いで還元し,必要により造塩反応を行うことを特徴とする請求項1記載の1-ベンジル-4-〔(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩の製造法。


先の承認処分によって禁止が解除された先行医薬品(軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制を用途とするアリセプト)の製造行為等は、上記請求項1~6で示された本件発明の実施行為に該当するものでるように思えるが、その点について争点となっていないし、裁判所の判断の中には本件特許発明と先の承認処分又は本件処分との関係について全く言及されていない。2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458で示された特67条の3第1項「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき。」の解釈に基づいて本事件を検討してみてほしい。

また、本判決における承認処分の用途と重症度についての議論を、過去の判決(2007.09.27 「スリーエム(3M) v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10017; 2007.01.18 「エーザイ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10724)と比べてみると興味深い。

参考:


2011/02/21

2010.11.17 「カプスゲル v. クオリカプス」 知財高裁平成21年(行ケ)10253

#4000のポリエチレングリコール: 知財高裁平成21年(行ケ)10253

【背景】

被告(クオリカプス)が有する「ハードゼラチンカプセル及びハードゼラチンカプセルの製造方法」に関する本件特許(第4099537号)に対する原告(カプスゲル)の特許無効審判請求について、特許庁が引用発明9等に基づいて容易に発明することができたものということはできない等として本件特許を無効にすることができないとしたため(無効2008-800146号)、原告が審決取消訴訟を提起した。

本件発明は、吸水性又は吸湿性物質を充填した場合におけるハードゼラチンカプセルにおいて、皮膜の低含有水分下での機械的強度の脆さ等の不都合を解消するため、ゼラチンを水に溶解した溶液に、#4000のポリエチレングリコールを、ゼラチンに対して3~15重量%の割合で添加したジェリーを用いて、浸漬法にて非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造することをその技術内容とするもの。本件発明1は、#4000のポリエチレングリコールを特定の含有量で含むのに対し、引用発明9は、グリセリン等の可塑剤を含み、その含有量を特に規定していない点において両者は相違していた。

請求項1(本件発明1):
ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって,前記ポリエチレングリコールとして#4000のポリエチレングリコールを用い,かつその含有量がゼラチンに対して3~15重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル

【要約】

裁判所は、引用例2について、
「引用例2には,低湿度下(P/Po<0.5~0.6)では,可塑剤としてグリセリンを10%又は20%配合したゼラチンフィルムと比較して,可塑剤としてPEG-3000を1%,3%又は5%配合したゼラチンフィルムの方が,耐衝撃強度が改善されることが開示されているといえる。」
と認定し、
「本件審決が,引用例2には,ゼラチン単独フィルムの耐衝撃強度の向上には,グリセリンよりも特定のポリエチレングリコールの方がよいことについて開示されているとは認められないとした判断は誤りといわざるを得ない。」
と判断した。

この点について被告は、
「引用例2に応用分野として例示されている「マイクロカプセル」は,カプセル剤とは全く異なるものであり,「医薬」という広範な指摘についても,直ちにハードゼラチンカプセルへの適用が記載されているということもできない」
と主張したが、裁判所は、
「引用例2は~ゼラチン自体の物理,機械的特性に関する一般的な知見を開示するものであって,特定の用途におけるゼラチンの性質に限定して記述されているものではない。実際,引用例2は,ハードゼラチンカプセルに関する専門書である引用例6(甲6)にも引用されており,ゼラチンカプセルの技術分野に属する文献であるということができる。」
として被告の主張を採用しなかった。

引用発明9に上記引用発明2を組み合わせることについて、裁判所は、
「引用発明9は,ゼラチンカプセルを低湿度下に保存した場合,カプセルが破壊されやすくなるという課題を有するものであり,また,引用例2は,前記のとおり,ゼラチンカプセルの技術分野に属する文献ということもできるから,引用発明9と同じ技術分野に属するものといって差し支えない。
したがって,引用発明9の,ハードゼラチンカプセルの低湿度環境におけるカプセルの破壊を改善する目的で,引用例2により開示された技術的知見に基づき,ハードゼラチンカプセルを製造するために用いるゼラチン基剤の可塑剤として,グリセリンに代えて,グリセリンよりも低湿度下において優れた耐衝撃強度を与えるPEG-3000,あるいはそれに類似するポリエチレングリコールをゼラチンに対して1~5%程度添加することは,当業者が容易に行い得ることであるものと認められる。かかる添加割合は,本件発明における#4000のポリエチレングリコールの添加割合(3%~15%)と重複する範囲であり,~添加量の上限及び下限は,当業者が実験等により,適宜設定し得る事項であるということができる。」
と判断した。

また、本件発明の「#4000のポリエチレングリコール」について、裁判所は、
「被告は~日本薬局方収載のポリエチレングリコール4000(マクロゴール4000)であると主張し,本件審決も同様の認定をするところ,本件明細書には,#4000のポリエチレングリコールが日本薬局方収載のポリエチレングリコール4000であることは明記されておらず,また,本件基礎出願の公開特許公報(甲11)には,分子量によりポリエチレングリコールを特定する旨の記載があることなどからすると,本件明細書における「#4000のポリエチレングリコール」については,明確性の要件を充足しているかなお疑問が残るものであり,原告も,取消事由4として主張するものである。
もっとも,明確性の要件を充足するか否かはともかくとして,被告の主張を前提とすれば,「#4000のポリエチレングリコール」とは,日本薬局方(甲38)収載の,平均分子量が2600~3800のポリエチレングリコールであるから,PEG-3000,すなわち,平均分子量3000のポリエチレングリコールに類似するものとして,化学構造が共通し,平均分子量において重複する#4000のポリエチレングリコールを用いることは,当業者が容易に行い得ることである。
(ウ) 以上からすると,本件審決が,本件相違点について,グリセリン等の可塑剤に代えて引用例2又は5記載の特定のポリエチレングリコールを配合してみることは,当業者が容易に想到し得たとはいえないとした判断は誤りである。」
と判断した。

被告は、
「本件発明において,カプセルで問題とされる機械的性質は,静圧荷重特性であって,耐衝撃特性ではない」
と主張したが、裁判所は、
「本件明細書には~「機械的強度」とは,「カプセル成形後における例えば内容物充填作業でのカプセルの機械的取扱に際して,ひび,割れ又は欠け等のカプセル皮膜に損傷」が生じないための強度を意味すると記載されている。そうすると,本件発明が問題とする「機械的強度」には,被告が強調する~静圧荷重のほか~カプセルの耐衝撃性の向上も目的とするものと解される。」
として被告の主張を採用しなかった。

結論として、裁判所は、本件発明の進歩性を認めた本件審決の判断は誤りであるとして、審決を取り消した。

【コメント】

 被告の主張によれば、「#4000のポリエチレングリコール」とは、日本薬局方収載のポリエチレングリコール4000(マクロゴール4000)であるとしている。そして、第十五改正日本薬局方(The Japanese Pharmacopoeia Fifteenth Edition)によれば、ポリエチレングリコール4000(マクロゴール4000(Macrogol 4000))とは、「エチレンオキシドと水との付加重合体で、HOCH2(CH2OCH2)nCH2OHで表され、nは59~84である。」と説明されており、「平均分子量は2600~3800である。」とも説明されている。
 一方、審決(無効2008-800146号)中における請求人(原告)の主張によれば、日本薬局方と欧州薬局方とではポリエチレングリコールの分子量は異なると主張していた。
 本事件における裁判所判断の争点は進歩性だったが、裁判所は判決文の中で、「#4000のポリエチレングリコール」については明確性の要件を充足しているかなお疑問が残るものであると言及しており、製剤の添加剤をクレームに記載する際には、その名称も含め、それが意味する添加剤の定義にも注意を払う必要があるかもしれない。
 ひとつは、クレームに記載された添加剤の明確性を担保するために、明細書中に、その添加剤は「日本薬局方収載」のものを意味すると記載したほうがよいのかどうか。明細書にそのような記載をしない選択をした場合、当業者なら日本の基準だけしか考えないだろうか。欧米その他の国でそれぞれ定められている添加剤の定義についてどう考えるだろうか。各国での定義が全く同じなら問題はないだろうが、異なる場合や、そもそも名称が異なる場合にはどのように考えるべきか、検討する必要があるかもしれない。
 もうひとつは、添加剤のうち特にポリマーは、平均分子量で表されるように、ある一定の範囲の重合度をもった分子群からなる混合物である。つまり、例えば、PEG4000とPEG3000は全体として互いに性質の異なるポリマーであったとしても、個々のポリマー分子の分子量の範囲が互いに重複していると考えられる。このような添加剤は互いに異なるものなのか、それとも一部重複するとして同じものとして扱われるのか。

2011/02/07

2010.11.10 「ビーエーエスエフ v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10108

効果が特許請求の範囲の特定に基づかない?: 知財高裁平成22年(行ケ)10108

【背景】
「両親媒性複合体,その製造方法及びそれを含有する組成物」に関する出願(平成9年特許願第515568号)に係る発明が引用発明に基づいて進歩性なしとした拒絶審決(不服2007-2650)の取消訴訟。

請求項1:
反応温度が室温から80℃の範囲で,平均分子量が10000ダルトン以上の少なくとも1種の非変性の植物タンパク質と,脂肪酸,脂肪アルコール,脂肪アミン及びその混合物からなり,ウンデシレン酸を除く群から選択された炭素数4~30の少なくとも1種の脂肪鎖とを,〔非変性の植物タンパク質/脂肪鎖〕の重量比が1/1~1/10の範囲で反応させて得られることを特徴とする両親媒性複合体

引用発明との相違点2:
本願発明が,ウンデシレン酸を除く群から選択された脂肪酸,脂肪アルコール,脂肪アミン及びその混合物を用いるものであるのに対し,引用発明においてはウンデシレン酸を用いている点。

【要旨】
相違点2について、裁判所は、
「引用例に記載されたウンデシレン酸誘導体の作用効果のうち,抗真菌及び抗菌特性に着目して,本件審決が「脂肪酸には抗真菌及び抗菌活性をもつものがあることは周知の技術的事項であり,ウンデシレン酸に換えて,同様に抗真菌及び抗菌活性をもつことの知られた脂肪酸を用いることも,当業者が困難なく行えることに過ぎない。」と判断したことに,誤りはない。」
と判断した。

この点に関して、原告は、
「引用例のように抗菌特性の観点から検討することは容易であったとしても,引用例に示唆すらもされていない~皮膚の再生という効果は,ウンデシレン酸と反応させたタンパク質が有する抗菌特性という引用発明の効果とは,明らかに異質な効果であって,予測できる効果ではなく,進歩性は認められるべきである。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願発明は,皮膚の再生を特定するような化学物質の用途発明に該当するものではなく,化学物質自体である「両親媒性複合体」の発明に関するもので,本願発明の目的は,新規な化学物質を提供することであることは,前記(1)のとおりである。したがって,原告が主張する効果は,特許請求の範囲の特定に基づかないものであり,失当である。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
以下に判決文中の被告(特許庁長官)の主張を引用する。
本願発明は,両親媒性複合体という物自体の発明であり,皮膚の再生という作用に着目した用途発明ではない。そして,本願明細書に記載されたとおり,本願発明の両親媒性複合体は,皮膚の再生用以外にも,乳化剤や微生物防除用として利用されるものをも含むものである。
したがって,本願発明は,皮膚の再生だけを目的としたものではなく,強い湿潤化や乳化力,又は抗真菌及び抗菌特性をも目的としたものであるといえるから,強い湿潤化や乳化力,又は抗真菌及び抗菌特性の観点から本願発明の進歩性を検討した本件審決に取り消すべき違法があることにはならない。
また,同じ発明に到達する場合であっても,発明に至る様々な道筋があることが多く,そのうちの一つでも,容易にたどることができるものであれば,その発明に進歩性はないことになる。当業者は,わざわざ困難な道筋をたどるのではなく,容易な道筋をたどればよいからである。
本件審決では,引用発明における強い湿潤化と乳化力のみを利用しようとした場合と,ウンデシレン酸の抗真菌及び抗菌特性に着目した場合の2つの道筋に沿って,当業者が容易に本願発明に到達できると判断したものであり,皮膚の再生という観点に着目した場合における,本願発明に至る道筋について判断したものではない。本件審決で判断したこれらの2つの道筋が,容易ではなく違法であるというのではなく,別の道筋である皮膚の再生という観点に着目した場合が困難であったことを立証したからといって,そのことで,本件審決に取り消すべき違法があることにはならない。このような判断は,裁判例(乙1,2)や特許庁の運用(乙3)とも整合する。

特許庁は、上記のように容易想到性を検討し、さらに本願発明の効果がウンデシレン酸を用いた場合と比較されていないことから格別な効果が奏されているとは認められないとして、原告による効果の主張に対しても反論している。

特許庁の主張は、本願発明は用途発明ではなく化学物質発明であるから、さまざまな効果の観点から(もちろん出願人の主張する効果の観点からも含むであろう)容易想到性を導くことは可能であることを説明している。特許庁の理屈には同意である。しかし、裁判所は、特許庁の上記理屈を理解し、原告の主張をきちんと検討したのだろうか。

裁判所は、原告の効果の主張に対して、下記のように言及してその主張を退けたのである。
本願発明は,皮膚の再生を特定するような化学物質の用途発明に該当するものではなく,化学物質自体である「両親媒性複合体」の発明に関するもので,本願発明の目的は,新規な化学物質を提供することであることは,前記(1)のとおりである。したがって,原告が主張する効果は,特許請求の範囲の特定に基づかないものであり,失当である

化学物質の発明であろうが用途発明であろうが、その発明の効果が特許請求の範囲の特定に基づくものでなければならないのだろうか。皮膚の再生効果がある化学物質発明であっても、皮膚の再生効果を主張することができるのであって、皮膚の再生を特定するような化学物質の用途発明でなければ効果を主張してはいけないということはないはずである。特許庁の理屈には同意できても、この判決文の理屈だけで裁判所が出願人の効果の主張を退け、格別な効果の検討をしなかったことには納得できない。裁判所は、原告・被告の主張をよく検討・理解し、丁寧な判決文になるよう心掛けてほしい。

2011/01/24

2011.01.20 「クレハと日医工 クレメジン特許侵害訴訟の和解成立」

クレハと日医工ファーマとが争っていたクレメジンの後発品に関する特許権侵害訴訟において、2011年1月20日付けで和解が成立しました。
クレハは、慢性腎不全用剤「クレメジン細粒」及び「クレメジンカプセル200」の後発品に関し、両医薬品の後発品として「キューカル細粒分包2 g」及び「キューカルカプセル286 mg」を製造・販売する日医工ファーマ(旧テイコクメディックス)に対して、クレハの保有する特許権(特許第3835698号)の侵害を理由として、東京地裁に特許権侵害訴訟を提起していたところ、東京地裁は本特許権侵害を認め、日医工ファーマに対し、5,300万円余りの損害賠償を命ずる判決を言い渡しました(2009.10.08 「クレハ v. テイコクメディックス」 平成19年(ワ)3493)。
その地裁判決に対して、日医工ファーマは控訴を提起し、クレハも日医工ファーマが本特許権侵害を回避するためにしたと主張する仕様変更後の製品に対して本特許権侵害を主張し知財高裁へ控訴を提起していました。

クレハのプレスリリースによれば和解内容の骨子は、以下のとおり。

和解内容骨子;
1.日医工ファーマは、今後、「キューカル細粒分包2 g」及び「キューカルカプセル286 mg」(ただし、仕様変更前のもの)を製造し、販売しない。
2.日医工ファーマは、今後、本特許権が有効に存続する限り、本特許権の範囲に属する経口投与用吸着剤の製造販売等を行わない。
3.日医工ファーマは、今後、本特許権の有効性を争わず、本特許権について特許無効審判を請求し、第三者をして特許無効審判を請求させない。
4.日医工ファーマは、解決金として、金6,000万円を当社に支払う。
5.当社は、日医工ファーマが本和解の定めに反しない限り、「キューカル細粒分包2 g」及び「キューカルカプセル286 mg」について、本特許権を行使しない。

参考: