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2010.12.22 「エティファーム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10062

特許権存続期間延長登録出願において、禁止が解除された「物」が特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要があるのか?: 知財高裁平成21年(行ケ)10062

【背景】

「急速崩壊性多粒子状錠剤」に関する特許(特許2820319号; 20年の存続期間満了日は2012.7.21)に基づく存続期間延長登録出願(2006-700077号; 延長を求める期間は3年9月10日)をした。

本件出願は,本件特許の専用実施権者である武田薬品が受けた錠剤「タケプロンOD錠15」(有効成分: ランソプラゾール(lansoprazole))に関する薬事法上の承認(非びらん性胃食道逆流炎)に基づくものであったが、下記本件請求項1のとおり、請求項には有効成分であるランソプラゾールが特定の構成要件として明示されておらず、明細書中にもランソプラゾールについての明示的な記載はなかった。

請求項1:

投与前に水中に分散させることなく経口投与する錠剤であって,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質と,賦形剤混合物とを含む材料を圧縮して得られ,前記賦形剤混合物がカルボキシメチルセルロース又は錠剤の全重量に対して13.3%以下の不溶網状PVPを含む少なくとも1つの崩壊剤,及び,澱粉,加工澱粉,あるいは微結晶セルロースから選択され,水と接触して高粘度を生じない少なくとも1つの膨張剤を含み,発泡剤及び遊離の有機酸を含まず,口中で唾液の存在下で咀嚼無しに60秒より短い時間で崩壊する急速崩壊性多粒子錠剤。

審決の理由は、医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには、少なくともその処分によって特定される「物」、すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するので、本件出願は特67条の3第1項1号の規定に該当する、というものだった。

【要旨】

裁判所は、

「「特許発明の実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったと認められるためには,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除される行為のうちに「特許発明の実施」に当たる行為の部分が存することが必要である。そして,「政令で定める処分」が,例えば,薬事法14条所定の医薬品の製造の承認や医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る承認である場合に,上記要件を充足するためには,薬事法14条所定の当該承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為に,当該特許発明の実施に当たる部分がなければならないと解される。」

と特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について判示した後、特68条の2の解釈についても言及したうえで、

「このように,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」に限定して特許権の存続期間の延長が認められるのであるから,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対して不測の不利益を与えないという観点から,存続期間の延長登録出願が適法であるためには,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」についてみれば,それらが客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」を基準とし,「発明の詳細な説明」の記載に照らして認識できるものでなければならず,また,それで足りるということができる。すなわち,存続期間の延長登録出願に際し,「政令で定める処分」を前提として,その対象となった「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,上記の手法に基づいて認識できるような場合には,当該「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為に,「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるからである。そして,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明が,様々な上位概念で記載され,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広い場合であっても,当該「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足りるのであり,上記の禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が,特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない。審決は,「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」と判断したものであるが,この判断は,当裁判所の上記判断に反するものである。」

と判断した。

そして、さらに、

「特許権の存続期間延長制度の対象となる特許発明は,前記2のとおり,その条文上の記載から明らかなように,「特許を受けている発明」(特許法2条2項)全般であり,新しい有効成分に関する特許発明,あるいは,新たな効能・効果に関する特許発明という特定の特許発明に限定して存続期間の延長を認めるべき合理的根拠はない。」

とも言及し、特許発明の実施に処分を受けることが必要かどうかを、「有効成分(物)と効能・効果(用途)」という限定的観点で判断した審決を否定した。

審決を取り消す。

【コメント】

特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について、裁判所は、2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458; 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10459; 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460で示された基準:

「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。

と同様の考えを示した。

裁判所は、禁止が解除された行為に「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるかどうかは、当該特許発明に含まれるものであることが「特許請求の範囲」、「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足り、禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない、と判示した。

特許請求の範囲又は明細書における処分対象物(有効成分あるいは医薬品)の記載の程度に関して判断された判決は下記が参考になるかもしれない。

原告が主張の中で引用した判決:

その他のランソプラゾールに関する判決:

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