中国において、医薬品試験データ保護(Regulatory Data Protection: RDP)制度が2026年5月15日に正式施行されました。革新的新薬には最長6年、改良型新薬には4年、一定の先行後発品には3年のデータ保護期間が付与され、保護期間中、保護対象データへの「依拠」を伴う承認申請は、規制当局により原則として承認されない取扱いとなります。
本制度は特許権とは独立して機能するものであり、中国の医薬品知的財産保護は、従来の「特許中心モデル」から、「特許期間+データ保護期間」、さらに場合によっては「市場独占期間」も重畳する多層的保護体制へ移行することになります。
中国では、2001年のWTO加盟以降、TRIPS協定39条3項を踏まえた医薬品データ保護制度の導入が長年議論されてきましたが、今回、ついに本格的な制度実装に至りました。
本制度は、以下の3文書によって構成されます。いずれもNMPA(国家薬品監督管理局)公式ウェブサイト(nmpa.gov.cn)に掲載されています。
- 国家药监局关于发布药品试验数据保护实施办法的公告(2026年第47号)(国家薬品監督管理局による医薬品試験データ保護実施弁法の発布に関する公告(2026年第47号))(2026年5月15日付)(以下「公告」)
- 药品试验数据保护实施办法(医薬品試験データ保護実施弁法)(2026年5月15日付)(以下「実施弁法」)
- 《药品试验数据保护实施办法》政策解读(医薬品試験データ保護実施弁法の政策解釈)(2026年5月15日付、索引号:FGWJ-2026-10039)(以下「政策解釈」)
「公告」本文
「为促进药品创新发展,完善药品试验数据保护制度,根据《中华人民共和国药品管理法》《中华人民共和国药品管理法实施条例》等相关规定,借鉴国际经验,国家药监局制定《药品试验数据保护实施办法》(以下简称《实施办法》),现予发布,自发布之日起施行。」
(日本語訳)「医薬品イノベーションの促進・発展および医薬品試験データ保護制度の整備を図るため、『中華人民共和国医薬品管理法』『中華人民共和国医薬品管理法実施条例』等の関連規定に基づき、国際経験を参考としつつ、国家薬品監督管理局は『医薬品試験データ保護実施弁法』(以下「実施弁法」という。)を制定し、ここに公布する。公布の日から施行する。」
既に承認申請しており審査中の案件については医薬品試験データ保護の遡及申請期限が15日後の2026年5月30日(営業日であれば6月5日前後となりますが、事務所により見解が異なるようです。)に迫っており、そのような案件を有している製薬企業は緊急対応が求められます(公告2項および3項)。
本記事では、2026年5月15日に発効した「実施弁法」の内容を紹介します。
1.実施弁法
以下に「実施弁法」の日本語訳を紹介します。正確には原文をご参照ください。
実施弁法
第1条 医薬品イノベーションを奨励し、国民の用薬需要を満たすため、「中華人民共和国医薬品管理法」「中華人民共和国医薬品管理法実施条例」「医薬品承認管理弁法」等の関連規定に基づき、本弁法を制定する。
第2条 国家薬品監督管理局(以下「国家薬監局」という。)は、医薬品試験データ保護(以下「データ保護」という。)業務を主管し、公平・公開・公正の原則を堅持して、データ保護制度の構築および実施管理業務を担う。
国家薬監局医薬品評価センターは、データ保護の具体的な実施業務を担う。
第3条 データ保護とは、条件を満たす化学医薬品および生物製品(附表参照)が承認上市される際に、国家薬監局が申請人の提出した独自取得かつ非公開の試験データおよびその他のデータを保護し、最長6年を超えないデータ保護期間を付与することをいう。データ保護期間は、当該医薬品の承認申請が中国国内において承認された日から起算する。
データ保護期間内において、他の申請人が医薬品承認取得者の同意を得ることなく、前項のデータに依拠して医薬品販売承認申請または補充申請を行った場合、国家薬監局はこれを許可しない。ただし、他の申請人が独自取得しかつ他人の受保護データに依拠していない場合はこの限りでない。
データ保護期間内において、他の申請人が独自取得データを提出して医薬品承認申請を行った場合、条件を満たすものについては承認しなければならない。ただし、データ保護期間は付与せず、かつ当該データを後続の他の申請人が依拠することはできない。
国家において突発的公衆衛生事件が発生した場合、または公共の利益のために必要な場合は、関連規定に従って執行する。
第4条 本弁法にいう非公開の試験データおよびその他のデータとは、中国国内において初めて医薬品販売承認申請に用いられた、未公開かつ完全な申請データをいう。
第5条 革新的新薬の最初の中国国内販売承認日から、6年のデータ保護期間を付与する。
海外承認済み・中国国内未承認の先発品については、最初の中国国内販売承認日から、6年のデータ保護期間を付与する。本条におけるデータ保護の範囲は、医薬品販売承認申請資料中の、医薬品の安全性・有効性および品質の管理可能性を証明するための全試験データを含む。
複数の適応症について順次承認を受けたが同一承認番号である革新的新薬については、各適応症について承認分類に従いそれぞれデータ保護を付与し、追加適応症のデータ保護範囲はその承認を支持する臨床試験データとする。
データ保護期間内において、他の申請人が承認取得者の同意を得ることなく、当該承認取得者の受保護データに依拠して提出した改良型新薬・化学仿制薬(後発医薬品)および生物類似薬の販売承認申請または補充申請については、国家薬監局はこれを許可しない。ただし、他の申請人が独自取得しかつ他人の受保護データに依拠しないデータを提出する場合はこの限りでない。
第6条 改良型医薬品の最初の中国国内販売承認日から、4年のデータ保護期間を付与する。
海外承認済み・中国国内未承認の改良型医薬品については、最初の中国国内販売承認日から、4年のデータ保護期間を付与する。本条におけるデータ保護の範囲は、既知有効成分医薬品(承認済み生物製品)と比較して明らかな臨床上の優位性を有することを証明する新たな臨床試験データを含む。ただし、バイオアベイラビリティ(BA)、バイオエクイバレンス(BE)およびワクチンの免疫原性データは含まない。
データ保護期間内において、他の申請人が承認取得者の同意を得ることなく、当該承認取得者の受保護データに依拠して提出した化学後発医薬品および生物類似薬の販売承認申請または補充申請については、国家薬監局はこれを許可しない。ただし、他の申請人が独自取得しかつ他人の受保護データに依拠しないデータを提出する場合はこの限りでない。
第7条 海外承認済み・中国国内未承認の先発品であって、中国国内外いずれにも未承認の新適応症の承認申請を初めて提出し、かつ本弁法第5条第3項に規定する医薬品の安全性・有効性および品質の管理可能性を証明するための全試験データを提出したものについては、本弁法第5条の規定に従い、全試験データに対して6年のデータ保護期間を付与する。
当該医薬品がその後適応症を追加する場合は、本弁法第6条の規定に従い、当該保護範囲のデータに対して4年のデータ保護期間を付与する。
第8条 海外承認済み・中国国内未承認の先発品の後発医薬品(海外製造品を含む)および生物製品のうち最初に承認を受けたものに対して、3年のデータ保護期間を付与する。データ保護期間は、当該後発医薬品または生物製品が販売承認を取得した日から起算する。
本条におけるデータ保護の範囲は、承認を支持するために必要な臨床試験データを含む。ただし、BA・BEおよびワクチンの免疫原性データは含まない。
データ保護期間内において、他の申請人が承認取得者の同意を得ることなく、当該承認取得者の受保護データに依拠して提出した化学後発医薬品および生物類似薬の販売承認申請または補充申請については、国家薬監局はこれを許可しない。ただし、他の申請人が独自取得しかつ他人の受保護データに依拠しないデータを提出する場合はこの限りでない。
第9条 申請人がデータ保護を申請しようとする場合は、医薬品販売承認申請を提出する際に同時にデータ保護申請を提出しなければならない。データ保護に関する事項について疑問がある場合は、面談・協議を申請することができる。
第10条 医薬品評価センターは、医薬品承認申請の技術的審評を実施する際に、本弁法の規定に基づき、付与するデータ保護の範囲および期間を確認する。
第11条 データ保護の条件を満たす医薬品については、国家薬監局が医薬品承認証明文書に当該医薬品のデータ保護情報を付記する。
医薬品評価センターはそのウェブサイトにデータ保護専用ページを設け、医薬品データ保護に関する情報を公表する。第12条 医薬品がデータ保護を取得した後、他の申請人はデータ保護期間満了の1年前から、当該受保護データに依拠した医薬品販売承認申請および補充申請を提出することができる。医薬品評価センターは技術的審評完了後に審評の時限計算を中断し、データ保護期間満了後に当該医薬品の販売を承認する。
申請人が医薬品販売承認申請および補充申請の提出時にデータを独自取得したと申告したにもかかわらず、技術的審評の過程において当該申請が他の申請人の保護データに依拠していることが判明した場合は、当該申請を不許可とする。
第13条 医薬品承認証明文書が取消し・失効・抹消された場合、承認取得者がデータ保護を自ら放棄した場合、またはその他法令に定める事由が生じた場合は、データ保護は終了する。
データ保護が終了した場合、国家薬監局はデータ保護終了の公告を発布し、医薬品評価センターは当該公告に基づきデータ保護専用ページの関連情報を更新する。国家薬監局がデータ保護終了の公告を発布した日から、他の申請人が当該受保護データに依拠して提出した医薬品承認申請を受理または承認することができる。
第14条 データ保護の具体的な業務手順は、医薬品評価センターが別途制定する。
第15条 本弁法は2026年5月15日から施行する。
附表:1. 化学医薬品の承認分類とデータ保護期間
2. 予防用生物製品の承認分類とデータ保護期間
3. 治療用生物製品の承認分類とデータ保護期間
実施弁法附表1〜3が化学医薬品・予防用生物製品・治療用生物製品それぞれの保護期間を規定しています。以下は附表原文に基づいた整理です。
(1)化学医薬品(附表1)
| 分類 | 内容 | 保護期間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1類 | 国内外いずれにも未承認の革新的新薬 | 6年 | |
| 2類 | 国内外いずれにも未承認の改良型新薬 | 4年 | 海外承認済み・国内未承認の先発品であって、国内外いずれにも未承認の新適応症の承認申請を初めて提出し、第7条第1項に該当する場合は6年 |
| 3類 | 国内申請人による、海外承認済み・国内未承認の先発品の後発医薬品 | 3年 | 同品種で国内において最初に承認された品目に限る |
| 4類 | 国内申請人による、国内承認済み先発品の後発医薬品 | — | データ保護を付与しない |
| 5類 | 海外承認済みの医薬品が国内承認を申請する場合 | ||
| 5.1 | 海外承認済みの先発品が国内承認を申請 | 6年 | 第7条第2項に該当する場合は4年 |
| 5.1 | 海外承認済みの改良型医薬品が国内承認を申請 | 4年 | — |
| 5.2 | 国内未承認・海外承認済みの後発医薬品が国内承認を申請 | 3年 | 同品種で国内において最初に承認された品目に限る。海外承認済み・国内未承認の先発品を参照したものに限る |
(2)予防用生物製品(附表2)
革新的ワクチン(1類)は6年、改良型ワクチン(2類)は4年のデータ保護が付与されます。
また、海外製造の、海外承認済み・国内未承認のワクチンが国内承認を申請した場合(3.1類)は6年、海外承認済み・国内未承認のワクチンが国内製造にて国内承認を申請した場合(3.2類)は3年のデータ保護が付与されます。製造地によって保護期間が異なるという、化学薬品にはない特徴的な構造になっています。
国内承認済みのワクチン(3.3類)にはデータ保護は付与されません。
(3)治療用生物製品(附表3)
革新的生物製品(1類)は6年、改良型生物製品(2類)は4年のデータ保護が付与されます。ただし、海外承認済み・国内未承認の先発品であって、国内外いずれにも未承認の新適応症の承認申請を初めて提出し、第7条第1項に該当する場合は6年のデータ保護が付与されます。
また、海外製造の、海外承認済み・国内未承認の生物製品が国内承認を申請した場合(3.1類)は6年、ただし第7条第2項に該当する場合は4年、先発品以外のデータ保護期間は3年となります。
海外承認済み・国内未承認の生物製品が国内製造にて国内承認を申請した場合(3.2類)は3年のデータ保護が付与されます。こちらも製造地によって保護期間が異なるという特徴的な構造になっています。
バイオシミラー(3.3類)やその他の生物製品(3.4類)にはデータ保護は付与されません。
2.コメント
実施弁法の最終版では、2025年草案から少なくとも二つの重要な変更が加えられました。
第一に、草案段階で存在していた、先行する海外承認から中国承認申請までの時差分を保護期間から減算するルールが削除されました。その結果、海外で先行承認された医薬品であっても、中国で初承認を取得した場合には、原則として6年間のデータ保護期間が付与されます。
第二に、改良型新薬のデータ保護期間が、草案の3年から4年へ延長されました。
これらの修正は、いずれも多国籍製薬企業に有利な方向への制度調整と評価できます。特に、中国市場への導入時期が海外承認より遅れた場合であっても、一定期間のデータ保護が確保される点は、中国への新薬投入戦略に大きな影響を与える可能性があります。
また、2026年1月16日公布され、2026年5月15日施行された「医薬品管理法実施条例 第828号」(中華人民共和国国務院令 第828号)では、希少疾患治療医薬品には最大7年、小児用医薬品には最大2年の「市場独占期間」が付与されると定められています(同条例第21条。具体的な条件および方法は、国務院の医薬品規制当局が定めるとされています。)。
これにより、中国における医薬品保護は、「特許期間+データ保護期間」に加え、場合によっては「市場独占期間」も重畳する多層的保護構造へ移行することになります。中国特許を保有していない場合であっても、一定の条件下では、データ保護期間または市場独占期間が、医薬品ライフサイクル保護を補完する機能を果たし得ることになります。
他方、後発品企業側にも一定の戦略余地が認められています。具体的には、①データ保護期間満了1年前から申請可能であること、②「先行後発品」として3年保護を取得し得ること、という二つの参入インセンティブが存在します。
中国では、今回、医薬品データ保護制度がついに本格的な実装段階へ移行しました。韓国でもこれに先立ち、データ保護制度が導入され、医薬品産業政策が推進されています(2024.03.21ブログ記事「韓国薬事法改正 医薬品の再審査制度を廃止し、イノベーティブ医薬品創出を促進する臨床試験資料保護制度(データ保護制度)新設へ 後れを取る日本」)。

一方、日本では、制度趣旨の異なる再審査制度による代替的運用が続いており、医薬品データ保護を独立した制度として法制化する議論は、ようやく制度検討段階に入ったばかりです(2025.06.03ブログ記事「ついに日本政府が動く? 医薬品データ保護制度、法制化の必要性を検討へ ─ 知的財産推進計画2025より」参照)。

米国、欧州、中国、韓国といった主要国では、データ保護制度が独立した法制度として整備されている一方、日本では依然として再審査制度による代替的運用にとどまっています。このような制度状況は、グローバルスタンダードとの乖離という観点に加え、日本市場における制度的予見可能性や研究開発投資環境にも一定の影響を及ぼし得るものと考えられます。
日本において、イノベーション促進、後発品政策、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス対策との関係を含め、医薬品データ保護制度の在り方が問われています。

取り残される日本・・・
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